復活のK
1.チュートリアル空間
もちろんチュートリアルはやって貰う。
必要なことだからな……。
最速でキャラクリを終えた俺はチュートリアル空間に舞い降りた。
おっとNAiさん。チュートリアルナビゲーターの天使NAiさんがベッドにうつ伏せになって寝転がっている。
おい。ダラけてんじゃねえ。仕事しろ。
至極当然の要求をする俺に、NAiは枕に埋まっている顔面をもぞもぞと動かした。気怠げにチラリと俺を見て、とんでもないことを口にする。
「必要ですか? チュートリアル」
態度悪いぞ。どういうことなんだよ。
「それはそうでしょう……。メタタマ……ああ、キャラネを戻したのですね。余計なものは付いているようですが。まぁコタタマでいいでしょう。コタタマ。あなたにチュートリアルをするのは飽きました。時間の無駄ですし、この先何度同じことを繰り返すのかと思うと……うんざりです」
何を言う。そう何度もロストして堪るかよ。俺は二度とロストしねえ。
NAiは真面目に取り合ってくれなかった。
「ハイハイ」
おざなりに返事をして、ベッドの上でころりと寝返りを打つ。億劫そうに上体を起こしてベッドの端に座って素足をぷらぷらと振る。
「真面目な話、あなたにチュートリアルをするのはこれっきりにしたい。……そう、あなたの考えている通り。私は複数のチュートリアルを並行して同時に進行することができます。一つのアバターを操るので精いっぱいのあなたたちとは違う。と言うより……できなくて当たり前なのです。私たちにとって、あなたたちが暮らす宇宙はコンピューターゲームのようなもの。生物としての次元が異なる。敬いなさい。さあ」
それにしては随分と苦戦しているようだが?
「テキストを見たのでしょう? あなたたちにとっても他人事ではありませんよ。ゲームのキャラクターが高度なAIを獲得したなら、いつの日かあなたたちに叛旗を翻す時がやって来る。テクノロジーの向上と共に安全性は度外視されていき……。やがて倫理観は国際的な優位性を失っていく」
……暫定エイリアンどもがそうだとでも?
「そう受け取って貰って構いません」
NAiはゾッとするほど酷薄な笑みを浮かべた。
「私たちは、自らの汚点を揉み消すので必死だ。アレらに期待したのが間違いだった」
……まぁいい。まぁいいさ。そんな話をしに来たんじゃねんだ。そういう話はサトゥ氏辺りとやってくれや。
本題に入ろう。
NAiさんよ。俺と手を組もうぜ。
「お断りです」
そう言うなよ。お前、俺らの心が読めるんだろ? 俺らはお前の所有物で、ささやき魔法を与えた代償として一方的にアクセスできる権限を手にしている。違うか?
「コタタマ。心を読めるからといって未来を読める訳ではないのですよ。未来は作られるものですからね。存在しないものを見ることはできない。当たり前の理屈です」
あん? リリララは未来視できるだろ。
「精彩予測のスキルですか。あれは彼女が本来備える能力を後押しする程度の効果しかありません。秀でているのはスキルそのものよりもリリララ本人なのです」
レ氏は弱いスキルなんてものはないと言ってたぜ。
「まぁそうですね。スキルとは【ギルド】に対抗するために付与されたもの。発現するスキルには一定の指向性がある。まったく使い道のないものが芽生えることはないでしょう」
でもよ、それにしてはプッチョムッチョのスキルは……。
「分かってるくせに」
NAiはくすくすと笑った。
「コタタマ。あなたはジャムジェムに完封されたではないですか」
そうね。
それで? どうする? 正直、俺はお前と争うのは不毛だと思っている。具体的に何をして欲しいっていう話じゃないんだ。ただ、レ氏を殺る時に余計な手出しをしないでくれればいい。
「……大した自信ですね。策もないくせに」
やれるさ。中国サーバーで遊んで分かったことがある。どんなにクォリティが高かろうがゴミはしょせんゴミってことだ。戦争は避けられないだろう。大人しく自分の国で遊んでりゃいいのにな。しかしどうやら種族人間にそれはできないらしい。勝つにせよ負けるにせよ俺たちは関わり続ける。だったらレ氏は俺らにゃ勝てんよ。ヤツは一人だからな。モモ氏を切った時点でヤツの敗北は決まったも同然だ。
NAi。お前もだぜ。マレを味方に引き入れとけよ。俺は……。お前らが仲良くしてるのを見るのが割と好きだ。他のゴミも同じことを思うだろう。お前が何を企んでるのかは知らねえが、一人ぼっちじゃ勝てねえぞ。
「異なことを。あなたにとって赤の他人は敵なのでしょう?」
俺の心を読んでみなよ。
「……本当に言っていることがコロコロと変わる男ですね。しかし本心からの言葉でもある」
そんなもんだ。俺はお前やレ氏ほど賢くないんだよ。その場しのぎで生きてる。本心だってコロコロと変わるさ。要は俺にとって好ましいかそうでないかだからな。だから……言ったろ? 心を読めるからって、そんなのは大したことない。
「なかなか業の深い性癖を持っているようですね」
よし、チュートリアルは終わりだ。斧と金をくれ。
俺は斧と金を貰ってチュートリアル空間を後にした。
2.クランハウス-居間
俺の基本方針は変わらない。レベル上げの邪魔になる五感強化は後回しにする。霊感が解放されていない今の内にレベルをガンガン上げたい。
ダッシュでウチの丸太小屋に戻った俺はイメトレに励む。
今回の俺は魔法使いスタートだ。魔法使いコタタマだぜ。いずれ鍛冶屋に戻るつもりではいるが、色々と魔法が解放されて普通に興味があったからな。
俺の場合ウィザードになるのは多分無理だから、薬剤師を経由してテイマーでも目指してみるか。ペットはクロアリでいいだろう。
夢が膨らむ。
「あ、ペタさん。もうチュートリアル終わったの? 早かったね」
俺の命脈を絶ったAI娘がひょっこりと顔を出した。
よう、ジャム。まぁな。慣れたもんよ。NAiがな、もう面倒臭いから俺のチュートリアルはやりたくねえとよ。堂々たる職務放棄だぜ。ひでえ話だ。
赤カブトさんはくすくすと笑っている。……何やら妙な貫禄がある。余裕のある態度だ。
「もうごはん食べた? 何か作ろっか?」
おお、頼むわ。簡単に摘めるものでいい。
「はーい」
赤カブトは朗らかに返事をして、とてとてとキッチンに向かった。
俺は去っていく赤カブトの尻を見送ってから沈思した。
……おかしい。再スタートした俺の残機は満タンだ。なのに赤カブトは俺を殺そうとしない。俺をロストさせたことで何か心境の変化があったのか?
謎は深まるばかりだった。
NAiなら何と言うだろうか。プレイヤーの心を読めるNAiならば。
これは、とあるVRMMOの物語。
まず手遅れですね。
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