契約
1.ポポロンの森-上空
デカさは速さだ。
おそらくはもう何をどうやっても間に合わない。だが、時間を短縮することは大きな意義を持つ。何故ならクソ廃人どもは俺の自白を引きずり出す策を用意している筈だ。ヤツらにとって俺が番組途中で降板することは本意ではないだろう。だから俺はクソ廃人どもを信じる。ヤツらが救い難いクソであることを信じる。
俺のエンフレの特徴は復帰力と道連れ性能の高さ。得意の多段ジャンプでギャンッとカレシ自慢大会の会場の上空を陣取る。人間の里をうろつくゴミどもがぴゅんぴゅんと矢を射かけてくるが、今の俺にとっては蚊に刺されるようなものだ。ゴミめ。死ね。触手の先端に実った斧で引き潰して皆殺しにしてやった。
俺は体育館の屋根を斧で切り付けると、愛嬌たっぷりのまん丸ボディをゴゴゴゴゴと寄せて屋根の隙間からギョロリと目玉を動かして会場を覗き込む。どうやら間に合ったみたいだ。俺は杭のような歯列を打ち鳴らして喜びを表現した。
ゴミどもが悲鳴を上げる。
「【目口】っ……! 崖っぷちか!」
「ンだその口ぃ! カービィの風上にも置けねえ野郎だっ!」
「汚いカービィだよお前はぁ!」
喚くなゴミどもめ。俺はしゅるしゅると触手を伸ばしてゴミどもをキャッチ。ぷちっと握り潰して少しは可愛く生まれ変わるよう祈ってやった。
成功した。
ゴミどもの血肉をこねて俺のサブボディを構築する。エンフレの出し入れは消耗が大きい。だからゴミどもを材料に俺を作った。いささか眼球の収まりが悪いのと筋繊維が剥き出しになってることを除けば、まずまずの出来栄えだ。
触手の先端に実った俺は、俺の対戦相手を見据えて歯列をギラつかせた。
待たせたな。
「この人、どんどん魔族じみていく……」
知らない召喚術師の長い髪を掻き分けて謎の発光物体が這い出る。ずるりと宿主の身体を伝うようにミニ土俵に降り立って、み〜っと威嚇するように全身をぶるぶると震わせた。
威勢がいいじゃねえか。痩せ我慢じゃないといいがな……。
俺は、俺のサブボディを通して三体のウッディをミニ土俵に放った。不敵に笑って言う。
三対一だ。よもや卑怯とは言うまいね?
ピピーッとホイッスルが鳴る。
ピッピッピッと小刻みにホイッスルを吹き鳴らしながらトドマッちゃんが俺をびしっと指差す。
「三体一はアウトもるっ!」
マジでかっ。くそっ、この俺の必勝の策がまさかのルール違反とは。勝てっかな……。ウッディ、がんばるんだぞ。
ミニ土俵の上でぴんと身体を伸ばしたウッディがふんぬと腹を突き出す。よしよし、その意気だ。
俺の対戦相手は明るい茶髪の女キャラだった。どうせネカマだろうが、このゲームの魔法職は女キャラが多い。究極的に男の価値を決めるのは筋肉であり、俺たちゴミはどう足掻いても身体を張って守った女キャラが実はリアル美少女でステキ!抱いて!ってなる夢を捨て切れない哀れな生き物なのだ。俺の場合はメイン職が鍛冶屋だから同じ生産職の女キャラとお近付きになって一緒に作業してたらふとした弾みに手と手が触れ合って実は前からコタタマ先輩のことが好きでした!っていうパターンだな。そんなつもりじゃなかったんだけどなぁ。モテる男はツラいぜ。ハハァンってな具合よ。
この試合は、その第一歩ということになるだろう。
負け犬はモテない。勝ちに行くぜ。
ミニ土俵の上でウッディと謎の発光物体がポコポコと押し相撲を始める。
くっ、厳しいか? 押され気味だ。手に汗を握って見守る俺の胸中にウッディの声が響く。
(シンイチ。行け。お前にはもう一刻の猶予もない)
何を言ってる。お前を置いて行けるかよ。俺たち二人で勝つんだ。
(以前に何故と言ったな。何故私がお前の身体を操らないのかと。これがその答えだ。シンイチ。私とお前は対等だ。対等な……友人というのは互いに助け合うものなのだろう?)
ウッディ……。
(ふっ、貸し一つだぞ。具体的には私が契闊と唱えたならお前は一時的に身体を明け渡す。そしてこの遣り取りをお前は忘れる。それでいいな?)
