交流会
どんなネトゲーも正式サービス開始直後がアクティブユーザーのピークだ。
例えば先行者というのは運営からしてみるとオイシイ客で、ある程度の集金が見込める。だからといって先行者を優遇してしまうと後発は付いてこれない。誰だってヒーローになりたいだろう。ネトゲーのキャラクターはスタート地点が一緒で生まれながらの才能の差なんてものはないから、単純に費やした時間が明暗を分ける。つまり後発のプレイヤーは何をどうやっても先行者には勝てない。
そうした図式が前提としてあるから、ネトゲーマーは新しいゲームがあればそっちに飛び付く。これは言ってみればオンラインゲームというジャンルの宿命だ。
VRMMOという他のネトゲーにはない特徴を持つこのゲームですら集客に陰りが見られてきた。宇宙人が作ったゲームということでスタートダッシュは大成功の部類だが、やはりしょせんはゲームである。リアルを犠牲にするほどの価値はない。
つまりこうだ。
このゲームはネトゲーの宿命とも言えるマンネリ期に突入した。
ゲーム全体にどことなくダレた雰囲気が蔓延し、フレンドのログイン率が低下している。
そこでGMマレが手を打った。
事の起こりはそんな感じである。
1.ギスギス学園-Z組教室
学校マップ。
不定期で召喚されては担任のマールマール先生に殺される強制イベントである。
あまりにもアホらしいので最近では召喚された直後に自害して早退しているのだが、今日は何やら様子がおかしい。
マールマール先生がイキナリ教室に居た。
俺はびびった。おぅ。どうした。いつもは予鈴が鳴ってから教室に来るのに。
俺はもう授業を受ける気がまったくないしデスペナ上等という心持ちで居たので、気軽にマールマールの肩をバンバン叩いてやる。
Zooo……
普通にブッ殺されるかと思ったのだが、マールマールさんは俺を一瞥するだけで特に動こうとしなかった。
な、何だよ。体調でも崩したか? 妙に大人しいじゃねえか。調子狂うぜ。元気出せよ。な?
俺がマールマール先生の背中をさすってやっていると、詐欺師のピエッタが教室に入ってきた。ピエッタは俺とマールマールを視界に収めるなり「うへえ……」と顔をしかめて、
「気持ち悪っ。なんか犯罪臭い」
何でだよ。俺ぁ自分で言うのも何だが優等生っつーガラじゃない。不良生徒と熱血教師の組み合わせは黄金パターンの一つだろうがよ。表向きはウザがってるけど根性だけは認めてるみたいな……。それに出来の悪い子ほど可愛いって言うだろ。マールマール先生だって俺のことは特別目を掛けてくれてる筈だ。ね? せんせ。
Zooo……
残念ながらマールマール先生は俺よかピエッタのほうを可愛いと感じているようだ。マールマール先生の視界を独り占めしようとしている俺を黒板に押し付けてピエッタをじっと見つめる。ピエッタは後ずさりした。
「な、何だよ」
レイド級にとって俺らプレイヤーは経験値稼ぎにまとめてブッ叩く程度の存在でしかない。手間を惜しむのは当然で、いかにして効率良くまとめてブッ叩くか。そのくらいの関心しかないだろう。
だが今日のマールマール先生はひと味違った。
ピエッタを上から下までじっくりと眺めてから、顔面を黒板に押し付けている俺と見比べている。……何だ? コイツ何をしようとしてる?
「見分けが付かないようですね」
マレだ。
校長先生のGMマレが教室に入ってきた。
見分けだと?
俺の言葉をマレは無視した。Z組の教室を偉そうに睥睨し、
「ふっ。まさに底辺ですね」
あ? 他の教室と何がどう違うってんだよ。俺は強がった。ひとまず反発してみたのだが、違いは明らかだった。教室の壁にはスプレーで喧嘩上等とか落書きされてるし鉄パイプやら釘バットがそこら辺に転がってるしセブンが床に転がっていて机と椅子の配置はゴチャゴチャで窓は全部割れていた。なお壁にも何度か大穴が空いたのだが、そちらは修繕されたらしく新品同然だ。
一言で表すなら、まさに最底辺の教室である。犯行現場と言っても通じるだろう。
校長先生は鼻で笑った。パチンと指を鳴らし、
「サトゥ?」
「はっ」
おっとサトゥ氏。ロストしてまんまとZ組を脱出した裏切り者が伊達メガネなどしてGMマレの手先になっている。
裏切り者はくいっとメガネを指で押し上げ、テキパキと机と椅子の配置を直していく。
おい。何のつもりだ?
