混線のワールドライン
FGO、槍弓未満前提のセタ弓っぽい与太話。
HARUコミの無配そのままです。
本編にもセタンタを実装していただきたいわけですよ!!!! という欲望と、なんでアーケードにはランサーおらんの?? という気持ちの合わせ技です。
でもアクションど下手でもセタンタくんは最終再臨&宝具マ出来ました。ありがとうグレイルウォーNPC戦……
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目覚めてすぐに、違和感を覚えた。
本来、サーヴァントに睡眠は必要ない。だが、カルデアに召喚されたサーヴァントたちは召喚システムの都合上、常に魔力の節約に勤しむ必要があるため、夜の間は睡眠が推奨されている。魔力の元となる電力には当然ながら限りがあるためだ。
どちらかと言えばワーカーホリックな気のあるアーチャー・エミヤも、もちろん例外ではない。朝早くからカルデアのキッチンに詰め、夜遅くまでツマミを欲しがる飲兵衛たちの世話をしている厨房の守護者も、日付変更線を越える頃にはおとなしく自室に引っ込んでいる。きちんと睡眠を取っているかといえば時と場合によるが、少なくとも本人なりに魔力の節約に努めているのは事実だ。
今晩も、いつも通りの時間に割り当てられた自室に戻り、身繕いを済ませてきちんと整えられたベッドへと横になった。そのまま、起床時間と決めている朝の五時頃まで目覚めないのが常なのだが、なぜかぱちりと目が覚めたのは他者の気配を感じたからだ。
身体を起こしてヘッドボードの時計を見れば、朝にはまだ早い。腕を伸ばして室内灯のスイッチを入れ、覚醒のトリガーとなった気配へと意識を向ければ、確かにそこには自分以外の他人がいた。
ベッドに入ったときは間違いなく一人だったのに、なぜか今、すぐ隣にすやすやと熟睡している人物が存在している。
「…………誰だ?」
誰何の声を上げるまでに一呼吸あったのは、見覚えのない人物のはずなのに、やたらと既視感があったからだ。
たとえば、色合い。照明の光に照らされて輝く青く長い髪は一般的なものではないが、このカルデアには同じような髪の持ち主が四人ほどいる。
たとえば、シルエット。前髪や束ねた後ろ髪の跳ね方といい、服の形状といい、間違いなく初見なのに初めて見た気がしない。
たとえば、熟睡中の侵入者の腹の上で丸くなっている白い毛玉。よく見れば耳も目も鼻もついていて、おそらくは仔犬と思われるが、気配にどういうわけか覚えがある。
色合いが似ている連中は、クラスこそ違えど全員同じ名前を持っていた。そのうち二人は、クラスすらも同じだ。
既視感のあるシルエットは、名前もクラスも同じうちのひとり、若いほうに似ている。正確には、目の前で寝こけているこの人物がもう少し成長したら、きっとそっくりになるだろう。
白い毛玉が発する気配は、色合いが似ている連中の中でもキャスターのクラスを持つ人物が連れている使い魔に似ている。こちらのほうが圧倒的に若いというか幼いが、育てばああなるのだろう。キャスターの使い魔は二匹いるが、こちらはまだ一匹だ。もしかしたら育ったら分裂するのかもしれない。
とにかくだ。
「誰だか知らんが起きろ」
既視感しかないし、害意もなにもなさそうとはいえ見知らぬ輩をのんきに同衾させておくほど、エミヤの警戒心は欠如していない。
同意もなしの侵入者にかける情けもないと、申し訳程度に掛かっていた毛布を勢いよく剥いでベッドから蹴り落とす。腹の上に乗っていた白い仔犬だけは落ちないように手加減するのも忘れない。
「いでっ」
「きゅう?」
まだ声変わり前の高い少年の声と、突然下敷きにしていた体温が消え失せて目が覚めたらしい仔犬の鳴き声が同時に発生した。
「うぇぇ……いってぇな~。なにすんだよ、エミヤ」
侵入者は、それなりの勢いで床に激突したはずなのにさほど堪えた様子もなく、頭をさすりながら身を起こそうとしている。その絵面にやはり強烈な既視感を覚えつつ、エミヤははたと気づいた。
「……待て。なぜ私の名前を知っている?」
「そりゃ知ってるに決まって……えっ?」
ぎょっとしたように目を見開き、床にあぐらをかいたままじっと見上げてくる少年の瞳は、紅い。