分かった。
……互いに助け合う、か。分かったよ、ウッディ。負けるなよ。
(負けはしないさ。このような紛い物に)
その意気だ。何か不穏なワードが出たような気もしたが、俺は何も聞かなかったことにした。土俵際で踏ん張るウッディに全てを託して、しゅるしゅると俺のサブボディを引き寄せる。背後でワッと歓声が上がった。
そうさ。相撲は力だけじゃない。心技体。力で劣るなら技とハートで上回ればいい。俺とウッディは様々な苦難を共に乗り越えてきた。俺たちは……どんなに離れていても一緒だ。
サブボディを回収して俺はブンと羽を震わせて空を駆ける。ペガサスのように。
2.6sTV局
メインボディを6sTV局に接舷するなり、俺はサブボディを局内に放り込んだ。今にも零れ落ちそうな眼球を押し込みながら全力でダッシュする。最悪の場合スピンの群れを呼び寄せてゴミどもを皆殺しにすることも考えていたので、局内のマップは頭に入れてある。それが幸いした。
スタジオへと続くドアをバンと開ける。
不安そうにモグラさんぬいぐるみを抱きかかえているコタタマシリーズが俺を見る。俺はニカッと笑った。
めちゃくちゃギリギリだったようだ。いや、アウトと言えばアウトなのだが、引き延ばせる限界ギリギリという感じか。視聴者のゴミどもだって揃いも揃ってバカじゃない。俺が見苦しく言い逃れするのを楽しみにしてるクソも居るだろう。MCのリチェットが俺に話を振らないのは番組上の演出でなくてはならない。溜めて溜めてドンという訳だ。
俺は肩で息をしながらコタタマシリーズと交代する。
ぜえっ、ぜえっ。くそっ、息が……。こ、このサブボディ使えねえ。俺の人間時のスペックを忠実に再現してやがる。素材が……素材が悪い。ゴミどもめ。
ぜっ、ひゅー。ひゅー。
綺麗なおべべを着ているリチェットが輝くような笑顔で俺の隣に座るセブンに手を振る。
「セブン〜。オマエは分かってるよな? みなさんご安心ください。この男は空気が読めるヤツです。意外に思えるかもしれませんが、そうなのです。な、セブン。そろそろクールキャラ捨ててこ?」
な、何の話だ? セブン、頼むぞ。分かってるよな? 時間を稼いでくれ。俺は目がいい。少しでも時間をくれれば大まかな流れを把握できる。
セブンは瞬き一つしない。じっと正面を見つめている。
……セブン?
俺はセブンの顔の前で手をふりふりする。
こ、コイツ……。俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。
もう……死んでる。
リチェットがバレリーナのようにぐるっと回った。一回転。二回転。前代未聞の放送事故にも涙を見せない。輝くような笑顔を維持。つま先をきゅっと鳴らして停止し、バッと俺に手を振った。
「と見せかけてコタタマ! オマエだ! オマエがやったんだろ! 言え!」
ひゅーっ、ひゅーっ……!
俺は水を飲みたかった。
ポロリと眼球が零れ落ちる。
この身体じゃダメだ。ウッディ……。俺に力を……!
黒い金属片が俺のサブボディにブッ刺さる。妖精モードにシフト。ウッディが力を貸してくれた。俺はブンと羽を震わせて、ふわっと浮遊する。
リチェットが絶叫した。
「誰だオマエ!?」
俺は言った。
「俺がコタタマだ」
何の話をしてるのか知らねえが……。俺は前脚を擦り合わせて突き出た口吻をブブブと震わせて言った。
「全ては幻想なんだ」
そして……ぬるりと来たぜ。
どこからともなく光が差し込み、俺を照らす。
アナウンスが走る。
【条件を満たしました】
【イベント】【星降る夢】【Clear!】
【Class Change!】
【スーパーコタタマ さんが鍛治師にクラスチェンジしました!】
メガロッパ。ありがとよ。審査通ったぜ。
俺は前脚を虚空へと差し伸べる。
出現した黒い金属片が結集して機械仕掛けの卵を組み上げていく。
漆黒の魔石。
俺は言った。
「ここで問題です。コタタマくんは何も悪くないという方はお便りを6sTV局宛にどうぞ。正解の方から抽選でこちらの黒い変なのをプレゼントします。熱いメッセージ、待ってます」
俺は視聴者を買収した。
これは、とあるVRMMOの物語。
コードリール魔族。
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