メタタマの野望〜承前飛翔失墜落伍編〜
1.山岳都市ニャンダム-露店バザー
座り込みしている生産職たちから少し離れたところで部下どもの報告を聞いている。
……どうもコイツら冒険者ギルドの連中は反応が鈍い。最初は【ギルド】に憑かれた副作用なのかと思ったが……。俺がギルドマスターの座を追われた後に何かあったのか? 以前はこうじゃなかった。思考能力が後退している。
今もそうだ。
「捕虜に逃げられました」
……そうかい。
俺は忸怩たる思いだ。胸中で呟く。逃げられました、じゃねえよ。個体差はあるようだが【ギルド】憑きは種族人間よりも強い。フィジカルで上回るというのは何をするにせよ有利な要因だ。何なんだ、コイツらは? これなら査問会の連中のほうがずっと使える。いや、それはあらかじめ分かっていたことだ。俺が今回の件で査問会を招集しなかったのは、アイツらが戦闘職だからだ。俺の部下だからって生産職の味方をすれば今後に響く。
まぁウチの金髪にとってはそんなことは関係ないようだが。
生産職の連中の絶大な支持を受けるポチョさんは当たり前のような顔をして生産職側に付いていた。
「私たちは暴力には屈さないぞー!」
「そうだ! ポチョさんの言う通りだ!」
元騎士キャラが何か言うたびに生産職たちがワッと歓声を上げる。
な、何なんだ……? 俺は謎のポチョ人気に恐れおののいた。以前にシルシルりんがポチョりんは暗黒時代に生産職の味方をしたので人気があると言っていたが、これはちょっと異常だぞ……。それとも俺が知らないだけで、ウチのポチョ子は実は凄い子なのか? そういえば人前だと騎士キャラに戻ることがあるな……。実は思ったよりも賢いんじゃないかという疑惑もある。
……まぁいい。今はポチョよりも冒険者ギルドの連中だ。ホシピーが脱走しただと? どうしてくれよう。いや、そもそも査問会の連中と比べるのが間違いなのかもしれない。俺は自分で思うよりもずっと部下に恵まれていた。そういうことなのだろう。だとすれば、これは俺のミスでもある。もっと細かい指示を出すべきだった。ミスは取り返せばいい。俺が居なくなって腑抜けたってんなら鍛え直してやればいい。
だが……。それをして俺に何の得がある?
【ギルド】は指揮官に忠実だ。コイツらは俺をカーディナルだのと呼ぶが、軍隊の兵科を模している【ギルド】に枢機卿などというクラスはあるまい。俺の後釜を継いだ指揮官が一声掛ければコイツらはすぐさまそちらに尻尾を振るだろう。それとも俺の後釜が見つからなかったのか。いずれにせよ、無駄な手間であることは変わりない。
俺はチッと舌打ちした。憮然として押し黙る。
「……カーディナル?」
あ? 何だよ。
「いえ……。何か……お気に召さないことでもあったのかと……」
……本気で言ってるのか?
コイツらはダメだな。俺は見切りをつけた。何があったのかは知らないが、いくら強くてもこうまで使い物にならないんじゃ仕方ねえ。
俺はぐっと身を乗り出して言った。
お気に召さないこと、ね。あったよ。ハッキリ言ってやる。
ホシピーに逃げられただと? 本当に分かってねえのか? ヤツはサトゥ氏側の人間だ。戦闘職連合に属してるってだけじゃねえ。天才ってやつだ。本人に自覚があるのかどうかは知らんがな。元々は生産職だったやつが一週間かそこらで戦闘職と肩を並べて戦ってた。それがどれだけ異常なことか。
ああ、ハッキリと言ってやるさ。
ヤツはお前ら雑魚とは違うんだよ!
……お前らには失望した。俺の前から消えろ。お前らの代わりなんて幾らでも居る。俺は……。
俺は、ごぷっと血を吐いた。俺の腹を、【ギルド】憑きの機械化した腕が貫いていた。
何しやがる……。
【ギルド】憑きは能面じみた無表情だ。愛おしげに俺の頬を撫で、すぐに腫れ物に触るように引っ込めた。
「ああ、カーディナル。そんな悲しいことを言わないで。私たちには分かるのです。あなたは私たちと同じだ。ただ、ただ、勝利を求めている。永遠の敗北者だ」
おいおい、随分と見くびってくれるじゃねえか。舐めるなよ、三下が……。
俺は、俺の腹に刺さっている【ギルド】野郎の腕をガッと掴んだ。叫ぶ。
「ムキダシ召喚!」
俺の呼び声に応えてチャッピーが別ゲーの壁を乗り越えて颯爽と地に降り立つ。
「ミダシナミー!」
俺はニヤッと笑い、コテリと死んだ。
死にゆく俺を、チャッピーは召喚から片時も離れずに見守ってくれた。その間、わずか二秒。
ダッシュで死に戻りした俺は、冒険者ギルドのクソどもをカッと威嚇した。散れ散れ! 使えねえやつは要らねえってゆってんだよォー!
