ピュアタマ、心の向こうに
冥王の日。
大量ロスト事件のことだ。
.hackにあやかってるらしい。
.hackの何が凄いって現実的に技術的に無理なゲームをゲームでやっちゃったことだよな。やられたって思ったもんよ。
で、冥王の日なんだが。
このゲームはキャラクターロストするとゲームにまつわる記憶が消えてなくなる。
それはもうデスノートの所有権を放棄するみたいに上手い具合に消える。
要するに自分の中で整合性が崩れるとかそういったことが一切ない。
まぁ元より人間は忘れることで日々を生きている。昨日よりも今日が大切だから過去の記憶は底に沈んでいく。
つまるところゲームの記憶がなくなっても困らないのだ。
とはいえ物証は残る。
ネトゲーにハマればスマホのメモ帳にキャラビルドを書き連ねる程度のことはやるだろう。リア友と一緒に遊んでたならそいつから色々と言われたりもする訳だ。
残機がヤバくなったら自分自身にメッセージを残したりな。遣りようは幾らでもある。何しろ記憶がなくなってもスマホを手放すことはないからな。
俺もアホではないので、自分はペタタマではないと言い張っても無駄なことは分かっている。
だからといって大量ロストの主犯だの何だのと言われても困るぜ。そいつは俺の前世の話。今ここに居る俺には関係ねえ。
そうさ。俺はピュアタマ。この俺こそが真のピュアタマだ……。純真無垢、完全無比のピュアタマくんの誕生だ。祝福しろ。
1.チュートリアル空間
キャラクリを終えてログインすると、GMマレがニコリと笑って俺を出迎えてくれた。
……NAiじゃないのか? 他のプレイヤーは……居ないようだ。チュートリアルは30人単位で行われる。それは学校の組が30人前後なのと同じ理屈だろう。多すぎても少なすぎても回らなくなる。
たまたま俺が最初の一人ってことか? いや、そんなのは計算上4%未満だ。偶然じゃないと見るべきだろう。
ちっ、予定狂うぜ。
内心焦る俺だが、マレはお構いなしにくるりと回って片手を俺へと差し出した。
「GumS Gems Onlineの世界へようこそ! 私はGMマレ! よろしくね!」
また派手にキャラを変えてきやがったな。何だってんだ。
まぁいい。俺もくるりと回って片手を差し出した。
「メタタマです! よろしくね!」
マレはニッコニコだ。めちゃくちゃ上機嫌じゃねえか。何なんだ。
「メタタマね! 覚えたよ! これからチュートリアルを始めるけど準備はいいかな?」
俺は元気にぴょんと飛び跳ねた。はーい!
マレも元気にぴょんと飛び跳ねる。
「よぉーし! GMマレちゃんのチュートリアル始めるぞォ〜!」
あっ、コイツ……!
俺は察した。この女、俺をうまく利用するつもりだ。この純真無垢なピュアタマくんが何も知らないのをいいことに従順な下僕に仕立て上げるつもりか。ちっ、性根が腐ってやがる。
……だが考えようによっては好都合、か? プレイヤーの所有権を持ってるのはNAiだ。コイツ、マレに俺の心を読むことはできない筈だ。どうする。いきなり予定が狂った。いや、迷うな。とにかく先手を取ることだ。俺が状況をコントロールする。俺ならやれる。このピュアタマさんなら……!
俺はマレを籠絡するべく口を開き掛けるが、それよりも早くマレがハッとして振り返った。
「え? どうして……」
それは俺の台詞だぜ。次から次へと何だってんだよ……!
チュートリアル空間を埋める赤い輝きが渦を巻く。
たちまち燃え上がった命の火がリア充の輪郭を描く。
「驚いたよ」
踏み出した革靴がコツと音を立てる。
仕立てのいいスーツが翻る。
スラックスのポケットに片手を突っ込んだ男がマレを押しのけて俺の正面に立つ。
「このョ%レ氏に『期待』をさせるとは」
ぐっ、うう……!
俺は歯噛みした。な、なんでだ? なんでこうなる?
ョ%レ氏はダメだ。この男だけは騙しきれない。どんな演技も通用しない。全て読まれている。その想定で動くしかない。
俺は片手を突き出して吠えた。
「ベムトロン! やるぞッ!」
俺の腕からウジ虫が這い出した。
つんと顎を上げたョ%レ氏が傲然と俺を見下して笑う。言った。
「バックアップデータ」
マレは混乱している。俺とョ%レ氏を交互に見て戸惑いの声を上げるばかりだ。
「え? え? え?」
俺は賭けに勝った。その筈だった。
エネルギーが枯渇した母体はいったんリセットされて使い回されるのではないかと読んだ。単純にそのほうが無駄がないからだ。
母体に寄生できるベムトロンならば記憶を持ち越せる。正直そこは賭けだったが勝算はあった。何故ならばこのゲームの土台を作ったのは【ギルド】だからだ。
だから俺は前以てロストに備えることができた。ベムトロンと一緒に飲んだ時にこういうのはどうだろうと話を持ち掛けたのだ。
もしも、あの時。ベムトロンが承諾しなければ、俺は旦那に喧嘩を売ることはなかったろう。
つまりヤツと俺は最初からグルだったのだ。
もしかしたら俺は少しお喋りかもしれない。
もしかしたら俺は少し悪どいかもしれない。
だが、何の保証もなしにロストするほどアホじゃない。その場のノリと勢いで勝手にくたばった他のゴミどもとは違うのさ。
俺に寄生したベムトロンの腹から銃身が伸びる。標的は言うまでもなくョ%レ氏だ。死ねぇ……。
アナウンスが走る。
【GunS Guilds Online】
【警告】
【強制執行】
【手招く災禍】
【決して終わることはない】
【安らぎがあなたを縛るだろう】
【勝利条件が追加されました】
【勝利条件:ディープロウの殺害】
【制限時間:00.00】
【目標……】
【英雄】
【ディープロウ】【ョレ】【Level-99】
視界を埋めるアナウンスに構わず光線を放ち大きく横に振る。マレの安否を気遣うほどの余裕はなかった。
だがベムトロンのレーザーがョ%レ氏に届くことはなかった。
上から降ってきた怪獣じみた巨大スライムがレーザーを真正面から受けて弾いた。
使徒っ、ポポロン……!
ョ%レ氏がマレの腰に片腕を回して抱える。そしてポポロンが伸ばした触手の先端にマレごと飛び乗る。意地でも俺を見下さねば気が済まないようだ。
マレは頬を赤らめてョ%レ氏の横顔を見つめている。
ポポロンを従えたョ%レ氏が言う。
「一流の%は期待を裏切らない。君はどうだ? 冒険者……メタタマ」
これは、とあるVRMMOの物語。
ピュアタマとは一体何だったのか。
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