こどもの日特集 児童精神科医・山口有紗さん(前編) うつや高校中退を経験、死にたかったわたしにタンポポを渡して「また春が来たよ」と声をかけてくれた人のように
山口有紗医師は、児童相談所や医療機関などで虐待などの逆境的な体験をしたこどもや、死にたい気持ちを持つこどもたちにかかわってきました。自身が若いころ、うつや摂食障害、引きこもりを経験し、夜の世界で働いたことも。半年前(2024年11月)に著書「子どものウェルビーイングとひびきあう」を出版した山口医師に、大人はこどもとどう接するのがいいのか、聞きました。 ――こどものウェルビーイングとはどういうことなのでしょうか。 ウェル(well:良好な)とビーイング(being:~である、存在する)が合わさった言葉で、何をするか(doing)だけではなくて、存在そのもの(being)が、心も身体も周りとの関係の中でも、ちょうどよく満たされて心地よい状態、そのゆらぎのプロセス(過程、行程)のことだととらえています。 重要な点は、ウェルビーイングはいろいろな要素が組み合わさった包括的な状態であり、個人のことだけじゃなくて、社会全体との相互作用の中で心地よい状態、ということです。 ウェルというと「すごく元気でハッピー」みたいな状態だと誤解されることもあるかもしれませんが、わたしたちは良いときもあれば、そうじゃないときもあって。ゆらゆらとゆらぐんだけど、安心してゆらぎながら、その人にとってちょうどいいところに落ち着いていける。そういう「プロセス」(過程)のことなのかなと思っています。
――イキイキしていることとか、すごく元気で楽しい状態が良いみたいに思ってしまいがちですが。 ウェルビーイングとハピネスの違いは、ハピネスはポジティブな感情を持っていたり、何かに没頭していたり、「今ここ」がいい感じで幸せということになりますが、ウェルビーイングは、もう少し深い、包括的な概念で、そのいい感じの状態が「ある程度続いていく」という見通しが持てる状況とか、自分の人生の意味とか社会の中での自分の存在や関係性が「これで大丈夫」と感じられ満たされている、より立体的な、広がりがあるものです。 最近、経済界などでは、ウェルビーイングという言葉が生産性を高めるのに役立つことがある、などという強調のされ方をすることがあるのですが、それだけじゃないというか、ウェル(心地よい)であることはすべての人の権利で、その権利や尊厳が実現されている状態がウェルビーイングなんですよね。 わたしは本の中では、ウェルビーイングが実現した状態を表すのに「フローリッシュ」という言葉を使っています。個々の人が持っている種が、土とか水、太陽、周りの花などの相互作用によって、ちょうどよく花開いていく。夕方になったり雨が降ったりすれば自然に花が閉じるし、水が足りなかったら元気でない状態になるんだけど、いろいろなものの相互作用の中でちょうどよく花開いて、そして枯れていって、それがまた土に戻っていく…そういう循環みたいなもの。豊かに花開いているその人らしい状態、という感じです。