奇跡の魔石
セブンの言う通り俺は化け物かもしれねえよ。
けどな、そんな俺にだってプライドはある。
誇りは売れねえ。
1.山岳都市ニャンダム
山岳都市は空前のペットブーム。
俺も聞いた話なんだが、サトゥ氏が命を賭して(いっぱい死んだ)決行した犬猫物量作戦によってマーマレードがガムジェムの暴走を克服したらしい。それによりプレイヤーがガムジェムの暴走に巻き込まれて死ぬことがなくなって遠慮なくペットを連れ歩けるようになったという訳だ。
また、昨年のクリスマスに山岳都市を席巻したゲスト降臨……。ョ%レ氏オンステージの影響が顕在化してきたのがこの頃だった。
具体的には、広く一般ティナンに種族人間の理解が深まった。
つまりョ%レ氏の降臨によって原始の記憶とやらを刺激されたティナンが、じゃあこのやたらと脆くてノロマな人間とかいう生き物はゲスト様にとって何なんだと。どういう立ち位置に居る雑魚なんだと興味を抱いてくれたのである。
それは大きな変化だった。
ゲスト降臨以前のティナンと種族人間の関係を分かりやすく言うと、ペンギンと南極調査隊のそれだ。
ペンギンは人間をあまり警戒しない。それは彼らにとって陸上が割と安全地帯で、同じ二足歩行の人間を同族と見なしているのではないかという説がある。なんかデケぇペンギンが居るぞと。そういう認識なのだとか。群れを作る習性も強く作用しているのだろう。
一方、南極調査隊は国際的な条約でペンギンに自分から触ったり群れに干渉してはいけないというルールがある。まさしくYESロリータNOタッチの関係性だ。
しかしゲスト降臨を以降とし、両者の関係に徐々に変化が見られるようになった。
ティナンは決してバカではない。あのタコ野郎と俺たちゴミの戦いの歴史を紐解けば、ヤツが俺たちを利用して何かしようとしていることくらいは勘付く。ティナンたちは心なしプレイヤーに優しくなった。
一方のゴミどもはペットを連れ歩いてティナンの関心を引く作戦に出た。メインターゲットはティナンの主婦層だ。どうして主婦層なのかと言うと、どうも三次ロリはヤツらが崇拝する二次ロリほど愛らしい存在ではなかったらしい。
まぁ分からんでもない。漫画とかに出てくるガキンチョは単に縮んだ大人だからな。そこはもうリアリティとやらを追求しても誰も得しないのだ。プロの仕事という訳だ。
三次ロリは言うほど可愛くない。となると、必然的にゴミどもは育ちきったティナンをターゲットに据えることになる。
しかし育ちきったティナンは大抵が既婚者だ。その辺りは俺もよく事情が分からんが、普通に生きてたら成人する頃には自然と結婚相手が見つかっているらしい。
嫁ぎ遅れティナンはその多くが要職ティナンであり、では要職ティナンにペット抱えて突撃すればいいという話になるのだが……。
まぁなんだ。要職ティナンと仲良くしていると俺やアットムのように晒しスレに名を連ねることになる。俺くらいになると有志のネット警察がリアルの特定に動き出す。
もっとも俺は身バレに繋がる情報を出すようなヘマはしないがね。
結果としてゴミどもは今日も今日とてペットをダシに人妻ティナンに接近を試みる。
「可愛いワンちゃんですね!」
「ええ、小さい頃から一緒に育ってね。私にとっては家族ですよ。とても賢いんです」
無駄だと思うがね。
ティナンのバックには【NAi】が付いてる。あのティナン贔屓の鬼畜ナビゲーターはプレイヤーの所有権を持っている。
それだけじゃない。かつてニャンダムは俺とサトゥ氏の母体を強制的に引きずり出したことがある。
スキルの譲渡……。あれは怪しい。プレイヤーに備わるスキルコピーとやらはレイド級に真っ向から挑んで打ち倒すことでしか完全には機能しないんじゃないか……?
