light
pixiv's Guidelines will be updated on March 18th, 2026.
View details
The Works "【槍弓】私にいまだにミミがついているのは貴様が――!" includes tags such as "腐向け", "槍弓" and more.
【槍弓】私にいまだにミミがついているのは貴様が――!/Novel by 二条

【槍弓】私にいまだにミミがついているのは貴様が――!

13,349 character(s)26 mins

LOVELESS(高.河ゆ.ん先生原作)の世界観をお借りした槍弓のお話で、現代パロっぽい雰囲気です。
性交渉をしたことのない人間には猫耳と尻尾が生えている、という部分だけ理解していただければ、元ネタをご存知でなくともこちらを読む分には特に支障はないかと思われます。
ランサー(ミミなし)と恋人になって数年経つけれど、いまだにミミ付きのアーチャーのお話です。

※キャス弓(キャス→弓)表現がございます。
※サーヴァント業はしておりません。
※性描写そのものはございませんが、性行為に関する話題は出てきます。
※アーチャーには自分が受である自覚はなし。
※スペルバトルや、戦闘機・サクリファイスに関しての記載は特にございません。
※既出ネタでしたり、ネタかぶりがあった場合は申し訳ございません。
※猫耳付きのアーチャーを書きたかったはずなんですが…………

1
white
horizontal


「だってお前、ミミがついてんじゃねえか」
「…………は?」




私にいまだにミミがついているのは貴様が――!




この世界では性経験のない人間――いわゆる童貞や処女――には、ミミとシッポがついている。
一見してすぐに経験の有無が分かってしまうわけだが、まぁそういう世界なのだ。
それがこの世界の常識で、私がそんな世界に生まれ落ちてから二十年以上の時が経過している。
性交渉、いわゆるセックスをするとミミとシッポが落ちるわけだが……具体的にどんな風に落ちるのか、私は知らない。
なぜならば、私の頭と尻には今も立派なミミとシッポが存在しているからである。
平均よりも体格のいい、褐色肌に白髪の大学三年生。それが私である。
友人や知り合いにはアーチャーと呼ばれている。
本名は他にあるが、この名前でほとんど通っているし、本名は知らずとも支障がないのでそれだけ覚えておいてもらえれば問題はない、はず。
そんな私の最近の悩みは、もっぱら頭上でぴんと立つ三角ミミと腰元でゆらゆらと揺れる長いシッポに他ならない。
学内の生徒にはミミ付きも勿論のこと一定数いるが、同学年では落ちている生徒の方が多いような気がする。

今までの文脈からもうとうにお察しの事と思うが、私は童貞である。

しかし恋人がいないというわけではない。
私には高校三年生の頃から付き合っている恋人がいるのだ。
奴の名はランサー。
幼馴染み兼腐れ縁だった奴と、あれやこれやがあって付き合うことになったのが高校三年生の冬のことだった。
私と付き合う頃には、奴にはとうにミミなどなかった。
私もそのうちミミを落とすことになるのだろう――そんなことを思ってから、実に三年の月日が経った。
――が、私の猫耳は未だ健在。

そろそろ。そろそろ、もういい加減ミミを落としてもいい頃だと思うのだが。
そう思い、意を決してセックスをしないか、と昨晩提案した私に、あろうことか奴は言ったのだ。

「だってお前、ミミがついてんじゃねえか」

当 た り 前 だ ろ う が た わ け が ! ! !

貴様を相手にせず、一体いつどこで誰と私がミミを落とすチャンスがあると言うのだ!!
貴様と行為をしていないから、私のミミとシッポはいつまでもあるのだと!!
むしろ貴様という恋人がいながら他でミミを落としたら、それこそ一大事だろうが、このたわけが!!
ミミがついていることがセックスをしない理由になるのか!?
そんなことは昨夜はじめて知ったとも!

