公園にて/とくとうせき
前回(novel/1039577)の続き、というか旧槍視点の別話。同じ公園というシチュエーションで違う話を思いついたのでこちらも上げてみました。 *前回の小話にわっふるタグを付けた方は未来視でも出来るんだろうか…。 *旧槍も五次槍も中身が一緒なので書き分けが難しいですゴフッ…
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昼下がりの公園で、珍しい白髪を見付けた。
それは切れた煙草を買いに出たついでに街中をぶらついていた時だ。
道路沿いの垣根の向こうに見知った白髪を見付け、一体何をしているんだと軽い気持ちで近付いたら、これまた珍しい場面に遭遇してしまった。
ベンチに腰掛ける白髪の男、エミヤの右隣には近所のスーパーのビニル袋。まあ、これは珍しくは無い。
珍しいのはこいつの膝の上で気持ち良さそうに寝てる小さな白い毛玉の存在。そしてそれを優しく撫でているエミヤの姿。
「何やってんだ、アンタ」
「ああ、君か。何をやっていると言われても」
見ての通りだが?と返されても困る。判らないからこちらは聞いているのだが。
どこか抜けている男の答えに溜息を吐きつつ、オレは空いている左隣のスペースに腰を下ろした。
ちょうどエミヤの風上に当たるので、半ばまで吸っていた煙草は携帯灰皿へ捨てておく。少し勿体無いなとは思ったが、以前煙が顔に掛かった事をエミヤが随分嫌がっていたので仕方が無い。
「そういう君こそどうしたんだ?こんな時間に会うなんて珍しい」
「煙草が切れちまってさ。夜にゃ買う暇なんてねえし、そもそもあのマスターが煙草なんて買ってくれる訳ねえだろ?」
というか、そんな事頼んだらどんな仕打ちされるか判ったもんじゃねえ。そう続けるとエミヤは「君も大変だな…」と慰めてくれた。
エミヤに優しい言葉を掛けてもらうのは悪くない気分だが、「君も」という部分に引っかかりを覚える。こいつもセイバーのマスターに苦労してるんだろうか?あの嬢ちゃんそんな風には見えねえが。
それともこいつの言う『違う聖杯戦争』とやらでの出来事なんだろうか?
後者だとすれば自分の知らぬ世界での事。少し気分がささくれる。
にゃあ、とエミヤの膝の上で昼寝をしていた子猫が鳴く。起きたのかと子猫を撫でていたエミヤの手が止まるが、子猫はごろごろと喉を鳴らしたまま膝の上から動こうとはしなかった。
寧ろ「もっと撫でろ」と言わんばかりに首を動かして強請る始末。それを見て仕方ないなと苦笑しながら背や顎の下を撫でるエミヤ。
ふわふわした白い子猫の毛並みの上を動く褐色の手。昼の暖かな日差しを受けた白い髪が風で小さく靡いた。
「……」
「……何をしてるのかね」
「あ、つい」
気付いたらエミヤの頭を撫でていた。猫っ毛と言うほど柔らかくも無いが、犬毛な自分の髪に比べたら柔らかくて触り心地の良い髪だ。
後ろに上げられた髪に逆らわないように後頭部まで撫でては頭頂部まで戻り、また流れに沿って手を滑らしていく。
幾らでも触っていられそうだったが、エミヤの咎めるような視線を受けて渋々手を止めた。
ただ止めるのは癪だったので、最後の最後にくしゃりと上げられた前髪を乱してから手を離してやれば、エミヤから「こらっ」と慌てたような声が上がった。
「全く…本当に君は何がしたいんだ…!」
自分のせいでぐしゃぐしゃにされた髪を後ろに撫で付けて何とか元に戻そうとするが、崩れてしまったセットはそう簡単に戻らないようで、手を離すとすぐに前髪が降りてきてしまう。
前髪の降りたエミヤは普段よりもずっと幼く見えた。現界している肉体年齢的にはオレの方が若い筈だが、髪型一つ違うだけでエミヤの方が年下に見えるから不思議だ。
「アンタ前髪あった方が可愛いのに」
「ほう…」
あ、何か地雷踏んだ。みるみる内に目が据わり、蔑むような視線でオレを見るエミヤ。背後には黒い渦のようなオーラさえ見える気がした。
「突然、人の頭を撫で始めた上に髪をぐちゃぐちゃにした挙句言う事がそれかね…」
「待て待て、別にそんなに怒る事じゃないだろ!?」
「可愛いとか言われて怒らない男が何処に居る!?」
膝の上の猫の事など忘れたようにガーッとエミヤが怒鳴る。顔真っ赤にしてそうやってムキになる所が可愛いんだけどなあ、などと思ったが言うと余計拗れるので空気読んで黙ったオレは偉いと思う。
急に大声を出したエミヤに驚いたのか、それまでエミヤの膝の上で丸まっていた子猫はぴゃっと膝から退いて脇にあったビニル袋の影に隠れてしまった。戻っても平気かどうか様子を窺っている子猫を一瞥し、オレはほんの少し座っていた位置をずらしてエミヤから距離を取る。
まだぎゃあぎゃあ騒いでいるエミヤを余所に、オレは漸く空いた特等席にぽすりと頭を乗せた。
「―!?」
「よし」
「何が良し、だ!退かないかっ、このたわけめー!!」
「やなこった。やっとエミヤの膝が空いたんだから、ちょっとぐらい堪能させろ」
猫ばっか可愛がっててズルイ、と言うとエミヤは困ったような呆れたような表情を浮かべ、暫く手を浮かせたままこちらを睨んでいたけれど、オレに退く気配が無い事を知ると諦めが付いたのかその手をオレの頭の上に揃えて置いた。
「折角子猫さんと戯れていたのに…」
「良いから今はオレを構えよ」
「こんなに大きい犬に懐かれる覚えは無いんだが…飼い主に怒られる前に早く帰りたまえよ」
「マスターはまだ学校ってやつだから大丈夫だろ。くふぁ…眠くなってきた…」
暖かな日差しと心地良い風が眠気を誘う。もう一つあくびをした後、オレは御世辞にも柔らかいとは言えないエミヤの膝に頭を埋めながら瞼を閉じた。
頭上でエミヤが「こら寝るな馬鹿狗!」なんて言ってる気がしたが聴こえない振り。
意識が落ちる直前に聴こえた子猫の「にゃああ」という文句のような鳴き声に一人にやりと笑って応えた。
こんな特等席、オレ以外に独り占めなんてさせねえよ。