……まぁいいさ。まぁいい。俺が考えることじゃない。
ともあれ、俺はご主人様の赤カブトさんと一緒に山岳都市を散歩中だ。
念願の地球産ペットを入手したご主人様は上機嫌そのもので、
「いいよ〜! 凄く可愛いよ〜! もうちょっと大胆になってみよう! あっ、今の凄くいい! 目線こっちに向けて! そう! 凄くいい!」
AV監督みたいになっていた。
まぁ楽しそうで何よりだ。
俺はギンギンに黒光りする二の腕を強調しながら辺りを見渡す。
やっぱり犬と猫が多いな。そこはやっぱり二大巨頭だもんな。着ぐるみ部隊の皆様も一部被ってるしな。
むっ、犬畜生が俺を凝視している。縄張り争いの勃発だ。基本的に野生はヤンキーだからな。なんじゃオマエェってなったら衝突は避けられない。
うーん、チワワか。勝てっかな? 微妙な線だ。俺の中で中型犬はもう完全にアウトなんだよな。勝てる気がしねえ。小型犬はギリギリだ。
俺は一通りコンビネーションブローを試して身体のキレを確かめた。よし、調子は悪くない。
見てろよ、赤カブト。俺はチワワをマットに沈めてお前の見る目が正しかったと証明してみせる。
Round.1……Fight!
俺は頭を小刻みに振ってじりじりと距離を詰めていく。ウィービング。マトを散らす技術だ。
左拳を目の高さに構え、右腕はコンパクトに折り畳んで右拳を首に添える。誰に教えられた訳でもなく自然と身に付いていたスタイルだ。窮屈に見えるかもしれないが、噛んでくださいと言わんばかりに頸動脈がガラ空きになっているのは種族人間の構造的な欠陥だ。
チワワがきゃんきゃんと吠えて俺を威嚇してくる。
ちっ、厳しいか……? 俺は胸中で舌打ちした。雰囲気がありやがる。強いヤツには匂いがあるもんだ。オーラと言い換えてもいい。
俺はラム子に潜在能力を全て解放して貰ったが、ステータスに関して言えば劇的に上がった感じはしない。むしろ下がってる? いや、さすがにそれはないと思うが……。着ぐるみ体型になって手足が短くなったからな……。ちょっとしたことでバランスを保てずに転んでしまうのだ。
俺はちらっとチワワの飼い主を見た。
あっ、くそっ、あの目……! 別に欲しくもない野生ポケモンと遭遇したような目で俺を見てやがる。屈辱だ。
俺はご主人様の赤カブトさんに泣きついた。ジャムジェム〜!
赤カブトさんはヨシヨシと俺を撫でてくれた。
「ペタさん、これな〜んだ?」
あ? フリスビーだろ。家出る時から持ってたから知ってるよ。それがどうした?
「お犬様がね、投げるの凄い上手いんだよ! 私もやってみたいな〜って思って買ったの」
上手いんだ? あの人、どっちかと言えば投げられる側なのにな。
「どっか広いトコ行こ!」
ええ? それスピンドック平原ってコトだよな? あの辺で走り回ってるとビクついたスピンが正面から殴り掛かってくるから嫌なんだが……。
おい、引っ張るなよ。分かったよ。行けばいいんだろ。俺は苦笑などしつつ赤カブトに手を引かれて平原に出てフリスビーをキャッチしようとしたが乱入してきたスピンとの競り合いになってウサ公がブンと振り回してきたケツに十メートルくらい吹っ飛ばされてスパロボ大戦みたいに爆発して死んだ。
「メインカメラがやられたっ!? ぐあ〜っ!」
「ぺ、ペタさーん!」
かように俺のペットライフは順調な滑り出しを見せた。
そんな折である。
俺がペットの立場を利用して赤カブトにセクハラをしていると、ウチの丸太小屋にクソのような廃人の使者が訪れた……。
メガロッパである。
2.クランハウス-居間
「あっ……! だ、ダメだよ、ペタさん……」
ダメじゃないよ。ペットとのスキンシップは大事なんだぞ。
「犯罪現場ですか?」
誰だっ!?
