「異動したいです」
と言ってきた人がいました。
入社4年目。
経理部の男性でした。
「企画部で新しいことに挑戦したいんです」
僕は笑顔で答えました。
「わかった。ちゃんと上に伝えるね」
伝えました。
ただし、
彼が思ってるルートじゃなくて。
まず連絡したのは企画部ではなく、
経理部長でした。
「彼、異動希望を出しています。
後任もまだ決まっていませんが、
どうしますか?」
部長の返事はすぐでした。
「今抜けられたら困る。
現部署で引き留めてほしい」
その時点で、この話は
“本人のキャリア相談”ではなく
“欠員リスクへの対応”に変わりました。
次の面談で、
僕は彼にこう言いました。
「今の部署でもう少し実績を積んだ方が、
異動先でも評価されやすいよ」
嘘じゃないです。
でも本当の理由でもなかったです。
半年後、
企画部のポストは別の人で埋まりました。
彼はまだ経理にいました。
「異動希望は、
本人のキャリアを最優先に検討します」
社内制度の説明には、
そう書いてありました。
でも最優先だったのは、
本人のキャリアじゃなくて、
部署の人員配置表の数字でした。