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【槍弓】魔法使いにはなりたくない!/Novel by 二条

【槍弓】魔法使いにはなりたくない!

5,326 character(s)10 mins


「私は、魔法使いにはなりたくないんだ……」
と幼馴染のランサーに相談する、20代後半のアーチャーのお話です。

※現パロ
※カッコいいアーチャーはいないかもしれませんすみません……
※なんでも許せる方向け
※べったーにあげていたものです

●お知らせ●
スパコミの槍弓新刊についてですが、書店委託分の追納が遅れており申し訳ございません。
7月のイベントに合わせて追納する予定ですので、間が空いてしまいますが今しばらくお待ちいただけますと幸いです。
イベントが近くなりましたら、またお知らせできればと思います。
よろしくお願いいたします。

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「私は、魔法使いにはなりたくないんだ……」
「あ?何言ってんだ。そもそも普通の人間だろうが、オレもお前も」
「……私の年齢と魔法使いという単語を深読みしろ」
「ハァ?なんだそりゃ?………………。…………いやいやちょっと待てよ。ハ?え、マジかお前?」
「冗談でこんなことを言うか」
「だってお前、今まで何人恋人いたよ!?」
「世の中にはな、恋人の数とあれこれが比例しない人間だっているんだよ、ランサー。君と違ってな!」



魔法使いにはなりたくない!




* * *

「昨夜のことは忘れろランサー……」

ベッド上で身体を起こしたアーチャーが、重低音で言った。

「無理言うなよ。あんなインパクトでけぇこと、そうそう忘れられっか」

なんの話か、といえば、このままではアーチャーが魔法使いになってしまう、という話である。
酒の席での話だ。その場で冗談だと流されれば、ランサーは深追いせず、疑いもせずにそれを信じていただろう。
しかし、酒に酔っていたとはいえアーチャー本人から「冗談ではない」と真面目なトーンで言われてしまっては、センシティブな内容なだけに笑い飛ばすこともできなくなった。
男とは、下半身事情でテンションが高くも低くもなる繊細な生き物なのである。
その時ランサーは、この件でアーチャーを揶揄ったりするのは避けた方がいい、と本能的に察知した。
重苦しくなった場を誤魔化すように、とりあえず飲め飲めと酒をすすめ、すすめた以上に己も酒を飲み、気付けば慣れ親しんだ自室で朝を迎えていた。
かなり酔っていたはずだが、飲み屋から無事に帰還した自分の帰巣本能は中々のものだ、とランサーは無駄に感心する。
ついでに隣の男も放置せずにしっかりと連れ帰ってきたことは、褒められてもいいのではなかろうか、と肘枕をしながら思った。
酒を飲んで潰れたアーチャーを自分の家まで持ち帰ることは少なくない。
半ば抱えるようにして連れ帰った男を、雑にベッドに転がし、適当に靴下を脱がせてやったのは覚えている。その横に自分も適当に服を脱いで転がったため、現在のランサーは下着一枚だ。
短くない付き合いの幼馴染であるので、共にベッドで寝ることも互いの裸にも今更なんの感慨も覚えはしない。
アーチャーは二日酔いが酷いのか、それとも他のことで頭が痛いのか、額に掌を押し当てて項垂れている。
いつもはきっちりと撫でつけられている髪は額に下りており、後頭部にいたっては奔放に跳ね放題だ。

「事細かに覚えている自分が憎い……」
「お前、酒で記憶飛ばすタイプじゃねえもんなぁ」
「貴様がそのタイプであったなら、どれだけ救われたことか」
「そりゃ残念だったな」

酒に強くはないアーチャーだが、記憶をなくすタイプではない。対するランサーはかなり酒に強く、もちろん記憶を飛ばすタイプではなかった。

「なぁ、昨日の話の続きがしてぇんだが」
「嫌だ」
「なんでお前、やるとこまでいかねぇんだ?」
「嫌だと言っているだろう!話を続けるな!」
「性欲あんまりねえとか?抱きてぇとかならなかったりすんのか?」
「性欲なら充分すぎるほどにある!」

拒絶の言葉を取り合わず、どんどん疑問をぶつけていけば、結局アーチャーは自棄気味に答えた。
センシティブな話題だ、と昨晩気を遣った人間はどこへやら。酒が入ったランサーの方が余程気遣いができていたが、現在の素面のランサーはそんなことはお構いなしだ。

「ならなんでだよ。付き合ってた奴、結構いただろ」
「昨夜も言ったがな、ランサー。付き合っていた人間の数がイコール経験人数にはならないんだよ。いろいろとワケありの人間だっているんだ」
「んじゃ、そのやらなかったワケってのはなんだ?付き合ってた奴らが変人だったのか?」
「……別に変人ではない。それにやらなかったのではない。できなかった、が正しい」
「……インポ?」
「違う!!……ただ私が、上手くタイミングを読めなかったのだと思う」

