君だけの鎖がまを
1.クランハウス-居間
種族ゴミに逆戻りした上に資産が全部丸ごと吹っ飛んだので、劣化ティナンさんに慰めて貰っている。
うあ〜ん。スズキ〜。無一文になっちまったよ〜。
おいおいと泣きつく俺を半端ロリがヨシヨシと撫でくり回してくる。
「お金なんてコタタマは気にしなくていいんだよ? 私たちがコタタマを幸せにしてあげるから大丈夫。ね?」
へへっ。持つべきものは便利な女だな。胸中でほくそ笑む俺のポケットに小せえのが金をねじ込んでくる。
「今日はこれで美味しいごはんでも食べて。また明日からがんばろ?」
スズキ……! 俺は話の分かる女をガッと抱き寄せてスリスリと頬ずりした。お前はイイ女だぜ。
スズキは俺の腕の中で恥ずかしそうに身をよじって、
「も、もう。こういう時ばっかり調子いいんだから」
どちらからともなく俺とスズキの指が絡み合う。スズキの息遣いが俺の頬をくすぐる。そして、やがて……俺の小指がへし折られた。
頬を赤らめたスズキがパッと俺から視線を逸らしてソファから立ち上がる。誤魔化すように笑って軽く手を振ってくる。
「き、今日はポチョたちと一緒に遊ぶ約束してるからっ。ま、また今度ね」
耳まで真っ赤にして居間を出て行く小せえのを俺は見送る。
……相変わらず頭はおかしいようだが、まぁ金が貰えるなら文句はない。俺は半端ロリから恵んで貰った金を念入りに数えてから出掛けることにした。
馬にブチ込むには少し不足に感じたからだ。俺はセミプロだからな。仮に万馬券を引いても賭け金が少ないと後悔することになる。もっと突っ込んどけば良かったと思うだろう。重要なのはおおよその平均額を把握してそこを大きく外れないことだと思っている。つまりは自分とどう折り合いを付けていくか。どんなことにも同じことが言えるだろうが、競馬も突き詰めていけば自分自身との戦いなのさ。
さて、ネフィリアんトコにでも行くか。まずは元手を増やさねえとな。
俺はちんちくりん一号から貰った金を手のひらでジャラジャラと鳴らしながらクランハウスを出た。
2.エッダ水道-【提灯あんこう】秘密基地
「ん!」
ネフィリアのヤサにお邪魔するなりちんちくりん二号のマゴットが俺に金を突き出してきた。
……あ? 俺は自動販売機じゃねーぞ。
「ち、違くて」
マゴットは何やらもじもじしている。ちらっと俺を上目遣いで見て、
「お、お金欲しいんでしょ? あげるって言ってんの!」
はぁ? なんでお前から恵んで貰わにゃならんのだ。俺にだって譲れない一線ってモンはあるんだ。ガキンチョから金貰ってどうしろってんだよ。アホなこと言ってないで友達と一緒に狩りにでも行って来なさい。ネフィリアはどこだ? 居間か?
アホの子を押しのけてお師匠様の元に向かおうとする俺だが、マゴットに服の裾を掴まれて先に進めない。おい、引っ張るな。俺は振りほどこうとするが無理だった。
レイド戦とかで俺が目を使ってワンポイントで活躍するとザコどもが調子に乗るなとか殺すぞとか言ってくるけど、その代償として俺は妹弟子にすらレベル差で押し切られる。イベントでちょっと活躍したからって何なんだよ。ネトゲーのイベントなんてしょせんオマケだぜ。
くそっ、こんなことならやっぱりロストしておけば良かった。そうすれば今頃はちったぁマシなレベルになっていただろうに。
でも俺は諦めない。根性だ。気合だ。
離せ〜!
「ダメー! お金あげるから! 私のお金あげるから!」
ハッ。フリエア。ノミ女が廊下の角からこっちを見ている。あれは軽蔑の眼差しというやつだぜ……。
「年下の女の子にお金を……」
おい! 別に俺ぁ悪くねーだろ! こいつが勝手に……!
