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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
278/978

GunS Guilds Online!

 もしかしたら俺は少しお喋りかもしれない。

 もしかしたら俺は少し悪どいかもしれない。



 1.マールマール鉱山-山中


【GunS Guilds Online】


【警告】

【上位個体が出現しました】


【勝利条件が追加されました】

【勝利条件:狙撃兵の撃破】

【制限時間:00.00】

【目標……】


【狙撃兵】【?????】【Leve-2022】


 分厚い雲が空を覆っている。

 ざあざあと雨が降っている。

 山間に立ち込めた濃霧を掻き分けるように狙撃兵の巨体が出現した。

 眼窩から零れ落ちんばかりに這い出したウジ虫が腹から銃身を伸ばす。

 もう片方の目に意思の光が灯る。漏れ出た光が赤い残滓を宙に引く。

 その機体のフォルムは皮肉にもペペロンの兄貴と少し似ていた。それだけに全身の隙間という隙間から這い出したウジ虫が切なく虚しい。トッププレイヤーに憧れ、挫折し、借り物の力に縋った凡人の末路だった。


 まぁ人のことはとやかく言えないか。

 狙撃兵と対峙する俺とセブンの母体はボロボロだ。残り少ない残機を全て費やして母体を維持するのがやっとだった。変身できただけでも御の字だろう。

 フレームが剥き出しの半身は、サトゥ氏のような二面性を表すものではない。エネルギーの枯渇を意味するものだった。

 つまり勝とうが負けようが俺とセブンはロストする。それでいい。俺は、ただ俺の生き方を否定する狙撃兵を一発ブン殴っておきたいだけだ。


 足元の山荘から飛び出してきたサトゥ氏が、完全変身した俺とセブンの姿に目を剥いて叫び声を上げる。


「バカなっ! やめろ! ロストするぞっ!」


 だろうな。

 セブンがどう考えてるのかは知らねえが、俺はそのつもりだよ。

 アイツ……狙撃兵は俺と似ている。

 特別な存在になりたくて、いや、自分は特別な存在だと信じて、ありもしない才能に期待して裏切られてきた。

 けど本当は分かってる。才能うんぬんじゃない。才能を語れるほどの努力を俺たちはしちゃいない。それを認めるとあまりにも惨めだから才能という言葉に逃げてるだけだ。結局は自業自得なんだろう。

 それが敗北なのだと決め付ける狙撃兵が俺は気に入らない。俺らは他の連中が汗水垂らして努力してる間に楽しんできたじゃねえか。それは無駄な時間なのか? そうじゃねえだろ。ゲームを楽しんで何が悪い。俺は……。

 俺と一緒に笑ってくれたヤツらを否定しねえ!


 俺は狙撃兵に体当たりした。山の斜面を削るように押し込んでいくが、すぐに押し戻された。セブンと狙撃兵の光線が干渉し合って地表を削り木々を切り倒していく。地響きを立てて転がされた俺の耳元でリチェットが喚いている。まぁ耳ってドコだよって話だが。

 

「狙撃兵っ……! ま、待ってろ! 今、クァトロを……」


 やめとけ。俺はリチェットを制止した。

 分かってるだろ。今のクァトロは戦えねえよ。水晶に閉じ込められてた時、管を通して力を吸い上げられてたろ? あれはな、吸い上げられると言うよりは送ってたんだ。送り先はモモ氏さ。限界突破したクァトロを無理に封じたのが祟ったんだろう。クァトロくんにとってラム子は、可愛い孫の制止を振り切ってでも決着を付けたい相手だった。誰が悪いとかじゃなく、たまたま全てが悪い方向に作用したんだ。


 ミノムシ野郎が被弾して墜落した。

 セブンとの撃ち合いを制した狙撃兵が金属同士が擦れ合うような不快な声を上げて笑う。


【そうか。やはりクァトロは動けないんだな。最高指揮官と互角以上に渡り合う勇者の身体。この時を待っていた……】


 言ったろ。狙撃兵の旦那。お前さんには無理だ。お前さんにクァトロの身体は使いこなせねえよ。悟空の身体とチェンジしたギニュー隊長みたいになるぜ?

 あの小さな勇者様のバカげたパワーの源になっているのは友情だの愛情だのといった甘ちゃんの理屈だ。

 それは俺やお前が捨て去ったモンだ。しがみ付いてる連中を無様だと嗤ったモンだ。今更になって取り戻そうとするのは違うだろ。


【私もそう思っていたさ。分からないのか? ペタタマ。私の背を押したのはお前なんだ】


 ほう。面白え。聞こう。言ってみな。


【私は機会を窺っていた。長い、長い間ずっとだ。条件が揃うのを待っていた。正直……今回も見送ろうかと迷ったよ。%というのは……本当に厄介な連中だ。私の力を軽々と越えていくのも腹立たしいが……。何よりも頭が回る。あの連中を出し抜くのは困難を極める。だから待った。いつの日かきっと好機が巡ってくると】


 今がそうなのかい?


