日本を蝕む”朱子学”の闇 その43
「江沢民派 vs 習近平派」の戦いとは、汚職ネットワークの本丸 と汚職追放を掲げただけの国家権力を奪取したい男の闘争で、中国共産党の最高意志決定機関である党中央政治局常務委員会議(トップ7)と長老(常務委員OB)たちが開催する河北省北戴河での「北戴河会議」を開かせないことが習近平の秘策だった。発言する場を与えない、ということだ。習近平が権力を掌握するためには、上海閥のトップ江沢民と共青団トップの胡錦濤という2人の元国家主席を抑え込むことが必須だった。
日本では高市早苗が総理に決まった時、後ろに座っていた老人たちは麻生・菅・岸田の三人の元総理で、その3人にお辞儀をするのが高市早苗だったが、今回の衆議院選挙で圧倒的多数の票を自民党が集めたことで、引退した菅を除いた麻生と岸田を追い出せば、軍拡に余計な口出しをする公明党も存在しないわけで、上手く立ち回れば高市早苗の独裁も可能となる⋯ことはないのが日本で、これが習近平なら今頃は麻生と岸田の側近たちの追い出しを始めているに違いない。
実際、習近平は「北戴河会議」を開かせず、全てに自分の意見を反映させる統一戦線指導小組を設立したことで、江沢民一派に与する連中を排除し、さらに現役の政治局員たちにも自分への忠誠を誓うかどうか「踏み絵」を踏ませたのである。この状況を受けて、官製メディアの『財経国家週刊』は、「待つ必要はない、北戴河に会議はない」と題した意味深な記事を報じた。この記事は、毛沢東時代以降の北戴河会議の歴史を振り返った後で、次のように結んでいる。
〈 つい先日の7月20日と30日、党中央政治局は2回も会議を開いた。そこで第13次5ヵ年計画や中国共産党第18期中央委員会第5回全体会議の方針を決め、経済対策を決め、「大虎」(大物の腐敗分子)の退治を決めた。喫緊の重要事項はすべて話し終わっているのだ。それをこれから数日、十日くらいのうちに、北戴河へ移動して再度話すことに、意味があるのか? 必要があるのか? 可能なのか? もし信じないなら、微信(WeChat)で「北戴河会議」と検索してみるがいい。噂の「予言話」のようなものは、ほとんど削除されている。これが何を意味するかは、一目瞭然だろう。 〉
続いて8月10日、党中央機関紙『人民日報』が、決定的な社説を出した。そのタイトルは「『人走茶涼』は、新たな政治の状態となるべきだ」であった。この「人走茶涼」とは、「人が走り去れば残された茶は冷める」ということで、「その人が然るべき地位でなくなったら、周囲の者は去って行く」という意味に使われる言葉である。。かなり意味深なタイトルである。
〈 通常、「人走茶涼」という言葉は、否定的な意味で使われる。人情味のある交流も冷めてしまうということだ。だがよく考えれば、「人走茶涼」は自然な現象だ。熱い茶がいつまでも熱いわけはなく、自然に冷めていく。茶を啜っていた人が去れば、湯をつぎ足す必要があるだろうか?こと政治について考えてみれば、多くの指導者幹部たちが「人走茶涼でいいのか」と言って、権力のしっぽを放さない。もとの部署の政策決定に口出ししたりして、権力の「余熱」を発揮する。お茶は自然に冷めるものなのに、それを打ち破って加熱し、「人は去ったのに茶は依然として熱い」状態を作り、権力の「アフターサービス」を得ようとする。このたび倒された「大虎」周永康は、四川省を離れた後も、直接間接に四川省を支配した。それによって四川省の経済発展や政治の状態に厳重な影響をもたらした。
「人が去れば茶は冷める」は自然の規律であり、新たな政治の状態だ。党は第18回大会以降、「幹部の清正、政府の清廉、政治の清明」の政治環境を作り出してきた。つまり「人が去れば茶は冷める」の状態を縮影させてきたのであり、全体的に効果を挙げてきた。指導者幹部はその地位にいる時に責任をもって職務にあたるが、いったん退職したら、人工的に加熱する必要はないのだ。その職務を引き継いだ者が、さらに想像力を駆使して、社会を発展させてゆけばよいのだ。その意味で、「人が去れば茶は冷める」政治状態を確立してゆくべきである。これは一朝一夕にできることではない。だが、反腐敗運動をさらに大きくしてゆき、この障害をなくしていかねばならない。まさに「人が去れば茶は冷める」状態が待たれているのだ。老同志を尊重し、老同志の良策は吸収しつつも、政治の決定の原則とボトムラインは堅持せねばならない。そうすることによって初めて、清明な政治状態が確立できるのだ。 〉
