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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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消えたパンツを追え!

 1.人間の里-銭湯ポポロン-取り調べ室


 モッニカ女史が、ずいっとカツ丼を俺のほうに寄せた。そして、いつになく優しい声音で言う。


「コタタマさん。正直に話してくだされば罪は軽くなりますわよ?」


 ……何の話だ? 俺はガツガツとカツ丼を掻き込みながらすっとぼけた。

 モッニカ女史が嬉々として俺をいたぶってくる。これまで俺と絡んでろくな目に遭った試しがないので、優位に立つのが楽しいのだろう。可哀相に。すっかり歪んじまって。

 

「あなたがやったんでしょう?」


 俺が? 俺は傷付いたような表情をした。驚いたな……。まさか疑われているとは思わなかったよ。もちろん嘘だ。取り調べ室に連れ込まれた時点で分かっていた。

 俺はぐいっと机に身を乗り出した。

 なあ、モッニカ。下着泥棒は卑劣な行いだ。俺はろくな人間じゃあないかもしれない。だが筋は通してきたつもりだ。俺は女子供には手出ししない。そんなことは考えたこともない。こう見えてシャイなんでね。正直な話、こうしてお前らと話してる時も緊張してるんだぜ? お前ら【目抜き梟】はちょっとしたアイドルだからな。俺なんかと一緒に居ていいのかと悩むことも多いよ。

 俺は心にもないおべんちゃらを並べ立てた。

 リリララが俺の首筋に押し当てた鼻をくんくんと鳴らしている。

 モッニカ女史がちらりとリリララを見ると、リリララは首を横に振った。


「……嘘じゃない」


 この不思議さんは鼻が利く。発汗や神経物質の匂いから他者の感情を読むことができるようだ。

 だが俺には通用しない。動揺しないよう心掛ける程度で躱せるほど甘くはないだろうが、俺は自覚がないだけで実は人一倍心優しい男だからだ。嘘を吐いているという自覚はあっても、それが俺という男の全てではないことを俺はよぉく知っている。照れ屋で天邪鬼な部分があるから、ついつい憎まれ口を叩いてしまうだけだ。

 しかしモッニカ女史は信じてくれていないようで、戦慄したように俺を見つめ、


「さ、サイコパスですわ。一体何をどうすればこのような怪物が生まれるのですか……」


 おいおい。お前さん、サイコパス判定なんてものを本気で信じてるのかい? 心理テストなんざその日の気分でコロコロ変わるだろ。当てになるかよ。俺に言わせてみればサイコパス判定なんてものはな、サイコパスと診断されたやつが設問者の意図を読んでサービスしてやっただけだぜ?


 業を煮やしたモッニカ女史が搦め手に出る。ダンッと机を叩き、


「先生は神ですの!? 答えなさい!」


 神だ。

 俺がキッパリと答えると、リリララが目に見えて動揺した。


「う、嘘じゃない」


 ……時間の無駄だな。俺は強気に出ることにした。

 無駄だ、リリララ。お前に俺の嘘は見破れねえ。嘘発見器の仕組みくらいは知ってるだろ。あれは嘘を見破る装置じゃねえんだ。人間の心理を診てるだけ。だがな、未来永劫の真実なんてものはこの世にゃねえんだよ。前提が間違ってる。人生なんざ嘘っぱちだ。その嘘を是と認めたシステムじゃあ俺は裁けねえよ。