クソどもは恭しくこうべを垂れた。
「お任せを」
パッと散開したクソどもが物陰に身を潜めて俺をじっと見つめてくる。
俺はバッと四つん這いになってクソどもを順繰りに威嚇した。もるぁっ、もるあっ……! 力尽くで来られたら敵わないので少し弱気だ。
クソどもは一定の距離を置いて俺の一挙手一投足をじっと見守る。
……なるほどな?
俺は深く頷いた。
俺の手には負えないストーカー集団が誕生したぞ。やったぁ。
俺は回れ右してダッと地を蹴ってシルシルりんに泣きついた。
シルシルり〜ん! なんか【ギルド】っぽい気持ち悪い連中が俺を付け回してくるんだよぉ〜! 座り込みの真っ最中だったシルシルりんを押し倒してぐりぐりとお腹に顔を押し付ける。
「なっ、何するんですか〜! だ、ダメ!」
シルシルりんは両手を突っ張って俺を押しのけた。レベル差が。レベル差が俺とシルシルりんを遠く隔てるっ……!
作戦は失敗だ。薄々は勘付いていたのだが、シルシルりんのレベルは10を越えている。今の俺じゃ手も足も出ない。
俺はハッと正気に戻ったような素振りをしてシルシルりんから離れた。
ご、ゴメンよ。シルシルりん。あまりのことに我を忘れてしまった……。
誠実に頭を下げる俺をシルシルりんは許してくれた。
「い、いえ。わ、私も、なんかゴメンなさい。そのぅ、びっくりしちゃって……」
俺は素早く話題を変えた。
戦闘職連合はどうだい? 何か動きはあった?
「えっ。あ、えっとぉ……。つ、付け回してくるっていうのは……」
ああ、そっちは気にしないで。今更ストーカーが一人や二人増えたって大した違いはないよ。考えようによっては便利だし。刺客を撃退するのに役立つかもしれない。
そんなことより今は戦闘職連合だ。ヤツらが強硬策に出ないのはスキル投票への影響を考えてのことだろう。俺たちの中にスパイが紛れ込んでる。それは最初からだ。生産職が百人なら百人とも味方ってことはない。今のところは派手に動いてないってだけでね。一度切ったら二度と出せないカードだから慎重に動いてる。俺の目を警戒してるのかもしれない。
シルシルりんは胸の前で手を握ったり開いたりしている。
「で、でも」
シルシルりん。シルシルりんの言いたいことは分かるよ。証拠はない。全ては俺の憶測だ。スパイなんて居ないかもしれない。
……状況証拠なら揃っているが。俺は胸中で付け加えた。
ホシピーと話して分かった。ヤツは甘ちゃんだ。生産職を一人か二人始末して監禁、整形チケットで成り済まして敵陣に潜り込むなんて真似は無理だろう。アイツは内部工作員に向いてない。……イヤラシイ手口だ。立案したのはサトゥ氏だろう。
不自然な不適材不適所。ホシピーは生贄だ。おそらくは撒き餌。元生産職のアイツは俺憎しで何でもやってやるというつもりだったんだろうが、いざ生産職連合に潜り込めば確実にヘマをやらかす。ならば、ヘマをやらかしたホシピーをスパイだと指摘する役割を与えられたヤツが居る。もしくはホシピーを監視し、他のやつに指摘させるよう誘導する。そいつがスパイだ。
後は簡単だ。ホシピーは捕まるだろうが、サトゥ氏にあることないこと吹き込まれているに違いない。例えば、生産職連合と和解する準備はあるとか強硬派を何とか押さえ付けているが長持ちはしないとかな。
ホシピーは元生産職だ。アイツの言葉は純粋な戦闘職よりもシルシルりんたちに響く。戦闘職連合は一枚岩ではないと知ったシルシルりんたちはホシピーを通じてサトゥ氏に和睦の仲介を申し入れるだろう。それがサトゥ氏の本当の狙いだ。交渉の席を設け、中立の立場のふりをして実質的にはニ対一の状況を作り出す。そうあからさまに戦闘職連合の肩を持つことはしないだろうが、和睦の条件にスキル投票の件を盛り込むつもりなのだろう。
ホシピーの良心を最大限に活用し、あまつさえ和睦の功労者という地位を手に入れようとしている。
……なんてやつだ。とてもじゃないが、俺には到底真似ができない。サトゥ氏……。ヤツこそが真の魔族だ。
