GunS Guilds Online
1.プクリ遺跡
徹底している。
遺跡のヌシ、プクリについて俺はそう思っている。具体的にはヤツの運用だ。
騙し絵じみた高度な擬態と呪詛に似た固有スキル……。プクリがョ%レ氏の切り札であることは確かだろう。ポポロンを大きく上回るレベルは、プクリが重要な局面を任されてきた証拠のように思える。
遺跡を冷たく閉ざす雪原はプクリの動きを封じる監獄なのかもしれない。地下で繋がる常設ダンジョンはプクリの出入り口なんだろう。
制限時間は二時間。まともにやっても勝てない。なんとか隙を突いてクァトロくんを奪取するしかない。
俺はブラック雪だるまの集団と別れて女神像に向かう。素早く人間の里に戻り、屋台で買い食いする。ひとっ風呂浴びて胡散臭い屋台を冷やかしているとシルシルりんを発見した。俺は猛ダッシュしてシルシルりんの隣でビタッと急静止した。背中のパーツを開いて蒸気を排出する。
「あ、コタタマりん」
シルシルりんシルシルりん今日は浴衣なんだね。とても似合っているよ。わたあめ一口貰っていい? 間接キスなんて気にしなくていいよ。俺は全然OKさ。いただきまーす。
あんぐりと口を開けてわたあめにかぶり付こうとする俺の顔をシルシルりんが手を突っ張って押しのけてくる。
「だ、ダメですよ! そんなの、だって恥ずかしいじゃないですかぁ!」
恥ずかしいからイイんじゃないか。シルシルりん。俺たちはもっと仲良くなるべきだと思うんだ。同じ生産職としてね。ゲームという共通の趣味を持ってて、こうして出会った。偶然なんかじゃない。運命なんだよ。
おっとサトゥ氏からささやきが。
『ドコ行った!?』
ちっ、うっせーな。俺なんざ居ても居なくても変わんねーだろ。甘えてんじゃねえよ。
よっぽどブッチしたかったがそういう訳にも行かない事情がある。
俺はシルシルりんに片手を立てて「そういう訳だから」と別れを告げた。くるりときびすを返してダッと地を蹴った俺にシルシルりんが両手でメガホンを作って声を掛けてくる。
「こ、コタタマりん! まさかボスモンスターさんと戦ったりしてませんよね!?」
俺は走りながら振り返って大きく手を振った。
もちろんさ! レイド戦なんてやりたいやつにやらせておけばいい! 俺には関係ないね!
すぐバレる嘘ではあるが、シルシルりんはお祭りを楽しんでいるようだ。優しい人だから俺みたいなゴミでもロストしかねないと知れば心配してしまうだろう。それは効率的じゃない。人間は今という瞬間を楽しむべきだ。
俺は女神像を経由して遺跡マップに舞い戻った。プクリの眷属にポイ捨てされたゴミどもに混じって最下層に再突入する。
ゴミどもは積極的に攻勢に出る眷属の群れに手を焼いているようだ。俺は目に力を込めた。吠える。
「【心身燃焼】を寄越せ!」
女神の加護の唯一と言っていい欠点は死なないと効果がないことだ。
バッと跳躍してゴミどもを飛び越えた俺にミルフィーユとラムレーズンが素早く反応した。青い波と赤い波が立て続けに走る。当然のように無詠唱だ。
【血は濁り鉄は鈍る。果てる命、咲く命】
スキル強化、操作鈍化の魔法環境。スキル大強化じゃないのか。使えないのか、それとも。まぁいい。
命の火が激しく燃え盛る。俺はグリッと目ン玉を動かして無理やり眷属どもを視界に収めた。俺が本気で目を動かせば視神経は無事じゃ済まない。だが強化されたリジェネが俺の損傷を一瞬で修復してくれる。上出来だ。
行くぜ!
口寄せ・淫界降臨ッッ!
大規模なセクハラにゴミどもが悲鳴を上げ、眷属どもがハッとして一斉に俺を見る。
着地した俺は荒ぶる鷹のように両腕を広げて言った。
「恋の始まりはいつだってセクハラだ」
セクハラなくして人類社会が発展することはない。
俺は知らない女キャラに首を刎ねられた。
俺がくたばったことで眷属どものヘイトがリセットされる。標的を失って動きが止まった一瞬をサトゥ氏は見逃さなかった。
「総員突撃ぃ!」
ゴミどもが雄叫びを上げてプクリに突っ込む。それでいい。俺がサウナで粘っている間に制限時間は一時間を切った。時間がない。もう眷属は無視するしかない。
そしてプクリの子供はドコに居る? 探せ。使徒は子を産み育てる特権を持つ。プクリの子供を連れ去ることができればヤツをこの場から引き離せる。子を守ろうとする行動だけは運営の命令を無視できる筈だ。そうじゃなきゃフェアじゃない。子を持つことで使徒は運営の縛りを脱する機会を得る。
しかし居ない。いや擬態してて見えないのか。分からん。隠し部屋が他にあるのかもしれない。居ないものは仕方ない。俺もゴミどもに混じって突撃する。そこら辺に転がっている武器を適当に拾ってプクリに叩き付けた。武器がへし折れた。このゲームの装備は質より量だ。どんな名刀だろうがクソ硬いモンスターをブッ叩けばすぐに使い物にならなくなる。群がるゴミどもがグズグズに溶けていく。感染源が埋まっているから足から溶けるのだろう。タネが分かれば簡単なことだった。
俺は血反吐を撒き散らしながらかろうじて原形をとどめている片手をバンと地面に叩き付けた。んいぃーっ! 有りっ丈のマナを注ぎ込んでゴミどもの血を魔石に変換する。俺が銭投げをする必要はない。魔石の供給とセクハラが俺の仕事だ。
命の火が燃える。ゴミどもは何度でも蘇る。くたばれば状態異常はリセットされる。足を止めなければ前に進める。プクリに張り付いたゴミどもがガンガンと武器をブン回す。ラムレーズンが叫んだ。
「やめっ、やめろ! ロストするぞっ! それじゃ後退できない!」
眠たいこと言ってんじゃねえ。俺たちはボス戦をやってるんだ。安全に戦って勝てるなら苦労しねえ。ロストが何だ。二周目に入るだけじゃねえか。
俺はプクリをガンガン叩いて雄叫びを上げた。
「死ね! 死ね! 死ね! うおおおおおっ!」
俺に負けじとゴミどもが吠える。
「お前が死ね! あぁー! 残機がやべえ! くそったれ! くそがっ! くそがっ!」
「死ねやっ! 何なんだよ! さっさと死ね! 全員死ね!」
「もう関係ねえ! 魔法撃て! ガンガン撃て! 全員死んだったらええんじゃ! 多少はスッキリすんだろ! 死ねや!」
狂気が感染する。後先を考えずに破滅できるのが種族人間のいいところだ。
プクリがぶるりと大きく身震いした。俺たちは吹っ飛んだ。くそがっ! 俺たちは何なんだ。ゴミすぎる。
おい! 誰かクァトロを持ち出せ! そっちに吹っ飛んだゴミも居んだろ!