【いや、これくらいのチャンスは過去に何度かあった。しかし足りない。私が欲していたのは確信だった】


 おいおい、そりゃあ高望みってモンだろう。


【だからお前なのさ。ペタタマ。お前は弱い。ひどく無様で……。私は、過去の自分を乗り越えることができたのだろうかと。急に気になったのさ】


 過去を乗り越えるっていう発想がズレてるんだよ。

 人間の価値ってのは右肩下がりじゃねえか。ガッコでよ、立派な大人になれって散々言っといて何なんだよ。嘘ばかりだ。誰も本当のことは教えてくれねえ。もうウンザリなんだよ。だから俺は今を楽しむぜ。将来なんざ知ったことかよ。

 狙撃兵が笑う。


【世間と逆のことを言っても別にカッコ良くはないぞ?】


 なるほどな。それは一理あるかもしれねえな。お前と話してると発見することが多いよ。

 あの時もそうだった……。

 俺は狙撃兵の旦那と一緒に飲んだことがある。その時のことを不意に思い出した。



 2.回想-黒い星のBAR


 俺は狙撃兵の肩にガッと腕を回してぺらぺらと口を回した。

 お前さんは見るからに寄生タイプだよな?

 俺らの星にゃドラゴンボールっつー漫画があってよ。フリーザ様っつー悪の総大将の配下にギニュー特戦隊ってのが居るんだわ。そのギニュー隊長ってのが身体を入れ替える特殊能力を持ってるのね。で、俺らはDBを読んでて、フリーザ様とチェンジすればいいのになぁってずっと思ってたんだよ。

 狙撃兵さんよ。お前はどうなんだい? ラム子とチェンジできない理由でもあんのか? まぁ無理にとは言わねえさ。お前にとってラム子は尊敬できる上司なのかもしれねえし、偉くなりゃいいってモンでもねえわな。立場ってのは何かと面倒臭えしよ。


 狙撃兵はちびちびと酒を飲んでいる。

 俺は一人で延々と喋っているように見えるだろうが、一応は会話をしてるつもりだ。

 相手の反応を見れば帰りたそうにしてるな〜とか興味ねえんだな〜ってのは分かる。そういう相手に興味がある話を振ってやるのが楽しいんだ。

 狙撃兵の場合は分かりやすかった。このゲームの話をしてやると、心なし身を乗り出してくる。

 例えばこうだ。

 VRMMOってのはよ、いざ実現しちまえば拍子抜けだったな。そりゃあログインして最初の内はグラフィックやらリアルな感触やらに感動するが。どうしたって慣れるからな。慣れちまえば自分の足で歩き回ったりするのは単純に面倒臭い作業だ。特に戦闘はひでぇ。従来のMMORPGだとワンクリックで済んでたことまで全部マニュアル操作だからな。それが苦にならねえってのは多分頭ン中をいじられてるんだろう。チュートリアルでナビゲーターのAIに調整されてるからな。

 喋り倒す俺を狙撃兵の旦那はじっと見つめている。


 この時、もしも……。いや、やめよう。過ぎた話だ。



 3.マールマール鉱山-山中


 狙撃兵がレーザー光線をメスのように使って俺の身体にブッ刺してきた。

 俺の窮地にサトゥ氏を始めとするクソ廃人どもが変身しようとしている。余計なお世話だ。俺は最大限まで段階解放されたゴミスキルのハードラックで連中の変身を阻害する。吠えた。


【手出しするんじゃねえ! このアホは俺がブン殴ってやらねえと……!】


 狙撃兵の胸部装甲が迫り出した。半透明な繭に包まれてる全裸の女がニッと笑う。


「ベムトロンだ。私はアホなんて名前じゃない」


 そうかい。俺はペタタマってーんだ。

 俺と狙撃兵の旦那……いやベムトロンか……俺とベムトロンは改めて自己紹介した。

 ベムトロンは胸と股間を腕で隠している。紫色の長い髪が繭の中をたゆたう。艶のある唇が戦闘の興奮によるものか引きつったように吊り上がっていた。

 わざわざコクピットを開放しキャラネを明かしたベムトロンの心境は分からない。機体越しに俺の最期を拝むのは惜しかったのかもしれない。

 ベムトロンが叫んだ。


「ペタタマ! お前はタフな男だ! 【ギルド】になれ!」


 嫌だね。俺は杭みたいな歯列を打ち鳴らして笑った。

 お前らにスマホを上回る娯楽は提供できねえよ。何しろお前らにワンピ、ナルトの話を振ってやっても何のことか分からねーだろうからな。

 スマホの普及によって人類の娯楽は絶頂期を迎えている。この先、どんな技術的な転換期が訪れようとも覆ることはないだろう。より快適になることはあっても楽しさの質が変わることはない。

