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【現パロ】ドナーとレシピエント【槍弓】/Novel by 怜理@twitter

【現パロ】ドナーとレシピエント【槍弓】

5,339 character(s)10 mins

現パロで弓の目を移植する槍のお話。書いてる最中にふと「これって誰が得するの」という真理に至ったため、導入と設定だけ投げます。■…正直、まだ槍弓になってません。というか兄貴は昏睡しているだけというこの幸運Eがっ…!■ひぃっ!!全裸待機タグありがとうございます((((;゜Д゜)))頑張ります…!でもまだ寒いのでお洋服は着てくださいね!

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月の美しい夜だった。
暗い路地は月明かりに照らされて仄かに青白く、どこか神聖な雰囲気さえ漂わせていた。その中を黒い影が足音を立てて通り過ぎる。
黒い影は長身の青年で、上から下まで黒い服を纏っていた。が、月光を固めたような白髪だけがキラキラと美しく輝いていた。
「  」
影は何かを呟いた。それはあまりに小さくて聞き取れないほどだったが、彼はゆっくりとしていたその歩みを少しずつ早めていった。静かな夜には不釣り合いに響く足音は、段々と焦るように、そのくせ躊躇うように大きさを増していった。規則的に刻まれ続けたそのリズムは、青年が探し求めたものを見つけたと同時に途切れた。
彼がこの月夜、よく慣れた路地で感じた違和感は酷く残酷なものだった。普段の錆びた鉄と砂埃の匂い。その中に、錆びた鉄に酷く似ていて、でもひどくあまい。そんな匂いが混じっていたのだ。
そんな血の匂いに彼は気付いてしまったのだ。

褐色の肌に白い髪を持った路地に一人立ち尽くす青年は目元を悲痛に歪ませて、それでもしっかりと足元を見据えていた。かつて正義の味方を夢見たその青年は名を『エミヤシロウ』と言う。
そしてその青年が見下ろす先に倒れ込んでいるのは、白い肌に青い髪を持ち、泣いたように目から血を流した青年。青年は名前を『クー・フーリン』という。


――――――――――――――――――――


そっと、言峰綺礼は目を開いた。
日付も変わろうかというその時間に彼は何故だかその眠りを自ら妨げた。上半身を起こし、小さくため息を吐いて頭を働かせる。
気だるい眠気の中、ふと言峰は先刻起きたことを思い出した。

「最近は随分大人しいじゃないか、エミヤ」
そう話しかけると、青年―エミヤは不愉快そうに眉を寄せた。
「私がいつも暴れているような言い方をするな」
鋼色の瞳は中々この国では見ることのない異色なものだ。ゆるりとその目が伏せられたのを見て、言峰はふとこの男の養父であるもう一人の「エミヤ」を思い出した。
すべてを救おうとして、多くを見限り、そして最後には自分の唯一救えた少年さえ一人残して逝った男。腐れ縁ではあったが、ひどく気にかかる男だった。そして、歪んだ形ではあるが、あの男の正義をまた再現しようとする愚かな少年は時を経て取り返しのつかないところまで堕ちていた。
この男も、世界さえ違えば「英雄」と呼ばれ万能の杯を巡る戦いへ身を投じていたというのに。
「滑稽だな」
誰にともなく呟いた言葉にエミヤはより眉を寄せて言峰を睨み付けた。
「なんとでも言え。ただし嫌とは言わせんぞ。貴様の右手に動く手が付いている限りはな」
「わかっているさ。私は嘘はつかないよ」
聖職者だからね。と微笑めば、似非神父が。と罵倒の言葉がとんだ。
ああ本当に、何故この親子は他人のために自分を犠牲にできるのだろうか。理解が出来ないが、確か、ずっと昔に、自分がなりたかったものはそんなものだったような気がする。そんな子供の夢は忘れてしまったし、今も持ち続けたいとは思わない。
だがこの男は―否、この男だけではなくこの男の養父もだが―常に少年なのだ。
「体はおおかた治っている。これなら当分来なくても大丈夫だ。」
そう言って一歩引けば、エミヤは小さく溜め息をついた。それが安堵のものだったか苛立ちからだったのかはわからない。
「これで当分貴様の顔を見ずにすむと思えば言われなくても体調も良くなるだろうよ」
そんな皮肉を捨て台詞のように残してエミヤは席を立った。思い扉がギィと音を立てて閉まり、彼の短い白髪が少し風に揺られて消えた。

言峰はほんの一時間程前のことを思い出し終わってから、もう一度ベッドへと身を投げ出した。
よくよく考えればまだ一時間しか眠っていないのだ。そう思えば段々と眠くなり始めて、次第に視界が狭くなる。眠りというものが心地良いと感じるのはこの微睡みくらいだと思う。
浮遊する意識の中、それを引き留めるかのように遠くにガタガタという慌ただしい音を聞いた。
「む…?」
何事かを考える暇もなく、ドアの外からつい先程思い出した声で「言峰、言峰!!」と叫ぶ声がした。やはりこの男が大人しくしているなんて買いかぶりだった。
「なんだ、エミヤ」
さぁ今日はどんなものを拾ってきた。
先程の眠気は何処へ行ったのか、次第に上がる口の端を隠すこともせずに言峰はドアに手をかけた。