 モッニカ女史が戦慄したような眼差しを俺に向けた。


「な、なんという……。さ、詐欺師」


 誰が詐欺師だ。

 モッニカ女史が標的を変えた。俺の隣で退屈そうにしている下着ドロをキッと睨み、


「どうせあなたもこの男の同類でしょう! 白状なさい! 後ろめたいことが何一つないと言い切れますの!?」


 下着ドロが溜息を吐いた。


「穏やかじゃないな……。まぁ誓えと言われれば誓ってもいいが。俺は他人に誇れる人生を送ってきたつもりだ。後ろめたいことなど何一つとしてないよ」


 この男もまたプロである。

 真の下着ドロは依頼者の秘密を墓まで持っていく覚悟と技量を求められる。嘘発見器に引っ掛かるようでは二流、三流だ。

 モッニカ女史がバッとリリララを見る。リリララはふりふりと頭を横に振った。モッニカ女史は一つ頷き、下着ドロにぺこりと頭を下げた。


「気が立っていたようです。失礼を致しました。あの、コタタマさんのお知り合いということでしたから、私てっきり……」


 おい。随分と俺と対応が違うな? 俺には謝罪してくれないのか? それは一体どんな線引きによるものなんだ? 詳しく聞きたいね。

 頭を上げたモッニカ女史がじっと俺を見る。大きく息を吸って、ぴしゃりとこう言った。


「お黙り!」



 2.銭湯ポポロン-脱衣所


 晴れて無罪放免となり、俺と下着ドロは正式に事件を追うことになった。

 モッニカ女史はまだ俺を疑っているようで、ぴたりと俺を監視しながら事件のあらましを語った。


「被害者はネカマの皆様ですわ」


 待て。それで何で俺を疑った?


「それは……。被害に遭われた方々が真っ先にあなたの名を挙げたものですから。いつも、その、イヤラシイ目で見てくると」


 それは事実だな。俺は認めた。

 さしもの俺も一目でネカマとリアル女を見分けることはできない。このゲームは基本的なモーションのデータがキャラクターにパックされており、女キャラを作れば勝手に女らしい仕草になるのだ。

 しかし、なるほどな。妙な話だとは思っていた。銭湯ポポロンの女湯は難攻不落の要塞だ。脱衣所で盗みを働くなど不可能だろう。当然、何らかの監視を置いている。

 だがネカマ湯ならば。女湯ほどの警備体制を敷いては居なかったのだろう。その隙を突かれたという訳だ。

 俺の推測を裏付けるようにモッニカ女史が項垂れた。


「お客様に申し訳ないことをしてしまいました。もっとしっかりと警備をしていれば、こんなことにはならなかったのに……」


 そりゃあ無理な相談だろう。単純にコストの問題もある。どうしたってネカマ湯の警備は甘くなるさ。むしろ女湯と同じ水準で事に当たっていれば、それはそれで非難されただろう。コストが上がれば料金も上がるからな。

 ……被害者はネカマ。犯人は女キャラに化けて利用客に紛れ込んだ可能性が高いな。整形チケットを使っている。スクショは撮れなかった……。ネカマでも構わないと割り切れるやつなら下着ドロに走るよりも動画を撮影しようとするだろう。下着を盗めば確実に犯行があったと分かる。愉快犯の線は捨てていいだろう。あまりにもリスクと吊り合わない。

 手持ちの情報で犯人を特定するのは無理だな。罠を仕掛けるしかないだろう。AVと同じだ。それ一本でゴールできる至高のAVなんてものは存在しないんだ。パンツも同じさ。味を占めたやつは何度でも同じ犯行を繰り返す。そうじゃないと言うなら、まず特定の個人を狙った犯行ということになる。被害者の身内、もしくはストーカーだ。告白の一つや二つはしてるかもな。振られた腹いせという訳だ。こっちのパターンは大分絞れる。

 つまり二重の罠だ。そうだな……。一週間。そうと知られないよう警備を強化して、脱衣所で不審な動きをしている人物が居ないか見張る。一週間で音沙汰がなければ被害者の近辺を洗う。そんなところだろう。イーグル。お前はどう思う? お前の意見を聞きたい。


「おおまかにはそれで問題ないだろう。ただ、プロの犯行かもしれん。実行犯は別に居るというパターンだな。もしもそうだとしたら厄介だぞ。崖っぷち。一応、金の動きを追ってみるが……。手遅れかもしれん。被害者には申し訳ないが、今後の再犯防止に力を割いたほうが得策かもしれない」


 そうか。そっちのほうは俺が当たるとしよう。蛇の道は蛇。少し派手になるかもしれんが……。

 モッニカ。確認したい。被害者は何て言ってる? 正直言って俺が本気で動けば犯人を特定するのは可能だろう。ただ、かなり派手に動くことになる。ネカマのパンツを盗んだなんてのはやった本人からしたら絶対にバレたくないことだろう。その心理は利用できる。情報を流せば確実に動きを誘導できる。短絡的な犯行だ。完全に証拠を隠滅できるほどの知性を感じない。が、事が事だけに被害者の意向を汲むべきだろう。俺は盗まれたパンツの奪還を最優先するべきだと思う。それなら他に遣りようは幾らでもある。どうだ?