だが、こんなこともあろうかとホシピーには戦闘職連合への不信の種を植え付けておいた。脱走したホシピーに今のところ動きがないのはそのためだろう。
俺はシルシルりんの良心に訴えかけた。シルシルりんの手をぎゅっと握り、
「シルシルりんは、どうして俺をここに連れてきたのかな? 俺がひどい男だということは知ってるよね?」
シルシルりんは目に見えて動揺した。
「そ、それは……。こ、コタタマりんも生産職だから……お友達だから……」
そう。シルシルりんは悔しかったんだね。俺なら脳筋どもをぎゃふんと言わせることができると思った。それは人間なら当たり前の感情だ。でも、すぐに後悔したんだね。そんなことじゃいけないと思った。君はそういう人だ。
それで、君は俺と仲がいいサトゥ氏に俺を止めてくれるようお願いした。
シルシルりん。君が監視役だ。ホシピーを説得するようサトゥ氏に言われたね? さっきの態度で分かった。君に俺を騙そうという意識はない。
シルシルりん。説得するというのはね、一定のリスクを伴うんだ。互いの立場を明確にしてしまう。サトゥ氏は君とホシピーを利用して、ここに居るみんなの心を操ろうとしたんだよ。
「で、でも先生が。先生が……サトゥさんに相談するようにと」
おっと読み違えた。俺はキョドッた。
せ、先生? どうしてここで先生の名前が出てくる? い、いや。落ち着け。何も不自然なことはない。シルシルりんが俺のことで最初に相談するなら先生に決まっている。問題は、先生がサトゥ氏をオススメしたのは何故かだ。
そ、その前提だと全てがひっくり返るぞ?
サトゥ氏は先生の前だと借りてきた猫みたいに大人しくなる。本気で俺を止めようとしたのかもしれない。
先生は個々人のプレイスタイルには干渉しない。その先生がシルシルりんに助言をするというのは、緊急事態が迫っていることを意味する。
緊急事態……。
いや、もう遅い。このまま前に進むしかない。俺だって俺なりの考えがあってやってるんだ。
俺はシルシルりんの華奢な肩に両手を乗せた。青い花弁が浮かんで見える緑色の瞳を覗き込んで言う。
「正直、先生が何を考えているのかは分からない。先生は神様だし俺なんかよりずっと頭がいいし神だ。神ぃー! でもね、これだけは覚えておいて欲しい。シルシルりん。何があろうと俺だけは君の味方だ」
「コタタマりん……」
俺は暗黒時代の再来を願っている。
よく分かったよ。俺は目を使いすぎた。
このゲームにおいてプレイヤースキルは役に立たない。しかし達人の域に達したものに関しては別だ。
気付かぬ間に……どうやら俺のセクハラは達人の域に達していたらしい。
そしてこのゲームのクソ運営は俺をイラつかせるのが上手いので、使い方を知っている目を頼らずに済ませるのは無理だ。
ならばどうするか。
暗黒時代だ。武器の供給ルートを潰して全員等しく俺と同じくらいのゴミにしてやればいい。
だから俺は何もしない。ゴミどもに何もさせない。俺は、ただシルシルりんの味方をしていればいい。生産職と戦闘職の主張が噛み合うことはないからだ。
海外産のゴミが攻めてくるって? 知ったことじゃないね。攻め込まれるたびにエンフレ大量投下してやればいい。育成に時間が掛かるという話だったが、俺は疑ってる。いや、そもそもョ%レ氏は時間が必要だとは一言も言っていない。それ相応の代償を支払えということだ。
シルシルりんを悲しませるゴミどもは全員死ねばいい。ひょっとしたら素手で戦ったほうがマシな結果になるかもナ? ゴミどもはその辺の石ころで戦ってればいい。暗黒時代の再来だけが俺の心を癒してくれる希望だ。
ところがおっと緊急事態の発生だ。
座り込みをしていた生産職たちが地べたを這って路肩に寄った。
真紅の甲冑で全身を固めた鬼武者さんが具足を重たげに揺らしてこちらへゆっくりと歩いてくる。
鬼武者さんの腰にしがみ付いてるサトゥ氏が吠えた。
「こ、コタタマ氏っ逃げろぉー!」
おっほー!
