表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
259/978

内臓をもう一度

 これまで俺はネトゲーにまつわる様々な困難を乗り越え、からくも生き延びてきた。

 ネカマ。直結厨。PK。暴言……等々だ。

 しかしVRMMOという、かつて人類が遭遇し得なかった未知なる環境が、想像だにしない怪物を産んでしまったのか?

 かつてない危機……。

 スズキシリーズが再び俺に迫りつつあった。

 


 1.クランハウス-居間


 スズキシリーズの第二席と名乗る男に口説かれている。

 俺はモグラさんぬいぐるみをぎゅっと抱き締めて怯えるばかりだ。

 怖いよ。ホモなの?


「コタタマさん。それは既に終わった話だと何度も言っている。あなたが最終的な決断を下してくれれば、その日の内に俺たちはホモになれる。その準備はあるんだ」


 言ってる意味が分かんない。それはホモと何が違うの?


「あなたがあの子を大事に思ってくれているのは知ってる。悔しいが、我々ではあなたの代わりにはなれないだろう。だからコタタマさん。役割分担をしようという話なんだ。結婚は手段の一つでしかない。しかしわざわざ他の方法を選ぶ必要がないだろう?」


 女の人じゃダメなんですか?


「? いや……。母親が二人居たらおかしいだろう。あなたが我々の妻となり、我々は夫として父親としてあの子を支える。これはシリーズ全体の総意と受け取って貰って構わない」


 狂ってるよ。俺も大概ネトゲーの頭がおかしい人々は見てきたつもりだったけど、お前らほどブッ飛んだのは初めて見た。それとも俺が知らなかっただけでどっかには潜んでたのか?


「コタタマさん。歴史は作るものだ。振り返るものじゃない」


 ホモが俺の手からモグラさんぬいぐるみを取り上げようとする。何をする気だ。


「そこまでだ」


 ハッ。ニジゲンくん。ニジゲンくんが俺を助けに来てくれた。ホモであることには変わりないが女キャラなので徒党を組んで迫るホモシリーズよりはずっとマシだ。

 ピンク髪がホモ野郎と対峙する。


「噂には聞いていたが、とんだ勘違い野郎が居たもんだな。崖っぷちは俺の運命なんだ。お呼びじゃねえよ。失せな」


「ニジゲンさんか。あなたはβ組だ。あなたは攻略最前線でレイド級と戦っていればいい。いや、望まなくともそうなるだろう。コタタマさんとは生きる場所が違う。あなたの存在が……。ニジゲンさん。あなたの思いがコタタマさんを彼自身が望まない方向に連れて行ってしまう。あなたがコタタマさんの為を思うならば、身を引いてくれないか? それもまた愛の形だろう」


 いや、俺が厄介ごとに巻き込まれるのはJKは関係ないだろ。


「もちろんコタタマさんの想いが我々よりもニジゲンさんに向いていることは把握している。それでもあえて言わせて貰う。ニジゲンさん。あなたでは彼を幸せにすることはできない。彼は平凡な鍛冶屋だ。β組ではない。β組はβ組同士。分相応な恋というものがある」


 しかしニジゲンは一歩も退かなかった。余裕すら滲ませてキッパリと言い切る。


「常識で量るなよ。俺と崖っぷちの愛はそんなチャチなもんじゃねえ」


 改めて言われるとキモいぜ。俺は泣けてきた。どっちに転んでも結局はホモのそしりは免れないのか。俺の明日はどっちだ。


「その話は僕抜きで決着が付くものなのかな?」


 アットムくん! アットムくんが俺の窮地に駆け付けてくれた!

