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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
319/978

GunS Guilds Online!

 PvP。

 仲の良いプレイヤー同士が腕を競い合うのはごく自然な行いだ。

 もしもリアルを排除して考えたなら、それは友人同士で殺し合いをしている奇妙な光景に映るだろう。



 1.プライベートルーム


 ダメージオブジェクトが凝縮して絶対不可侵の障壁と化した。

 命の火がジャムジェムの部屋に置いてある小物類を再現していく。赤く揺らめく輪郭を引きずってぬいぐるみが短い手足をちょこちょこと動かして這い回る。

 ジャムジェムがプライベートルームを作った。

 引っ切りなしに舞い上がる火の粉が視界を埋める。赤い監獄。まるで結界だ。


 アナウンスが走る。


【GunS Guilds Online】


【テキスト】

【第五章】

【魔法の誕生】


【傲慢は罪である】

【天使の軍勢が空を埋め尽くし、かつての英雄たちが地上を支配していた】

【加護を浴びた信奉者たちは世代を重ねるごとに変異していく】

【奇跡の作用なのか?】

【答えるすべを持つものは居なかった】


 邪魔だ。

 俺はアナウンスを払いのけて言った。


「燃え上がるような恋をしよう」


 俺は前に出た。

 ロストが近い。垂れ流しになっている命の火を止めるすべを今の俺は持たない。残された時間が少ないと知っての突進だったが、ジャムジェムは意表を突かれたような顔をした。恥ずかしそうに目を逸らして言う。


「もう、せっかちなんだから。そういうところも……好きだケド」


 俺はお前の明るくて元気なところが好きだよ。地味なところもな。

 俺の斧とジャムジェムの剣が交差した。

 完全変身の余韻を引きずっている今の俺の膂力はレベル70のジャムジェムに迫る。ハイフレームに変身されたら対抗するのは無理だろう。このまま押しきるしかない。

 武器越しに視線がぶつかる。舞い上がる火の粉が俺とジャムジェムを赤く照らしている。俺の顔を映しているピンク色の瞳が興奮に濡れている。

 ジャムジェムが鼻に掛かった甘い声を上げる。


「んっ、ふあっ……!」


【四ツ落下】か。俺は目を使った。ハイフレームならいざ知らず、今のジャムジェムに【四ツ落下】を完全に使いこなすことはできないだろう。俺は火の粉の動きから空間の歪みを推測した。大きく外れはしなかったが、正確でもなかった。身体を少しズラして直撃を避ける。

 ジャムジェムがイヤに色っぽく笑う。


「……意地悪。いっぱい練習したのに」


 大人しく殺されてやるつもりはないんだよ。先生が悲しむからな。

 ウッディのインターバルが空けた。


(シンイチ……また死ぬのか……?)


 いいや。俺は生きる。

 ジャムジェムがむっとして頬を膨らませた。


「ペタさんのナカに居るの? 邪魔しないで。今度は私の番なんだからっ!」


 そいつはどうかな? 俺は踏み込んでジャムジェムと脚を絡めた。足を刈ろうとするが、重心を落としてぐっと堪えたジャムジェムに逆に押し倒された。対人戦闘は基本的に上を取ったほうが有利だ。俺の斧が弾き飛ばされて地面に転がる。くそっ、センスの差が出た。ベースレベルが低い俺はこういう細かい攻防が苦手だ。しかしジャムジェムにしても万全な体勢とは言えない。手元が狂ったか、振り下ろした剣は俺の肩を浅く貫くにとどまった。慌てて剣を引き戻そうとするジャムジェムに、そうはさせじと俺はきつく抱きしめた。抱き枕にしてごろごろと地面を転がる。今度は俺が上になる番だ。斧を回収してジャムジェムにのし掛かる。

 ジャムジェムは真っ赤な顔をして俺から目を逸らした。唇が緊張に震えている。マズい。魔法が来る。俺はとっさに仰け反ってパッと離れた。

 放たれた光の輪が俺の顔面すれすれを過ぎ去っていく。

 攻撃魔法は消耗が激しい。あと何発打てる? 仮に最大MPがョ%レ氏の3分の2とすれば……。イヤ違う。ペールロウ。ジュエルキュリはジョンたちとの戦いで魔法を温存していた。ディープロウなら勝てるとも言っていた。ディープロウの指揮下にないペールロウには魔法の行使に関して何らかの欠点がある。自由は重荷でしかない……。消費マナの増大だ。