寝癖なのかあちこち跳ねた青く長い髪に神性を宿す紅い瞳、日焼けの名残すら見られない白い肌。うんざりするほど見慣れた色彩の持ち主は、詳細は不明なもののエミヤのことを知っているようだった。
「さっき、誰だか知らんがって言ったか?」
「言った。誰だ、貴様。初対面のはずだが?」
正直なことを言えば、大体見当はついているのだ。
あまりにも既視感のある色合い、外見。使い魔とおぼしき存在の気配。
なぜエミヤの寝床に当然のような顔をして潜り込んでいたのかは知らないが、引き渡す先に迷うことだけは絶対にない。呼び名だって、脳裏に浮かんだ人物の幼い頃の伝承を思い起こせば少なくとも候補は挙げられる。
「初対面!? んなワケねぇだろ、寝ぼけてんのか!? なんで忘れてんだよ!!」
「そんなことを言われても、記憶にないものはない。ところで、名前は?」
「セタンタに決まってんだろ!!」
「……やっぱりかー」
案の定、予想通りの名前を告げられて、エミヤは額に手を当ててため息を吐いた。
アイルランドの光の御子、アルスターサイクルに伝えられる英雄クー・フーリン。彼の英雄の幼名は、セタンタという。サーヴァントとして召喚され現界している今でも、影の国の女王スカサハや叔父のフェルグスからはしょっちゅう「セタンタ」と呼ばれていた。
別側面だの別クラスだの年若い頃の姿を取った霊基だの、カルデアでは同一人物ともいえるサーヴァントが同時に召喚されることは珍しくない。クー・フーリンに至ってはすでに四人も召喚されているのだから、今さらもうひとり増えたところで驚きもなかった。
――そのセタンタがエミヤのベッドに潜り込んで一緒に寝ていた理由は、さっぱりわからないが。
「いつの間に召喚されていたのか知らないが、保護者を呼ぶから大人しくしていたまえ」
セタンタをそのまま大きくしたようなプロトを呼びつけるか、それとも使い魔に犬を連れているところを鑑みてキャスターのクー・フーリンを呼ぶべきか。
「……おい」
悩みつつ通信機能をオンにするために踵を返した途端に、背中にずしりと重さがのしかかってきた。言うまでもない、セタンタだ。
見えないが、足元にはもふもふしたあたたかいなにかがまとわりついている。きっと先程までセタンタの腹の上で寝ていた仔犬だろう。
どうやら、主人の意を汲むのは上手らしい。否、感心している場合ではないが。
「いやいやいや、待て、ちょっと待てよ。本気でオレのこと覚えてないのか? ウソだろ?」
「あいにく、クラスおんぶお化けのクー・フーリンは初耳だ」
「セイバーだっての!」
「ほう、セイバー」
まあ、なんといってもクー・フーリンだ。セイバーで召喚されてもおかしくはないだろう。いや、だからそういう問題ではない。
「……やはり、記憶にないのだが」
「だからなんでだよー!? オムライス? だっけ? だかも作ってくれたし、今度また手合わせしてくれるつっただろ!」
「人違いでは?」
「んなワケねぇだろ!」
摩耗してしまった生前の記憶ならともかく、現界してからの記憶がそう簡単に消えたりしない。霊基の調子は悪いどころか良い方で、記憶を取りこぼすような症状が起きるはずもなかった。
だとすれば今の状況は一体、何か。セタンタが嘘を吐く必要はどこにもないだろうが、エミヤだって自分自身の認識にはそれなりの自負がある。
「きゅぅん」
「……そう言われても」
背中にはセタンタ、足にはどういうわけかよじ登ろうとしている仔犬をくっつけたまま、エミヤは途方に暮れた。成長すればアレになるとわかってはいても、忘れられたとショックを受けて張りついてきている少年を無理矢理引きはがす気にはなれない。丸々とした仔犬ときたらなおさらだ。
背中と足からの訴えをほぼ聞き流しながら立ち尽くしていたら、音を立てて部屋の扉が開いた。ロックを掛けていたはずなのだが、この際それについては考えないことにする。
「あー、やっぱここにいたか」
開いた扉からひょいと顔を出したのが、杖を肩に担いだキャスターのクー・フーリンだったからだ。
「キャスター」
「んだよ、トシ食ったオレ」
ホッと安堵の息を吐くと、それが背中に張りつくセタンタに伝わったのかもしれない。ぎゅうぎゅうとしがみつく力が強くなって、一瞬息が詰まった。自分の筋力を考えて欲しい。
