表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
292/978

立ち上がれ、戦士たちよ!

 1.チュートリアル空間


 ポポロンの触手が俺の目の前を通り過ぎた。リチェットが割り込んで俺を止めてくれなかったら死んでいただろう。

 感謝の言葉を言っている暇などなかった。リチェットが俺を担いで踊るようにポポロンの追撃を躱す。迸る稲妻のエフェクトが宙に溶ける。【スライドリード】のオーバーフロー。ささやき魔法とニュートラルの【スライドリード】は職業を問わないスキルだ。無職でも使える。ムキダシサモナーだから使えないってことはない。

 俺を担いで回避に徹するリチェットを追い抜いてサトゥ氏が前に出る。

 ポポロンの反応は早い。打ち出された触手がサトゥ氏に迫る。

 リチェットが120%化した。

 サトゥ氏の頭の横に念獣みたいなのが浮かび上がる。

 サトゥ氏のアビリティは自動発動という特性を持つ。タイミングが良すぎる。リチェット、お前のアビリティは……。

 国内サーバーに名を轟かせる廃人三連星の中でリチェットだけがアビリティを発現していないのは不自然だ。そうじゃないとしたら。実はとっくのとうに発現していたとしたら。

 思えば、ずっと前からそういうふしはあった。例えばョ%レ氏と戦った時、アタッカー勢が一気に崩れ出したのはリチェットが死んだ直後だった。

 アビリティの相互作用。他者のアビリティ発動を助け、結び付けることができるとすれば、そのアビリティは究極の一つとも言えるかもしれない。

 そして複数人によるアビリティの同期を前提としたなら、サトゥ氏は人間の限界を越えることができる。

 ポポロンの触手を跳んで躱したサトゥ氏の目から漏れ出た光が宙に青白い軌跡を引く。

 空中で身体を丸めたサトゥ氏が眼前に剣を構える。

 ポポロンの波状攻撃。弧を描いて襲い掛かる触手と縦横無尽に宙を駆ける【全身強打】がサトゥ氏に殺到する。


 サトゥ氏のアビリティ、スキルチェインはリチェットの助けを借りることで同時に複数のアビリティを並行起動できる。

 おそらくはプレイヤーに備わったスキルコピーを流用しているのだろう。

 事前に他者のアビリティをストックしなければならず、またストックしたアビリティは使い捨てになるという欠点はあるようだが、限られたリソースを限度一杯まで引き出した最高峰のアビリティだ。


 稲妻のエフェクトを帯びたサトゥ氏が宙を滑る気持ち悪い動きでポポロンの波状攻撃をするすると躱していく。

【スライドリード】の慣性制御と部位別使用を突き詰めていけば人間の動きはゴキブリのそれを容易く越える。

 サトゥ氏の渾身の斬撃がポポロンの外皮を浅く裂いた。

 プライドを著しく傷付けられたポポロンが咆哮を上げた。

 至近距離から咆哮を浴びてグラついたサトゥ氏の片腕にポポロンの触手が巻き付く。

 ポポロンの核が脈打つ。同化しているガムジェムが禍々しい光を放つ。ポポロンの核から眼球が生えた。ギョロリと動いて宙吊りにしたサトゥ氏をじっと見つめる。

 セブンの援護射撃。二周目に入って間もないからか、イロモノには走らず、ちゃんと弓矢を使っている。

 セブンが叫んだ。


「メガロッパ! ハチ! 前に出ろ! お前らはもう俺よか強え! いつまでも甘えてんじゃねえぞぉ!」


 ポポロンのフックショットにセブンは対応できなかった。レベルが低すぎるのだ。持ち前の反応速度に身体が追い付いていない。脇腹から胸に貫けたポポロンの触手にセブンがしがみ付いて吠える。盛大に吐血しながら、


「これからはッ、お前らの時代だッ!」


 はっ、返り咲く気満々の癖によく言うぜ。

 だが、いいだろう。俺も乗ったぜ。

 俺はリチェットに担がれながら手頃なナイフを拾い上げて自分のこめかみにぴたりと押し当てた。

 行け。メガロッパ、ハチ。腐れメイトどもは俺に任せろ。俺がポポロンのヘイトを稼いでやるよ。

 俺は目に力を込めた。セクハラの魔眼を連射して目が潰れたら自害する。その繰り返しだ。

 リチェットが俺を庇ったのはこのためだろう。ムキダシメイトを危機から遠ざけるためにはチュートリアル空間から脱出するのが一番早い。それがポポロンの狙いだったんだろう。だが俺ならやっこさんのヘイトをコントロールできる。

 古今東西、剥き出しの性欲ほど女の嫌悪感を煽るものはないのだ。

 ポポロンは概念上における俺の「夫」ということになるが、生物学的には女なんだろう。それは絶対服従の【戒律】と引き換えに子を望んだことから分かる。男の発想じゃない。レイド級はプレイヤーの成れの果てという疑いがある。まぁ雌雄同体という線もあるが。

 おらおら! ここがイイんだろ!? アバズレがっ!