「大虎」と名指しされた周永康
『人民日報』の社説にはこれほど痛烈なものはなかなか登場しない。早速、翌日から、多くのメディアがこの社説を引用、賛意を表明し始めた。もちろん習近平が、メディアを統轄する劉雲山常務委員を突き動かしてそうさせたのだろう。つまり習近平は、本気で「江沢民潰し」にかかっていたということだが、習近平はまず、「大虎」の周永康を叩き潰した。なにせこの周永康の腐敗ぶりは凄まじかったからだ。
2014年3月30日、ロイター通信は中国最高指導部元メンバーで、汚職の疑いで調査を受けているとされる周永康について、本人に加えて親族や部下ら300人以上がこれまでに拘束され、差し押さえられた資産は総計で900億元(約1兆4900億円:当時、2026年現在では2兆円に相当)以上に上ると伝えている。単純計算で一人当たり50〜60億円を着服したということだ。それ300人もいるのだ。まさに「全家腐」の代表的存在である。拘束されたのは元共産党政治局常務委員だった本人と妻、長男らのほか、副大臣クラスが約10人。ボディーガードや秘書ら20人以上も拘束された。
差し押さえられた資産のうち銀行預金が370億元、内外の債券が510億元、アパートなど不動産300軒以上のほか、金、銀、骨董品、高級酒なども没収されたとしている。これぞ腐敗一族の極みだ。周永康については、親族や側近らの拘束は中国内で報じられているが、本人の容疑については伝えられていない。共産党指導部内の政治闘争との見方も強い。中国ではそれまで党政治局常務委員の現役と経験者は刑事責任を追及しないという不文律があった。だが、習近平国は「トラもハエも全てたたく」とし、地位に関わりなく汚職摘発を進める方針を強調している。
退治された”虎”の髪の毛は裁判では真っ白になっていた
これに対して、江沢民派はどう対抗したのか。窮鼠猫を噛むではないが、絶対にこのままでは済まないというのが、北京の大方の見方だった。そんな時、2015年8月12日の夜10時52分頃、天津市“濱海新区”にある天津港の“天津東彊保税区”内に所在する“瑞海国際物流有限公司”(以下「瑞海公司」)の危険品倉庫で大規模な火災爆発事故が発生した。速報でも44人死亡、521人重軽傷などと報じられた未曾有の大事故で、「天津爆発事故」として世界中に報じられた。
事故発生直後の8月13日に組織された中国政府“国務院”の「天津港8月12日瑞海公司危険物倉庫特別重大火災爆発事故調査チーム」は、2016年2月に発表した調査報告書で天津爆発事故を“特別重大生産安全責任事故”と認定した。この“生産安全責任事故”とは「生産経営企業が生産経営活動中に発生させた人の死傷あるいは経済損失を引き起こした事故」を意味する。なお、“特別重大事故”は最大級の事故を指し、死者30人以上、あるは重傷者100人以上、あるいは経済損失1億元(約15.7億円)以上の事故を意味するものである。
同報告書の要点は以下の通りであった。
【1】死者165人(内訳:救援に駆けつけた天津市消防局消防隊員24人、天津港消防支隊隊員75人、公安警察官11人、瑞海公司従業員および周辺企業従業員と住民55人)、行方不明8人(内訳:天津市消防局消防隊員5人、周辺企業従業員および天津港消防支隊隊員の家族3人)、負傷者798人(重傷者58人、軽傷者740人)。損失を受けた物:建物304棟、販売用自動車1万2428台、コンテナ7533個。2015年12月10日までに『企業従業員死傷事故経済損失統計標準』などの標準や規定に基づいて統計し、確定した直接経済損失額は68.66億元(約1078億円)である。
【2】各方面の努力を経て、2015年9月13日までに救援や現場処置などの任務を完成させ、危険化学品1176トン、販売用自動車7641台、コンテナ1万3834個、貨物1万4000トンを搬出し、798人の負傷者に適切な治療を行った。