俺はガターンと腰を抜かして地べたに尻もちを付いた。達人の域に達した残虐ファイト経験が心よりも先に身体に絶望を伝えてきたッ。
俺を見つけたフルアーマー赤カブトさんがサトゥ氏の顔面を掴んで無造作に揺さぶった。
「んぅっ……」
くたっとしたサトゥ氏がズシャアッと崩れ落ちる。の、脳震盪か。あんなの刃牙でしか見たことねえ。
ハイフレーム時の赤カブトさんのレベルは70。それはおそらく種族人間の実質的なレベルの限界に近い。
俺はぐりっと首をねじって叫んだ。
「ぎ、ギフターズ!」
ギフターズとはワンピースの人工悪魔の実の能力者のことである。
このゲームでは【ギルド】憑きのことを今後そう呼ぶことにしよう。俺が今そう決めた。完全に仕上がった赤カブトさんを止めることができるのは純然たるパワー。それしかない。他のゴミどもは何の役にも立たない。ギフターズだけが俺に残された唯一の希望だ。
俺と目が合い、自分たちのことだと気付いたギフターズが物陰から飛び出して赤カブトさんの行く手を阻む。い、イケるのか?
ギフターズは自信たっぷりに笑った。
「動画で見ましたが。αテスター……。噂ほどじゃありませんね。我々にお任せを。カーディナル」
おお。なんと心強いお言葉。俺はお前らのこと、やればデキる子だと信じてたよ。
不敵に笑ったギフターズの手足が爆ぜ、黒い金属片が機械の手足を再構成した。
しかしフルアーマー赤カブトは怯まない。俺に向かって一直線に歩いてくる。俺はギフターズの勝利を祈るばかりだ。
ギスターズは動かない。赤カブトが近付くごとに怪訝そうな顔をして、やがてドッと脂汗を掻き始めた。
お、おい。大丈夫なんだよな?
大丈夫ではなかった。
ギフターズは顔面にびっしりと冷や汗を浮かべて赤カブトさんの進行を見守っている。
おい。どうした。おい。動けよ。どうした。おい。
フルアーマー赤カブトさんが、赤い籠手に覆われた手でぐいっとクズを押しのけた。あっさりと道を譲ったクズは間近で赤カブトさんの気迫に当てられて震え上がっている。無人の荒野を行くように脇を通りすぎる赤武者を大きく見開いた目で追って独りごちる。
「こ、これは……私たちとは次元が……」
その次元が違うAI娘の標的にされているのが俺だ。
しかしギフターズが最後の意地を見せた。
「か、掛かれ!」
一斉に地を蹴ったギフターズが赤カブトさんに殺到する。両手を広げた赤カブトさんがギフターズの突進をあっさりと止めた。青い光が波打つ。
【血は濁り鉄は鈍る。果てる命、咲く命】
スキル強化、魔力操作鈍化の補助魔法。だが……。な、なんだ?
身体が萎える。俺だけじゃない。ギフターズがガクリと膝を折って地に這いつくばった。
アナウンスが走る。
【状態異常:筋力低下】
……俺たちはエッダの【八ツ墓】をまったく使いこなせていない。何をどうやっても二つの魔法環境を敷くことしかできなかった。
俺たちは八つの魔法環境を把握したつもりでいた。
では、回避不能にダメージ皆無という特性を持つ【八ツ墓】の二段階目や三段階目はどういったものなのか。
エッダが使っていたのがそうだとしたら。
……俺たちは【八ツ墓】の使い方を間違えていたということになる。
ぽ、ポチョ! ポチョー!
ギフターズはダメだ。使い物にならない。体幹に対して機械の手足が重すぎるのだ。低下した筋力では肥大した手足を支えることができない。
この場で俺が頼れるのはポチョさんしか居ない。ポチョさーん!
「はーい!」
朗らかに返事をしたポチョさんがぴょんぴょんと跳ねて俺に近寄ってきた。
よ、よし。ジャムジェムを説得するんだ。俺を殺さないようお願いして来てくれ。できるな?