 俺というセクハラキャノンを抱えたリチェット隊長がポポロンの触手を超人的な動きで躱していく。完璧なコンビネーションだ。しかし隊長殿はご不満の様子。


「もるるっ……」


 ハチと宰相ちゃんはバラバラに動いていたようだ。普通はまとまって動くだろ……。相変わらず仲が悪い。

 ポポロンの触手を飛び越えたハチが残像の尾を左右に引いてきゃるるんと叫ぶ。


「セブンさん! 俺、やっぱりあんたが好きだ!」


 ええ?

 突然の告白にセブンは微塵も動揺していない。


「じゃあ結婚するか」


 ええ?

 なんかチチに告られた悟空みたいなこと言ってる。


「うん!」


 嬉しそうに頷いたハチがポポロンの触手を紙一重で躱しながら前に出る。

 一方、ポポロンに囚われたサトゥ氏がヤバい。


「ちょっ、ちょっ! なんかヤバい! これナニ!? 俺ナニされるの!?」


 サトゥ氏に巻き付いた触手の先端に小さなブラックホールみたいなのが浮かんでいる。おそらく【全身強打】を凝縮したものなのだろう。絵の具の色を混ぜていくと最後には黒になる。

 ポポロンはこの中で一番厄介なゴミがサトゥ氏であると考えたようだ。

 俺たちは【全身強打】というスキルを知り尽くした訳ではない。

 放っておいたらどうなるか興味あるけど、それはまた余裕がある時にでもお願いしたい。

 俺はニヤリと笑って言った。

 メガロッパ。行け。

 トコトコと歩いてきた宰相ちゃんが地面に落ちていた剣を拾い上げてじっくりと眺める。簡単に素振りして不満げな様子を見せたが「まぁこんなものですか」と無理やり自分を納得させた。

 よそ見している宰相ちゃんにポポロンのハーケンディストールみたいな【全身強打】が迫る。

 しかし宰相ちゃんはこれを難なく躱した。当たったように見えたが、そちらは残像だったようだ。

 宰相ちゃんは不思議そうに首を傾げた。


「【全身強打】を縦に撃つ意味って何かあるんですか?」


 知らんのか? 舐めプさ。

 俺は適当に言った。本当のところは速射性を重視しているか、十字に組み合わせて撃てばジャンプで避けられないとかそんな理屈だろう。

 宰相ちゃんはチラリと俺を見て頬を赤らめた。何だよ。


「め、珍しくがんばってるからご褒美あげようかなって」


 そんなこと言って俺のこと殺すんでしょ? もう騙されないよ。

 宰相ちゃんは稲妻のエフェクトを散らして俺の首を刎ねた。ほらぁ。こんなこともあろうかと頭を両手で押さえていた俺は命の火を燃やして首をくっ付けた。

 恥ずかしそうにプイとそっぽを向いた宰相ちゃんが前線に駆けていく。

 ったく。おい、リチェット。お前ンとこのメンバーはどうなってんだよ。教育がなってないんじゃないの?

 リチェットはフフリと笑った。


「メガロッパは明るくなった。色んなことに興味を示すようになったし。オマエの影響なのかも」


 ええ? 処刑人みたいになってるじゃん。そこはスルーなの?

 スルーされた。

 さて、ハチのメイン職はガンナーだが、アイツくらいの廃人になると前衛も魔法職も一流に近い水準でこなせる。他職の立ち回りを理解するためには自分で実際にやってみるのが一番だからだ。他職の立ち回りが理解できればメイン職の動きも洗練されたものになる。

 このゲームはジョブチェンジが面倒臭いのと【スライドリード】がやたらと便利なので万能選手を目指すよりメインジョブ一本で行くプレイヤーが多い。それでもやはり前衛、後衛、魔法職は一通り触っておいたほうが間違いはないと言われている。

 ハチはメガロッパに勝るとも劣らない大型新人だ。トップクランは各分野のエキスパートの集まりなので、具体的なアドバイスや壮絶な体験談に事欠かない。

 槍を拾い上げたハチが【スライドリード】を駆使してポポロンの触手を切り刻んでいく。遠心力を利用した動きは本職顔負けだ。

 宰相ちゃんがハチに追い付いた。目を合わせようとしてバラつく。一応、息を合わせようという意識はあるようだ。しかし相性が悪い。考えが噛み合ってない。うぅむ。課題は多いな。