【3】事故の直接原因は、瑞海公司が運営する危険物倉庫の荷降ろし場南側に置かれたコンテナ内の“硝化棉(ニトロセルロース)”が、湿潤剤の消失によって局部的に乾燥し、高温(天気)などの要因で分解・放熱を加速し、蓄積された熱で自然発火した。この火が周辺のコンテナ内のニトロセルロースやその他の危険化学品の燃焼を引き起こし、荷降ろし場に堆積されていた“硝酸銨(硝酸アンモニウム)”などの危険化学品の爆発を誘発した。
【4】事故調査チームは、重大な関連法令違反を行った瑞海公司が事故発生を招いた主たる責任を持つと認定した。瑞海公司は安全生産のために負うべき責任を無視し、天津市都市総合計画と濱海新区を規制する詳細計画に大きく違反し、違法に危険貨物堆積場を建設し、違法経営、危険物貯蔵規則違反を犯し、安全管理を著しく混乱させ、安全面の隠れた危険は長期間にわたって存在したと認定した。
【5】公安部門は24人の企業メンバーに対して法に基づく立件・調査ならびに“刑事強制措置(身柄の自由制限)”を取った(内訳:瑞海公司13人、“天津中濱海盛衛生安全評価監測有限公司”11人)。検察部門は政府の役人として行政監察対象者に当たる25人に対して法に基づく立件・調査ならびに“刑事強制措置”を取った(内訳:“正庁級(部長ランク)”2人、“副庁級(副部長ランク)”7人、“処級(課長ランク)”16人。その所属:交通運輸部門9人、税関系列5人、天津港(集団)有限公司5人、安全監督管理部門4人、計画部門2人)
【6】123人の責任者に対して処分を行うよう意見を提出した。すなわち、74人の責任者に対する“党紀(共産党員が守るべき規則)”・“政紀(行政機関職員が守るべき規則)”違反の処分(内訳:局長ランク5人、部長ランク22人、課長ランク22人、係長ランク以下25人)、その他48人に対する訓戒処分、残る1人は病気死去により処分免除。
問題はなぜこの時期に天津で大事故が起こったのかということであり、この事故によって打撃を被るのは誰かということだ。実は
習近平は、翌月の9月3日に、抗日戦争戦勝70周年記念軍事パレードを、北京で挙行しようとしていた。これは国家主席としての習近平にとって、最大のビッグイベントである。そしてこの期間、北京の首都機能の一部は天津に代替されるのである。例えば、国内外のあらゆる民間航空機は北京首都国際空港を使用禁止となり、天津空港発着となる。また習近平はこの軍事パレードを契機として、北京市、天津市、河北省の一体化を進めようとしていたのである。
この3つの市の一体化というのが、習近平肝いりの「雄安地区」の開発である。雄安新区についての惨状は本連載でも触れたが、ここは首都北京の南約100キロにある新都市で、北京の過密化を緩和しようと、習近平が打ち出した「千年の計」を実現するための場所で、東京で言うなら「新宿副都心」みたいなものだ。だが、北京と隣接するとはいえ雄安地区が造られるのは河北省の農村地帯で、2000平方キロに「非首都機能」を移すという壮大な計画だった。
2023年10月までに4600億元(約9兆1500億円)もの資金が注ぎ込まれ、自動運転などの最新技術を導入し、環境にも優しいモデル都市を目指す⋯という触れ込みだった。しかし、内陸部にゼロから新都市を造る計画を懸念する声は当初から多く、政府系シンクタンクの経済専門家は「北京郊外や天津市に開発余地があるのに、新都市開発は市場原理に合わない」と指摘。複数の国有企業が移転するため、従業員の子ども向けに北京大学や清華大学といった北京の名門校の分校も開校。優秀な教員も募集したが、専門家は「教育レベルが高い北京を離れたいと思う人は少ない」と話していたように、誰もここには寄り付かず、巨大なゴーストタウンになっているというのが現状だ。
