プライベートルーム
1.中国-海上都市ニャンダム
戦争だ戦争だ戦争だー!
【ギルド】相手に戦術もクソもない。
敵はカスで味方はゴミだ。
とにかく突っ込んで、運が悪ければ死ぬ。運が良ければ多少活躍してから死ぬ。その程度だ。
ゴミどもの指揮を執っているメイヨウ様が吠える。
「進め進め進めー!」
中国サーバーにおいてプレイヤーとティナンは協力関係にある。それはティナン王の性格によるものであり、またプレイヤーがティナンを守る肉壁と機能しているからでもある。
避難するティナンとは逆にプレイヤーは徒党を組んで前進する。
プレイヤーは何度でも死ねる。死ねば終わりのNPCとはハッキリと命の価値が異なる。
海上都市に雪崩れ込んだ【歩兵】が銃弾をバラ撒く。中国産のゴミがバタバタと倒れ、戦線が秒単位で前後する。気付けば俺は最前線に居て、クソ虫どもを斧でブッ叩いている。楽しくなってきた! 進め進め進めー!
【ギルド】相手に賢く立ち回ろうとするのは悪手だ。単純に人手が足りない。メイヨウ様はそれを理解しているから愚直なまでに前進を命じる。だが、なまじレベルが高い実力者は【ギルド】の撃破数を競い合おうとする。でも、そうじゃないぞ。種族人間はゴミだ。レベルが高かろうが低かろうが大差はない。被弾率を下げるよりも突進して全身に銃弾を浴びたほうが無駄がない。いや、そんな理屈はどうでもいい。何も考えずにゾンビアタックしたほうが絶対に楽しい。近接職は【スライドリード(速い)】の段階を解放すると二倍か三倍くらい強くなったと錯覚するからな。その「強さ」は一対一の状況でしか通用しないものであることを見落としがちになる。
簡単な理屈なんだ。
種族人間に戦場全体を把握できるほどの能力は備わっていない。仕事を単純化してやればバカでも働ける。一部のエリートが常人の二倍、三倍の戦果を挙げたところで大した違いはない。種族人間の大部分を占めるバカが迷いなく動ける環境を作ったほうが確実に勝率は上がる。
銃弾を躱し損ねたゴミがふらついて俺にもたれ掛かってくる。オンドレぁ! 俺はそいつの首を刎ねて吠えた。
「進め進め進め進め進めー!」
ゴミのようなアビリティはとうに発現している。俺というキャラクターの枠を越えて遊離した紋様が円環状に拡大してゴミどもとリンクする。
ひたすら前へ。
ゴミの身体を引っ掴んで盾にする。前へ。前へ。前へ。
【歩兵】の群れを突破した。
合体巨大化した【ギルド】の巨人が迫る。対策と強化。最高指揮官のラム子がそうだったように、種族人間に負け続けた【ギルド】はどんどん人間に近付いていく。銃器よりも剣や槍のほうが有効な武器だと錯覚するからだ。そんなことは決してないのに。
大剣を振り上げた巨人を俺はカチ上げた。テンションが上がりすぎて、つい完全変身してしまった。変身は癖になる。一度外れたタガは戻らない。俺は咆哮を上げた。
Pyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa
巨人を体当たりで押し切って触手の先端に咲いた斧をブン回す。触手のフレームが剥き出しになっていた。エネルギーが尽きたという実感があった。俺はここでロストする。俺はメイヨウ様に報告した。
【メイヨウ様ー! おさらば! おさらばです!】
ゴミどもの指揮を執っていたメイヨウ様が目を見開いた。
「チェンユウ! 見事だ! 契約を解除する! 好きに生き、好きに死ね!」
メイヨウ様は称号に振り回されない。感性で生きている。
それは女キャラだからこそ許される。
可愛いは正義だ。
俺は杭のような歯列を打ち鳴らして笑った。
こっちの暮らしも悪くなかったぜ。あばよ、メイヨウ。
デカブツが俺に集中攻撃を浴びせてくる。フレームがへし折れ、漏れ出た命の火が宙に溶けていく。傾いた視界の中、不審なクソ虫さんを発見した。俺は目がいい。後退なんてして何してる? そうかい。【指揮官】ってのは【歩兵】に紛れるのか。だったら不自然なことをしちゃダメだろ。それとも囮かな? もしそうだったら誉めてやるよ。
俺は触手の先端に銃身を生やした。銃身を寄り集めてみゅんみゅんとチャージする。デカブツの攻撃が激しさを増した。悪いナ。チャージはフリだ。お前らの反応を見たかった。
フルバースト。俺の光線銃が【指揮官】を貫く。もう限界だった。戦果を確認する暇もなく俺はしゅるしゅると身体を縮める。ロストが近い。俺は人間に戻れなかった。半身が機械化したままフレームが剥き出しになっている。
命の火が頭上で渦を巻く。
赤い流星雨が降る。
剥き出しのフレームを押さえてうずくまる俺にジャムジェムが言う。
「ペタさん。好きです」
俺は苦笑した。
俺もお前のことが好きだよ。
恋愛感情なのかどうかは分からない。ただ、俺はジャムジェムのためとあらば何でもやる。それが愛だと言うならそうなんだろう。
流星雨の範囲が狭まってくる。
範囲外からリンリー嬢が叫んだ。
「ジャム! 何してる! お前は……コンフレームなのに、スキルを……?」
ジャムジェムがぺこりと頭を下げた。
「ルビー姉さん。私、幸せになります」
αテスターの固有スキルはマップ外周部にダメージオブジェクトを設置するものだ。
だが、それは一段階目の効果だったのかもしれない。
流星雨が密度を増して俺とジャムジェムを外界から隔離した。
赤い部屋。プライベートルーム。
一対一だ。
アナウンスが走る。
【警告】
【強制執行】
【黄昏より来たれしもの】
【始まりすら定かでなく】
【自由は重荷でしかない】
【勝利条件が追加されました】
【勝利条件:ペールロウの殺害】
【制限時間:00.00】
【目標……】
【ペールロウ】【ジャムジェム】【Level-70】
ジャムジェムはもじもじしている。
「……ふ、二人きりだね」
逃げ場はない。
助けは来ない。
もう変身もできない。
それでも。
俺は斧を杖にしてよろよろと立ち上がる。言った。
「死んで堪るかよ。生きるんだ」
これは、とあるVRMMOの物語。
メタタマの一生は短い。生育環境にもよるが、少し目を離した隙に物凄い勢いで残機を減らして戻ってくる。
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