その後は、怒り狂った私が奴を蹴り出すように外に放り出してそれで終わり。
奴は私が何故怒っているのかも大して理解していないような顔で、放り出されて呆然としていた。
そんな昨晩のやり取りを思い出しただけで、いまだにはらわたが煮えくり返りそうだ。
思わず野菜をカットしていた手に力が入る。
ダンッ! という激しい音とともに、サラダ用にカットしていたはずのキュウリが予定よりも細かい破片となって飛び散った。
む。まずい。これではキッチンを無駄に汚してしまう。
冷静になれ、と心内で唱えながら、私は改めてキュウリを斜め切りにしていく。
今晩はトマトソースパスタの予定だ。
ソースさえ作ってしまえば、あとは麺を茹でるだけ。
講義の後にレポート用の資料を探しに図書館へ寄っていたらすっかり遅くなってしまったので、今日はささっと作れるメニューにすることにしたのだ。
フレッシュトマトはないので、トマト缶を使っただいぶ簡略化したものである。
一人暮らしの自分だけが食べる食事である。
どう手抜きしようと文句を言う者はいない。
それでもローリエとニンニクもあることだし、それ相応のものになるはずだ。
市販のソースを使う方が余程簡単なのだが、生憎市販のソースの備蓄がない。……となれば、作るしかない。

『トマト缶はあるのに、もっと手軽なパスタソースを常備していないとは、効率的なのか非効率的なのかよく分かんねーな、お前』

以前、ランサーにそんなことを言われたことを思い出した。
あの時も確か帰宅が遅くなり、そんなところへランサーが来て、あり合わせの材料で作ったパスタを振る舞ったのだったか。
スレンダーな体型のわりに大食漢なあの男のせいで、パスタを四人前も茹でなくてはならなくなった記憶がある。

――そう、奴は男。
そして、私も男である。

私が彼を抱くのか、はたまたその逆なのかは今のところ不明だが、とにかく私もいい加減ミミとシッポとおさらばしたい。
このままいい大人になって、スーツの似合う歳になってもなお頭上に猫耳を戴いているような事態は避けたい。
何故恋人がいるというのに、こんなことで思い悩まなくてはならないのか。

だんだん虚しくなってきた。

このままあの男と付き合い続けていたら、一生ミミ付きのままなのではないだろうか、という疑念すら湧いてきた。
は! もしやあの男、私がいい歳をしてミミ付きであるという事実を維持させるために、交際を申し込んできたのではあるまいな……?
というか、そもそも付き合っているという事実を奴は覚えているのだろうか?

三年だぞ?
三年経つのにセックスなしのカップルというのは存在するのか?
いや、現に存在しているわけだが。今ここに!
それでもまぁ一応、ランサーとキスまではしたことがあるのだが……。

そこではた、と思った。

私が奴とキスをしたのはいつの話だ。
最後にキスをしたのは……。
最後にキスをしたのは…………。

…………一年以上、前だ。

その事実に私は、顔からざっと血の気が引くのを感じた。
恋人とのそういった肉体的な接触が一年以上前!
これはもはや付き合っているなどと言える立場ではないのでは!?

元々ランサーとは幼少の頃からの腐れ縁である。
なんだかんだと突っかかり合い、衝突したことは数知れず。
殴り合いの喧嘩だって両手の指では足りないほどに経験してきたし、そもそも奴と私はどうにも根本的に性格が合わない。
それなのに何故付き合っているのかと言われれば、それはひとえに奴が私に告白なんてものをしてきたからだ。
詳細は割愛するが、まぁ絆されて恋人という関係を受け入れたのは他でもない私自身である。
とことん合わないのだが、それでも奴の隣にいるのは居心地が悪いわけではないのだ。

――とにかく。
ランサーが人を貶めて嗤うことに快感を見出すような人間ではないと信じたい。
……信じたいのだが、奴が内心でミミ付きの私を嗤っている可能性もゼロではない。
ミミが取れた直後に、何故か人のうちに押し掛けて散々自慢してきた男である。
その可能性は皆無、とはとてもじゃないが言い切ることは出来ない。
付き合って三年目にして、そんなことに思い当たる自分も自分である。
いくらなんでも遅すぎるだろう。
ランサーの性格を知っているからこその疑念に唸っていたら、猫の手で押さえていたはずのキュウリがぼきりと折れた。
そんなことをする男ではない、と否定する自分と、しかし私自身は彼に嘲られるそれなりの理由があるのではないか、と疑心暗鬼な自分が脳内で火花を散らしており、なんなら火花どころか殴り合いをはじめて延長戦へもつれ込む様相である。

……悠長に夕食を作っている場合ではない気がしてきた。

そこで私は、切りかけの野菜を保存容器に乱雑に突っ込んだ。
煮込み始めていたトマトソースの火を消し、蓋をしておく。
暑い時期でもなし、一晩くらいなら放置で平気だろう。