そんなエミヤの本音が伝わったわけではないのだろうが、キャスターは躊躇なく部屋の中に入ってくるとセタンタの首根っこを掴んで軽々とつまみ上げた。強化のルーンでも使ったのだろう。
「いねぇなって思ったら、案の定アーチャーんとこ転がり込んでやがるしな。胃袋掴まれた途端に即オチすぎんだろ」
「んだよ。出遅れたから悔しいだけだろ、オッサン」
「オッサン言うな」
眉をしかめてセタンタの悪態に言い返しているが、「出遅れた」と「悔しい」のほうを否定して欲しい気もする。
ただ、キャスターの反応を見るに、彼はセタンタが召喚されていることを知っているは間違いない。
――謎は、早めに解決しておくに限る。
「……キャスター。一応、念のために確認させて欲しいのだが」
「おう、なんだ?」
問いかけに応えるキャスターの声は、軽い。彼の視線がこちらへと向けられると同時に、つまみ上げられているセタンタの視線もこちらを向いた。
仔犬は、いつの間にかエミヤの太腿のあたりまでよじ登ってきている。仕方がないので片手ですくって抱き上げてやると、嬉しそうに鳴いた。
「そこにいるセタンタが召喚されたのは、その……いつだったか……?」
「へ? 一週間くらい前だろ? いきなり師匠がチビの修行するって大騒ぎして、お前も早々に巻き込まれてたじゃねぇか」
もちろん、初耳だ。セタンタの修行などに巻き込まれた記憶はない。召喚されたことすら、知らなかったのだから。
だが、そんなのは序の口でしかなく。
「その修行とやらには、君たち全員……カルデアにいるクー・フーリン全員も徴集されたのか? セタンタを抜かせば四人、か」
「四人? ここにいる『クー・フーリン』はオレとオルタのヤツと、あとそこのチビだけだぜ?」
「チビ言うな」
「え」
これが、なによりもの衝撃だった。想像もしていなかったことを言われて、なにもかもが固まる。
キャスターが嘘を吐く必要などどこにもない。だとすれば、『ここ』には本当にいないのだ。
どこに召喚されても顔を見かける、呪いにも等しい腐れ縁を『運命』と呼んではばからない『ランサー』のクー・フーリンが。
「……なるほど、理解した」
それが『ここ』における嘘偽りのない現実なのであれば、答えはひとつだった。つまり『ここ』はエミヤがいるべきカルデアではないのだ。
カルデアでは、様々なことが起こる。気づかないうちに特異点あたりに飛ばされていることだって、珍しくはない。だとすれば、ちょっとしたトラブルで平行世界だのそういったところに飛ばされてしまうこともあるだろう。そうに違いない。
その手のは魔法に分類されるような現象だった気もするが、生前はへっぽこ魔術使いでしかなかったエミヤに詳しいことなどわかるわけもない。そして、睡眠中に何処ともしれない他のカルデアに来てしまったのであれば、選択肢はひとつ。
「ちょ、おい、アーチャー!?」
「エミヤぁ!」
「くぅーん!」
ぶら下げられたままのセタンタの頭に抱いていた仔犬を乗せ、セタンタをつまみ上げた状態で首を傾げていたキャスターの背を押して部屋から追い出し、そのまま扉を閉めることだ。
ルーンを使っても解錠出来ないように出来うる限り強固なロックをかけ、部屋の灯りを消す。容赦なくドンドンと叩かれる扉を無視して、エミヤはベッドに潜り込んだ。
「言うまでもないだろうが、今の私はおそろしく調子が悪い。今日一日、悪いが休ませて欲しいとマスターとキッチン担当に伝えてくれ。いいか、頼んだぞ」
早口でそう言い捨てて、頭から毛布を被る。
こうなったら、寝るしかない。寝て起きれば、きっとなんとかなる。
そう自分に言い聞かせ、エミヤは意識を強制的に遮断した。
その翌朝。
「貴様、ランサーのクー・フーリンだな? 間違いないな?」
「へ? や、なに? 間違いねえけどなにが起こってんだ? つーか、朝?」
朝の五時に自室へと乗り込んでいたエミヤに叩き起こされ、目を白黒させるランサーのクー・フーリンがいたらしい。
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- 如月May 6, 2021