表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
355/978

燃える舳先

 1.エッダ洋


 この星の海はタコに支配されている。

 水棲生物のサハギンが常設ダンジョンで質素な暮らしを営んでいるのだから、そういうことなのだろう。

 エッダの眷属は地上だと鈍臭いが、水中ではアホみたいに素早いからな。地球のタコにしたって八本の脚で海水を蹴るようにしてギョッとするほど俊敏に動くのだ。その点、種族人間はひどい。進化の過程で水掻きを落っことしてきたのは痛恨だった。はっきり言って棒で舟を漕ぐようなものである。原始人ですらもう少し工夫するだろう。どうして海に出る前に一度相談してくれなかったのか。波が俺に問うてくる。

 なお、このゲームでは海を泳いでいるとタコさんに追い抜かれて人間は死ぬ。


 セミの化け物に捕まって海面スレスレをカッ飛んでいる。

 セミ野郎の糧にされてしまった六人衆がきゃんきゃんと喚いてる。


【何コレ! 俺らどうなってるの!?】

【てか低いよ低いセブン低い!】

【なんで低く飛ぶの!?】


【あ? どうせ着陸するんだから高度を上げても無駄だろ】


 ンだその理屈ぅッ!

 俺もきゃんきゃんと吠えた。

 高度を上げる手間を惜しむんじゃねえよ! 頭おかしいんじゃねえか!? さっきから波しぶきが俺の顔面にブチ当たっとるじゃろがい!

 俺はクレームを叩き付けながら振り返ってギョッとした。

 セミ野郎の頭にブーンが乗っている。鳥類特有の作り物めいた目ん玉が、まだ見ぬ新天地を遠く見据えるように静かな情熱を湛えていた……。


 ノンアクティブ、海を渡る。



 2.中国-エッダ海岸


 ようやく着いたか。まったく。ひどい目に遭ったぜ。厄介ごとに巻き込まれるのはゴメンだが、女神像の登録は済ませておきたい。ひとまずポポロンに向かうか。俺とセブンは別方向に歩き出した。っておいセブン! ドコへ行く! そっちは行き止まりだぞ!


「行き止まりなんてモンはないんだよ」


 あるだろ! 最短ルートやめろ! 平坦な道を行ったほうが早いんだよ!


「お前の場合はそうなのかもな」


 こ、コイツ……!

 おや、ネカマ六人衆が打ちひしがれている。どうした。動け。


「無理ィ!」


 おぅ。なんだよ。体調でも悪ぃのか?

 六人衆は身を寄せ合っておいおいと泣いた。


「初めてだったのに……」

「ペタ氏とセブンには分かんないんだよ」

「しょっちゅう変身してるもんね」


 あ? 何の話だよ?

 セブンが舌打ちした。


「ちっ!」


 トレードマークの黒コートを翻して、ザッときびすを返す。動こうとしない俺たちを肩越しに振り返って苛立たしげにこう言った。


「おい、崖っぷち。テメーが道案内しろ。平坦な道を行きてーんだろ?」


 よく分からんが、セブンはセブンなりに六人衆を気遣っているらしい。六人衆は少し元気になった。気持ち悪ぃ関係だなぁ。

 いずれにせよ、今度は俺が足を引っ張る番だぜ。何しろ新規プレイヤー様なんでね。レベルは体力に直結する。レベルだけは高い六人衆に代わり番こにおんぶして貰うことになるだろう。その時になって俺を連れてきたことを後悔しても遅いんだぜ?

 大体その通りになった。



 3.ポポロンの森-女神像


 地下祭壇を覗き込んでいる。

 お荷物に徹した俺の体力は満タンだ。

 セブンは珍しく長生きしている。以前に先生が仰った通り、このセミ野郎は足手まといが居るくらいで丁度いいのだろう。

 さて、ここまではおおよそ順調に来れたが、この先はそうも行くまい。メイヨウとマジュンくんは二つの陣営に分かれて争っていると聞く。リスキルは大規模PvPの基本だ。サトゥ氏とリチェットが率いる本隊は、俺たちが女神像の登録を済ませてからこちらに来る手筈になっている。何しろこっちにはセミ野郎が居るからな。下手に見切り発車すれば永遠に合流できない可能性だってある。

 俺は目に力を込めた。ギョロギョロと目ん玉を動かして地下祭壇に不審な人物が居ないか探る。トラブルは避けられないと思っていたのだが……。意外にも地下祭壇は平常時と変わらない様子だ。

 ……なんだ? いや、考えても無駄か。戦争ってのは何が起きても不思議じゃない。

 俺はセブンと六人衆に異常なしのハンドサインを出して地下祭壇に降り立つ。さっさと登録を済ませてしまおう。

 トコトコと歩いていき、女神像に手を伸ばす。


「やあチェンユウ。さようなら」


 !?