「ああ、毒を以って毒を制すとはこういうことなのですね……。実に犯人の心理を読むことに長けてらっしゃる……。それでお願い致しますわ」


 誰が犯罪者予備軍だ。

 よし、そうと決まれば時間が惜しい。イーグル。行くぞ。捜査の基本は足だ。まずは裏市に行く。その後、お前は警備体制の見直しに回れ。リリララ、モッニカ。お前らは警備体制強化の草案を練ってくれ。不備をイーグルがチェックする。時間が勝負だ。動きを外部に悟られるなよ? さあ、始めよう。



 3.後日談


 事件は解決した。

 結論から言うと実行犯はイーグルだった。

 この男は【目抜き梟】からの温泉絡みの依頼というだけで何の依頼か察し、大胆にも懐に潜り込むことで内部から捜査をコントロールしようとしたのだ。

 後は簡単だった。イーグルの倉庫に保管してあった被害者のパンツをモッニカ女史に渡して実行犯を突き止めるのは無理だったと説明してミッションコンプリートだ。

 元々、脱ぎたてのパンツが欲しいという無茶な依頼だったため依頼者は納得してくれたようだ。イーグルが倉庫にパンツを保管していたのは【目抜き梟】が動くと予想していたためであり、依頼者に捜査の手が及ばないよう配慮した結果であった。事実、もしも依頼者の手にパンツが渡っていたなら俺が動くことになっただろう。

 下着泥棒の被害者はパンツを取り戻せて幸せ。俺は【目抜き梟】から報酬を得て幸せ。イーグルは下着ドロの面目を保てて幸せ。まさにトゥルーエンドよ。

 軍資金を手にした俺はリリララと一緒に競馬場に行って当てたり外したりして楽しい時間を過ごした。リリララの精彩予測を使えばほぼ確実に勝てるんだろうが、以前にシロ様クロ様にキツく釘を刺されたからな。まぁリリララにとっても良い息抜きになったんじゃないか。何でもかんでも予想が当たるってのもつまらんだろう。アビリティに頼らず持ち前の知識や勘を磨かねーと人間ってのはすぐに錆びつく。当てることより、どう外すかだと思うぜ。百発百中なんてのは胡散臭くていけねえや。

 競馬場に来た時よりも少し軽くなった財布を抱えて、俺はほくほく顔でウチの丸太小屋に帰った。

 ただいま〜。

 居間に上がると、モグラさんぬいぐるみと戯れていたポチョが俺に抱きついてきた。


「ママ!」


 おお、よしよし。俺はポチョ子を抱きしめてくるくると回る。お土産買ってきたぞ〜。ほれ、焼き鳥っぽいの。

 すとんとソファに着席すると、ポチョ子がじっと俺を見つめてくる。ん? 首を傾げて促すと、ポチョ子はこう言った。


「ママ。私のパンツ欲しい?」


 どうやら事件は終わってなどいなかったらしい。

 俺がパンツ好きってドコ情報?

 参ったな……。俺は天井を仰いだ。

 ここ最近パンツの話しかしてねえぞ……。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 蝕むパンツ。それは、まるで呪いのように……。



 GunS Guilds Online


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― 新着の感想 ―
[一言] コタタマのことだから自分とイーグルを疑ったことの謝罪を目抜き梟に出させて、嫌疑から逃れられるほど優秀な下着ドロとしてイーグルを祭り上げて儲けに持っていくのかと思ってた
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