――――――――――――――――――――


美しい男だった。
地面に倒れ、土にまみれ、血を流していたとしても、その男は美しかった。
この辺りはそもそも人などほとんどいない、廃墟が立ち並ぶ路地裏だ。だからこそエミヤはここを住処としていたし、ましてやこんなところで生きているとも死んでいるともわからない男に遭遇するなんて思ってもいなかった。
ただ、血の匂いを嗅いだときからある程度の覚悟はしていた。だが、そんな心の準備も全部ぶち壊すほどにその男は美しかったのだ。
歳はそうエミヤと変わらないように思う。一見すると細いが、華奢なわけではなく、しなやかな獣を思わせるように筋肉が付いている。襟足の長く伸ばされた青い髪は無造作に地面へと広がり、月の光を受けて水面の様に輝いた。
ただその男が他と少し違ったのは、その右目から涙のように赤い血が流れていることだった。
エミヤは人が傷つくことを良しとしない性格である。だから、普段ならばすぐにその男をどうにか知り合いの神父の元まで運び込んだことだろう。
だが、エミヤはそれをしなかった。というよりも出来なかった。
その美しい男に見惚れてしまったのだと気づいたのはそれからどれほどの時間が経ってからだっただろうか。
やっとの思いでエミヤは早くしないと手遅れになるとその男に手を伸ばした。抱き上げようとすれば、その髪が手を滑ってギクリとする。
「…美しいものに触れるのは慣れんな……」
エミヤは自嘲気味に呟くと、一度大きく頭を振ってから男を担ぎ上げた。なるべく揺らさないように、しかし早く教会へたどり着くように。いつになく不安定な足取りでエミヤは丘の上の廃教会を目指した。
「言峰、言峰!!」
声を荒げて教会の扉を叩けば、ニヤニヤと底意地の悪い笑みを浮かべて言峰が戸を開けた。
「なんだ、エミヤ」
「私の家の側で倒れていた。目に怪我をしているようだ。このままでは危ないかもしれん」
エミヤはそう捲し立てながら、抱き上げていた男を言峰へと向きあわせるように抱え直した。
男の青い髪が大きく揺れ、言峰が大きく目を見開く。この男のそんな顔を見るのは初めてで、エミヤは思わず問いかけた。
「知り合いか」
「…いや、知らん。なかなか趣味の悪い配色だと思ってな」
そう言うと言峰はまたすぐにいつものニヤニヤとした人を馬鹿にした顔に戻って一度だけ男の髪に触れた。
それは、何とも言えない、形容しがたい雰囲気を纏っていてエミヤは目眩さえ感じた。
だがそんな空気もすぐに無くなり、代わりに言峰がよく見知った地下への扉へと歩いていくことでまた緊張感が広い教会に広がった。
「助けられるか」
絞り出した一言は、エミヤにとって何よりも大切なことだった。彼の養父は全てを救おうとして一つしか救えないような男だった。だからエミヤは目に見える人間くらい救えるようになりたくて、それが自分も相手も傷つけることだとわかっていても手を差しのべてきた。
赤い可憐な少女にも、
黄金の不遜な青年にも。
だから今度も、救えるのならば。
そう期待を込められた言葉は、無機質な男の言葉によって切って捨てられた。
「右目が潰れているな。生き延びさせることは可能だろうが恐らく右目は失明するだろう」
「失…明…?」
思わずエミヤは問いかけるように言葉をこぼし、言峰は律儀にそれへと返答した。
「だが死ぬわけではない。この怪我でそれだけで済めば安いものだと思うがね」
言峰はそう嘲笑するように言うが、エミヤはまったくと言っていいほどその話を聞いていなかった。
違うのだ。エミヤの言う「救う」はそんなことではない。それは普通の人間が抱くには過ぎた願いで、しかしそれをできる男が目の前にいる。今まではそうして助けられた。この神父の言う「無理だ」がどんな意味を含んでいるのかをエミヤは知っていた。だから今度も
「それは、目があればどうにかなるのか」
エミヤはまた自身の首を締めていくのだ。
「そうだな。目さえあればどうにか治せるかもしれんが…だが、眼球だぞ。そう簡単に用意できるものでもあるまい」
言峰はニヤニヤとエミヤを見る。このやり取りももう三度目で、どうなるのかなんて互いにわかりきっていた。
「ならば、私の目を使え」
だからそうエミヤははっきりと言峰に告げた。
普通ならば不可能なことだ。だが目の前の男はどうやら普通では無いようで、エミヤの言葉を聞くなり笑みを濃くして青い髪の青年の寝かされたベッドの横へと立った。
「言っておくが、お前の右目は見えなくなるぞ」
「わかっている」
そうか、と言峰は小さく呟いてエミヤをもう一つのベッドへと促した。
この小さな地下室は元々ベッドが一つだけ置いてあるだけだった。だがエミヤが移植を必要とする相手を連れてきた時に、仕方なく言峰がベッドをもう一つ運び込み、そのままずっと置きっぱなしにされている。
最早エミヤのものとなってしまったベッドへ横になると急に酷い眠気に襲われる。どういう原理なのか知らないが、これはこの男の力らしい。かつて、魔法のようだなと言ったら、「魔法だなどととんでもない。ただの魔術だ」と返された。正直なところその違いなどわからない。だが言峰にとっては大切なようだった。なんなのだろう。不思議だ、不思議なことと言うのはいつまでも付きまとう。そういえば、あの青い髪の男のことも何か知っているようだ。なんなのだろう。なん――――

ぷつんと、思考が眠りへ落ちたのを感じた。


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