「む? ああ、コタタマくんか。悪いね。少しお邪魔させて貰うよ」
こ、コイツ、内申点を稼いでやがる。かつては教師襲撃を先導した男の、この裏切り者の名に恥じない変わりようと来たらどうだ?
俺はカッとなってサトゥ氏の胸ぐらを乱暴に掴んだ。
テメー正気か!? ウチのクラスにはリチェットも居るんだぞっ。セブンだって……! テメーの仲間だろうがよ!
サトゥ氏は迷惑そうに俺を見た。
「仲間? ああ、そんな時期もあったかもしれないな……。離してくれないか。昔の話だよ」
……?
あっ、お前。新生サトゥ氏のほうか!?
「まぁそういうことだ。コタタマさん。君は失敗したようだが、キャラクターロストは失うばかりではないよ。新規という立場は武器にもなる」
都合のいい時だけ新規ぶってんじゃねえ!
俺はサトゥ氏を突き飛ばした。くそっ、なんてやつだ。俺がやりたくともやれなかったことを平気でやりやがる。
サトゥ氏はメガネをくいっと押し上げ、
「無論、りっちゃんとセブンは近い内にウチのクラスに招き入れるつもりだ。あの二人はこのクラスに置くには惜しいからね。掃き溜めに鶴とはよく言ったものだ」
ぬかせっ。リチェットは渡さねーぞ!
俺とサトゥ氏が揉めている間にもウチのクラスの連中がぞろぞろと登校してくる。
セブンの容態を診ているリチェットにネフィリアが声を掛ける。
「そいつはいつも死んでるな……。ロストしてないのが不思議なくらいだ」
「オマエの弟子と違ってセブンはちゃんと自分で稼いでくるからな」
セブンは戦闘職だ。俺とは前提が違う。
図らずも俺とネフィリアの意見が一致した。
「コタタマは生産職だぞ。一緒にするな」
「オマエがそうやって甘やかすからダメなんだ」
二人の会話にピエッタが混ざる。
「ヒモだよ、ヒモ。ヒモに必要なスキルを全部身に付けてる。私も被害者の一人だぞ。ネフィリア、テメー崖っぷちにどういう教育したんだよ?」
「知るかっ。クラン潰しの基礎を仕込んだら勝手に応用し始めたんだっ」
ネフィリアは人にものを教えるのが下手だからな。俺は自分なりに工夫するしかなかったのだ。ヒモではない。俺は金を借りているだけ。出世払いというやつだ。
マレ校長先生がパンと手を打つ。
「ハイお静かに。本日はですね、クラスの交流会を実施する予定です」
交流会だ? そんなもん俺らに関係あるのか? お行儀のいい他のクラスの連中で勝手にやればいいじゃねえか。
「なんという荒んだ考えなのでしょう……。ペタタマ。良くも悪くもZ組は個性派の集まりなのです。私はあなた方が無能だとは思っていません。ただ、あなた方を隔離しておかないと他の生徒に多大なる悪影響を及ぼしかねないと考えているのです」
よく分かってるじゃねえか。その通りだよ。清く正しく生きるってのは損だからな。お前ら運営がそういうゲームにしたんだ。情けは人の為ならずって言うだろ。全てはシステムなんだよ。実際スマホアプリのソシャゲーなんかだとプレイヤー同士でマルチ……まぁ野良パのことだ……マルチやったりフレンド増やすと課金マネーを貰えることが多い。するとどうなるか。ソロプレイヤーもマルチしねーのは損だっつって普通にパーティー組むんだよ。そう、全てはシステムだ。その点、ソシャゲーは洗練されてるとすら言えるだろう。
マレさんよ。分かるか。俺の言ってること。
つまりこのゲームのプレイヤーがクズなのはお前らが悪い。リアルとは違うんだよ。善良なプレイヤーは法律とかで保護されてねえんだから。何らかの利益を与えてやらねえと。まぁそれは先生の受け売りだが。
ねえ、聞いてる? 俺の話。何なんだよ。顔が近えっての。
カイワレ大根娘は俺の話を無視した。至近距離から俺の顔をまじまじと見つめ、
「しかし……。よくもまぁこうまで……」
あ? 何の話だよ。
「あなた方の言う残機の話ですよ。ペタタマ。NAiも言っていたでしょう? あなた方のコンフレームは本当に効率が良い。にも拘らずロスト寸前まで行くとは……。不思議でならない。これだけは聞いておきたかった。何故エンドフレームを? あれが本来バトルフェーズ専用であることくらいは分かっていますよね?」
そりゃお前、勝つためだろ。エッダは強かった。紅蓮の天秤ガチャ事件っつってな。もう後に退けなかったんだよ。
「……理解しかねます。勝利のためにこれまで培ってきた全てを捨てるのは、あなた方の行動様式と照らし合わせると矛盾がある。結果から言うとあなた方は『損』をしました。何故あんなことを?」
しつけえなぁ。あのな、種族人間ってのはお前が考えてるほど単純じゃねーの。
うしとらの流兄ちゃん風に言うと、ゲーマーの胸ン中には常に風が吹いてるんだよ。その風がぴたりとやむ時がある。例えばクラスチェンジした直後のレベル上げだったり、レアドロップを引いたりした時だ。もちろん強くなるのが目的なんだが……。奇妙な話、喜びのピークは強くなった後にはねーのさ。ドロップした瞬間。そこがピークだ。そして、その快感をゲーム性と引き換えに凝縮したのがガチャだ。
マレは俺の話を聞き流してマールマールを見つめている。おい。だから俺の話を聞けって。無視すんな。お前GM俺ユーザー。もっと俺を接待しろよォー!