俺はバッと振り返った。
まぁメガロッパだ。知ってた。
このゲームは声もキャラクリでいじれるけど、じゃあ理想の声ってどんな声だと言われても難しいので結構適当に決めるヤツが多い。デフォで体格に合った声になるので、そのまま行くプレイヤーも多い。つまり千差万別なので知り合いの声を聞き間違えることはあまりない。
いそいそと着衣の乱れを直した赤カブトが大喜びで宰相ちゃんを歓迎する。
「メガロッパ! この前貰ったポーション凄く良かったよ! スズキさんも美味しいって」
ぴょんぴょんと飛び跳ねる赤カブトを宰相ちゃんは上着のポケットに両手を突っ込んで見つめている。
「そうですか? やっぱり成分が劣化するからなのかな。ウチのテイマーはグミポーションは失敗だと。もう作らないと言ってました」
「えー!?」
何の話? ねえ、何の話? お前ら仲良しなの?
宰相ちゃんがちらりと俺を見る。
「静脈注射は抵抗ある人が多いですから。仲良しと言いますか……。私たち、一応同期なので」
そうか? いや、まぁそうか。俺は納得した。
赤カブトと宰相ちゃんは俺の知らないところで勝手に知り合って仲良くなっていたらしい。何も珍しい話じゃない。俺を取り巻く人間関係は俺がログアウトしている間にもこく一刻と網を広げて化け物じみていく。
そして、それは俺がログインしていようがお構いなしに俺を絡め取ってゆくのだ。
「ジャム。コタタマを少し借ります」
「殺しちゃうの? じゃあ私も一緒に……」
「こ、殺しませんよ。……サトゥさんがコイツを連れて行けと。ティナン姫の屋敷に行くんです」
武家屋敷に? 嫌だよ。
宰相ちゃんは俺の言葉を無視した。
「サトゥさんはしばらく動けません。死にすぎましたから」
そういえば俺はサトゥ氏の補佐だったな。何もしてねーけど。
宰相ちゃんがコクリと頷いた。
「はい。ですから、ティナンとの交渉の続きは私とお前で進めることになります」
そういうことになった。
3.ティナン姫の屋敷-客待の間
武家屋敷に出向いた俺と宰相ちゃんは、囲炉裏を挟んでティナン四天王の二人と向かい合った。
一人はいつぞやの色っぽいティナン(だが男だ)。もう一人は黒尽くめの怪しいティナンである。
色っぽいティナンが口を開く。
「ゲストのリーダー救出に俺らが動く理由はないんだけどね。サトゥの男ぶりに免じてってトコかな。話だけは聞くよ。あ、こっちの黒尽くめは気にしないで。ちょっと特殊な立場に居るやつなんだ」
特殊な立場ねぇ。よう、一応客前なんだし顔くらい出したらどうだ? それが礼儀ってモンだろ。お里が知れるぜ。
宰相ちゃんが俺の頭を引っ叩いた。
「こっちの黒いのも気にしないでください。雑魚なのですが放っておくと最悪のタイミングで実は知ってましたとか言い出すので引きずって来たんです」
そんなことねーよ。
俺は反論した。
だが、ガムジェムの所持者が人格を支配されるリスクがあることくらいは知ってる。
ニャンダムが最高指揮官の攻略法を把握していたのは妙な話だからな。
ガムジェムが秘めるという無限の魔力。何かに似てると思わないか?
そう、女神の加護さ。
ガムジェムはプレイヤーの成れの果てだろう。
お前らの姫さんは、もう身体を乗っ取られてるかもしれねえな。
これは、とあるVRMMOの物語。
残念です。どうやらあなたは知りすぎたようですね。
GunS Guilds Online