 アットム〜。二階からトントンと階段を降りてきたアットムくんに俺はひしっと抱きついておいおいと泣いた。

 アットムは俺の頭をヨシヨシと撫でてから、一転して鋭い眼差しでキッとネカマとホモを睨み付けた。


「コタタマを傷付けておきながら何が愛だ。そんなものを僕は認めない」


 よくぞ言ってくれた。やっぱりアットムくんは頼りになるぜ。

 ニジゲンが悔しげにうなる。


「アットム……!」


 ニジゲンとアットムはあまり仲が良くない。というかアットムは友達があまり居ない。ティナンとばかり仲良くしてるから種族人間の妬みを買ってるのと、アットムの真似をして怪しげな拳法を習得しようとしたゴミどもが次々と挫折していくので掲示板でチートだ何だと叩かれているらしい。自分ができないことを他人ができるのは認められない。それは種族人間に備わる原始的な欲求である。

 同じロリコンだけがアットムを認めてくれる同胞だった。

 アットムが吠える。


「ロリコンに一縷の希望を齎してくれたのがコタタマだ! コタタマはロリコンの星なんだよ! あなたたちには渡さない!」


 ……ええ? 俺、そんなことになってるの? それはやっぱりアレか。大神聖ロリコン宣言とやらが尾を引いているのか。くそっ、一時のテンションに身を任せた結果がコレだよ。トホホ……。

 俺はとぼとぼとソファに戻って経験値稼ぎを再開した。

 一堂に会したロリコンとネカマとホモが火花を散らしている。


「旦那〜」


 ネカマが増えた。アンパンだ。

 ンだよ。キメェな。懐いてくるんじゃねえよ。

 俺はくっ付いてくるアンパンを押しのけようとするが、レベル差で押し切られた。俺の隣に座った茶髪ポニーがポニーをぴょこぴょこと揺らして俺の顔を覗き込んでくる。


「旦那、旦那。美味しいメシ屋を見つけたよ! 一緒に食べ行こう!」


 あー? 美味いメシ屋だ? お前、俺が味にうるさいと知ってのことだろうな……。お前の舌はイマイチ信用できねえ。何食わせても美味い美味いの一点張りじゃねえか。


「そんなのホントに美味いんだから仕方ないじゃん!」


 ちっ。それが信用ならねえって言ってんだよ。

 まぁいい。おい、そこの三人。そういうことだ。メシを食いに行くぞ。お前らも一緒に来い。喧嘩したら叩き出すぞ。いいな。

 そういうことになった。



 2.ポポロンの森-人間の里


 サトゥ氏主導の人間の里リゾート化計画は順調に進んでいるようだった。

 過日の紅蓮の天秤ガチャ事件で荒野の戦場と化した里は徐々に秩序を取り戻し、元気が有り余っているティナンが再建に駆け回っている。非力な種族人間が働いているふりをして暇を潰している姿が哀愁を誘う。あれなら、かえって居ないほうが作業が捗るんじゃないか? いや、ティナンもその辺りは察しているようだ。どうにかして種族人間に仕事を与えようとしている。


「人間さんたち! ここ手伝って貰っていいですか? ここ!」


 ティナンが一声掛けると、働いているふりをしていた種族人間がわらわらと集まってくる。


「僕たち、力が強すぎて細かい作業は苦手なので! よろしくお願いします!」


 ティナンが嘘を吐いた。

 彼らは種族人間よりも遥かに器用だ。

 ……ハッキリ言って種族人間がティナンに優っている点は一つもない。無理に挙げるとするなら悪意ということになるが……。それは……優っていると言えるのだろうか。大いに疑問が残る。

 仕事を与えられた種族人間はもるもると嬉しそうに鳴きながらトンテンカンテンと釘を打ち込んでいく。角度が悪かったらしく、釘が途中で曲がった。


「もるるっ……」


 …………。


 さて、アンパンが俺たちを連れ込んだのはモツ煮屋だった。

 威勢のいい大将が俺たちを歓迎してくれる。


「へいらっしゃい!」


 つーかサタウだ……。

 スマイルにリベンジマッチを挑んでボロ負けした復讐の鬼がメシ屋に華麗な転身を遂げていた。

 思わずサッと目を逸らした俺に、サタウが屈託なく笑い掛けてくる。


「クラン潰し! 久しぶりじゃないか! 昏睡状態に陥ったと聞いていたが、身体は大丈夫なのか? ん? はははっ!」


 ま、まぁね。

 ……その、あんたも元気そうで良かった。す、スマイルの件はもういいのか?