そうして私はつけていたエプロンを外し、外出用のジャケットを羽織った。

よし。出会いを求めて、出かけよう。
それですべてが解決するような気がした。

思えば私は、この時少々自棄になっていたのだろう。






* * *


「悪いことは言わねえから、帰んなアーチャー。この店は、お前みたいな奴にはちっとばかし早い」
「何故だ。私はもう成人しているぞ」

カウンター越しに立つキャスターが、呆れたような表情を浮かべた。
深紅の瞳に青い長髪の美丈夫。
私の恋人によく似た容姿の男――キャスターは、ランサーの兄である。
ランサーと幼馴染みの私は、必然的に彼ともその関係にあたる。
キャスターは何店舗かのバーをオーナーとして経営している。
以前ランサーと訪れたことがあるこの店もそのうちの一つ。
店内には広めのカウンター席と幾つかのテーブル席、そして立ち飲みが出来るような高めのテーブルが配置されている一角がある。
雰囲気は外国のバーといった感じで、カウンター内に並べられている洋酒やリキュールの瓶が、また一層それっぽさを演出していた。
キャスターはその時その時によって顔を出す店が違うと聞いたことがあるが、今日は私が足を運んだこのバーにたまたま出勤していたようだ。

「知ってらぁ。そうじゃなくてだな、ここはお前みたいな『ミミ付き』が来るような店じゃねえって話だ」
「……『ミミ付き』だと馬鹿にするのか」

ミミ付きは厄介者か、と私は自分の頭上の三角ミミをぎゅっと引っ張る。
ここへ来る前にぐるぐるとしたことも相俟って、猫耳がひどく邪魔なものに思えてきた。
ああ、もういっそのことこのまま引きちぎってしまいたい。

「ちげーよ。馬鹿にしてんじゃねえ。けど、この店じゃお前さんみてえなのは悪目立ちすんだって」
「……『ミミ付き』だからか?」

店内に視線を走らせれば、酒を楽しんでいる人間の中にミミ付きは一人もいなかった。
客だけではない。
キャスターを含めたスタッフ連中にも、ミミ付きは一人もいない。
そんな中にいる自分がひどく場違いな気がしてきて、思わず視線が下がる。

「それもある、が……。おい、こら。ミミの毛を毟るんじゃねえ」

引きちぎれないかと奮闘しても、結局抜けるのは毛だけだ。
それを見かねたキャスターが私の手を取り、引っ張る行為をやめさせる。
ふん。こんなミミの毛なぞ無くなってしまえばいい。
円形脱毛症にでもなれば、みっともないしさっさとミミを落とす理由にもなるのではないだろうか。

「なぁアーチャー。ランサーはどうした?」

私の手を握ったまま、キャスターが問うてくる。

「さあ? 会う予定もないし知らん」
「……お前ら喧嘩でもしたのか?」
「していない。喧嘩なんて」

昨晩のあれは喧嘩ですらなかった。
私がただ一方的に怒り狂っただけの話である。
キャスターに握られたままの手を、私は振り払うようにして解いた。

「……ったく。オレが出勤してる時でよかったぜ」

ぼそりと言ったキャスターの言葉の意味が分からず聞き返そうとした瞬間、どん、と左側に衝撃が走った。
隣を見れば、見知らぬ男がグラス持参で人懐こい笑みを浮かべて座っていた。

「キャスターさんの知り合いっすかぁ?」

カウンター内のキャスターに話しかけているようで、その実視線はこちらを向いている。
答えるべきか悩んでいるところで、私と彼の間にメニュー票を差し込んだキャスターが言った。

「そうだよ。コイツはダメだ。他当たんな」
「やっぱり? そんな気はしてたんすけどね~」
「分かってんならさっさと元の席に戻んな。それとも追加オーダーかい?」
「まだ半分以上残ってるっすよ」