 とっさに回避したものだから次撃に備えることができなかった。俺は尻もちを付きながら斧を振った。牽制のつもりだったが、稚拙に過ぎたらしい。変に空中を泳いだ俺の腕をジャムジェムが蹴り上げた。すっぽ抜けた斧が宙を舞う。ジャムジェムに服を引っ掴まれて転がされた。マウントを取られることを警戒してガードを固める俺をジャムジェムが振り回す。なんだ? 何をされてる? 分からない。いや、分かった。高レベルのプレイヤーの筋力は人間の域を越えている。それは体重に見合ったものではないから、マウントを取ってもすぐにひっくり返されるのか。そんな当たり前のことすら俺は知らなかった。

 だが、ジャムジェムの頭の中にはこの先の攻防がキッチリと入っているのだ。それはチームポチョで培ってきたものだった。ハイフレームに化けないのもジャムジェムなりの考えあってのものなのだろう。

 俺を引っ張り起こしたジャムジェムが俺を掴んだままぴょんぴょんと左右に跳ねる。

 ジャムジェムが上目遣いに俺を見てはにかんだ。


「は、初めてだから優しく……ね?」


 俺は吠えた。護身用に持ち歩いているウチの子たちのパンツを魔石に変換した。ジャムジェムが凍る風を吹き散らして魔石を氷に閉ざした。そう来ると思ったぜ。悪いナ。こっちが本命だ。俺はジャムジェムの腹にぴたりと拳を添えた。

 師父の教えが俺の脳裏を過る。


(《気》だよ、チェンユウ……!)


 師父っ……!


(不器用なお前の拳でしか救えないものだって世の中にはあるのさ)


 ジャム。お前に俺をロストさせはしねえ!

 アットムとギフターズの戦いを見て分かったことがある。中国拳法の《気》ってのは振りかぶる動作を省く技術だ。冷蔵庫を運び出す時に腕の力だけで持ち上げるのは無理だから全身のバネを使う。

 もっとも筋肉の付き方は人それぞれだから個人によって遣り方はまちまちなのだろう。俺は不器用だから冷蔵庫泥棒の経験をこの拳に込める。

 空き巣のプロのピンキーの微笑が脳裏を過った。

 それが良くなかったのかもしれない。俺のひざがガクリと折れる。剥き出しのフレームが半ばからへし折れていた。ジャム……。お前が俺の身体を振り回していたのは……このためか。

 俺の拳は空を切った。

 俺の肩を支点に飛び上がったジャムジェムの身体が稲妻のエフェクトを纏ってゆらりと宙をたゆたう。バッと振り返った俺の顔面をジャムジェムの太ももが挟んだ。その感触に酔いしれる暇もなく首をひねられる。俺は逆らわずに倒れるしかなかった。そうしなければ首をへし折られたろう。だが、それも手の内だろうことは想像に難くない。こうなったら尻を揉むしかねえ……! 俺の手がジャムジェムの尻めがけて伸びる。ゴキゴキと俺の首が嫌な音を立てる。細い電撃が走った。小規模な爆発が俺の手を弾く。

 ゴミのようなスキルが俺のセクハラを阻む。俺は怒りの咆哮を上げた。


「ムッチョ……! プッチョぉー!」


 八つ当たりだ。それが俺の最期の台詞になった。

 ジャムジェムが尻を浮かせて慣性制御する。【スライドリード】に巻き込まれた俺の身体はもはやジャムジェムの意のままだった。

 ジャムジェムを肩車しているような姿勢でくるりと空中で一回転した俺の額にAI娘の肘がぴたりと添えられる。

 ゲーマーサンボ。ゲームならではの無茶な動きでアニメや漫画の必殺技を真似たものだ。サトゥ氏め、なんつーモンをウチのAI娘に仕込んでくれやがった……!

 ジャムジェムが【スライドリード】を解除した。ずしっと体重が掛かる。俺たちの身体が重力に引かれて落ちる。


 陸奥圓明流・朱雀……!


 落下の衝撃と共に肘を頭部に叩き込まれた俺は、びくりと一度痙攣して動かなくなる。

 ジャムジェムの荒い息遣いが俺の耳をくすぐっていた……。


「はぁ、はぁ、はぁ……。んっ……!」


 陸奥圓明流、千年の歴史に……敗北の二字は、ない。がくっ。


 俺はロストした。


【……Game Over……】




 これは、とあるVRMMOの物語。

 もうチュートリアルしなくてもいいかなぁ?



 GunS Guilds Online


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