烏有此譚
どうしてこんな話があろうか、いや、ない。/タイトルは円城塔さんの『烏有此譚』より。/タグを見て危険を察知したら、何を見たかを忘れて戻ることをお勧めします。/地震で叩き起こされた時に何故かふと思い付きました。誰ですか電波の発信者は。怒らないから出てきなさい。握手しましょう。/今書いてるSSが書き終わらなくて息抜きで書いたので特に何も考えていない。設定すらあやふや。/【3月17日追記】デイリーランキング47位に入ったらしいんですが……ウソダドンドコドーン! とPCの前で叫びかけました。続きはまあ気が向いたらその内……? ただ、蛇足感が満載な気もするんですけど、どうなんですかね。/【3月18日追記】どうして見付からなかったんだ……! と嘆きつつミスを直しました。悲しいです。誤字脱字のチェックはいつもしつこくやってるっていうのに……。
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敵国を攻め、その国を治める王家を滅ぼした戦の一番の功労者として宴のただ中に居た男は、酔ったと言ってふらりと宴の席から脱け出した。
勿論それは嘘だった。息が詰まる。何が楽しくてあんな場に居なければならないのか。
別段宴が嫌いな訳ではない。戦友や心許せる部下などと飲み明かすのであれば男は喜んで朝まで飲んでいただろう。だが、先程まで男が居たのは、戦場に出ず部下に戦いを任せ、その結果だけを我が物とする腐った連中がその勝利を祝うために設けた席だ。居て楽しい訳が無い。
は、と溜息を吐き、勝手知ったる砦の中を散策していると、ふと話し声が聞こえた。
「ったく、あの女も強情だよな」
「大人しく話しちまえばいいのに、だんまりを決め込むから手酷く犯されるんだよ」
「ま、楽しめたからいいけど」
「確かに」
下卑た声と内容に男は眉を顰めた。察するに、情報を握ると思われる女を捕らえたが口を割らないので拷問代わりに犯したのだろう。戦場ではよくある話だ。だが、男はそういうことを好まなかった。
一瞬表に出た嫌悪の情を隠して、会話をしていた兵士に話し掛けた。
「よう、何の話してんだ?」
その兵士達からすれば幾分か上の階級に男が属していたからか、それとも男が名の知られた武将だったからか、または気安いことで知られていたからか、兵士たちはあっさりと口を開いた。
「この間の戦いで城に残って最後まで戦っていた女がいたじゃないですか、そいつが王族を逃がしたんだろうってことで口を割らせようとしたんですがね、なかなか強情で……」
「……へぇ。そいつ、どこに居る?」
「北の地下牢ですけど……。それがどうかしました?」
「いや、なんとなく気になっただけだ。ありがとよ」
ひらひらと男は手を振り兵士達に別れを告げ、北へと足を向けた。
男にはその女に心当たりがあった。死体だらけの城で、最後まで戦っていた女が居た。まだ少女と形容するのが相応しそうな容貌ながら、その手の双剣で何十人と敵を倒していた。
その少女と戦い打ち負かしたのが男だった。男は戦いの中でしか少女を知らなかったが、少し気に入っていた。細腕の繰り出す剣技は研ぎ澄まされていた。鋼色の瞳は強い意志を宿していた。骨のある戦士を好む男が気に入らない訳が無かった。
捕らえられていたことを男は知っていたが、まさか凌辱されていようとは。その原因の一端を担った責任からか、憐憫からか、ただの興味からか、理由は本人にも判然としなかったが、男は少女を見に地下牢へと向かった。
黴臭く燭の微かな灯りしか存在しない暗い地下牢。湿っぽいそこを歩けばすぐに目的の場所に至った。
少女の居るという牢からは嫌な臭いがした。欲を煮詰めた醜悪な臭い。人より鼻の利く男は顔を顰めた。
借りてきていた鍵を使い鉄格子の中に足を踏み入れ、手に持つ燭台で照らす。そこには一糸纏わぬ身で少女が石畳の床に倒れていた。頼りない灯りの下でも、褐色の肌の上は傷だらけで、しかも白濁まみれだと分かる。眉間に皺を寄せながら、男はしゃがんで少女をそっと揺すった。
「……なん、だ」
揺すられ、気絶していたのか寝ていたのか、意識を飛ばしていた少女は目を覚まし、掠れた声を発した。男に向けられる視線は鋭い。戦いの際に見せた強い意思は健在のようだった。男はそれを嬉しく思った。
普通の女であれば心が壊れてもおかしくない状況で、それでもなお強くある少女。男は惹かれる自分を自覚した。
少女はどうやら男を自分を嬲るためにやって来たのだと思ったらしい。視線だけは射抜くようなそれのまま、体から力が抜けた。抱かれることを拒否するつもりはないようだった。
「慰み者にでもしたいなら勝手にしろ。犯されようが私は話さんからな」
「別にそういうことがしたくって来た訳じゃねぇよ」
男がそう言って何もしてこないのを見ると、少女はじゃらりと手枷の鎖を鳴らしながら体を丸めた。地下牢はいつだろうとひんやりとしている。そんな中に服を着ずに転がっていれば体は冷えていく。寒いのかもしれないなと男は思った。
「では何の用だ」
「さあ?」
「……は?」
鋼色の双眸が見開かれた。驚いているのか呆気に取られているのか、その表情はやけに幼い。
心臓が跳ねた。自分と渡り合うだけの強さを持ちながら、年齢相応の表情は可愛らしい。その差異に強く惹かれた、ようだった。