男はグラスを掲げて、キャスターに中身を見せるようにして肩を竦めた。
そうしてこちらを検分でもするかのようにじっと見つめてくる。

「……あの……?」

戸惑いながら声を発すると、彼は再びキャスターに向き直って言った。

「ねえ、どーしてもダメ?」
「ダメだ」

何やらキャスターに交渉しているようだが、キャスターは頑としてそれを受け入れようとはしない。
やがて男が苦笑して言った。

「……ざーんねん」
客と店員にしては随分と気安いやり取りに、おそらく彼は常連なのだろうと私は思った。そこへ。

「じゃ、ミミ付きのおにーさん。今夜は引くけど、もし相手を探してるなら是非声かけてね」

去り際にウインクされながら、そう告げられる。

「……酒を飲む相手のことか?」

別に一人酒で平気だが、と首を傾げた私に、キャスターははあ、と溜め息をついた。
出会いを求めてなんて意気込んで家を出てきた私だが、いざ現実で新たな関係を構築しようとすると面倒さが先立つ。
結局のところ、私は飲み友達が欲しいわけでもなんでもなく、自分の思考に煮詰まって単に気分転換がしたかっただけなのだろう。
少々自棄を起こしても、足を運ぶのが結局知り合いの店というのがその証拠である。
そんなことを思いつつ、ソルティドッグのグラスを傾けた。

「お前やっぱり帰れ。つーか、お前をずっとガードしてるこっちの身にもなりやがれって話だ」
「なんの話だ?」

疑問を口にしたものの、キャスターがそれに答える様子はない。
そのかわりにカウンターに身体を乗り出してきて、頬杖をついてこちらを上目遣いに見上げてくる。
じっとこちらを探るように覗き込んでくる深紅の瞳に、私は落ち着かない心地になった。
女性的な部分はほとんどないのに、希有な色彩のせいもあってか、ランサーもキャスターも顔の造作は充分に「美しい」と称せるものだ。
恋人によく似た相貌だが、年を重ねているせいもあってか、キャスターにはランサーにはない色気のようなものがある。
そんなキャスターにじっと見つめられて、私はなんとなく視線を逸らしてしまった。
その時不意に、キャスターの指が私の頭上に伸びた。
髪の毛と同様に白い私の三角ミミにふにふにと触れながら、キャスターは微笑んで言った。

「なぁアーチャー。お前さん、このミミが鬱陶しいのか?」
「……そう感じることも、ある」

嘘を言っても仕方がない。
私は正直に白状した。
私のミミに触れるキャスターの指の動きが、ぴたりととまる。

「キャスター?」
「……だったら、オレが落としてやろうか?」
「え」

ミミに触れていた指が、するりと私の頬を撫で下ろした、瞬間。

バシッ、と耳元で破裂音にも似た音が響く。

私に触れていたキャスターの指が、叩き落とされたのだ。

一体、誰に?

カウンターに座ったままで振り返れば、そこにはキャスターによく似た容姿の男――ランサーが立っていた。

「よぉキャス。仕事中に客を口説くとは余程暇なんだな、この店は」
「お早い到着だな、愚弟」
「連絡くれたことにゃ感謝するぜ。だが、手を出す許可をした覚えはねえぞ」
「まだ手なんて出しちゃいねえよ。もし本気で出す気ならそもそもテメェに連絡なんざするか」
「それもそうだな」

ランサーとキャスターの間でぽんぽんと交わされる言葉の応酬の中間地点にいながら、私は軽く混乱する。

何故ここにランサーが?
それと連絡と言ったか?
キャスターがしたのか?
——ランサーに?

「っ、キャスター! 君が連絡したのか!?」
「まあな。言っただろ、アーチャー。お前にはここはまだ早えよ」
「それはオレも同感だぜ」

二つの青に挟まれて、私は何故だかひどく責められているような心地になった。

「な、何故だ。私だって人並みに酒は飲めるし」
「……この店は酒だけが売りってわけじゃねえからなぁ」

キャスターがやれやれという様子で笑う。
ひどく子供扱いされているようなその態度に私が腹を立てかけたところで、ランサーがとどめの言葉をはいた。

「それも分からんお前には、まだ早いって話なんだよ、アーチャー」
「では貴様は分かるというのか、ランサー!」
「分かるさ」
「ならば私にも分かるように説明しろ!」
「お、開き直りやがったなこの野郎」

ニヤリと笑うその顔に苦々しい舌打ちをぶつけたくなる。

「ここ、ゲイバーだぜ」
「…………。……は?」
「だから、この店はゲイバーだっつってんだよ。キャスが何店舗か経営してるのは知ってんな? 他の店舗は違うが、ここはゲイバーだ。酒を提供するだけじゃなく、ちょっとした社交場にもなってんだよ」
「な……! ……ッ!?」

