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小学5年生のセタンタくんと保健室のエミヤ先生/Novel by スラスラ☆ダイスキ

小学5年生のセタンタくんと保健室のエミヤ先生

4,079 character(s)8 mins

歳の差のある槍弓を夢想したお話の、槍が小学生の時のお話です。
2022.12.18の無配ペーパーでした。
前日、慌てて書いたため、誤字の嵐で泣きを通り越して、笑いました。

かわいい槍と、落ち着いた弓を目指し、書きました。

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「センセ」
「先生だ、セタ」
 保健室登校になったセタンタに、エミヤは静かに語り掛けた。
 日本の英語教育は遅れている。都会ならまだしも、地方都市では外国人と接する機会が少ないと言って過言ではない。教師とて、外国語に精通したものがおいそれといるわけではない一今から十数年昔の小学校でのことだ。
 エミヤは、若かりし頃(と言っても、現在も二十代だが)イギリスからヨーロッパ、中東と渡り歩いていた経験があったため、普通に英語の話せたが、セタンタの担任も、英語教室に通っている子どもたちも、当たり前のように現地の英語を聞き取ることは難しかった。結果、現在セタンタは保健室登校となっている。
「オレ、ヤル?」
 トイレットペーパーの段ボールを倉庫から出し、所定の場所に移動させていたエミヤを手伝いたかったのだろう。青く伸びてきた髪をしっぽのように揺らしながら、セタンタは言葉を探す。
 理知的な光をともす赤い眸、小柄で少年らしいが運動を欠かさないと一目でわかる体つきと子どもにしては整いすぎた顔が、同級生の男の子たちにいじめられた理由だろう。
 と言っても、本人はいじめられていたことには気付きもしなかったようだが。
 セタンタは、芯の強い子だとエミヤは思う。多少の悪意は感じていても、気にせず毎日学校に通っていたのだ。学校では、遊ぶ相手もいなかっただろうし、授業だって意味のわからない言葉で行われ、楽しさの欠片もなかっただろうに。
「手伝う、だ」
「テツダゥ」
 エミヤにはエミヤの仕事もあるため、ずっとセタンタばかりをみてあげられるわけではない。故に、担任に言って、ひらがなとカタカナのプリントを準備させ練習させたり、今は使っていない一年生の教科書を使い、日本語を教えてはいたが、近頃は休み時間、同じクラスの少年たちが顔を出すようになり、そろそろ教室に返したいと思うようになっていた。
 日本語習得はまだだ。まず、語彙がない。自分の話したいことが言えず、じたばたしているらしきときもある。でも、体育など、やることを聞いておいて説明してから送り出すと、いい顔をして帰ってくる。担任とも、少しずつはコミュニケーションがとれてきているようなのだが。
「給食は、教室で食べるんだぞ」
 昼時、それを告げるとへにょっと泣きそうな顔になった。
『エミヤ先生と食べたい』
「給食は教室でとる。約束だろう」
『給食に行ったら、先生が張り切って遊ぼうって誘ってくるから面倒だし』
「私になら英語で話せるからと、楽をしようとしてはいけないぞ。君はまだ、五年生だ。英語も話せるうえ、日本語も学べる。それも、ネイティブだ。将来役に立つだろう」
 なつかれたのは嫌ではないが、四六時中拘束されていたら仕事ができない。でなくとも、昼休みなど怪我人が多いときにセタンタがいると、一年生から六年生までの女子がもれなく調子が悪いといって保健室に来たがるのだ。
「約束しただろう。約束が守れない男はどうかと思うが」
『オレはエミヤといたいだけなのに』
「エミヤ先生、だろう」
 くすんくすんすねていたが、給食の時間が来て、クラスから迎えがくると、セタンタはようやく諦めて教室へと去っていった。