ポチョは可愛らしく小首を傾げた。唇に人差し指を当てて、
「んー。無理かも? コタタマがポポロンにロストされたって聞いてびっくりしてたから」
シルシルりんがギョッとした。
「え……?」
誤解なんだ。シルシルりん。俺は素早く誤解である旨を告げた。
ロストしたと言っても軽くだよ。軽くね。どちらかと言えばデリートに近い。デリートであってロストじゃない。いや、実はデリート攻撃だったのかもしれない。そうだ。ロスト攻撃なんてある訳ないだろ? だ、第一、妙な話じゃないか。本当にロストしたなら俺の記憶が残ってるのはどう説明する? そんなことはあり得ないんだ。俺はひょっこりと顔を出したウッディを腕に押し込んだ。
(シンイチ……。思い出したぞ……。私は……勇者と会わねばならない)
ハイハイ。後でね。後で会わせてやるから。引っ込め。おらっ。
ウッディを凝視していたシルシルりんがハッとして赤カブトさんに駆け寄る。
二人は何事かボソボソと内緒話をしているようだった。
赤カブトさんがシルシルりんにそっとポン刀を手渡そうとする。シルシルりんは真っ赤な顔をして両手をぱたぱたと振った。
「そ、そんなのダメですよ! も、物事には順序というものがあってですね……!」
そう。シルシルりんの言う通り。順序は大事だ。
俺はイヤイヤしながらケツをずりずりと地面で擦って後ずさりした。突き出した手をぶんぶんと振って命乞いする。
た、確かに俺はロストした! 隠してて悪かった! でも、それはロストを克服したという確信があったからなんだ!
そ、そうさ。俺にはウッディが付いてる。他のゴミどもとは隔絶した存在になったんだ。だ、だからってロストし放題って訳じゃないぞ。経験値をドブに捨てるようなもんだからな。モチベが落ちることは避けようがない。記憶を保つってのはそういうことだ。リセットできないってことでもある。
そうさ。ジャムジェム! お前に俺は殺せねえよ! 俺はお前を見捨てるつもりはねえが、万が一ってことはあらぁな! やれるか!? お前に! 俺を!
赤カブトさんはひょいと俺を抱きかかえた。ハイフレーム時の赤カブトさんは身長2メートル近い巨躯だ。手足だけを換装した時は、ややバランスが悪い。ジェエルキュリは少し手足が大きいかな程度だったので、サイズ変更は任意で行えるのかもしれない。
その恵体の鬼武者さんが何やらもじもじしている。
「ぺ、ペタさん。私のこと凄く心配してたって……。私のためにロストしたって、リチェットさんが……」
リチェットぉー! お前か!
い、いや、そそそ、そうなんだよ! 俺はね、ポポロンのブラックホールクラスターがヤバいって一目で分かったのね。そりゃ誰でも分かる。スピードが遅えってことは当たったらヤバいってことだ。そう! そうなんだよ! 俺はお前のことが心配で、あえて食らった! いやぁ、言うつもりはなかったんだけどなぁー! バレちゃったら仕方ないよねー!
だが説得の仕方を間違ったらしい。
俺はすっかり昂ぶった赤カブトさんにお持ち帰りされた。
ベッドの中に連れ込まれた俺は、天井の染みを数えながらまたロストするのかなぁとぼんやりと思ったのだが、さしものAI娘も残機が満タンの俺を一発で昇天させることはできないようだった。
俺の心臓を鷲掴みにした赤カブトが布団の中で俺の胸にコツンと額を押し付けて俺に詫びを入れてくる。
「ペタさん。ゴメンね。がんばってみたけど今日はダメみたい……。でも、次は私の番だからね。そしたら……責任取ってくれる?」
責任とは?
赤カブトが何を言ってるのかはさっぱり理解できなかったが、断れば悲しむことくらいは分かった。俺はコクリと頷いて、そっと息を引き取った。
俺の遺体にしがみ付いた赤カブトがうっとりとしてポツリと言う。
「嬉しい」
そうか。お前が喜んでくれるなら、もう何でもいいや。
……かくして生産職連合と戦闘職連合の不毛な争いは終結した。
俺という継戦派の頭を失った生産職連合は、サトゥ氏の「スキル選挙で全ユーザーに是非を問う」という言葉にあっさりと騙され、停戦条約に調印したのだ。
そして、後日のことである。公式サイトにスキル投票の専用サイト開設が告知された。
そこには、コラボ期間の終了日時も明記されていた。
共にポポロン戦を駆け抜けた戦友たちとの別れの日が迫っていた……。
これは、とあるVRMMOの物語。
ハートを鷲掴み(物理)。
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