死因:セブン
俺とセブン。どちらの死がきっかけだったのか。
1.???
気付けば黒い草原に立っていた。
黒い草原。そうとしか表現できない。
足元を覆い尽くす黒い金属片が燃え立つようだった。
セブンが血反吐を撒き散らして悪態を吐く。
「くそっ、がァ……!」
野暮ったい黒コートを着ているためダメージの程は分からないが足元に血溜まりが出来ている。
セブンがバラ撒いたと思しき弾がそこら中に散らばっていた。
あざ笑ったのは【狙撃兵】の中の人だ。こちらは無傷だ。人間の女のように見えるが、多分俺たちの目にはそう見えるだけなんだろう。俺は種族人間の姿かたちが宇宙共通のオーソドックスなものだと自惚れるほどアホじゃない。
狙撃兵が長い髪をうっとおしそうに指先で払ってセブンを指差す。
「もう抵抗は終わりってことでいいか?」
何だよ。お前ら喧嘩してんのか? ガンナー同士仲良くしろよ。ラム子に言いつけるぞ。
セブンが吠える。
「黙ってろッ、崖っぷち……!」
狙撃兵さんが笑う。
「悪い子にはオシオキしなくちゃな? お前らは何かと反抗的だ。ラムダもラムダだ。甘やかすから付け上がる。まぁアイツらに理屈を求めるのは不毛なんだろうが」
セブンを指差している指先からシュンと細い光線が放たれる。
セブンは避けようとしたが、重傷を負った身体では難しかったようだ。避け損ねた光線が肩を貫通する。
「ちっ……!」
舌打ちしたセブンがバランスを崩して片膝を付く。いい気味だ。
俺は見学に回る。よっこいしょと地べたに座って成り行きを見守る。
狙撃兵さんがちらりとこちらを見る。
「いいのか? お仲間なんだろ?」
仲間じゃねーよ。クランが違えばプレイスタイルも全然違う。そいつ……セブンはガチ勢で俺はエンジョイ勢だ。
クランと言えば……エンドフレームのことを【クラン】と言うらしいな。そういうことなんだろ? ゲスト、ギルド、クラン……。それらの呼び名はアナウンスが元になってる。要は【クラン】ってのは種族名に近い扱いで。ブレンパワードとグランチャーみたいなもんだ。
俺とセブンはクランが違う。クランが違えば……ネトゲーじゃ赤の他人さ。助ける義理はねえな。
セブンがプライドを捨てた。
「崖っぷちッ、手を貸せぇ!」
脚照ッッ!
俺のセクハラ支援にセブンが合わせた。
助ける義理はない。俺は確かにそう言った。仲良しって訳でもないし、何なら敵対関係に近い。
だが共通していることもある。
俺とセブンは「早さ」で勝負するプレイヤーだ。
どうして、どうやってといった当たり前の疑問を省けば、大多数のプレイヤーを速度で上回れる。
狙撃兵は強い。俺とセブンを足したよりも。理由はそれだけで十分だろう。強いヤツに歯向かうのは楽しい。
完全に意表を突いてやったぜ。
「は?」
間抜けな声を上げた狙撃兵の膝に棒手裏剣が二本刺さっている。膝が逆に折れてたたらを踏む。セブンの追撃。両手の五指に弾を挟み持ち斜めに跳ぶ。空中で上下反転して両腕を交差した。
狙撃兵が変身した。
「こッのっ……!」
転倒を免れるためにとっさに突き出した片腕をびっしりとウジ虫が覆う。
俺は見ている。何故腕から? 反撃に出るならもっと別の部位からウジ虫を出すべきだ。とっさの反応だからか? そう見るべきだな。つまり追い詰めれば攻撃パターンを絞れる。
セブンが両腕を振り抜いた。狙撃兵のウジ虫から銃身が生える。光線を乱射。精度が低い。弾き損ねたボルトやら何やらが狙撃兵の身体に食い込む。
「ああッー!」
狙撃兵の絶叫。痛覚カットされてない?
セブンが顔面から着地した。首の筋肉が盛り上がり、跳ねる。黒コートから滑り落ちた弾を掴み取ると同時に投げつけた。セブンの太々しい笑み。狙撃兵が地を蹴る。セブンの腹を蹴る。吹っ飛んだセブンがゴロリと地べたに転がった。
決着だ。セブンはぴくりとも動かない。
おお、強ぇな。俺はぱちぱちと拍手した。まぁレベル522にしてはお粗末な内容だったが。
狙撃兵が俺を睨んでくる。
「この私のハイフレームを……」
お前、あんまり頭良くねえな。俺は所見を述べた。
レベル500越えてるって言うからよ、てっきりレ氏より強いのかと思ったぜ。そうでもねえな。経験不足か? そうか。お前、異常個体ってやつなのか。異常個体はバトルフェーズに参加できない。そうだったよな?
