決戦!プクリ遺跡
サトゥ氏に完全に裏を掻かれた。
俺自身が言ったことでもある。覗きは絶対に誰かがやると。つまり覗きに走ったゴミを捕縛して魔石の原材料にしたならば、女キャラが温泉に浸かり、その女キャラを目当てにゴミが覗きに走る、覗きに走ったゴミから魔石を抽出する、抽出した魔石で温泉の素を作るというサイクルが完成することになる。
ネトゲーマーはクソつまらない素材集めを延々と周回する習性を持つ人種だ。たとえ確率が小数点以下だったとしても懲りることなく女湯に挑むだろう。そう、確率はゼロではない。後になって実はゼロだったと判明するよりは遥かにイージーなミッションだと言わざるを得ないだろう。
兎にも角にも女湯をめぐる攻防は一応の決着を見た。残すところは俺が今回の件とは無関係であり、犯行時刻に現場に居なかったと証明するに足るアリバイトリックを今から考えて実行に移すくらいか。ウチの子たちにバレたらマジで何されるか分からんしな。
「安心してくれ。俺は口が固い」
サトゥ氏もこう言ってくれている。
トドマッにはああ言ったが、俺は友のためとあらばこの身が引き裂かれようとも戦う男。クァトロくんを見捨てることなどできよう筈もない。
さあ、俺たちの小さな勇者様を迎えに行くとしよう。待ってたぜ? この瞬間をな。
1.ポポロンの森-人間の里
リニューアルした人間の里は、もはや完全にレイド戦を想定した前線基地に生まれ変わっていた。
サトゥ氏がやったことは単純だ。
何らかの事情でレイド戦に消極的なプレイヤーたちに役割を与えること。
人間の里を拠点に食料やPOT類といった兵糧の輸送路を作り上げた。
つまり祭りだ。
レイド戦が勃発した際、山岳都市の露店バザーで細々と商売するよりも人間の里に出稼ぎに来たほうが儲かる仕組みを作った。
具体的には女神像の付近に密集していた住宅地を撤廃し公共広場を設置。その周囲をポポロン温泉を始めとする公共施設でぐるりと囲った。全てはレイド戦に勝つためだ。
実のところ、そうしたプランはかなり以前からあったらしい。ただ、早い者勝ちの理屈で一等地に家を建てたゴミどもが先住権を主張したため先送りにされていたのだ。
それが紅蓮の天秤ガチャ事件により一気に片付いた。文字通り一掃された。このゲームに土地の所有権などというものはないのだ。邪魔な家さえなくなってしまえば、先住権など個人の感想でしかない。
攻略組が口を揃えてここはずっと前から更地だったと言えば誰も逆らえない。誰もが欲しがる一等地を公共施設にすると言えば大多数のプレイヤーは諸手を挙げて賛成する。どこぞの金持ちに独占されるよりはマシだからだ。
種族人間の特性を巧みに突いている……。大黒屋の教えを受けてサトゥ氏は一回り大きく成長したようだ。
立派になったな。俺は、ゴミどもに作戦の概要を伝えているサトゥ氏を感慨深く眺める。
「これよりプクリ遺跡を強襲する! 作戦目標は遺跡最下層に囚われたクァトロの救出だが強制はしない! 今日は祭りだ! 楽しんで行ってくれ! また今回の作戦にはティナンと【ギルド】も参加する!」
そう言ってサトゥ氏は傍らに立つティナン四天王の二人を紹介した。
「ティナン姫の近衛兵、ラムレーズンとミルフィーユだ!」
なんちゃって戦闘狂とコミュ障ティナンが一歩前に出る。代表して口を開いたのは、なんちゃって戦闘狂のラムレーズンだ。
「オレはラムレーズン! マーマレード殿下の命により馳せ参じた! 言っておくがオレたちは強い! 足だけは引っ張ってくれるなよ! 以上だ!」
短く切り上げようとしたオレっ娘をミルフィーユが後ろから突付いた。
「モンモンとミンミンは?」
ラムレーズンが小さく「あっ」と言った。気を取り直して続ける。
「そ、それと、この場には居ないがもう二人が後から付いてくる! これも殿下の命だ!」
俺もラムレーズンの背中を突付く。
なんでだよ。一緒に来いよ。もったいぶってんじゃねえよ。
「お、オレたちはお前らと違って死出の門なんか使えないんだよっ。走って行くしかないだろっ。両殿下の護衛を疎かにはできないから後詰めはあの二人が最適なんだ!」
こいつ、イジられキャラだな。
ミルフィーユがイジられティナンの背中を突付く。
「ラム。そいつは無視して。話が長くなる」
話が長いだ? そんなことねーよ。俺は、この俺が場を弁えた言動を旨とすることを強烈に主張した。
お前らは誤解しているようだが、俺は無駄な話が嫌いだ。ガッコの全校集会とかでよー校長センセ辺りがああでもねえこうでもねえと延々と喋り続けるんだが。ありゃあ仕方ねえ。何しでかすか分かんねえようなガキンチョを100も200も従えてよ、おまけに普段は接点がねえと来た。たまにちょっくら生徒の様子でも見に行くかと気張ってみれば、廊下走んなっつってんのに全力疾走してるアホを普通に見掛けるんだぜ? そりゃあ言いたいことの一つや二つはあるわな。更に始末に困るのが、大半のガキンチョは別に学校に来たくて来てる訳じゃねえんだ。降って湧いた休校日なんざ大歓声の嵐よ。学校のトップとしちゃあ文句の一つも言いたくなるだろうよ。ちょっと待てよと。え? 学校ってそういうところだっけ?ってなるよ。自分の職場が何を目的とした施設なのか見失ってもおかしくないぜ。実際、もうほとんど動物園と変わんねえよな。校長先生ならぬ園長先生だよ。園長先生と言えば、ラムよ。ああ、お前、ラム子と名前が似てるな。紛らわしいぜ。レーズンとでも呼ぶか? いや、ちょっとそれはセンス悪いな。まぁいいや。ラムで。やい、ラム。ジョゼット爺さんは来てくれねえのか? あの爺さんが来ればお前らはマーマとメープルの護衛に専念できるし悪い話じゃないと思うんだが。つーか爺さんだけでいいよ。今からでもチェンジできねえかな? ああ、いや。別にお前らじゃダメってことじゃないぞ。やめろ。悲しそうな目をするな。ほら、ゴミどもがブーイングの嵐じゃねえか。俺は目からカッと怪光線を放ってゴミどもを黙らせた。
おら、ラム。俺が悪かったって。高い高いしてやるから。な? そぉら、高い高ーい。俺はラムを抱き上げてやって、この女がいかに使えるティナンであるかをゴミどもに説明してやった。
この火の武将様はな〜。凄いんだぜ〜。マーマにガムジェムの力を分け与えられてて、ティナンでありながら【心身燃焼】を使えるんだ。ハッキリ言って無敵だね。それに、こっちのミルフィーユも大したもんだ。なんとエッダの【八ツ墓】を使える。それがつまりどういうことか分かるか? 分かんねえだろうなー。教えてやる。俺はラムレーズンを地面に降ろしてゴミどもを指差した。目と口をかっ開いてバカにするように吠える。
お前らの妨害工作を無効化できるってことなんだよねー! 残念でしたー!
