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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
262/978

決戦!プクリ遺跡

 1.プクリ遺跡-中層域


 なんだ?

 何が起きている?

 いきなりトラブルだ。

 遺跡マップの中層域。俺の頭ン中に仕込まれたレーダーを無数の光点が埋め尽くしている。

 クソ虫さんたちがモンスターと戦っている。

 ……俺はそんなことを命令した覚えはないぞ。

 ならば答えは一つしかなかった。

 ネフィリアだ。

 ハッとしたサトゥ氏が俺の肩を掴む。


「行くな! 罠かもしれない!」


 俺はサトゥ氏の手を振りほどいた。

 別に俺はネフィリアが好きとかじゃない。でもアイツが戦ってるなら、その場に俺が居ないのはおかしいんだ。理解してくれとは言わない。いびつな師弟関係だ。けど、どっちを選ぶとかそういう話じゃないんだよ。

 ネフィリア……。今行く。

 俺は駆け出した。

 連合軍の強襲体制はまだ整っていない。俺の行く手に種々様々なモンスターが立ち塞がる。どけ! 俺は目に力を込めた。ヘイトコントロールして同士討ちを誘発。俺は一人のほうが自由に動ける。

 ネフィリアもそうだ。ヘイトコントロールというのはそういう技術で。仲間なんてものは不確定要素にしかならない。もしも例外があるとすれば、それが俺にとってのネフィリアで、ネフィリアにとっての俺だった。

 俺は襲い掛かってくるモンスターを躱して最下層に向かう。そこにネフィリアが居るから。



 2.プクリ遺跡-最下層


「コタタマ。来たか」


 ネフィリア。

 ネフィリアは最下層の壁際に座り込んでいた。腹が大きく抉れている。致命傷だ。

 駆け寄る俺に、ネフィリアが皮肉げに笑う。

 お前……。なんだってこんな……。

 ネフィリアが血を吐いた。血に汚れてなお、この女の美しさは変わらない。憎まれ口も健在だ。


「さあな」


 ……何か企んでやがるのか。まぁいい。俺はネフィリアを抱えて立ち上がる。

 もう少し待て。じきにサトゥ氏たちが来る。女神の加護さえ発動すれば……。

 だがネフィリアは頭を横に振った。


「間に合わない。時間が、ない。聞け」


 何だよ。


「無条件に、眷属にだけ、効かない魔法などというものは、ない。Bury…Creep。Buryは、埋葬。Creepは、忍び寄る……。罠、ではない。疫病……感染だ。ウィルス、だろう。眷属を生き埋めにし、感染源に使っている。おそらくは、感染源の状態異常が、そのまま、伝染していく……。感染源を、殺せば、厄介なスタンは防げる筈だ……」


 ネフィリアが咳き込んだ。口腔からあふれた血が黒魔コーデに染みを作る。

 もういいっ。喋るな!

 ネフィリアはゆっくりとまぶたを閉ざしていく。自嘲するように笑い、小さく呟いた。


「コタ、タマ。お前は、人間だ。【ギルド】では、ない。私の……」


 お前の? おい、何だよ。俺はネフィリアを揺するが、反応はなかった。

 俺の腕の中でネフィリアの身体が自壊していく。

 赤い輝きが舞い上がり、役目を終えたように大気に溶け込んで消えていく。

 ……何だってんだよ。恩を着せたつもりか? しょせんゲームじゃねえか。死んだからってどうなるもんでもねえだろ……。

 俺は斧を肩に担いだ。

 プクリは擬態しているらしく、目には見えない。けど居るんだろう。俺は親しげに声を掛けた。

 よう、待たせたか?

 悪いナ。俺みたいな雑魚一人に手間を掛けるのも面倒だろう……。

 でも、まぁ付き合ってくれや。あんなでも一応は俺のお師匠様なんでね。やられっ放しってのは俺の流儀じゃねえんだ。

 俺は奇声を上げて突進した。

 走りながら片腕をガトリングガンに換装して銃弾を吐き出す。俺の肩が脱臼した。以前から薄々勘付いていたことではあるが、武器腕は身体の構造上無理がある。

 だが銃弾が弾けたことでプクリの居場所を特定することはできた。大まかに当たりを付けて斧を全力で振り下ろす。斧がへし折れた。ついでに腕もへし折れた。無理な角度から殴ってしまったらしい。両腕が使い物にならなくなったため、頭突きしてみる。二度三度と頭突きしたところで、ようやくプクリは俺の相手をしてくれる気になったようだ。

 擬態を解いた巨大なカメレオンが俺をじっと見下してくる。

 俺は笑った。

 へっ。死ね。

 身体に付着したネフィリアの血から五つの魔石を抽出。使い物にならない両腕を代償に捧げて魔石を加速、撃ち出した。五発の魔石弾が灼熱の軌跡を引いてプクリに着弾した。

 プクリは微動だにしない。少し首を傾げて不思議そうに俺を見る。

 強えな。俺は笑った。笑いが止まらない。狂ったように笑う。笑いすぎて腹が痛ぇ。あーあ……。プクリにもたれ掛かる。

 くそがっ! 魔法を使う価値もねえってか! 見下してんじゃねーよ!

 俺はプクリにかぶり付いた。歯が全部折れた。もうどうにもならないのでプクリの鱗をベロベロと舐める。

 おっと、これにはプクリも気分を害した模様。


 Faaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa

 

 咆哮を上げて前足を叩き付けようとしてくる。

 俺はプクリの前足の裏を見上げて、へらっと笑った。

 へへっ。ざまぁみやがれ。爬虫類ごときが人間様を見くびるからそんな目に遭うんだぜ?