一瞬前の怒りは即座に霧散し、頭の中を疑問符が飛び交う。
バッとキャスターの方を見れば、にこりと綺麗な顔で微笑まれた。

否定の言葉は返らない。即ち、肯定。

「そんなの聞いていない……!」
「言ったことねえからなぁ。お前さんが来る時はいつもランサーと一緒だったし、別に知らせることもねえかと思ってな」

はくはくと口の開閉を繰り返す私の腕を、ランサーが強引に引いて立たせる。

「そんなわけだ。一人で酒を舐めてるようじゃ、お相手を探してると思われても仕方ねえってな」

遅まきながら先程隣に座ってきた男の言葉の意味を理解して、私はうぐ、と唸った。
出会いを求めていた私にはうってつけの場所だったのかもしれないが、しかしこれは完全なる誤算である。
いや、この際自分の嗅覚を誇るべきなのか?
ぐるぐると思考に囚われていると、

「ほら。帰んぞアーチャー」

と、カウンターから引き摺られるようにして、ランサーに連行される。

ちょっと待て、待たんか貴様!

「待てランサー! 会計が……!」
「あ? そんなのツケとけよ。目の前にオーナー様がいんだろうが」
「そういうわけにはいかないだろう!」

いくら幼馴染みだとはいえ、相手の仕事への対価を払わないわけにはいかない。
腕を引くランサーの手を振り解くと、奴は盛大に舌打ちをした。

「キャスター、会計を」
「今日のはオレが奢ってやるよ、アーチャー」

キャスターがにこりと笑う。

「いや、そういうわけには」
「いいから黙って奢られてろ。そのかわり今度お前さんの手料理でも食わせてくれや。それでチャラだ」
「……そんなもので、いいのなら」

そんなやり取りを横で聞いていたランサーが、再びもの凄い舌打ちをする。
舌打ち選手権なるものがあったならば、間違いなく上位入賞を目指せるような、それはそれは見事な舌打ちだ。

「……人の前で逢い引きの算段してんじゃねーよ、キャス」
「逢い引きの算段だぁ? 料理振る舞ってくれっていう会話がそう聞こえるってんなら、お前相当きてるぞランサー?」
「……そんだけで終わらねえかもしれねえからそう言ってんだ」
「ふん。そこまで分かってんならお前がさっさと手ぇ出すんだな。いつまで大事に取っておく気だ? 好きなもんは最後まで取っておくようなタイプだったか、お前は?」
「うるせえ。元はと言えば半分はテメェのせいだ」
「はは、知ってる」

睨むランサーを、キャスターが小馬鹿にしたような表情で嗤う。
兄弟喧嘩のような状況にどうしたものかと様子を窺っていると、ランサーは苦虫を噛み潰したような顔でキャスターから視線を逸らした。

「チッ。行くぞアーチャー」

強く腕を引かれて、私はたたらを踏む。

「ッ、キャスターすまない! またそのうち……っ」
「おう気をつけてな」

ひらひらと手を振るキャスターに見送られて、店内を後にする。
こちらの手を掴んだまま大股で歩くランサーは、一向に歩調を緩めない。
身長は私の方が僅かに高いはずなのだが、コンパスの違いかはたまた歩くスピードが違うのか、気を抜けば遅れそうになる歩調をどうということはない、という取り澄ました表情で必死に合わせる。
往来で腕を引かれて歩いているため、人の視線が少々気になったが、ランサーが私の手を離す気配はない。

「ランサー、いい加減離せ」

見覚えのある道に、どうやら彼は自宅へ向かっているらしいことを察した私は、ランサーに引かれるままに歩きながら言った。
そんな私の言葉をまるっと無視して、ランサーが聞いてくる。

「……なんでキャスの店に行ったんだよ、お前」
「酒を飲みたくなったからだが?」

しれっと私は答えた。
ここで出会いを求めて~なんてことは、本気ではなかったにせよ言うべきではない、と私の危機回避能力が告げている。

「酒なら家でも飲めるだろうが」
「私とて、外で飲みたくなる時だってある。上げ膳据え膳で食事をしたい時だってあるのだからな」
「あ、そ」

そうこうしているうちに、ランサーのマンションに着いた。
腕は一向に解かれず、そのままエレベーターに連れ込まれる。
私はこのままランサーの部屋にお邪魔するのか? と考えているうちにもうランサーの部屋の前だ。