だが接待してくれるつもりはなさそうだった。
「マールマール……」
おお、そうなんだよ。ウチの担任が妙に大人しいんだよ。交流会とやらが関係してるのか?
マレは首を傾げた。
「いえ、分かりません。……レイド級の行動は予測できない。特に神獣は。私は……。いえ、私は私。ナイはナイですね。役割が異なるのは当然のことだ」
おい。勝手に自己完結してるんじゃないよ。察するにお前はレ氏から何も聞いてないんだな? レイド級は元プレイヤーなんじゃないかと踏んでるんだがお前さんはどう思うよ。
マレの俺を見る目は冷ややかだ。
「馴れ馴れしい……。私に甘えるな。さあ、体育館に行きますよ」
そうだな。話は歩きながらでもできる。教室を出ていくカイワレ大根娘を俺は逃さない。
そう邪険にしなさんな。俺はお前のこと未来のパーティーメンバーだと思ってるんだぞ。ちゃんとレベル上げしてるか? お前さ、ぶっちゃけαテスターよかレベル低いじゃん? もっと自分を出していかないとダメだぞ。これだけは誰にも負けないっていうトコが欲しいよな。ただでさえお前はスキルコピー持ってないんじゃないかっていう疑いがあるんだよ。どうせレ氏辺りから最初にスキルの詰め合わせみたいなの貰ってるんだろ。ズバリ使徒のスキルだな? 神獣のスキル……マールマールの【四ツ落下】だのエッダの【八ツ墓】は持ってない。持ってれば前に戦った時に使ったろ。どうだ。当たりだろ? あーあ。【八ツ墓】はともかく【四ツ落下】持ってないのはキツいなぁ。今から育成プラン練っとかねえと。例えばモモ氏みたいに得意なスキルに特化するってのはどうだ? お前の場合、あれだ、【戒律】操作のスキル持ってたよな。それともあれはレイド級に化けねえと使えねーのか? どうなんだよ? おい。
軽く肩を小突いてやると、マレがキレた。
「ぺらぺらぺらぺらとうるさいです! 少しは黙れないのか! 何が未来のパーティーメンバーだ! そんなことあって堪るか!」
はぁ? 本気で言ってるのか? ハッキリ言ってプレイヤーの共通認識だぞ。お前みたいにラスボスに絶対の忠誠を誓ってるやつほど怪しいんだよ。だってお前はレ氏が第一で本社の連中には言うほど興味ねんだろ? そんでレ氏は本社に黙って何か企んでる。もう完全にフラグ立ってンじゃん。心の準備だけはしとけよな。お前が最後に頼れるのは俺らだけなんだぞ。だから今の内からしっかりと接待しとけって話よ。
マレが肩越しに振り返ってきゃんきゃんと喚き散らす。
「ネフィリア! この男はあなたの担当でしょう! 黙らせなさい!」
「無茶を言うな。コタタマは喋ってないと死ぬんだ」
そんなマグロじゃあるまいし。
おっとカイワレ大根さんには分かりにくかったかな? マグロとか一部の回遊魚は泳いでないと呼吸できないんだよ。凄いよな。寝てても泳げるんだぜ。まぁ俺らの睡眠とはまた違った形態らしいが。睡眠といえば、マレさんよ。お前さんは元々植物だよな。ちゃんと光合成してる? 引きこもってばかりじゃダメだぜ? お前の本分はそこなんだから。初心に返ってみたら案外大きな発見があるんじゃないか。
おっと喋ってる内に体育館に着いたぜ。じゃあな、校長先生。俺はマレの肩をポンと軽く叩いて送り出してやった。
カイワレ大根娘は何か言いたそうにしていたが、残念ながら俺たちは生徒と教師だ。ケジメはしっかりと付けねえとな。公私混同は良くない。
あれっ、セブンが生きてる。お前、死んでなかったのか。珍しいな。
「お前ほどじゃねえよ」
はん? 俺は鼻で笑った。そりゃいつの話だ? 悪いナ、セブン。俺ぁ残機が貯まるまでウチの子たちに殺されねーんだ。プクリ戦でまたギリギリまで行ったからな。しばらくは安泰さ。
ついこの間、我慢できなくなったポチョに殺された訳だが、その程度は誤差の範囲内だ。マレの言う通り、種族人間のコンフレームは効率が良いのだろう。ウチの子たちも俺の残機管理に慣れてきたらしく計画的な犯行に及ぶようになった。
しかし交流会ね。レクリエーションみたいなモンか? 言葉通りに受け取れば、普段は絡まない他のクラスの連中と一緒に何かやらされるんだろうが……。
いや、全然違うようだ。
体育館のステージに立ったマレ校長先生が俺らゴミをぐるりと見渡して深々と溜息を吐いた。
「嘆かわしい……」
悪いニュースかな?
