ホットなRPG
称号を狙うのは現実的ではないと言われている。
例えばロスト前のサトゥ氏はョ%レ氏とモョ%モ氏を倒したことで【英雄】の称号を獲得したが、他の誰かが同じことをやっても称号を獲得できるとは限らない。当時と今では状況が違うからだ。
要するに称号付与の是非は暫定エイリアンの気分で決まる。狙って獲得できるほど甘くはない。それゆえの称号なのだろう。
メイヨウ様の称号【傾国】は、種族人間バージョンのモョ%モ氏が持っていたものだ。
おそらくは【英雄】の女キャラバージョンだと考えられていた。
種族人間にも歴史に名を残すほどの活躍をした女性は居る。例えばオルレアンの乙女、ジャンヌ・ダルクがそうだ。しかしジャンヌ・ダルクを指して「英雄」とは言わない。聖女とか聖乙女とかだ。
男キャラと女キャラでは獲得できる称号に違いがある。
では、何故そんなシステムにしたのか。
世界は広い。世の中にはサトゥ氏と互角以上に渡り合える女キャラも居るだろう。男女でステータスに差異はないのだから性別で称号を分ける必要はないのではないか?
その答えを端的に示すのがメイヨウ様なのだ。
1.マールマール鉱山-山中-【敗残兵】隠れアジト
真の奴隷は主人の意を汲むものだ。
メイヨウ様は特に何も言っていないが、向上心のあるお方だからな。きっとマジュンくんのことを目障りに感じているに違いない。つまりマジュンくんに何らかのミスをして貰って失脚させる。突然の更迭劇に動揺する中国軍。劣勢に立たされるも、メイヨウ様の機転で窮地を脱する。兵たちは思う。やはりマジュンくんに代わって頭を張れるのはメイヨウ様しか居ない……! そして……ここからメイヨウ様率いる中国軍の奇跡の大逆転が始まる……!
という筋書きなんだが、どうだろう?
「負けてんじゃん。俺ら奇跡の大逆転食らって負けてんじゃん」
元【敗残兵】のクソどもの作戦会議にお邪魔している。
サトゥ氏は俺の提案がお気に召さなかったご様子。
「つーかコタタマ氏さ。本当に洗脳されてる? なんか面白半分に絶対服従してない?」
何を言う。言っただろ。これがメイヨウ様の、称号【傾国】の偉大なる力なのだ。
「なんか怪しいんだよなぁ。まぁいいや。李信馬准は山岳都市まで攻めておいて兵を引いた。ティナンから力尽くでガムジェムを奪うのは無理だと知ってたってことだ。それに君主のジョブを持ってるサトウさんの居場所も掴めてない。あわよくば炙り出すつもりだったんだろうが……本気で逃げに回ったあの人を追えるのは俺だけだ」
ほう。大した自信じゃねえか。いや、信頼かな?
「ウチもあっちにメンバーを何人か潜伏させてるからな。敵地で活動することの難しさは分かってるつもりだ。特にメイヨウは……どうにもならない。ヤツはβ組でも初日組でもない。どこから湧いて出た……? 分かるだろ、コタタマ氏。ヤツはお前と似てるんだ。ずっとノーマークだったから身元を洗うよう命じても信憑性が薄いデータしか集まらない。不気味なプレイヤーだ……」
ハチが元気にぴょこたんと挙手した。
ハ〜ッチ。どした?