 アナウンスが走る。


【条件を満たしました】

【パッシブスキルを発動します】


【女神の加護】

【Death-Penalty-Cancel(命の価値は)】

【Stand-by-Me!(あなたたちが決めればいい)】


 ぺしゃんこにされた俺は、飛び散った部品の一つから全身を再生するなり叫んだ。


「ネフィリアの伝言だ! 罠魔法じゃない! 疫病! 感染だ! 感染源は眷属! 生き埋めにされたやつを殺せば気絶は避けられる!」


 ネフィリアの言うことを信じるなら、俺たちは思い違いしていたことになる。ウィルスのような魔法だからプッチョムッチョのゴミスキルは通用しなかったんだ。あいつらの魔法は誰かの命を奪うことができないようになっている。優しいスキルだ。それは、ひょっとしたらどんな魔法よりも価値があることなのかもしれない。


「一番槍ぃ!」


 急降下してきたミドリが槍の穂先をプクリに叩き付けた。俺のように武器をへし折るヘマはしないようだ。


「下がれ。ミドリ」


 アオが前に出る。

 入れ違いに俺が後退して吠える。


「δ(デルタ)! 来い!」


 中層域を突破した【歩兵】が群れを成して最下層に雪崩れ込む。

 RMT業者を従えるスマイルが剣先をプクリに突き付けて号令を放つ。


「感染源は地下1〜3メートルを想定しろ! M2、M3部隊、前へ! 【全身強打】セット! 撃てぇ!」


 言いたいことを全部言われてサトゥ氏はやることがない。


「えっとぉ……がんばろ?」


 セブンとリチェットがサトゥ氏を追い抜いて前に出る。ロン毛が渦巻き銃身が生える。リチェットの片手が機械化した。白い司祭服が黒いドレスに換装。露出度が一気にアップした。120%化したリチェットが吠える。


「クァトロを返して貰うぞ!」


 命の火が燃える。

 アナウンスが走った。


【冒険者たちがプクリ遺跡を強襲しました!】


【勝利条件が追加されました】

【勝利条件:レイド級ボスモンスターの討伐】

【制限時間:79.87…86…85…】

【目標……】


【使徒】【Bury-Creep】【Level-4002】


 加護の火が揺れる。

 プレイヤーの全身から発散していた命の火が、列を成して身体を取り巻くようなエフェクトに変化した。

 ティナン四天王の一人、ラムレーズンが小さな身体で目いっぱい叫んだ。


「ロスト一回分くらいならオレがカバーしてやるからぁー! 火の形が戻ったら危ないぞー! そしたらぁ! ちゃんと下がれよなー!」


 ミルフィーユがぽつりと付け加える。


「本当に危ない時は私が止めるけど」


 エッダの固有スキル【八ツ墓】を持つミルフィーユは、女神の加護を一時的に停止することもできる。リジェネ破壊と引き換えにデスペナルティを軽減することも可能だ。

 ラムレーズンとミルフィーユによる二重のセーフティ。

 マーマレードがこの二人を先行させたのは、プレイヤーのロストを懸念してのものなのかもしれない。

 プクリの眷属が動く。ティナンの参戦がノンアクティブモンスターに何らかの心境の変化を齎したのかもしれない。擬態を解き、こちらへと押し寄せてくる。

【ギルド】の斉射。が、止まらない。銃弾を浴びたカメレオンの鱗を滑るように火花が散る。硬い。まるで装甲車だ。

 眷属を鼓舞するようにプクリが歌う。


 La La La……


 突出した魔法使い部隊が一人残らず昏倒した。

 状態異常の感染……。いや転写と言うべきなのかもしれない。

 プクリの感染魔法は眷属を感染源にしている。だから眷属には効かない。おそらく免疫によるものだ。同じ使い方がプレイヤーにできるのどうかは分からない。だが、もしもできるならプクリの固有スキルは魔法使いの夜明けになり得る。フレンドリーファイアを避けられるということだからだ。

 気絶した魔法使い部隊に、近接職が人間爆弾さんを放り込む。気絶は厄介な状態異常だ。しかし殺してやれば即座に前線に復帰できる。

 そして感染源を殺せば人間爆弾さんを放り込む手間すら省ける。

 戦線を構築した前衛とプクリの眷属が真っ向から衝突した。あえなく突破される。眷属にくわえられたノロマなゴミどもが地面を引きずられて連れ去られていく。言うまでもなく俺もその一員だ。あうあうあー!

 遺跡の外にポイっと捨てられた俺たちゴミは、猛吹雪の中、遺跡をキッと見据える。


【ギルド】が。種族人間が。そしてティナンが。

 この日、ついに一つの目標に向かって手を組んだ。

 ギルドでもクランでもない。

 レギオンの結成だ。


 コテリと凍死した俺の死体からじわじわと雪が黒く変色していく。

 スキルの垣根は絶対じゃない。そのことを俺はポチョに刺殺されて学んだ。

 女神の加護には、まだまだ多くの可能性が秘められている。


【Death-Penalty】


 黒く変色した雪と同化したゴミどもが命の火を燃やして立ち上がる。

 ブラック雪だるまであった。


 硬い鱗は万能じゃない。カメレオンは変温動物だ。雪だるまを背負って移動することはできない。

 ブラック雪だるまの集団を率いて遺跡に戻った俺に、プクリの眷属は気圧されたように後ずさりする。やがて、くるりと反転して逃げて行った。

 ブラック雪だるまがぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねる。


 ゴミの眷属ポイ捨ては攻略したぜ。

 さあ、第二回戦と行こうか……!




 これは、とあるVRMMOの物語。

 刺し殺された経験が男を強くした。毎日のように殺されて、ようやく辿り着ける境地もある。全てはこの日、この瞬間のため……!



 GunS Guilds Online

 


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