ちっ、仕方ねえ。手荒な真似は避けたかったが。俺はぐるんと反転してマゴットの細っこい腕を取った。肘の関節に負荷を掛けて脱出を試みるが、てくてくと歩いてきたペスさんにひと睨みされてパッと両手を上げる。OK。分かった。俺は残機がヤバい。話し合おうじゃないか。
マゴットがペスさんにひしっと抱きつく。白い毛むくじゃらに顔を埋めて、ちらっと俺を見上げる。
「……お金はダメなの?」
説明しよう。
世の中には金で買えないものがあるって言うだろ。まぁ代表的な例を挙げれば人の心ってことになるか。つまり金の価値なんて大したことねえってことだな。だったら俺が頂戴しても問題ねえってことになるよな? だってそうだろ。友情やら愛情ってのは何よりも尊くて、金には換えられねえってのが一般的な主張だ。俺は反対しない。精々友情やら何やらを大事にしてやればいい。俺は金を取る。
まぁそれは極論ってやつだ。実際のところ心は金で買えねえってのは技術的な問題だ。技術的に不可能なことを持ち出して正当性を主張してるに過ぎねえのさ。つまりは金を見くびってる。そういう手合いの輩は、金銭トラブルで周りの人間を不幸にしかねない。どんだけ人格的に優れていようとも、毎日のメシに困るようじゃどうにもならねえだろ。何事も程々が一番ってことだな。
だからな、マゴットよ。俺はこう思うぜ。むしろ目に見えない付加価値を持ってるのは金のほうなんだ。お前の金は受け取れない。何故なら俺がお前の金のポテンシャルを完全に引き出すことは無理だからだ。俺は金に意地汚いクズだが、いや、だからこそか。ドラクエ3の鎖がまを買うゴールドと終盤の有り余ったゴールドに等しい価値があるとは言わない。それはネトゲーのゲーム内マネーにも同じことが言えるのさ。
マゴット。お前は自分にとっての鎖がまを見つけろ。お前の金はそのための金だ。
「……じゃあ一緒に買い物行く」
なにっ、鎖がまを買いに行くってのか?
……あくまでも鎖がまは例え話であって実物を買いに行けという話ではないのだが……。
いや、案外面白いかもな。いいね。なんだか楽しくなってきたぞ。俺も一緒に付いてっていいか?
マゴットは嬉しそうに頷いた。
「うん!」
お座りしたペスさんも嬉しそうだ。ニコニコしている飼い主を見上げてパタパタと尻尾を振っている。
ペスさんに勝てる種族人間は居ない。残機がヤバい俺もペスさんが一緒なら安心だ。刺客なんざ一瞬で屠ってくれるだろう。
という訳で、俺はマゴットとデートすることになった。このちんちくりん二号は俺というキャラと結婚したがってるようなので、そのつもりでエスコートしてやったほうが喜んでくれるだろう。
まぁカレンちゃんいわく俺みたいに五感を鍛え上げたキャラはレア度が高いらしいからな。俺自身、俺と同じような目の使い方をするやつとは会ったことがない。
レアキャラはモテるのさ。妬んだゴミどもにトコトンまで追い込まれるがね。俺は運が良かった。先生やパイセンらのお陰で刺客を送り込まれるくらいで済んでる。
そうした恩義を可愛い妹弟子にドラッグ&ドロップしてやるのも悪くないだろう。
「じゃ、着替えてくるから待ってて!」
俺はドタバタと廊下を駆けていくちんちくりん二号を優しい眼差しで見送った。
3.山岳都市ニャンダム-露店バザー
そして一時間後。
俺とマゴットは露店バザーのブラックマーケットに居た。
胡散臭い軒先にひょっこりと顔を出した俺に、頬に大きな傷が走っている大柄な男キャラがびくっとする。
「……崖っぷち」
よう。相変わらずヤニ臭え店だな。俺は客用の椅子にドカッと座る。じろっと男を睨んで、口に咥えてるタバコを奪い取る。机に押し付けて揉み消してやってから声のトーンを落として低く凄んだ。
鎖がまを探してる……。
「鎖がまだと……?」
俺は男から目を逸らさずに小さく頷いた。
知ってることを全部言え。
ぼんやりと立っているマゴットがぽつりと呟いた。
「パねえ……」
これは、とあるVRMMOの物語。
鎖がまですか……。困難があなたを待ち受けるでしょう。それでも行くのですね。
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