「パイセン、パイセン。俺ぇ、セブンさんと結婚したんですよぉ。でも前と何も変わってないっていうかぁ。結婚って何だろうって悩んでて〜」
ふむ。ハチよ。セブンはな、使えるプレイヤーが好きなんだ。かつて先生はこう仰った。セブンは意外と優しいやつだと。まぁ俺にも思い当たるふしはなくもない。だからな、ハチよ。お前が焦る必要はないさ。他人同士が一緒に生きていこうってんだ。そりゃあ上手くいかないこともあるだろうさ。お前にはお前の人生がある。あんまりにもセブンか不甲斐ないならお前から振っちまいな。結婚ってのはそういうモンだ。お前が幸せになるためのものであって、お前の人生の上位に来るもんじゃない。どう考えてもそうだ。結婚生活ってのは人生の一部で下位互換だ。重苦しく考える必要はないさ。
キメ顔でハチのお悩みに回答した俺を宰相ちゃんがじっと見つめている。
「コタタマ。ジャムにロストされたって本当ですか?」
何だそれは。ジャムが? バカ言え。この俺をロストに追い込んだのはエッダとポポロンだけ。プレイヤーに取らせてやるほど俺の命は安くねえ。
宰相ちゃんはもじもじしている。
「……そ、そう? それならいいんですけど。ジャムが【四ツ落下】の練習をしてるって聞いて」
そうなのですか。【四ツ落下】の練習を。なるほど。
……サトゥ氏。どうなの。その、【四ツ落下】の使い勝手は。
「難しい。何かカラクリがあるらしくてな、攻撃範囲を指定できない。今のところ運が良ければ敵に当たるランダム攻撃だ」
何だそりゃ。使い物にならねーな。
「そうでもない。射程は無限じゃないからな。チームを組んで一斉に使えばどれかは当たる。来ると分かってれば避けることも、まぁ不可能じゃない」
マールマールとの決戦は一昨年の大晦日の話だ。あの当時と比べればプレイヤーはずっと強くなっている。今やれば攻略組の幾ばくかはマールマールの【四ツ落下】を避けることができるだろう。もちろん回避できる体勢にあることが条件になるけど。
……まぁいい。コンフレーム時の赤カブトさんはゴミどもと大差ない。今すぐどうこうという話ではあるまい。俺がプレスされるまで猶予はある。つまり放っておけば時間が解決してくれるかもしれない、ということ。何も問題はない。
宰相ちゃんが追加報告する。
「それから魔法戦士についてなのですが。やはり黒魔術師とダークプリーストは該当しないようです」
なにっ? お前ら、転職条件を見つけたのか?
宰相ちゃんは何を今更という目で俺を見た。
「そういうところですよ。コタタマ。お前は日本と中国を行き来しているでしょう? そういうことをやっていると総時間は同じでも、どうしても手元に来る情報は浅くなる。どんどん取り残されて行くことになりますよ」
いや。……そうだな、お前らには言っとくか。
中国サーバーだけじゃない。俺はニジゲンと一緒に世界を見て回るつもりだ。
運営側に付いたαテスターがジュエルキュリだけってことはないだろう。ジャムジェムの姉妹たちだ。そいつらを取り戻す。
本社の社長とやらを見て分かったことがある。このゲーム、ガンズ何ちゃらの今の仕様はヤツが作ったモンだ。自らの死を代償に死出の門を開き【ギルド】を使役するスキル……。プレイヤーに母体を提供しているのはヤツだろう。
クロとか言ったか……まぁ愛称なんだろうが……。ヤツがトップを張ってる以上、もう運営側は一切信用できねえ。だから俺はジャムジェムを優先する。ま、あんまり根詰めても仕方ねえから程々に楽しくやるさ。ゴミどもが育てばちょっとはマシな状況になる。
まずは中国サーバーだ。最低限の土台だけは整えてやらねーとな。
1.中国-海上都市ニャンダム-とあるティナンの屋敷
勝手に抜け出して日本軍に参加した罰を受けている。
俺の頭を掴んだメイヨウ様が水を張った桶に俺の頭を突っ込む。ガボガボっ……!
「チェンユウ。特別とは何かとお前は言っていたな」
俺の頭をぐいと持ち上げたメイヨウ様がニヤニヤと笑いながら俺に問うてくる。俺は息を切らしながらかろうじて頷いた。
メイヨウ様は楽しそうだ。
「私は人民共和国の政府の支援を受けている。特別とはそういうことだ。私の代わりになれるものは居ないと認めさせることだ」
政府の……。でも。
メイヨウ様は察しが良かった。サトゥ氏やネフィリアと話す時と同じ感覚だ。多くを語らずとも理解してくださる。
「そうだな。レ氏は何らかの手段で政府に圧力を掛けている。ゲームの邪魔をするなということだろう。だがゲームとリアルを完全に切り離すことはできない。私が勝ち取ったものをレ氏にどうこう言われる筋合いはない」
なるほど。よく分からんが俺はひとまず頷いた。そして桶に頭を突っ込まれる。ガボガボっ……!
後で掃除するのが面倒なので庭で罰を受けている。矛をブンブンと素振りしていたリンリー嬢が飛び後ろ回し蹴りで稽古を〆て取り成してくれる。
「メイヨウ。罰は程々にな。その男はジャムジェムの、αテスターの観察対象だ。強烈な個性を持っている。罰を与えたからと何が変わるでもない」
いいや変わるね。俺のメイヨウ様への忠誠心は決して揺らぐことはない強固なものだが、今こうしている間にも忠誠心の高まりを感じる。
メイヨウ様は俺の頭を引っ張り上げながら続けた。
「私は元エンジョイ勢だが、今やβ組ですら私の手駒に落ちた。例外は、まぁマジュンとオムスビコロリンくらいか」
オムスビ……コロリン?