もちろんゴミどもも黙っちゃいない。俺を指差して罵倒を浴びせてくる。
「いつも邪魔してんのはオメェーだろがぁ!」
「引っ込め! 話が長ぇーんだよ!」
「放っといたらホンットに無限に喋り続けるなテメェは〜!」
聞こえっませーん。俺は口をひん曲げて顔をぐるぐる回した。
「ンだぁそのツラぁ!」
「つーか【ギルド】じゃん! お前【ギルド】じゃん! 普通に混じってっけど!」
「あんま調子こいてっとチップ抜くぞッ! マナポにしてやっか!? あ!?」
ガラ悪いわぁ〜。マジで何なの?このガラの悪さ。こんな民度最悪なネトゲー見たことねえ。
俺は飛び交う無言申請を全部まとめて棄却した。無駄な努力ご苦労さんっと。ポイポーイ。
さて、サトゥ氏。いやリチェットでいいか。リチェット。ここらでいっちょ〆の言葉を頼むわ。
リチェットがギョッとした。
「えっ。これを、わ、私にどうしろって言うんだ?」
いやいや、お前にはコイツらに色々と言っとかなくちゃいけないことがあるだろ。まぁお前の口からそれを言えってのは酷か。仕方ねえ。ここは俺っちがフォローしてやるよ。
俺はゴミどもに向き直ってリチェットの背中をバンバンと叩いた。
おい、お前ら! ちっ、うるせーな! ちったぁ黙れや! ケジメ付けろって学校で習ってねえのか!? ぴーちくぱーちく喚いてんじゃねえ! リチェットから大事な話があんだよ! 俺は本日二度目となる怪光線を放ってゴミどもを黙らせた。
よぉーし! じゃあ言うぞ! ああ、そうだ! 俺が言う!
いいかぁー! ここに居るリチェットはなぁー! お前らにひどいことをした! 世に言う紅蓮の天秤ガチャ事件だ! かく言う俺もその被害者よ! だが俺は許したぜ! コイツは! リチェットはスゲーことをした! 成し遂げたんだ! エッダは強かったよな! あんなのどうにもならねえ! お前らは覚えてねえかもしれねーけど、そこで死んでるセミ野郎のセブンはロストしたし俺もロストした! お前もお前もお前もお前もロストした! でもここに居る! それは何故か! ラム子がお前らに力をくれたからだ! 理由は分かんねえけど、とにかくそうだ! お前らン中にゃ連れがロストしたっつーやつもいるかもしれねーが、そいつは別にリチェットの所為じゃねえ! セミ野郎がしぶとく生き残ってるくらいだからな! わざとロストしたか別件だろう! ラム子の手下に生まれ変わった俺が断言してやる! エッダ戦が原因でロストしたやつは居ねえ! 一人もだ! ラム子にとってその程度のことは気にするほどのモンじゃねえのさ!
ゴミどもは俺の言葉に耳を貸すつもりになったらしい。叫び続けるのも疲れるので俺はトーンを落とした。
クァトロくんな、どうもラム子を説得したいらしい。正直、俺はラム子をどうしていいのか分かんねーんだ。行動に一貫性がないっつーかね。クァトロくんを仲間にしたいなら他にもっと遣りようはあるだろうに。
とにかく、俺たちが次のステージに進むにはクァトロくんが居ないとダメだ。多分、モモ氏が邪魔してくる。クァトロくんを隔離したのは、あの%女の意向によるところが大きいってのがサトゥ氏の見立てだ。身内を守ろうとしたんだろう。それだけじゃないような気もするが。まぁそれはいい。
問題はレ氏だ。あのタコ野郎、ここ数ヶ月イヤに大人しいよな? なんかあるぜ。用心しろ。
さて、ここからが本題だ。
俺は腹をぱかっと開いて中から新型のポーションを取り出した。
これはグミポーションと言ってな。静脈注射に抵抗があるってやつも安心してキメられる。
俺は、元【敗残兵】のメシ屋の成果をパクった。
宰相ちゃんがギョッとした。
「ちょっ……」
俺は無視した。歯列をギラつかせて新商品をアピールする。
お安くしとくぜ?
これは、とあるVRMMOの物語。
原価は半分、手間賃上乗せ。
GunS Guilds Online