観念したようにアーチャーが話し出す。

「どれくらいでそういう雰囲気に持ち込めばいいのかいつもわからなくなってしまってな。ずっとタイミングを逃し続けて、最終的にはふられる」
「ふられる?お前がか?」

アーチャーは派手な顔立ちの美形というわけではないが、それ相応に整った容姿をしているし、性格も多少小うるさい部分はあるが、目に見えて人格破綻者というわけでもなく、ごくごく一般的な人間、に見える。少なくとも上辺は。
付き合う人間としては、それなりに優良物件のはず、とランサーは客観的に幼馴染を分析する。

「『わたしが欲しいのは恋人であって、執事じゃない』とか……。……ああ、母親みたいに思えてきてもうだめだ、と言われたこともあるな。こんな男を捕まえて母親だなどと、きみの母親はどれだけ逞しいんだ?と聞いたら、そのまま平手打ちを食らったが」
「あー……」

アーチャーの歴代の恋人の言い分が、ランサーには少しだけ理解できた。
そしてアーチャーが俗に言う「それっぽい雰囲気を出す」ことが壊滅的に下手なのであろうことも、今の言葉から察せられる。
普段は、可愛い子なら誰でも好きだよ、などとドンファンじみたことを言っておきながら、どうやらこの幼馴染は付き合ってからの「恋人として」の対応がマズすぎるようだ。

「そんなことが数回続いてみろ。いよいよ恋人へどう接すればいいのか分からなくなる」
「なるほどなぁ……」

アーチャーの歴代の恋人にも同情するが、上手く事に持ち込めない目の前の男への同情もあり、ランサーは珍しくアドバイスの一つでもしてやるか、という気持ちになった。

「なんか、こう……そろそろ……みたいなことを言えばいいんじゃねぇか……?いい感じの雰囲気出してよ」
「そろそろ……?そろそろセックスしないか、とでも言えばいいのか?」

真顔で首を傾げたアーチャーに、ランサーは首を振った。

「いや、そりゃちょっと直接的すぎんだろ。それだけが目的のセフレだとかそういう相手なら、まぁまどろっこしくなくていいかもしれねぇが」
「……お前の言うことが今ひとつ理解できない。そもそも『いい感じの雰囲気』というのはなんだ?具体的にはどんなものなんだ?直接的ではない言葉で、どう相手を誘えばいいんだ?伝わるのか?」
「あー……」

藪蛇だ、とランサーは思った。
アーチャーは自分が思っていた以上に拗らせている。このままでは魔法使いもあながち夢ではないかもしれない、とそんな考えが頭を過る。

「……テメェにゃ、実践してみせた方が早ぇか」

言葉での説明はランサー自身もあまり得意ではない。
そしてこの幼馴染は理解できないことは理解できない、と全力で主張してくる質だ。ならば、百聞は一見にしかず、である。その方が手っ取り早い。
よっこいせ、と寝転んでいた身体を起こす。
怪訝な顔でこちらを見ている寝癖白髪頭の褐色男を見て、ランサーはこれは褐色肌の美人だ、女だと思え、と自分に強引に思い込ませる努力をする。
セミダブルのベッドで膝を抱えていた幼馴染の身体を軽く押し、壁側に追い詰める。そのまま壁に手をつき腕で囲むと、アーチャーには見せたことのない類の笑みを至近距離で浮かべてみせた。そして。

「そろそろ次に進んでもいいと思うんだが……。……どうだ?」
「…………」
「……とまぁ、こんな感じだ」
「……………………」
「………………………なんか反応しろよ。虚しいだろ」
「ハ、あ、ああ……。いや、今更認識したのだが」
「あん?」
「きみは、意外と顔も声もよかったのだな……?」

本当に今更である。幼い頃から散々見てきたために何も感じなくなっていたのかもしれないが、ランサーとてそれなりに容姿はいい方だ。
今気付いたと言わんばかりのアーチャーだが、しかしその反応はランサーが求めていたものではない。

「人がお手本見せてやったってのに、感想がそれかよ……」
「あ、いや、参考にはなった。なったが、こういうのは顔と声が揃ってこそ、使えるものなのではないのかね」

声質で言えば、ランサーのそれよりもアーチャーの声の方が甘く響く。顔に関してもさして問題があるとは思えなかった。
ランサーはボサボサの頭を掻きながら、あくび混じりに言った。