「入れよ」

解錠されたドアを前に、入ることを促される。

「……ああ」

返事をして玄関に足を踏み入れた瞬間、強く腕を引かれて壁に身体を押し付けられた。

「……ッ! なにをする!」
「……気安くキャスに触らしてんじゃねーよ、アーチャー」
「なんだと……?」
「ミミも頬も、アイツに触らしてんじゃねーよっつったんだ」

……今までロクに触れてこなかった男が、今更なにを言う。
ランサーの勝手な言い分に、ふつふつと怒りが込み上げてくる。

「は、何を言うかと思えば。いちいち君の許可がいるのかね? 私の身体は私のものだが?」

触れさせてもくれないし、触れてもこないくせに、権利ばかり主張されても腹が立つだけだ。
付き合っているのかどうかも怪しい曖昧で希薄な関係性のくせに、けれども恋人というポジションに居座るこの男がひどく腹立たしい。
鼻で笑ってやると、こちらを押さえ込む力が増した。

「こっちだって我慢してんだ」
「我慢? なにを我慢すると言うんだ。ああ、もしかして私と恋人関係を続けるということに我慢を強いられているか? なんせ三年も健全なお付き合いを続けていることだし、君が私に触れたくない・触れられたくないと言ったところで、今更驚きはしないが……」

今まで溜まっていた鬱憤が一気に言葉となって溢れ出す。

「それで? 触れ合う気もない私を、君は一体いつまでキープし続ける気なのかね?」

言った瞬間に、後頭部を掴まれ顔を壁に押し付けられた。
衝撃に一瞬世界が回るが、こんなことはこの男とはよくある小競り合いの一つである。

「……他に言いてえことはねえのか」

低い声が耳朶をくすぐる。
相当怒っているな、と思ったが、私だってそれは同じである。
怒り狂うランサーなぞ、今までに何度も遭遇している。
今更どうということもない。
壁に押さえ付けられたままで、私はハッ、と小さく笑った。

「ミミがついたままの私を、内心笑っているんだろう」

笑いながら、けれど内心苦々しい思いでそう告げれば、こちらを押さえ込んでいたランサーの指がぴくりと震えた。

「笑いを提供出来ていたのなら何より、と思わないでもないが……この件で裏であれこれと嘲笑されているのは、我慢ならない。……そもそも、私がミミを落とせる相手なぞ、君以外にいないというのに」

壁に向かってそう呟く。
——虚しかった。
一向に触れ合おうとしない相手が、自分がミミを落としてもいいと思っている唯一であることが、惨めに思えた。

「……以上だ」

沈黙に耐えられず、そんな間抜けな言葉で私はランサーとの会話を締めた。
もう帰りたい、と頭の片隅でぼんやり思っていると、不意に後頭部を圧迫していた力が解けた。

「……っだーーーー!!」

叫んだランサーに驚いて振り向くと、奴は青い髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き乱していた。

「笑ったことなんかねえよ!!」

そして一言否定の言葉を吠え、ランサーが私を強引に室内へ引き摺る。

「ラ、ンサー! 靴!」
「うるせえ! ベッドにあがる時さえ脱いでりゃこの際いいわ!」

ずかずかと廊下を突っ切りリビングを突っ切り、ランサーは勢いよく寝室のドアを開ける。
そこへ放るようにされて、私はシーツに盛大に顔を突っ込んだ。

「ぶっ!」

結局靴を履いたままではないか!