「エミヤ先生、すみませんね。セタンタくんのお世話を一手にまかせてしまい」
 職員室に帰ると、給食の支度は既に終わっており、校長、教頭や事務など一同介して、給食を食べ始めていた。
「いえ。彼は素直でよい子なので、さほど手もかかりませんし」
 この学校の子どもたちは、あまり保健室を利用しないから助かっているが、学校によってはそれなりに手が回らなくなる案件に違いない。
「エミヤ先生の英語は素晴らしいですね。前にきた、ALTのロビン先生も驚いておられましたよ」
 セタンタの件があって以来、英語案件になると、保健室で大事が起こってない限り、世惚れるようになってしまったのは、正直面倒な仕事を増やしたとは思うが、たまに手伝うのはそう悪いことではない。特にロビンは、サバサバ楽しい男で、セタンタも面白そうに話しかけていた。
『ちびさんは、おたくの一番になりたいらしいぜ』
『もうなってる。なあ、エミヤ先生』
『莫迦を言うな。そんなことを言う子どもと、四六時中一緒にいたいわけがないだろう』
 早口で回りが聞き取れないことをよいことに、なにを話しているのだと思ったものだが、セタンタにはコイバナをする友達も、恋をできるだけ知り合える相手も周囲にいないということに気付き、今更ながらに切実に教室に戻さねばと感じたのだが。
「セタンタくんって、エミヤ先生の近くでいるときって、かわいい子犬みたいなのに、一人でいるときはオオカミみたいでしょ。それだけ周りを警戒してるなんて、子どもながら、大変だと思うわ」
 事務の言葉に、なにか感じるところがあったらしく、他のものたちも賛同の声をあげる。
「エミヤ先生がいないときは、教室でもやれることがなくて、この前は職員室で校長先生の英語の本を読んだり、ひらがなプリントを黙々とやってたり、話しかける隙がなかったな」
 しゃべれないことで、近寄れないのは教師の側も同じだということだ。
「家の人も、会社の人が来て面接してたし、日本語は不得手なんだろうから。話せるまでには時間が必要そうだな……」
「ひらがなは、書けないけれど、だいたい読めますよ」
「え。そうなんですか」
「カタカナも大半はマスターしました」
「すごいじゃないですか、エミヤ先生」
「すごいのは、私ではなく、セタンタくんです」
「能力の高い子なんですね」
「でも、エミヤ先生のように話せませんからね。僕たちはどうしたらいいか、わからなくなりますね」
 感嘆するが、とにかく面倒をみている時間はないから、お願いしますということか。
「もうすぐ、話せるようになりますから。そうしたらもっと、構ってやってください」
 エミヤは努めて穏やかに、そう給食の時間を締めくくった。
 昼休みは、つつがなく終わった。
 セタンタはクラスでやはり遊びに連れて行かれたのか、無事帰ってこなかったし、大きな怪我をするものもいなかった。転んで擦りむいた一年生と、豆がつぶれたといって絆創膏をもらいにきた三年生の二人だけで、極めて平和な昼休みだった。


 五時間目は図工らしかったが、セタンタは保健室に居座った。どうやら、版画がよくわかっていないらしい。とは言え、エミヤもすべて付き合ってやれるわけではない。
「セタ。手、気を付けろ」
 ジェスチャーと、殊更ゆっくり言った言葉に、セタンタは大きくうなずいた。
 彫刻刀と版木を持ってきていたが、何を描いたのか独創的な下絵が目を引いた。
 小学生の図工と言えば、結構刃物をよく使う。使い方は教えられているのだろうが、手を切る子も多い。イコール、保健室に来る子どもが増える。
 絆創膏の用意をしておくべきか。
 ストックを出しに行く。あいまあいまにセタンタを見てはいるものの、危うげな手の動きが気にかかる。そう言えば、セタンタは転校してからも、母国で従兄が使っていた教科書を使い、家で勉強しているのだと言っていた。それほど長く日本にいる予定はないのかもしれない。
 と。意識が一瞬それたとき。
「エミヤ先生、この子、手を切ってしまって……」
 案の定、彫刻刀で手を切ったのだろう。だらだらと血を流した子どもをつれ、セタンタのクラスの担任が入ってきた。
 これが、病院だな。
 傷口を見て、判断するはたやすく、エミヤは保護者を呼ぶよう指示をした。
 それからは、帰りのしたくだ、早く病院だと大騒ぎではあったものの、親も一大事と駆けつけてくれて、事なきを得たのだった。
 と言っても、セタンタもこっそり指先を切って血を出していたり、その後、たくさんの子どもが絆創膏をもらいにくるなど、大忙しな時間になったことは間違えない。
 帰りの時間がくると、クラスからセタンタを呼びに数人やってくる。
 朝の会と給食と昼休みと帰りの会、体育はだいたい行くようになったが、図工や音楽などは行かないときが多い。まだ、国語をはじめとする科目にはそう興味はわかないらしく、エミヤ先生といたいの一点張りである。
「転校したてのときは、相当我慢してくれてたんですね」
 対して担任の言葉は、それだった。
 まあ、言葉も通じない。担任も、話しかけられたくないオーラを出していれば、セタンタは我慢するよりないと思ったに違いない。
『エミヤ先生、まだ帰らない?』
 帰りの会が終わり、一人で戻ってきたセタンタは、いつも何度も何度も食い下がる。
「仕事だからな」
 学校の先生が、子どもがいないとき休みだなんて、都市伝説でしかない。
『一緒に帰りたい……』
「一人で帰れるのだろう」
『でも、一緒に帰りたい。エミヤと一緒に帰りたい』
「エミヤ先生、だ」
 こんな駄々っ子の、どこがオオカミなのだろうか。
「私はまだ仕事がある。君がいたから、終わらなかった仕事も多い。疲れて、明日これなかったら、どうする」
「それは……やだ」
『お利口さんだ。早く帰るんだな』
『エミヤ先生のいじわる!』
 普段は努めてつかわない英語ではなしかけられ、セタンタすねたように下を向いた。が、それも一瞬のこと。笑顔で、さようならを言ったセタンタに、エミヤは笑って手を振った。


 六年生になり、教室で授業を受けられるくらい言葉もマスターしたセタンタだったが、どこよりもエミヤのそばがよかったと、毎日毎日言いに来た。
中学生になってもずっと遊びにきていたけれど、帰国して音沙汰もなくなり……


 いつしか、そんな子どもがいたことも、もはやエミヤの記憶から消え始めていた十年後、また、二人は出会うのである。





「先生、保健室の先生?』





 ひょんな場所で出会った二人の話は、別の機会でできたらね。

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