演台に手をついた校長先生が項垂れた。
「誰とは言いませんが、本校の生徒から【ギルド】の手下に成り下がった者が出てしまったようです」
それな。俺はうんうんと頷いた。校長先生の仰る通りだ。借り物の力に縋って何になるよ? クソ虫どもの同類に成り下がった連中は今すぐにラム子に掛け合って【ギルド】の力を捨て去るべきだ。この俺を見習え。
校長先生は俺をガン見している。
「残機が少ない。この場を借りて言わせて貰いますが、あなた方に与えられたレプリカはレイド級と戦うための形態ではありません。バトルフェーズのサポートもなしに変身すればエネルギーが枯渇するのは必定」
やはりバトルフェーズとやらは特例に当たるらしい。それについては心当たりがあった。このゲームのプレイヤーは一人につき一体の母体を与えられる。莫大なエネルギーだ。では、そのエネルギーはどこから来るのか。おそらくは【ギルド】だ。というか、それ以外に考えられない。
追加ディスク然り、このゲームには【ギルド】を味方にする方法がある。それはョ%レ氏の独自の技術ではない筈だ。もしもそうなら、もっと大きな問題になっているだろう。そうなっていないということは、とっくのとうに技術として確立されていたということだ。
穿った見方をすればエンドフレームのレベル1000上乗せはそこから来てるんじゃないか。
つまりテイマーとは、【ギルド】をスカウトして無力化することを目的としたジョブなのだ。そうでもないとクソ虫さんたちに情を移しかねないシステムが用意されてるのは不可解だ。
マレ校長先生が顔を上げた。
「ですが」
それが合図だったのだろう。一部の生徒が列を抜けてステージの手前に並ぶ。装備の質、不揃い感からいって初心者に毛が生えたような連中だ。
マレが一転してパッと明るい顔をした。
「この日のためにョ%レ氏は備えて来ました。紹介しましょう。彼らが次世代を担うプレイヤーたちです」
……ほう。
なるほど。次世代の。
要するにこういうことか。
残機が残り少ない俺らロートルは用無しで。
カイワレ大根娘が主導してきた新入学キャンペーンとやらの正体は、無駄に経験を積んだ俺らから絞り取れるものは絞っておこうと。
なるほどね。
新入生代表のクソのような廃人サトゥ氏がメガネをくいっと指で押し上げた。
「ま、残機貯まるまで引っ込んどけってことですね。これからのメインは俺らが張るんでヨロシク」
そうか。残機がヤバいってのは嘘か。
そうだよな。一時はロスト寸前まで行ってもサトゥ氏はセブンほど頻繁に死んでない。まして四六時中を狩りに出る廃人だ。ちょっとやそっと死んだくらいで残機がなくなる訳がない。順調に積み立てていたらしい。そして残機がヤバいとでも言っておけばリチェット辺りが勝手に気遣ってくれると。
参ったな。やられたよ。いい手だ。
俺はパチパチと拍手した。拍手の輪が広がっていく。
いやぁ。素晴らしい。
俺は拍手しながら列を抜けてサトゥ氏に歩み寄っていく。
サトゥ氏がニコッと笑って両腕を広げた。歓迎してくれるのかい? ありがとよ。俺も両腕を広げる。
間合いが詰まる。俺はクラフトした斧を跳ね上げる。だがサトゥ氏のほうが早かった。俺の斧とサトゥ氏の剣が交差し、俺の斧が宙を舞う。
半歩踏み込んできたサトゥ氏が俺の耳元でぼそりと呟いた。
「新規ユーザーに活躍の場を与える」
それが嫌ならロストしろ、か。
俺もネトゲーマーだ。薄々は勘付いていた。
オンラインゲームには世代交代が必要だ。
後発が先行者を上回って行く仕組みを作らなければタイトルは長続きしない。
キャラクターロストは救済策だ。