焦って脱ごうとする私の背後で、ゴトン、と何かを床に放り投げる音。
見れば、ランサーが自分の履いていたショートブーツを床へ落としていた。
そしてそのままベッドに乗り上げてくる。
ランサーのベッドは広い。
広いが、ガタイのいい成人男性二人が乗れば、多少なりとも圧迫感があるし、ベッドがぎしりと悲鳴をあげるのも仕方のないことであろう。

「なぁ、アーチャー」

こちらに覆い被さるようにしてランサーが言う。

「ミミ付きのお前を笑ったことなんざ一度もねえよ」
「…………」
「純潔ってことだろ。オレ以外に見向きもしてねえ何よりの証拠じゃねえか。オレはそこに優越感を感じてた。お前がオレを裏切っていない証拠だと」

ランサーの言いたいことは理解した。
分からないでもない。分からないでもないが。

「……だからなんだ? 私が裏切らないから放置してもいいと思ったか? ――釣った魚に餌はやらなくてもいいと?」

私は貴様の唇の感触ももうロクに覚えていないぞ、と告げれば、奴は珍しく眉を八の字に下げた。

「だから、我慢してたんだよ。キスなんぞしようもんなら、オレがとまれなくなる」
「何故とまる必要があるんだ」

私たちは恋人同士のはずではないのか?

「……テメェにはミミとシッポがあんだろう」

……何度その話をする気なのだ、この男は!
ああ、そうだとも、事実は事実として認めるさ!
私の頭上には立派な白いミミがぴんと立っているし、尻からは白いシッポをぶら下げているとも!

「ああそうだな! 誰かさんとそういったことを一切していないからな!」
「それが、セーフティネットだったっつーか……。セックスすりゃミミもシッポも落ちるだろ」
「それはそうだが」

当たり前のことを言うランサーに、私は首を傾げる。

「つまりミミ付きのお前は、童貞で処女だっていうことが証明されている」
「……処女というのは違う気がするが」
「細けぇことにいちいち突っ込むな。要は手を出せばすぐにバレるんだよ、ミミ付きにはな。それがキャスへの牽制にもなってたんだ」
「キャスターへの……?」

ランサーから出た思わぬ名前に、私は首を傾げた。

「……気付いてねえみたいだから言っちまうが、オレとアイツの好みは似通っている」
「ほう」
「つまり、アイツもお前のことが好きだ」
「ほう。……………………。……ハ!?!?」
「やっぱり気付いてなかったか。お前、今後はマジで警戒心持ってくれよ。ミミが落ちたら、万が一アイツに手を出されても気付けねえんだからな」
「いや、まて、キャスターがそんな……いや、ちょっと待て貴様。ミミが落ちたら、とか言ったか? 誰のことだ、私の事か? 未だに健在なこのミミが見えないのか」
「見えてるよ。お前本体はすっげぇ素直じゃねえが、ここは存外素直でオレは気に入ってたんだがな。ほれ、今だって顔はふてぶてしいが、ミミはちょこっと下がってる」
「……ッ! 本体が素直じゃなくて悪かったな!」
「あと猫耳ついてんの可愛いじゃねえか」
「……いい眼科を紹介しようか、ランサー?」
「んっとに、本体は素直じゃねえなぁ!」
「素直もなにも、本心からの言葉だが。本気で君の視力を心配している」
「……そういうとこあるよな、お前……」

脱力したようにがくりと肩を落とすランサーに、私は思い切り眉間を寄せてしまう。

「こんな大男を掴まえて、そんなことを宣う貴様を心配してのことだったのだが」

余計な世話だったようだな、と続けようとした言葉は、音にならなかった。
食われたのだ。ランサーに。
文字通り、唇ごと、言葉が食われた。

「……ッ!」

久し振りすぎるキスに私は目を見開いた。
いや、この際だ。正直に言おう。
私はひどく動揺した。
なんせキスすらも数えるほどしかしたことがないし、その感触はもう遠い過去のことだった。
ランサーとは殴り合いの回数の方が多いくらいだ。
どのタイミングで目を閉じればいい?
いや、ちょっと待て。この男目をかっぴらいているではないか。
目を閉じるのがマナーではないのか。
私はどうすればいい。
どうすれば。

「決めた。お前のミミ落とすわ。――今から」

唇を離したランサーが、至近距離で囁くように言った。

今から!?