で、どうだった? セブンは。まぁまぁだろ。そいつは今の国内サーバーじゃ飛び抜けてるからな。
さて、次はどうするね? 俺と一発ヤるか? それもいい。どうもお前はキナ臭え。見極めてやるよ。俺はお前の情報を手土産に【ギルド】に返り咲く。完璧なプランだ。
俺は立ち上がって斧を肩に担いだ。
……狙撃兵さんよ。お前は何なんだ? 元プレイヤーなんだろ? 大物ぶってる癖に生っちょろい。お前みたいなのが俺らの大先輩なのか? 納得行かねえな……。
狙撃兵が俺を指差してくる。
「……クァトロは元気か?」
茶番だ。もういい。
お前はラム子の敵なんだな? だったら俺の敵だ。
俺は断定した。
ョ%レ氏が警戒してたのはコイツだ。ラム子との戦いでモョ%モ氏はクァトロくんを温存した。
だから狙撃兵は様子を見ることにした。
コイツの狙いはラム子かクァトロくんなんだろう。
何故ならコイツは……狙撃兵は誰かの身体を乗っ取る特性を持っているからだ。
おそらくレベル差が大きすぎると無条件に乗っ取るのは無理なんだろう。
だからコイツはクァトロくんとラム子が潰し合うのを待ってた。
そして、ラム子はョ%レ氏との削り合いで疲弊している。バトルフェーズに移行できなかったのが証拠だ。
俺は気が立ってる。狙撃兵を指差して告げる。
「お前には無理だ。頭が悪すぎる」
狙撃兵は笑った。「ははっ」と軽やかに。大きく溜息を吐いて、ゆるく頭を振る。
「……またか。私の邪魔をするのは、いつもあの女だ。ペペロン。あの女は……私よりもレベルが低い癖に……武の神に愛されている。私は……そういうのが羨ましかった。天才が妬ましく、才能と呼ばれるものが欲しかった。ああ、そうか……。私が本当に欲していたのは……ラムダではなかったのか」
俺は強い危機感を覚えている。
散々っぱら言ったのはハッタリだった。ヤバい状況だった。
さっきはああ言ったが、狙撃兵は忍耐強く、慎重で臆病な性格をしている。俺とセブンを呼び付けたのは、クァトロくんとモョ%モ氏がどの程度動けるか聞き出すためだろう。それは、つまりある程度の確信があったということ。
運営陣はボロボロだ。
モョ%モ氏はクァトロくんを温存するために相当な無茶をした。クァトロくんを閉じ込めていた、あの水晶はモョ%モ氏が作ったものだろう。プクリの固有スキルとはあまりにも懸け離れている。おそらくは【律理の羽】の別形態だ。
ラム子がョ%レ氏との競り合いで弱体化してるのは確実で。クァトロくんはしばらく動けない。【戒律】の反動なのかもしれない。その場その場で【戒律】を追加して限界突破するクァトロくんがラム子との決着を付けることができなかった。幾つかの【戒律】に抵触していてもおかしくない。
一見するとモョ%モ氏が肉親の情に目を曇らせてミスをしたように見えるが、そうじゃない。ヤツらはこの手のミスを決して犯さない。そういう生き物だ。ならば……。
……これはョ%レ氏とモョ%モ氏が張った罠だ。
厄介な狙撃兵を始末するためにゴミどもを利用しようとしている。
俺の死に場所を用意しやがった。
そして、俺には断る理由がない。
ずっと待っていた。この瞬間を。
狙撃兵が親しげに俺を呼ぶ。
「ペタタマ。お前は私と似ているよ。大した才能もない癖に足掻いている。だが、私は全てを捨ててここに居る! お前のような半端者とは違う!」
俺は言ってみたかったので言った。
「……捨てたのかよ? 逃げたんだろ?」
狙撃兵はへらっと笑った。統制の崩れた笑みだった。コイツみたいなタイプは俺のような雑魚に見下されるのが一番堪える。生まれながらの強者にはどう足掻いても勝てないと知っているからだ。
後悔もあったろう。ああだこうだと言ったところで何も変わらない。要するにコイツは一度は【ギルド】に身を落とした俺がまんまと人間に戻ったのが気に入らないのだ。
……確かに似た者同士かもしれない。
黒い草原にヒビが入る。
地べたに寝っ転がってるセブンが地割れに呑まれていく。
俺は胸中で呟いた。
アットム……。先生を。ウチの子たちを、頼む。
俺は【扉】を開いた。
狙撃兵の全身からウジ虫が這い出る。
コイツは……俺が仕留める。
命の火が燃える。
残機が少なすぎたのだろう。俺の母体は半身のフレームが剥き出しだった。
瞬く間に完全変身を終えた【狙撃兵】をカチ上げる。俺は吠えた。
Pyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa
黒い草原が砕け散る。
地表に降り立った。
狙撃兵の銃口がこちらに向く。
ミノムシ野郎の援護射撃。狙撃兵の光線が逸れた。
セブン……。お前もなのか?
……心のどこかでは分かっていたのかもしれない。
俺とセブンは、とっくのとうにロストしていなくちゃおかしかったんだ。
それを、ラム子の力で生き永らえてきた。
そんなのはおかしいよな?
そんなのはゲームじゃない。
ョ%レ氏の言葉を借りれば、公平じゃない。
無理に生かされて、やってることと言えば残機を気にして、ちまちまと狩りをしてよ。下らねえ。さっさとロストすればいいんだ。そうすりゃ残機は全快する。
俺とセブンは【狙撃兵】に最後の勝負を挑む。
これは、とあるVRMMOの物語。
死因:残機管理に飽きた。
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