 サタウはニコッと笑った。


「急に仕事を辞めたものだからやることがなくてね。ペットを飼うことにしたんだ。今の私は駆け出しのテイマーさ」


 見れば、サタウの足元に子犬がまとわり付いている。かつての復讐鬼は子犬を愛しげに抱き上げ、


「この子のために生きよう。今の私はそう思ってるんだよ。この小さな命はなんて尊いんだろう。そう考えたら復讐なんてバカらしくなってね」


 お、おぅ、そうか。

 ……テイマーは薬剤師の二次職なので、攻撃魔法と調合のクラフト技能を使える。試しに料理してみたらドハマりしたようだ。

 メシ屋が店に動物置くなよとは思ったが、衛生面は問題ない。これはゲームなのでプレイヤーは汚れない仕組みになっている。テイマーの召喚獣も同様だ。

 まぁ……落ち着くトコに落ち着いたってことか。根がお人好しのサタウじゃ逆立ちしてもスマイルには勝てねえからな。一対一に拘ってるようじゃダメだ。正々堂々だの、後味に良くないものを残すだの、そういった次元にスマイルは居ない。承太郎がDIOを上回ったのは、散っていった仲間たちが承太郎に多くのものを遺していったからだ。俺はそう思う。だから承太郎のスタンド、スタープラチナの成長性は「完成」なんだろう。人間の精神は一人じゃ育たない。

 しかしモツ煮ね……。

 アンパンがニコニコしてる。

 俺はイラッとした。何を見透かしたような目で見てやがる……。


「良かったね、旦那」


 あ?


「だってサタウさんのこと気にしてたじゃない。旦那は何だかんだで面倒見いいからな〜」


 はん? 今更になって気が付いたのかよ。

 アンパン。俺は人一倍心優しい男だぜ。常に心を痛めている。それでいて、そいつを表には出さない。ネフィリアんトコに居た頃にお前がミスをするたびに陰ながらフォローしてやっていたのが俺だ。俺はいつでもお前を見守っているぞ……。


「……ええ? フォローって俺が眠たいって言っても延々と喋ってただけじゃん……」


 おい、いつまで突っ立ってんだ。さっさとメシにしようぜ。あ、俺とりあえず生ね。

 アンパンがすかさず言ってくる。


「瓶ビールにしようよ。俺がお酌してあげる!」


 嫌だよ。お前、酒飲まないじゃん。俺、そういうの嫌い。

 俺はアンパンを座席に引っ張り込んで続けた。

 あのな、瓶ビールには美味い注ぎ方ってのがあるんだよ。ネットで調べればすぐに出る。お前は知らないだろ。酒飲まねえから。そういうやつに酌されっと俺はマジでイラつくんだよ。適当に注ぎやがってよ。かと言って手酌してたらノリが悪いヤツ扱いだ。悪しき文化とはまさにこのことだぜ。断るのも変な話だしよぉ。

 俺はネカマとロリコンとネカマとホモでテーブルを囲んだ。

 かんぱーい。

 おや、アットムくんがじとっとした目で俺とアンパンを見ている。どうしたね?


「君たち仲良いよね。凄く」


 ニジゲンがうんうんと頷く。


「崖っぷち、ポニテ萌えなのか?」


 ポニテ萌えはアットムだ。

 俺はな、女にゃそれぞれ似合う髪型ってのがあるってのが持論だ。

 例えばJKよ。お前のツインテなんかはいい歳した女がしてたらキツイだろ。許される、許されないってのはあるよな。まぁそれは極端な例としても。好みの髪型なんてものはないんだよ。それが俺の結論。結局はバランスさ。

 スズキシリーズのホモが自分を指差して何やらアピールを始めた。


「俺はどうだ?」


 どうとは? 俺はぐびっと麦をあおった。

 お前さぁ。俺と結婚したいならせめて女キャラになれよ。それが最低限の礼儀ってモンだろ。


「それは趣旨に反するだろう」


 反しないよ。なに言ってんの?