「うるせえ! もうやってる! くそがぁ! びくともしねえ! 何だこの管ぁ!」
「水晶をブッ壊せ! 何なら中身ごとブッ叩け!」
「やってるって言ってんだろッ! クソ硬ぇーんだよ! 魔法撃て! 中身を殺せ!」
クァトロくんを殺せば状態異常がリセットされる。死に戻りでミッション達成だ。
プクリの向こうに落ちたゴミどもは無事に全滅したようである。
どうなった?
……返事がない。くそがっ、さてはスタンを食らいやがったな。いや、そうか。プクリめ。クァトロくんに感染源を移したのか。
眷属どもが迫ってくる。くそっ、くそっ。これまでか。俺も残機がヤバい。
っ……! ミル! やめろ! 俺はとっさに制止したが遅かった。青い波が走る。
【寄る辺なく、たゆたう命は……】
くそっ、蘇生不可の魔法環境だ。
リチェットが叫ぶ。
「残機がヤバいやつは下がれ! 無駄死にだっ!」
だが眷属はどうする? レイド級を殴ったヘイトはちょっとやそっとじゃ解消されない。
いや、リチェットにはちゃんと考えがあるようだ。眷属どもが吹っ飛んで壁に叩き付けられた。この乱戦状態で眷属だけを狙い撃ちしたのか? 本当に凄えな、ティナンってのは。
妙に色っぽいティナンが片手を突き出して立っている。
モンブランだ。
今のはマールマールの【四ツ落下】だよな? 地の武将ってことになるのか。
モンブランはにやっと笑った。
「無謀な男は嫌いじゃないぜ?」
そしてモンブランの横。仰向けに転がされてジタバタともがいている眷属の腹に怪しい黒尽くめがベガ立ちしている。
ハーブミント。ティナン四天王最強の男……。
ハーブミントが同僚に声を掛ける。
「ラム。ミルフィー。怪我はないか?」
ラムレーズンとミルフィーユはコクコクと頷いた。
「う、うん。かすり傷くらいだ。こんなのすぐに治る」
「そうか」
小さく頷いたハーブミントがバッと黒衣を脱ぎ捨てた。眷属の腹から降りてプクリを見上げる。
「俺の仲間をやってくれたな」
王族にもっとも近いと謳われるハーブミントの素顔は、平均的なティナンと言えるものだった。顔面偏差値の水準が極めて高い種族なので決してブサイクではないが。
ただ、異様に鋭い雰囲気がある。柔和と評してもいい容貌に不似合いな剣呑さが宿っていた。
プクリが咆哮を上げる。
Faaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa
アナウンスが走る。
【Bury-Creepは浅いまどろみから目を覚ました……】
【縄張りを侵すものと戦わねばならない……】
【億劫なことだが、それが自然の摂理なのだと本能的に理解していた……】
なるほど。俺たちがあまりにも弱くて眠かったらしい。
プクリが地響きを立ててゆっくりと迫ってくる。眷属どもが壁際に寄って道を譲った。
……おや? 何やらダルいぞ。俺は急にダルくなってきた。くっ……。地面に片膝を屈して苦しげにあえぐ。しまった。ダルい日か。なんてことだ。
目を使う代償なのか何なのか、俺はたまに凄くダルくなる。こればかりはどうにもならない。
俺は四つん這いになってのろのろと戦線離脱を試みる。しかしダルすぎる。俺はぱたりと力尽きた。ごろんと仰向けになって寝転んでいると、俺の腹からにょきっと女の手が生えた。……ええ?
アナウンスが走る。
【GunS Guilds Online】
俺の腹から女が這い出てきた。
薄い緑色の髪。薄いカーテンを幾重にも巻き付けたような羽衣。
……【NAi】だ。俺の腹を専用通路か何かと勘違いしたらしい。
鬼畜ナビゲーターが言う。
「リアルはつらく険しいでしょう? 楽しいことなど数えるばかりだ」
大の字になって寝そべる俺を見下して、にこりと笑った。
「だから私はあなたを選んだ。あなたたちの言う……廃人ではダメなのです。リアルでのストレスが悪意の土壌となり、殺意という芽を育む糧となる。たくさんのプレイヤーを殺してくれましたね。ペタタマ。あなたは実によく働いてくれました」
ラスボスめ……。
これは、とあるVRMMOの物語。
これで、もう誰も私を止めることはできない。
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