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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
313/978

称号、傾国

 1.中国-エッダ海岸


 中国サーバーのエッダ海岸で待ち合わせをしている。

 波打ち際に素足で立っているニジゲンがぴょんぴょんと飛び跳ねて大きく手を振る。


「ジャム〜! こっちだ、こっち!」


 赤カブトさんは少し本気を出せば俺の居場所が離れてても分かるらしい。

 最近少しストーカーじみてきたAI娘が海面を跳ねるように駆けてくる。物凄いスピードだ。αテスターはハイフレームとかいう変身段階を持つ。それは、母体の力を一時的に引き出した種族人間とは似て非なるものだ。

 なお、海底の【ギルド】はクロアリが押さえ込んでいる。赤カブトのハイフレームは俺を殺すための形態なので、【ギルド】に対してどこまで通用するのか未知数な部分がある。無駄に冒険する必要はないだろう。


「ニジゲンさん! ペタさん!」


 海面を蹴って高々と跳躍した赤カブトさんが「ずさーっ」とセルフ効果音を立てて砂浜に着地した。俺はすかさず赤カブトを抱き上げてくるくると回った。遅いんだよ! 心配したぞ!


 俺はマジュンくんに言われたことをよく考えた。その結果、赤カブトに中国サーバーの女神像を登録させることにした。

 赤カブトと同じαテスターのリンリー嬢は中国サーバーの利益に忠実だ。しかし俺はウチのAI娘を戦争の道具にするつもりはない。

 ゴミどもを牽制する必要がある。

 この俺が赤カブトを国外サーバーに連れ出した。その事実があれば、ゴミどもは勝手に深読みして赤カブトに無茶を言えなくなる。というか俺が言えなくする。なに、簡単だ。あんまりにもアホが多いようなら赤カブトを海外旅行に誘えばいい。俺にはウッディとクロアリが付いてる。何度でもロストできるし女神像の登録がリセットされたとしてもそのつど国境線を越えることができる。中国がダメなら別の国に行けばいい。

 ニジゲンと赤カブトが手を繋いでぴょんぴょんと飛び跳ねている。

 初の海外とあって赤カブトはハシャいでいる。


「パンダさん見たい! パンダさん居るかな!?」

「ジャム! パンダは飼えねぇーぞ! でも探せばどっかに居るかもな!」


 だったら俺がお前らのパンダになってやるよ。俺はパンダスーツをクラフトして頭から被った。おら、何してる。俺のために笹を取ってくるんだよ!

 赤カブトが笑いながら「やだー!」と言って俺の脇腹を突付いてくる。俺は吹っ飛んで顔面から砂浜に突っ込んだ。ちっ、あばら骨を持って行かれたか。やったなコイツぅー! 俺はガクリと片膝を付いて口腔にせりあがってきた血をベッと吐き捨てた。

 赤カブトは負傷した俺を見てもじもじと身体の前で指を絡ませている。


「い、今のは違うから。そういうつもりじゃなかったから。の、ノーカンね?」


 おお! 分かってンよ! 俺は理解を示した。

 せっかくの海外旅行だ。野暮なことは言うまい。

 だがドコの国にも空気を読めないヤツは居るらしい。ハッとしたニジゲンが叫ぶ。


「崖っぷち! 誰か来る! 武装してるぞ!」


 JKよ。お前は本当に使えるやつだよなぁ。お前には三つの選択肢があった。目、耳、鼻だ。その中で耳を選んだ。そう、音を完全に殺して接近するなんて人間には無理なんだ。漫画とかじゃたまに見るけどな。【スライドリード】の消音効果はひょっとしたら耳を鍛えたやつが有利すぎるから、なのかもな。

 武装した集団が迫っている。だが俺はニジゲンにバッと両腕を広げた。来い。ぎゅっとしてやる。


「ば、バカかよ! そんなことやってる場合じゃねえだろ! 野良パじゃねえ! 軍隊! 規律が取れてる! 偶然とは思えねえっ」


 俺もそう思う。俺はちょいとばかり派手にやり過ぎたからな。俺と同じ結論を下せるお前が嬉しい。俺は赤カブトに話を振った。ジャム。JKを見て学べ。これがβ組だ。そこら辺のゴミどもとは訳が違う。

 ふらふらと近付いてきたニジゲンを俺はぎゅっと抱きしめた。ピンク髪をヨシヨシと撫でてやる。いかなる脅威が迫っていようとも、俺はニジゲンの好感度稼ぎを優先する。それは今すぐが一番絶大な効果を望めるからだ。後で誉めればいいなんて考え方は甘い。