雄安地区開発の一環として、爆発事故が発生した天津市は、上海市に続く自由貿易区に指定されていた。つまり、天津市の事故で赤っ恥をかいたのは、習近平なのである。だからこそこれは単なる”事故”ではないのだ。きっと上海閥の元締め江沢民は腹を抱えて笑っていたことだろう。この”事故”の後始末として発生から1年2か月以上を経過した2016年11月7日から9日まで、一審裁判が“天津市第二中級法院(地方裁判所)”と9か所の“基層法院(下級裁判所)”で一斉に公開の形で行われた。ある意味「見せしめ」による公開処刑だ。誰かに責任を押し付けないとダメだからだ。
これら10カ所の裁判所で審理されたのは「2015年天津港“8.12”特大火災爆発事故」に関わる27件の刑事事件であった。国務院「天津港8月12日瑞海公司危険物倉庫特別重大火災爆発事故調査チーム」の報告書にあったように、同事故は死者165人、行方不明8人を含む直接経済損失68.66億元(約1078億円)を発生させており、さらにその間接的な経済損失の規模は“不可估量(計り知れない)”のである。だが、裁判の結果、25人の役人には刑罰が下されたが、天津市政府の指導部に連なる高級官僚は何らの制裁も受けていないのである。要は「トカゲの尻尾切り」で、中間管理職に罪を押し付けただけで幕引きを図ったのである。
この爆発の衝撃波により現場周辺の各種インフラ、交通機関、企業や住宅が大きな被害を受けている。さらに現場ではトルエン、クロロホルム、エポキシエタンなどの化学物質が漏洩した可能性があるとともに、一部報道では700 トンに上るシアン化ナトリウムが爆発地域に保管されていたとされ、人体および環境への影響も懸念されていたが、国務院の調査チームは、死者165人、行方不明8人との調査結果を発表した。この数字は果たして信用してよいものか。天津爆発事故では、天津市消防局消防隊員24人、公安警察官11人と合計35人もの公務員が殉職したために彼らの死者数は公になったが、「瑞海公司従業員および周辺企業従業員と住民55人」という死者数は正しい数字と言えるのかは甚だ疑問である。
中国の国家権力の掌握というのは、かくも血なまぐさい闘争なのである。習近平肝いりの新都市建設は上海閥の仕返しで散々な出だしとなり、新都市もゴーストタウン化している。国内経済も危険水域に入っており、肝心要の最新EV車もタダ同然で取引され、さらに使えなくなったEV車が山のように積み上げられた墓場も出来ている。何をやっても上手くいかない習近平に、2026年にさらなる打撃が襲った。それはアメリカによるベネズエラ侵攻とイランへの攻撃である。
アメリカとイスラエルは2026年2月28日にイラン各地を標的にした共同軍事作戦を開始した。3月1日にはイラン国営メディアが軍事作戦により、最高指導者アリ・ハメネイ氏が死去したと発表。イラン側も攻撃を受けてから、ほぼ即時でヨルダンやクウェートなど中東各地に駐留する米軍基地への報復攻撃を実施。国内外のメディアがイランと米国・イスラエルが全面戦争に突入するリスクを報じる事態となっている。そして、このアメリカとイスラエルによるイランへの攻撃は中国にも衝撃を与えた。
安価な原油の調達先であり、中東地域における「一帯一路」の中核的な役割を担うイランに対する影響力を喪失する危険性が高まったからだ。アメリカによる中国の権益侵害はこれだけではない。1月2日の米軍の攻撃のせいで、中南米地域でイランと同様の役目を果たしていたベネズエラに対する中国の支配力は一気に低下してしまったからだ。そんな中、トランプ米大統領は3月31日から中国を訪問し、習近平国家主席と会談する予定だ。昨年末の貿易交渉で中国はレアアースの輸出規制をアメリカに突きつけ優位な立場を勝ち取ったが、今回の首脳会談ではそうはいかない。なにせ国内経済が一向に改善する兆しがみえないからだ。
習近平の敵は国内だけではないのである。もしアメリカとの交渉に失敗すると、国内の人民も習近平を攻撃しかねない。それほど中国の一般市民は苦境に陥っているのである。日本ではほとんど報道されないし、中国の国家経済局も本当の数字を発表しないからだが、朱子学に蝕まれた中国はいま、前代未聞の不況が襲っている。それは「絶望」に近い状況であり、その経済的な苦境に耐えられない人民が狂気に走り始めている。それが「無差別殺人」である。
<つづく>