 マジュンくん。俺の目を。人間ごときが欺いただと?

 いつの間にか俺の背後に立っていたマジュンくんが矛を短く持って振り上げている。

 地下に飛び降りたセブンが憎悪も露わに吠える。


「李信! 馬准ッ!」


 ダメだ。間に合わない。登録さえすれば……。俺は女神像に手を。

 マジュンくんが俺の首を刎ねた。

 残された俺の身体が膝から崩れ落ちて地べたに転がる。

 残念。登録はできなかった。俺はね。

 俺の身体からにょきっと生えたウッディがのたのたと地面を這って女神像にタッチする。

 俺がロストしても記憶を維持しているのはウッディが俺の母体に下宿しているからだ。俺というキャラクターの本体はむしろウッディのほうだと言える。ロストを繰り返せばどうなるのかは分からないとウッディは言っていたが、俺はそうは思わない。おそらくは母体を乗っ取られるのだろう。ベムトロンの母体がそうだったように。

 たちまち肉体を再構築した俺は斧を振り上げてマジュンくんに突進する。

 セブンと六人衆の排除に動き出していたマジュンくんを図らずも挟み撃ちする形になった。この場でマジュンくんを討ち取れば、今回の事件は幕だ。

 セブンがビンをバラ撒いた。ロストして弓矢使いに転向したセブンだが、投擲には矢をつがえる動作を省けるというメリットがある。セブンの黒コートは暗器を持ち歩くためのものだ。

 地下に降りるためのハシゴに詰め掛けた六人衆が足を踏み外した。セブンを押しつぶして折り重なる。無能タワーの建立だ。

 マジュンくんは攻撃魔法で俺たちを掃討しようとしていたが、六人衆の活躍により進路が開いた。詠唱をキャンセルしてセブンのビンを矛で弾き散らす。幾ばくかのビンが無関係なゴミに刺さった。無傷で切り抜けたマジュンくんが走りながら肩越しに振り返る。

 俺は走る脚をゆるめて減速した。俺一人で追い掛けても勝てる訳がない。

 セブンがささやきを送ったのか、サトゥ氏とリチェットが転送してきた。俺を追い抜いてマジュンくんを追う。

 命の火が燃える。リチェットが【心身燃焼】を打った。標的を適用範囲から外せる距離はヒーラーにとってオイシイ状況だ。普段からやっていることだから、デキるヒーラーはそうした場面を見過ごさない。

 マジュンくんが俺の目を見てニコリと笑った。地を蹴って軽やかに跳躍。無能タワーを足場に二度目の跳躍で地下を脱出した。

 サトゥ氏がハッとする。


「マズい! セブン!」


 無能タワーの下敷きになっているセブンが手を伸ばす。その手をリチェットが掴んでセブンを引っこ抜いた。


「そぉいっ!」


 ロスト未体験のリチェットのレベルは30を越えている。ブン投げられたセブンが宙を舞う。待ち構えるサトゥ氏が嬌声を上げる。


「アアッー!」


 サトゥ氏の脚が残像の尾を引いて跳ね上がる。殺人的な威力を秘める回し蹴りがセブンに炸裂した。

 吹っ飛んだセブンが女神像の腕に突き刺さって串刺しになった。ごほっと吐血して動かなくなる。

 直後、頭上の空間がぐわんと歪んだ。

【四ツ落下】だ。マジュンくんだろう。

 リチェットは六人衆を助けようとしたが、間に合わなかった。しがみ付かれて無能タワーの一部と化してしまう。

 リチェット! サトゥ氏ーッ!

 俺は女神像にお祈りして日本サーバーに戻った。一足先に帰還していたセブンと合流。


「サトゥとリチェットは?」


 セブンの問い掛けに、俺は地べたに座り込んで力なく首を横に振った。

 ……さすがと言うべきなのか。まさか【四ツ落下】を使いこなすとは。

 マジュンくんのキルペナはカンストしている。あの状況で攻撃魔法を一度キャンセルしたのは、より確実に殺す手段を選択したということだ。【四ツ落下】を使いこなせるからこそ、そういう判断を下したと見るべきだった。リチェットの参戦と【心身燃焼】の使用を読んでいたのだろう。

 俺の横にドカッと座ったセブンはギリッと歯ぎしりした。


「あれが君主。李信馬准か。……頭を冷やすぜ。考えなしに突っ込んでも勝てねえ」


 ああ。俺も、ちと熱くなりすぎたな。

 俺たちは反省した。クールに行こう。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 でも助けに来た仲間をあっさりと見捨てて逃げる冷静さはあったようですね。



 GunS Guilds Online


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