「あの子には父親が必要なんだ」


 アットムが反応した。


「あの子ってスズキのこと?」


 おお。そうなんだよ。コイツ、スズキのパパになりたいからって俺と結婚するとか言ってるんだぜ。

 ロリコンの態度が軟化した。


「スズキの……。もしかして、あなたは同志なのか?」


 だがホモは認めない。


「汚らわしい目を俺に向けるな。お前のようなやつが居るから俺たちは苦労するんだ」


 アットムくんも認めなかった。


「一緒にしないで欲しいな。僕らに言わせてみればスズキはロリの風上にも置けない痴れ者さ。魂がこもってないんだよ。ロリコンは精神性なんだ」


 ニジゲンが首を傾げる。


「え? 見た目じゃねえのか?」


 それは違う。俺も参戦した。

 ウチのスズキはああ見えて計算高いトコがある。アットムが言ってるのはそういうことさ。いわゆる無償の愛を捧げる対象が欲しいんだろう。


「コタタマ。それは違うよ」


 おっとアットムくんに裏切られたぜ。何が違う?


「性的な目はある。それは避けられないんだ。それは人間の不完全性であって、受け入れないといけない。つまり試練なんだ。試練は克服するためにある。最初から何も感じないなら、そこに精神的な成長はないんだ」


 ホモが吐き捨てるように言う。


「歪んだ性癖をさも立派なものであるかのように言う。そんなことだからお前らはダメなんだ。恥を知れ」


 ピンク髪のネカマがいきり立つ。


「偉そうに。人のこと言えた義理かよ。一方通行の愛情ほど見てて滑稽なモンはないぜ」


 ロリコンとネカマとホモの議論はありとあらゆる言葉がブーメランとなって本人に突き刺さるかのようだった。

 一方、茶髪のネカマは我関せずの態度で俺の世話を焼いている。


「旦那、ペース早くない? あんまりお酒に強くないんだから無茶しちゃダメだよ」


 誰が酒に弱いって?


「いや弱いでしょ……。たまに路上に寝っ転がってるじゃん……」


 俺はアンパンの肩にガッと腕を回した。

 俺を誰だと思ってる! エッダ殺しのペタタマだぞ!? あのサトゥ氏に誰よりもエンディングに近いと言わしめたペタタマ様だ! あのサトゥ氏にだぞ!? トップクラン【敗残兵】のマスターの!


「【敗残兵】の人たちは旦那が売っ払ったでしょ! 何なの、この酔っ払い! 過去の栄光をガンガン突っ込んでくる……!」


 サタウが人数分のモツ煮を持ってきた。

 サタウー……。サタウよー……。お前、良かったなぁ。お前、似合ってるよ。そうやってメシ屋やってるほうが似合ってる……。


「そうか? そうか……。嬉しいよ。ありがとう」


 サタウのモツ煮は、懐かしい味がした。


 かつてサタウは、スマイルの奸計から仲間たちを守ることができなかった。

 けれど、これはゲームだから。

 一度は失われたものを取り戻せる機会があってもいい。

 ほんの小さなメッセージが実を結ぶ。そんな奇跡があってもいい。


 モツ煮を突付いている俺らの後ろで、ガラッと扉が開く音がした。団体客のようだ。

 きゃんきゃんと子犬が吠える。

 子犬を迎えにカウンターから出てきたサタウが、来店客に声を掛けようとして言葉を失った。

 モツ煮の評判を聞いてやって来たのだろう。店内に入ってきたお客さんたちが子犬の頭を撫でて涙に掠れた声を上げた。


「美味しそうなモツ煮ですね。一つずつ貰えますか。マスター」


 サタウは……。

 ごしごしと目元を擦ってコクリと頷いた。


「……ああ。食べて行ってくれ。自慢のモツ煮なんだ」




 これは、とあるVRMMOの物語。

 そろそろ攻略を進めてくれませんか?



 GunS Guilds Online


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
屈指の感動回。サタウっていい奴なんよな。ヴォルフさんに並べるかも
[良い点] イイハナシダナー ; ;
[一言] もつ煮のモツがヤバい素材系のオチだとばかり
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