真面目な話をしていたメイヨウ様の口から急に怪しい単語が飛び出して俺は反応に困った。
俺の傍らにしゃがみ込んだリンリー嬢が説明してくれる。
「こっちのサーバーにも居るんだよ。頭おかしいのが。自称日本人なんだけど……。かなり怪しい」
メイヨウ様が真面目な話を続ける。
「かつての友人たちは私の元から去ってしまった。チェンユウ。お前との契約はあと少しで切れる。お前は自由になる。私に付いて来い。私がこのクソッタレな世界を変えてやる。レ氏の思い通りにはさせない」
メイヨウ様ー!
ハッ。ちんちくりんだ。ちんちくりんのティナン女子がこちらに駆け寄ってくる。刺客か? 俺はとっさにメイヨウ様を庇って前に出た。もるるるるっ……!
威嚇する俺をティナン女子が片手でひょいと持ち上げてポイ捨てした。
「メイヨウ! 山岳都市に攻め込んだというのは本当か!?」
顔面から地面に落ちてぱたりと倒れた俺にリンリー嬢が説明してくれる。
「こちらのティナン姫だ」
ふむ。小さいな。ガキンチョだ。てっきりティナンの編成は全サーバー共通なのかと思っていたが、そんなことはないらしい。
ガキンチョ姫がメイヨウ様に食って掛かっている。
「ま、マジュンがそんなことをする筈がない! メイヨウ! どうせまたお前の企みだろう!」
何をー? おのれ。俺のメイヨウ様に濡れ衣を着せようというのか。許せん。俺はぐんとブリッジしてカサカサと地を這って割って入る。種族人間の不器用さや生まれ持った悲しみを体現するフォームだ。
「なんだこの生き物! 寄るな!」
俺はガキンチョに蹴っ飛ばされて派手に吹っ飛んで地面でバウンドした。
さっと立ち上がったメイヨウ様が腕組みなどしてガキンチョを見下す。
「マジュンは正しい。このゲームの仕様上、先手を取ったほうが極めて有利になる。加護を剥奪され、レイド級の討伐もままならない小国のサーバーは大国を警戒し同盟を結ぶだろう。最終的に明暗を分けるのはガムジェムの保有数だ」
「……マジュンがそう言ったのか?」
メイヨウ様がカッと目を見開いた。
「いちいち私を疑うんじゃない! 普段は全然私に話し掛けて来ない癖に! 何なんだ!」
ガキンチョがびくっとした。
「そ、そうやって怒鳴るからだ! お前とは話しづらい!」
「なに……?」
キョトンとしたメイヨウ様が吹き出した。からからと笑って言う。
「し、正直だな! そうか。それは悪かった。けどな、私はマジュンとは違うんだよ」
俺は再ブリッジした。ウッディが俺の腹から這い出して誇らしげにぴんと身体を伸ばす。俺は吠えた。
メイヨウ様はお忙しいのだ! 定期的に新規ユーザーの元に出向いて叱咤激励したりしてるんだぞ!
ウッディが俺の口をパクパクと動かして続ける。
「シンイチ……。【歩兵】の群れが、こちらに向かっているようだ……」
俺は舌打ちした。ちっ、ゲリライベントか。
日本サーバーはヌルいというのは本当だった。中国サーバーでは領地戦が頻繁に勃発する。おそらく山岳都市は【ギルド】にとって重要な攻略地点ではないのだ。
日本サーバーとは違う。こっちにウサ吉は居ない。♯集積回路とやらを発達させて【指揮官】に昇格したクソ虫が居るのだ。命令系統を獲得し、複雑なネットワークを形成したクソ虫どもは日々進化している。
中国産のモブキャラのクォリティの高さはそこに起因するものだった。
ポポロンの森の方角に複数の巨人が出現した。合体巨大化した【歩兵】なんだろうが、日本のそれとはフォルムが異なる。
……まるでプレイヤーのエンドフレームそのものだ。
アナウンスが走る。
【GunS Guilds Online】【Loading……】
【警告!】
【上位個体の出現を確認しました】
【勝利条件が追加されました】
【勝利条件:指揮官の撃破】
【制限時間:00.00】
【目標……】
【指揮官】【???】【Level-560】
レベルはそれほど高くない。
だが【ギルド】は滅びない。
撃退はできても戦闘を糧に永遠に成長していく。
決して終わることはない戦い。
海上都市をめぐる防衛戦の幕が開く。
これは、とあるVRMMOの物語。
山岳都市は恵まれた環境にある。それは、つまりレベルが上がりにくい環境ということでもある。
GunS Guilds Online