 配下を引き連れて現れたメイヨウが、俺に剣を突き付けてくる。


「報告を聞いて耳を疑ったよ。よくもまぁおめおめと。……何をしている?」


 何をしている、か……。

 …………。



 2.回想-中国軍の撤退後


『目的は果たした。離脱する』


 マジュンくんのエリアチャットを耳にした中国人どもが次々と自害して本国に引き上げていく。

 つい先ほどまでチャイニーズとバチバチやり合っていたゴミどもは納得していなかった。


「逃げんのか!? 上の言うことには絶対かよ! オメェーらは! ゲーマーだろうがよ! サラリーマンじゃねーんだろ……」


 その言葉には寂しさすらあった。

 粛々と日本産のゴミを狩っていた中国人が初めて人間らしい表情を見せた。


「……お前らとは違う。俺らっトコには称号持ちが三人居る。その内の一人は『契約』を操る。俺たちに選択の余地はない」


 そう言い残して中国人たちは去っていった。

 敵を半ばで失い、傷付いたゴミどもがゾロゾロと集まってくる。


「……崖っぷち。お前はナニしてた」


 ……俺は……中国サーバーに。


「そうか。そうだよな。お前は、特別だ。俺たちとは、違うもんな」


 そう言ってゴミどもは俺の肩をポンと叩いた。


「お疲れ。お前にはお前にしかできないことがある。その調子でがんばれ」


 ゴミどもは俺を罵らなかった。

 俺は……。



 3.中国-エッダ海岸


 俺は、何度でもロストできる。俺は、特別な存在になった。ずっとそうなりたいと思っていた筈だ。

 なのに。不思議と気が晴れない。ゴミどもの言葉が胸につかえている。

 配下を従え、俺を取り囲んでいるメイヨウに俺は言った。


「お前は称号持ちだよな? 特別な存在だ。特別ってのは……何だ? 教えてくれ」


 メイヨウは眉をひそめた。

 そうだな。俺の考えを話そうか。

 俺はニジゲンを撫で回しながら続けた。

 メイヨウ。お前は俺に随分とご執心のようだ。だから俺は最初から逃げきれるとは思ってない。分かっているだろうが、ここに居るニジゲンは日本サーバーのβ組で、ジャムジェムはαテスターだ。俺なんかとは価値が違う。丁重に扱え。お前は。メイヨウ。俺を逃がすなと言ったよな? スキル選挙でプクリのスキルを解放してる。多分な。なら知ってるよな? 【ギルド】にスタンは通用しない。眠ったり気絶したりする身体の構造になってないんだろう。

 クロアリは厄介だったろ?

 お前らは護衛だ。俺たちを海上都市までエスコートしろ。急げよ。俺は完全変身してる。いつロストしても不思議じゃない。俺がロストしたならジャムジェムの【戒律】は成り立たなくなる。リンリーとも互角に渡り合えるようになるだろう。

 さあ、どうする? メイヨウ。決めるのはお前だ。マジュンには頼ってくれるなよ? この場で判断しろ。俺をがっかりさせないでくれよ? 傾国の。


 メイヨウはプライドが高いプレイヤーだ。苛烈とも言える性格を人前では押さえ付けてイイ人ぶろうとするサトゥ氏とは、また異なる性質を持っている。

 こういうやつは俺の言うことを素直に聞こうとしない。上に行こうとする。

 案の定だ。メイヨウはハッと鼻で笑った。


「チェンユウ。お前は私の命令に逆らえない」


 契約を操る、だったか。お前がそうなんだろ?

 ……つらくねえか? 他人と違うことができるってのは。

 その答えを。俺は探しに来た。

 メイヨウがカッと目を見開いた。


「ふざけるな! 何を勝手に打ちひしがれてる! 張り合いのない! 情けない男だ! お前は!」


 じゃあ言うわ。

 俺はぺらぺらと口を回した。

 お前の命令に逆らえねえだ? 称号ってのはそんなに便利なモンか? こんな話を知ってるか? レイド級の使徒は絶対服従と引き換えに子を産む特権を得ている。妙な話じゃねえか。ズバリ言ってやる。種族人間が何をしようが他人を長期間に渡って従えることはできねえよ。所有権の限定的な解除ってのがそうなんだろう。察するに【戒律】に近いな。俺を奴隷にしようってのに俺が賭け金を支払うのは辻褄が合わない。契約の反故を避けるための措置だ。

 つまりこうだ。メイヨウ。傾国の固有スキルには時間制限がある。それは、例えば二、三日ログインしなければ回避できる程度のモンだ。それをやられるとマズいから、お前は俺に担保を課した。担保は何だ? 言え。

 メイヨウは笑った。


「調子が出てきたじゃないか。いいぞ。楽しみだ。お前の自尊心を粉々にしてやる。まずは三べん回ってワンと鳴け!」


 俺は三べん回ってワンと鳴いた。

 ご主人様のメイヨウ様は嬉しそうだ。


「ニジゲンにジャムジェム! 歓迎するぞ! 私は使えるプレイヤーが好きだ! リンリンも喜ぶだろう! 我が友よ!」


 メイヨウ様ー!




 これは、とあるVRMMOの物語。

 また洗脳されてる……。



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