――という私の叫びは、やはりランサーの口内に飲まれて、音になることはなかった。

「んっ……ぐ……ッ」

重ねられた唇の隙間から、ぬるりとした軟体生物が私の口内に侵入する。
軟体生物というか、あれだ。ランサーの舌だ。
上顎を舐められて、ぞわりとした何かが背筋を伝った。
ぴちゃぴちゃとした水音が響き、私はいよいよどうすればいいのか分からなくなる。

「む、っ……! んぅ……!……ッぷはっ……!」

ようやく解放された頃には、口の周りはどちらのものともつかない唾液でびちゃびちゃで、ついでに私は息切れをしていた。
一方ランサーの呼吸はほとんど乱れていない。
経験値の差というやつか、と悔しく思う私をよそに、ランサーは私の腕を頭上で一纏めに押さえ込むと、着ていたシャツのボタンを器用にも片手で外していく。

「ら、ランサー!!」

突然の展開に私は悲鳴のような声をあげてしまう。
確かに昨晩はセックスの誘いをかけた。かけたが、今この状況になることは想定していなかった!
だいたい君も私も、シャワーがまだではないか!!

「ミミ付きのお前を抱けるのは一生に一度だからなぁ。大事にしたかったんだが、オレもいい加減我慢の限界さね。——先に謝っとくぜアーチャー。なるべく優しくする気ではいるけどよ」

そう言ったランサーが、私の胸筋から腹筋にかけてをするりと撫でてくる。

「な、ん……? 貴様が、私を抱く気なのか?」

私が、君を抱くのではなくて?

そう問えば、ランサーはひどく男くさい表情でニヤリと笑った。

「おう。お前がどう思ってたのか知らねえが、オレはお前を抱く気でいたぜ? ——昔からな?」






* * *


――後日。

「おー。ミミ取れちまったのか。可愛かったのになぁ、白くてふあふあで」
「……君たち兄弟は揃って目が悪いのかね?」
「んなことねーよ。視力も趣味も、オレたち兄弟は中々いい方だが? なあ、ランサー」
「それは同意するが、飯食ったらさっさと帰れよキャス」
「おっまえ、人が来てまだ五分やそこらしか経ってねえのに退室願うの早すぎねえか!?」
「うるせえ。アーチャーがこの間の奢り分を返してえっつーから、その場所をわざわざ提供してやったんだぞ」
「オレは別にアーチャーんちで構わなかったんだが?」
「オレが構うんだよ! てめえと二人きりで会わせられっか!」

会話からお察しの通り、現在私とキャスターは、ランサーの部屋にいる。
先日店で奢ってもらった分の礼をしなくては、と私はあれこれ計画を立てたのだが、ランサーがそれらに断固反対した。
しかし、約束は約束だ。
果たさないわけにはいかない、という私と、そんなもんほっとけ、というランサーとであやうく殴り合いに発展しそうになったところで出た妥協案が

『オレの部屋にキャスを呼べ。そんでオレにも同じもの食わせろ』

というものだった。
一人分も二人分も手間は大して変わらないので、私はランサーのその案を飲んだわけだが——。

「……で、どうだったんだよ」
「……なにがだよ」
「分かってんだろ? アーチャーのミミ落とした感想だよ」
「ああ。想像以上に最高だし、やっぱミミついてんの最高によかったわ」
「あー〜くっそ! 正直てめえが妬ましいわ」
「はん、てめえなんて一生単なる幼馴染み第二号だ」
「あ? 幼馴染み第一号はお前だってのか?」
「第一号兼、恋人だな」

ランサーの勝ち誇った声。
顔のそっくりな美形が、ソファで顔を寄せ合ってぼそぼそと会話をしているようだ。
キッチンで調理中の私には聞こえていないと思っているのかもしれないが、しっかりと聞こえている。

……聞こえているぞ、二人とも!

「……君たち兄弟には、プライバシーを尊重するという概念は存在しないのかね?」

この二人がどんな猥談をしていようがどうでもいいのだが、さすがに自分が話題に出ている以上は看過できない。
包丁片手に微笑んで振り返れば、二人とも観念した様子で両手をあげて見せた。

「なあアーチャー」

ランサーが呼ぶ。

「なんだね」
「ミミがついてるお前もよかったが、ついてねえお前もそれはそれでいいぜ」

両手をあげたまま、見事なウインクつきで奴が言う。
瞬間、頬に血が上るのを感じたが、ここで赤面して照れてしまうのでは奴の思うつぼだ。

なので、私はわざとふてぶてしい表情を浮かべて答えてやった。

「そうだろうとも」



Comments

  • わんわんお
    March 1, 2024
  • September 29, 2023
  • たこ糸
    June 23, 2019
Potentially sensitive contents will not be featured in the list.
Popular illust tags
Popular novel tags