どんなに面白いゲームもいつかは飽きる。だが記憶を失ってしまえば。事前に用意しておけば。ゼロから再スタートということはない。レベルを上げていけば以前の自分を上回るのは容易だろう。
ネトゲーでは、そうしたシステムを一般的にこう呼ぶ。
転生と。
どうやら俺も、そろそろ死に場所を探し始める頃合いらしい。
それは今すぐこの場でもいい筈だ。
俺はサトゥ氏に無言申請を飛ばした。
反射的に飛びずさったサトゥ氏が空中でトンボを切って着地する。
サトゥ氏。
そう言って俺はサトゥ氏を追って前に出る。スズキのパンツを魔石に還元し、
「俺に引導を渡すのはお前がいい」
サトゥ氏が笑った。
「情熱的だな」
……パーティー申請が受諾された。
俺は突進した。吠える。うおおおおおっ!
サトゥ氏の言うことは分かる。だが納得はできない。後発に追い抜かれるなんて嫌だ。未練はあった。これまでの様々な思い出が脳裏を過る。それらを無理やりねじ伏せて前に出る。
サトゥ氏の目に迷いはない。俺たちはどこかで利害が一致していた。それは赤カブトさんに体育倉庫に連れ込まれた今なら分かる。誰かがロストなんか大したことはないと身を以って示さねばならないのだ。それはサトゥ氏のようなトップクラスのプレイヤーでは難しい。俺のように、その他大勢のプレイヤーの一人だからこそ。
俺とサトゥ氏の間には奇妙な信頼関係があった。リチェットさんにこっぴどく叱られたサトゥ氏がバケツを持って立たされていて、プギャーした俺もバケツを持って立たされる。そんな関係だ。でも俺は赤カブトさんに指を折られてるから……。両手にバケツを持つことはできない。リチェットさんにそのことを指摘されると、赤カブトさんはわたわたと両手を振って俺の指は無事であると主張する。邪魔な突起物と化した俺の指は……ねじくれていて……俺とサトゥ氏の間に横たわる友情らしきものと似ていて。実際に横たわっているセブンはセミと似ていて……。ふと、夏が終わるのだと。一抹の寂しさを感じた。
なぁ、サトゥ氏。
「ああ。ロストなんて大したことないのになぁ」
誰もそんな話はしてないけど、分かるよ。俺、いつか絶対にロストしそうだし。
「次はどんなアビリティにする?」
選べんの?
「まぁ。実質的には」
実質的にって何だよ。お前の言うことは当てにならねえなぁ。まぁ狙うなら特質系かな。
「強化系のほうが良くない?」
それ分かってるふうなやつが口を揃えて言うけどさ、リアルな話したら特質系のほうが絶対にいいだろ。希少性にはそれ自体に価値があるよ。
「でも特性がバレたら脆そうじゃん。情報流されたら終わりだから騙し騙しやってくのツラくない?」
ツラいよ。ツラいけど、それは強化系だって一緒じゃん?
「いや一緒じゃねーって。強化系がオーラ纏ってたら同程度の別系統じゃ対抗できないんだからさ。そこはデカいと思うわ」
お前、たまに水見式やってるのはアレ何なの?
「【スライドリード】さ、あれ分身を作るスキルっぽくない?」
ああ、遠隔操作できないか試してるのか。ニャンダムがそれっぽいことしてたな。だからって水見式である必要はないが。
「消音効果もアレ半分死んでるんじゃないかなって。幽体離脱ン時と感覚が似てる」
俺はそういうふうに感じたことはないな。
「コタタマ氏はスキル関連に鈍いから。掲示板を見なさいよ」
嫌だよ。俺、絶対に叩かれてるでしょ。
「それ言ったら俺だって叩かれてるよ。そんなの仕方ないでしょ」
俺とサトゥ氏をじーっと監視している赤カブトさんがぽつりと言う。
「ペタさんとサトゥさん。今後、二人きりで会うの禁止ね」
ええ? 何その縛り……。
これは、とあるVRMMOの物語。
ロストまっしぐら。
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