CC-Link IE / CC-Link IE TSNは、なぜグローバル主流ネットワークになり切れていないのか
製造業やFA業界に長く携わっていると、産業用Ethernetの主流は PROFINET、EtherNet/IP、EtherCAT の3大ネットワークだと感じる場面が多い。
実際、HMS Networks の 2025年レポートでも、新規設置ノードベースの市場シェアは PROFINET 27%、EtherNet/IP 23%、EtherCAT 17% に対し、CC-Link IE は 3% にとどまっている。
では、なぜCC-Link IEはここまでシェアが低いのか。
今回は、CC-Link IE(CC-Link IE Field / CC-Link IE TSN)の現在地を、EtherNet/IP・PROFINET・EtherCATとの技術的な比較を通じて整理してみる。
「主導企業がいる」のはCC-Link IEだけじゃない
CC-Link IEを「三菱電機主導だから偏っている」と批判するのは議論としては弱い。EtherNet/IP(Rockwell主導)・PROFINET(Siemens主導)・EtherCAT(Beckhoff主導)も全部、特定企業の思想から生まれた規格だからだ。
問うべきは主導企業の話ではなく、プロトコル設計の構造と、エコシステムが広がりやすい仕組みになっているかどうかだ。
CC-Link IE TSNをFieldの感覚で見てはいけない
まず性能面の整理。「CC-Link IE」という同じ名前で混同されがちだが、FieldとTSNはアーキテクチャが根本的に違う。
CC-Link IE TSNを「遅い規格」と見るのは間違いだ。ただし、本質的な問題は性能ではなく別のところにある。
「誰でも乗りやすい構造か」
各ネットワークの差が最も出るのは、第三者がどれだけ実装しやすいかという点だ。
EtherNet/IPは汎用EthernetチップにCIPスタックを乗せれば動く。PROFINETはGSDML(XMLベースのデバイス記述)によるマルチベンダー構成を設計思想に組み込んでいる。EtherCATは通信方式の独自性が強いが、BeckhoffがESC(スレーブコントローラ)やFPGA向けIPコアをETGメンバー向けに提供したことで、多数のデバイスベンダーが追随できた。
CC-Link IE Fieldは独自のトークンパッシング方式が前提で、参入障壁は相対的に高かった。CC-Link IE TSNではこの点が改善されており、Device側はCLPAが実装サンプルコードやSDKを無償公開し、STM32等の汎用マイコンでの動作確認環境も整備されている。Manager側もソフトウェアスタック製品は存在するが、Device側ほど公式の実装資産が整っているとは言いにくい。
「CC-Link IEは独自チップ必須」という一般化はTSN世代には当てはまらない。ただし、参入しやすくなったことと実際にエコシステムが厚くなることの間にはタイムラグがある。そこが現状の課題だ。
TSNとOPC UAの文脈での立ち位置
CLPAと三菱電機は2018年にCC-Link IE TSNを発表し、TSN対応の産業用Ethernetを早期に打ち出した側だ。CLPAは「オープンな産業用GigabitイーサネットとTSNを組み合わせた最初のネットワーク」として公式にアピールしており、IEC/IEEE 60802の適合試験計画(TIACC)にもAvnu Alliance・ODVA・OPC Foundation・PIとともに参加している。標準化から外れているわけではない。
ただ、PI(PROFINET推進団体)とODVAは60802・OPC UA FX(Field eXchange)文脈でのグローバルな議論において存在感が大きく、CLPAは参加しているが中心性という点では公開情報を見る限りやや見劣りするように映る。
OPC UA連携についても同様だ。CLPAは2017年にCSP+ for MachineのOPC UAコンパニオン仕様をOPC Foundationと共同でリリースしており、仕様資産は存在する。ただしCSP+ for Machineは機械・ライン情報の記述モデルであり、OPC UA FXが狙うフィールドレベルのリアルタイム通信統合とは射程が異なる。「仕様はある、ただし浸透度と射程で差がある」というのが正確な表現だ。
なぜ主流になり切れていないのか
以下の4つの構造的な理由があると思う。
① Field系の初期設計で第三者参入が後回しになった CC-Link IE Fieldは三菱FA親和性優先の設計だったため、この初期条件の差がその後の対応機器数と採用裾野に影響した。
② 仕様先行が製品エコシステムの成長に繋がらなかった 早期にTSN対応を打ち出したが、対応製品の広がりで先行性を活かし切れていない。「仕様を先に作ること」と「ベンダーが乗ってくること」はイコールではない。
③ エコシステムの自己強化ループで後れを取っている 対応機器が多い規格は採用されやすく、採用が増えるとさらにベンダーが集まる。TSN世代で参入コストが下がっても、この慣性はすぐには解消されない。
④ 普及が三菱FAの顧客基盤と連動している HMS Networksの市場調査では、2023年時点の新規ノード推計でPROFINETが18%・EtherNet/IPが18%・EtherCATが12%で、2025年版でもこの3規格が上位を占める構図は変わっていない。CC-Link IEはアジアで強みを持つが、その強さはネットワーク標準としての自走力というより三菱FA機器の顧客基盤との連動によるところが大きい。
まとめ
現時点でのCC-Link IE / CC-Link IE TSNを極端に低いシェア率を説明すると、
CC-Link IE / CC-Link IE TSNは技術として成立しない規格ではない。TSN対応やOPC UA連携の方向性も間違っていない。ただし、グローバルなエコシステム競争では採用裾野・実装資産・製品の厚み・標準化文脈での存在感でPROFINET・EtherNet/IP・EtherCATに劣後しており、現状は地域色の強いネットワークに留まっている。
問題の本質は性能差ではなく、設計思想・第三者実装性・エコシステムの自己強化力の総合的な差だ。CC-Link IE TSNはその弱点を補う方向に動いているが、仕様の改善がエコシステムの拡大に繋がるかどうかが今後の分岐点になる。
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