 それは同じ時代、同じ文化を生きてきたゴミどもが居てこそだ。宇宙人では代わりにはなれない。


 ゴミどもが騒がしい。一人でも目撃者が居ればそこから情報が拡散していくのが現代社会だ。

 エッダ戦で死に損なったゴミどもが山を飛び越えて参戦してくる。


【崖っぷち〜。俺らも混ぜろや】

【またお一人様でお楽しみか? あ?】

【生産職が調子に乗ッてんじゃねェ〜】

【お? そこに転がってんのはセブンじゃねえか?】

【なに寝てんだ。アビリティ寄越せや。オラ】


 モブがっ。コイツらも俺と同じだ。どんなに目新しいシステムを搭載したゲームもいずれは飽きる。

 そして、リアルと違ってゲームにはリセットボタンがある。

 大挙して押し寄せる大型ゴミの群れにベムトロンが「ふふっ」と小さく笑った。それは自嘲の笑みだったのかもしれない。


「雑魚ばかり相手にして鈍った、か……。そうだな。ペペロン……。お前の言うことはいつも正しい。私はそれが気に入らなかった」


 狙撃兵の機体が動く。銃身を振り回して全方位に光線を放った。

 レーザー光線に切り裂かれたゴミどもが崩れ落ちていく。

 エンドフレームの別名をレプリカと言う。【ギルド】のコピーという意味なのだろう。素体のようなものがあり、個別に調整され支給されたレプリカがプレイヤーの母体になる。

 母体の死はキャラクターロストに直結する。つまり今、数え切れないほどのゴミがロストした。

 だが、未曾有の被害と言うほどのものじゃない。ネトゲー史上にはサーバーが吹っ飛んで全データが消失した事件なんてのもあるのだ。

 俺たちは、まだ戦える。

 ベムトロンが俺とセブンに光線を当てなかったのはわざとだろう。

 俺は血を吐くような絶叫を上げて狙撃兵の機体をカチ上げた。

 おおおおおおおおおおおっ!

 吹っ飛んだ狙撃兵に死に損なったゴミどもが追撃を浴びせる。

 狙撃兵の機体に取り付いているウジ虫が一斉に羽化した。

 ブンブンと耳障りな音を立てて飛び回り、地べたを這いずる俺たちに照準を合わせてくる。

 この時を待っていたとばかりに寝転がっていたミノムシ野郎が羽化した。セミ野郎がジジジジとけたたましい鳴き声を上げて狙撃兵を追う。

 地上でハチがきゃるるんと叫ぶ。


「セブンさぁーんっ!」


 セブンは太々しく笑った。


【悪いナ。俺のアビリティはやれねえ】


 狙撃兵に取り付いたセミ野郎が自爆した。

 閃光と熱風がマールマール鉱山の上空を渦巻く。

 黒煙の切れ間から長い銃身が伸びる。その後を追うように巨大なハエが姿を現す。

 とっさに合体してセブンの自爆を耐えたのか。やるじゃない。

 セブンは死んだ。完全ロストした。

 だが嘆くことはない。しょせんはゲームだ。セブンは二周目に入った。ただそれだけのこと。今や俺たちはサトゥ氏という前例を知っているのだから。

 俺の脳内に引っきりなしにささやきが飛んでいる。俺は俺自身も把握していない何らかの操作を行ってささやきを強制シャットダウンした。悪いな。今、盛り上がってきたところだ。邪魔しないでくれ。もう少しなんだ。もう少しで……。

 俺は、何かを掴めそうだ。


 狙撃兵がエネルギーのチャージを始める。

 ここら一帯を丸ごと吹っ飛ばすつもりか。

 俺は、足元できゃんきゃんと喚いているちっぽけな人間たちを見る。

 ……これは俺とベムトロンの喧嘩だ。無関係なヤツらを巻き込むのは本意じゃない。

 俺は触手の先端に実っている大振りな斧を地面に突き立てて機体を固定した。

 別に庇ってやるつもりはないが、ここは真っ向勝負だ。

 俺はギリギリと目に力を込めながら狙撃兵を見上げる。


 俺はここだ。よく狙えよ?

 もう少しで何かが掴めそうなんだ。


 サトゥ氏がぽつりと呟いた。


「ま、魔族大隔世?」


 誰が魔族だ。

 俺は触手の一本を伸ばして雨雲に覆われた空を指差した。

 もっと面白いことさ……。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 究極奥義、メテオフォール……。

 


 GunS Guilds Online


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なお、発動したことはない。
[一言] どこまでも隕石狙い
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