これが恋だろうかと男は思った。二十数年生きてきて、好きになった女は数多くいたが、その誰に抱いた感情とも違う。
欲しい。話をしたい。傍に居たい。ぐしゃぐしゃと乱れる感情を一つに取りまとめる中それらが全て叶う方法は無いかと考え、一つ思い付いた。
「ちょっと待ってろ、また来る」
着ていた上着を脱いで少女に掛け、そう言い残して男は心持ち早足で牢から出た。残された少女が怪訝な顔をしているのが少しだけ面白かった。
男が宴に戻ると、この場で最も強い力を持つ貴族が男の肩を叩いてきた。男の勝利はまたこの貴族のものでもある。それが気に喰わないと思っても口にはしない程度には男は大人だった。
「どこに行っていたんだ、英雄殿」
「風に当たりに、少し。それよりも、よろしいですか」
「何だね?」
貴族の顔は赤い。おそらく酔っているのだろう。この分ならあっさりと己が要求は通るだろうと男は心中笑みを作る。
「欲しいものがありまして」
「ほほう、何かね? 君の望みにはなるべく応えるよ。なんと言ってもこの戦の一番の功労者だからな」
「それは重畳。――では、女を一人、頂けますか」
「女?」
「ええ」
「なんだ、そんなものなら幾らでも構わん。好きにするといい」
「有難うございます」
相手が酔っているのもあり、口約束だけでは不安だったので、男は紙に署名してもらった。貴族の名と、男の求めた内容が書かれている紙を手に、男はもう一度地下牢へと向かった。
「よっ」
再度現れた男に少女は不審そうな目を向けた。当たり前だろう。男が少女の立場なら怪しんでいる。
男は持ってきていたものを床に下ろした。水の張られた盥に清潔な布、傷薬に包帯に衣服。一度に持ってくるのは少し面倒だったと振り返りながら、布を水に浸しきつく絞った。
少女を抱き起してそれで体を拭う。逆らわず身を任せる少女の視線が痛い。傷に気を払いながら、なるべく優しく清めていく。途中何度か布を替え、拭い終わると傷薬を傷に塗り込んで包帯を巻いた。
幼い顔立ちの割に発育はいいのかと思うと、途端に衝動が襲ってきたが封じ込めた。今そんなことをすれば少女が絶対に気を許さなくなるだろうことは分かりきっている。
服を着せるのに邪魔だった手枷を外すと少女が「いいのか」と聞いてきた。
「いいんだよ別に。邪魔だし」
「何のための拘束だ。女とは言え、なめてもらっては困る」
「……着せたら嵌め直すって」
苦笑しながら大きさの合わない服を着せ、手枷を嵌め直す。大きさが合わないのはその服が男のものだからだ。長身の部類に入る男に対し、少女は背が低い。ぶかぶかな服に身を包む少女は戦場に立つのに相応しくないほど幼く見えた。
小さな体を抱き上げると、男は牢から出た。咎める者は誰も居ない。
「どこに連れて行く気だ」
「ん? ああ、言ってなかったな。俺の部屋だ」
「……」
腕の中の少女は訳が分からない様子で、男を見上げる。戸惑い揺れる鋼色の瞳に映り込むのは男の顔くらいだ。
一切抵抗しない少女を連れて男は自室に向かってのんびりと歩き出した。
男に与えられている部屋は割合広い。それに調度品はどれも質のいいもので、男の待遇が良いものだということを端的に表している。
大きな寝台の上に下ろされた少女は傍に腰掛けた男を睨んだ。
「怖い顔すんなって」
女にしては短く切られた白い髪をそっと撫でると、視線から僅かに棘が抜けた。呆れられているようだった。
「何故私を連れ出した」
「気に入ったから」
心情を控えめにして口にした男に沈黙が返される。理解しがたいのかもしれない。細い指は所在無げに手枷の鎖を弄っていた。
敵を牢から出し自室に連れ込むなど、寝首を掻かれる可能性を考えれば普通はしない。だが、男にはそれをされないだけの自信があった。それに少女がそのようなことをしないだろうという確信に近い予想もあった。
男は寝台の上で横になり、少女を引っ張って横にさせると上に毛布を掛けた。
「ここで抱くのか?」
「いや?」
「……ならば、どうしろと」
問いに答える前に小さな体を抱き寄せ腕の中に収める。少女の体は冷えていた。冷えた地下牢と散々受けただろう暴力と行為を連想させるそれはしかし、じわじわうつる男の体温に掻き消されていった。
「とりあえず寝たらどうだ」
気丈に振る舞っていても隠しきれない疲労が滲んで見える。心身ともに壊れていてもおかしくない少女を思い、男がそう言うと、何もしてこない男に僅かに気を許したのか、少女は小さく欠伸をした。
「では、言葉に甘えさせてもらおう」
しばらくして穏やかな寝息を立てだした少女の寝顔は酷く無防備だった。
それを眺めながら、名乗ることと名を聞くことを忘れていたことを男は思い出した。だが、既に少女は眠っている。それに男も睡魔の誘惑に負けかけていた。
明日でいいか、と男も眠りに就くことにした。
Comments
アーチャーの意志の強さとランサーの飄々とした雰囲気が出てますね。原作を知っていれば無論ですが、ファンタジーの男女のやり取りとしても十分楽しめました。確かに続きも気になります
March 17, 2012
>雪ぼこりさん ウワァァァそう言っていただけると非常に嬉しいです……! 続き考える元気が出てきました。読了感謝です!