「お前でも問題ねぇだろ」
「いや、問題あるだろう」
「ねーよ。大丈夫だって。おら、オレを絶世の美女だと思って口説いてみやがれ」

励ますつもりで言えば、アーチャーは眉間に皺を刻み、嫌そうな様子を隠しもせずに言い放った。

「こんな寝癖全開でうっすら髭の浮いた美女がいてたまるか」
「うるせえ!人が付き合ってやってんだぞ!」
「別に頼んでいないが……。でもまぁ、せっかくだしな。……では」

ごほん、と一度咳払いすると、アーチャーは真面目な顔でランサーに向き直った。

「私たちはそろそろ次のステップに進んでもいい頃合いだと思うのだが、どうだね?」

やけに気障ったらしくいい声でそう言うと、おまけと言わんばかりにアーチャーはバチン、と片目を伏せてドヤ顔をした。
自分では問題がある、と渋ってみせたわりに、いざやるとなればこれである。

「……キザすぎんだろ……。その表情も含めてマイナス20点だ。普通にひく」
「なんだと!?」
「なんか変に芝居っぽいんだよなぁ。言ってることもいちいち台詞くせぇ。本当に心底そう思ってんのか?って感じるわ」
「だが、ガツガツした部分を見せるのも、あまり好ましくないと思うのだが」
「性欲を前面に出せっつってるわけじゃねぇよ。つか、お前ほんとにやりてぇとか思ったことあんのか、マジな話」

そう問えば、途端に視線を泳がせたアーチャーが少し気まずそうに口を開く。

「……私だって男だからな。…………あるに決まっている」

鋼を思わせる硬質な瞳が、所在なさげに揺れる。どこか羞恥を感じているようなアーチャーの様子に、ランサーはうなじの毛がぶわっと逆立つような感覚を覚えた。

「っ、そういうやつだよ!そういうやつ!世の中が求めてんのは!お前はなんつーか、本心をこう……素直に出していった方が絶対いい。下手にカッコつけてるよか余程いいぞ」
「いや、しかし……」
「しかしもクソもねーよ。散々カッコつけてきて魔法使いに片足突っ込んでんだろ。その作戦は失敗だ。そろそろ路線変更しろ」
「ろ、路線と言われても」
「お前はもう少し自分に素直になれ。可愛げを出していけ。多少カッコ悪ィとこ見せたってギャップってことで片付くさね」
「……そうだろうか?」

可愛げというものはよくわからないが、とアーチャーが苦笑いを浮かべる。

「おう。オレはお前のキザったらしいキメ台詞より、その後の本心を言ったときの方がよほどそそられたぜ」
「そうか。……ありがとうランサー。今日は最悪の目覚めで、起きてから君の頭を全力で殴ろうと何度か本気で思っていたところだが、結果的には君からの意見を聞けてよかったよ」
「おいこら、さらっと殺意の告白してんじゃねーぞ」
「ここまできてしまったのなら、ついでにもう一つ聞きたいことがあるのだが」
「オレの言ったこと完全無視かよ。人の話聞けや。……で?なんだよ」

文句を言いつつも、結局は先を促すランサーである。ここまできたのなら、という思いはランサーとて同じだ。それを言葉にする気はないが。

「その、セックスとは気持ちいいものか?」
「…………。まぁ、そうだな」
「そ、そうか。やはりそうなのだな。おかしなことを聞いてすまない」

ここは修学旅行中の、深夜の学生部屋か?

中高生くらいでとうに終えているような話題を口にして一人で照れているアーチャーを見て、ランサーは新種の生物でも発見したような気分になっていた。
さすがは魔法使いになりかけの男である。
今更そんなことを聞いてきたかと思いきや、アーチャーはそれ以上言葉を続けないため、会話は瞬時に終了した。
この程度の質問と返答だけで充分だと言うのだろうか。
もっと突っ込んで聞くことがあるのではなかろうか。
これでは猥談のわの字までも到達せず、平仮名の一画目で終わっているようなものだ。

「……もっと他に聞きてぇことねぇのか」
「いや、もう充分だ」

首を振ってこれ以上はない、とアーチャーが呟く。

「朝からする話でもないし、な」

抱えた膝の上に顎を乗せつつ、アーチャーはしきりに髪の毛を直すような素振りを見せる。
羞恥を誤魔化すためらしいその仕草に、ランサーはコイツはマジで童貞なのか、と再認識した。


スカした幼馴染は、実は相当初心な、魔法使いになりかけの男でした、なんて。

よくある酔い潰れた翌日の光景が、たった一つの情報で一変してしまったような気すらした。

褐色の耳朶を僅かに染めている男に、何故だかランサーは、ぎゅう、と心臓を掴まれたような気持ちになってしまったのだった。



Comments

  • わんわんお
    November 23, 2024
  • September 29, 2023
  • April 30, 2023
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