 ともあれ、二人の個人技は際立っている。逆に言うと個人技で無理やり押し切った。ハチが触手を引き付け、わずかに空いた射線に宰相ちゃんがねじ込む。


「サトゥさん!」


 宰相ちゃんが投擲した剣は狙い違わずサトゥ氏の土手っ腹に突き刺さった。


「サンキュー!」


 サトゥ氏は死んだ。ポポロンの魔の手を逃れて素早く後退していく。

 俺は思わずリチェットさんを見た。サトゥ氏が他の女に殺された訳だが、リチェットさん的にはあれはアリなのだろうか……?


「ん? なんだ?」


 おや、まったく気にした様子がない。これはどうしたことか? 別件? 別件なの? 分からない……。闇が深すぎる。

 ともあれ、ポポロンのタゲを取ることでゴミどもの脱落を最小限に抑えることができた。

 武器の供給にもメドが立ったようで、徴発部隊がどんどん合流してくる。

 ゴムまりみたいに跳ねるポポロンは厄介だし【全身強打】の乱れ打ちは避けようがない。

 だが、レイド級といえど体力はいずれ尽きる。開戦当初と比べ、触手の精度は間違いなく落ちている。段々攻撃パターンが減ってきた。細かく狙えなくなってきたから、なぎ払いを連発するようになる。まぁクソ廃人と違って避けるのは無理にしても。ポポロンが疲れている、と分かれば種族人間の士気は上がる。

 休憩がてらに飲み屋で一杯飲んできた俺は、上着を肩に引っ掛けてチャッピーと一緒にチュートリアル空間に舞い戻った。

 チャッピーというのは俺のメイトちゃんの名前である。

 まぁなんだ。チュートリアル空間から抜けたら普通に再召喚できたぜ。

 さて、現地のチュートリアル空間はすっかり戦勝ムード。酒とつまみを持ち込んだゴミどもがあちこちで宴会をしていた。俺も負けちゃいられない。酒とつまみを手土産に適当なゴミの輪に混ざる。かんぱーい。

 真面目ぶったゴミが負けフラグだの何だのうっせーが、こちとら人間爆弾もナシに一日で決着が付くとは最初から考えちゃいないのだ。

 大切なのはメリハリを付けること。人間は機械じゃない。無理に緊張状態を維持してもコストパフォーマンスが落ちていくだけだ。

 つまり俺の本日の業務は終了したのだ。

 まぁお前も堅苦しいこと言ってないで飲めよ。俺は真面目ぶったゴミの肩にガッと腕を回した。俺ぁな、腐れメイトがヤバいっつーから目を使ったんだ。なのに普通に復活されてよ……。俺がどんだけ……。いや、分かってる。アホなのは俺だ。少し考えれば分かることだった。最低でもいっぺん試してから判断を下すべきだった。チャッピーは悪くない。


「ミダシナミー!」


 おぉ、チャッピー。よしよし。お前は悪くないぞ。俺はチャッピーを撫でくり回してやってから、ゴッゴッと麦を喉に流し込んだ。

 知らないゴミが俺に声を掛けてくる。


「おい、崖っぷち。ペース早くねえか? お前はいつもそうだ。身の程ってモンを知らねえ。ポチョさんはどこだよ?」


 お前らさ、なんで俺の保護者がポチョみたいな感じで言うの? アイツの謎の人徳が俺は最近怖くなってきたぜ……。

 まぁいいけど。ポチョなら【敗残兵】の連中と一緒だよ。ウチの子たちはリチェットやらメガロッパと仲がいーんだ。ジャムジェムに至っては俺より顔が広いかもしんない。人懐こいからな。俺に似たんだろう。まぁ飲めよ。杯が乾いてンぜ?

 ああ、ゲーム内マネーで飲む酒は最高だぜ。懐が痛まねえのが何より素晴らしい。休憩しろって言ってんのに無視して懲りずにポポロンに挑んで四散するサトゥ氏を肴に酒がススむ。楽しいのぅ、楽しいのぅ。わっはっはー。わっはっはー。

 俺はゴミどもと一緒にひとしきりドンチャン騒ぎしてから、チャッピーを抱いて地面に寝っ転がった。あともうちょっと。もうちょっとしたら俺も戦うからぁ。新スキル欲しいから俺がんばるよ。がんばる、から……。すやぁ……。

 



 これは、とあるVRMMOの物語。

 減点1。



 GunS Guilds Online


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