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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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決死隊

 1.ポポロンの森-上空


 森を歩いていると通りすがりのブーンにガッと捕獲された。

 おいおい、いつになく大胆じゃねーか。ノンアクティブが。俺は抵抗は無駄だと悟って大人しくワッフルの巣に連行されることにした。雛の様子が気になったというのもある。ポポロンと俺の子供のタマが少し見ない間に立派に成長してたからな。

 俺の背中に蹴爪を突き立てて飛ぶブーンが翼をぴんと広げてアニメの戦闘機みたいに加速する。以前の俺ならあっさりと意識を手放していただろうが、今の俺は脳みそが超合金っぽいボディで保護されている。くらっと来たが、かろうじて意識を保つことができた。こうして考えると、ニャンダムの動きはやっぱり別次元だな。あれだけの高速戦闘をしながら俺への負担が極めて少なかった。

 さて、ワッフルの巣は特別マップ仕様だ。俺は寂しがり屋さんなので、話し相手が欲しい。チャンネルを操作して知り合いが居る部屋に入室する。

 そこには当たり前のようにセブンが佇んでいた。どういうことなんだよ。平気な顔して確率の壁を突き破って来やがる。

 腕組みなどして巣の縁に立っているセミ野郎が、ブーンに運ばれてきた俺を見つけて鼻を鳴らした。


「ふん、貴重なビタミンとミネラルが来たな。崖っぷち、お前の死骸は見飽きたぜ。これで何度目だ? 懲りねえ野郎だ」


 ハッ、その言葉そっくりそのままお返しするぜ。このタンパク質めが。


 俺は【ギルド】の系譜に連なるプレーリードッグなので、体内に蓄えた栄養素は昆虫のそれに近いと予想される。タンパク質と言えば俺もタンパク質なのだが、肉ばかり食ってる種族人間なんかよりは俺のほうが完全栄養食に近い筈だという強い自負があった。


 俺は死に損ないの相手もそこそこにワッフルの巣をチェックする。ワッフルがデカすぎて回り込まないと雛たちの様子が見えないのだ。どれどれ、俺の魂のブラザーたちはどんなだ? 少しは大きくなったかな? 

 おぅ、デカくなってる。眷属のブーンより少し小さいくらいか。うんうん……。

 焼肉をついばんでいる雛たちを俺が優しく見守っていると、セブンが俺にクナイを突き付けてきた。あんだよ。


「近寄るな。化け物め」


 イキッてんじゃねえよ。セブン。お前はボランティアとかいう三次職だったよな? クラスチェンジ条件は何だ? 【戒律】は?


「お前に教えて俺になんかメリットあんのか?」


 メリットと来たか。下らねえ。

 だが生憎だったな。内緒にしときたいお前には悪いが大まかには予想が付いてるんだよ。

 ボランティアってのは志願制の決死隊のことだ。

 クラスチェンジの条件は残機の少なさ、レベル、志願、遺言、死亡耐性、殺害人数、それらの複合だろう。

【戒律】についてはさすがに特定は難しいが、プクリ戦でサトゥ氏の言葉に大人しく従ったことから何らかの交換条件があるな。ペールロウの強化と一緒だ。上級職の【戒律】の多くは下位職のそれの上位互換なんじゃないか……。ズバリ、セブンよ。お前は単独じゃ全力を出せないんだろ? ステータスの低下、もしくはスキルに制限が掛かる。決死隊か。あり得そうなのは……足並みを揃えること。鈍足化だ。そうか。近接職が周りに居ないとお前は【スライドリード(速い)】を使えねえんだな?

 セブンは「下らねえ」と毒吐いた。


「名探偵気取りかよ? 崖っぷち。お前が言う条件、【戒律】なんざとっくのとうに情報を流してる。少し調べれば分かることだ」


 ウィザードの例もあるからな。俺は慎重なのさ。お前らと違ってホイホイとスマホに角を生やしたりもしねえ。いずれ後悔することになりそうだからナ?

 そして、もう一つ。【戒律】の話だ。

 セブン。お前は定期的に死ななきゃならねえんだろ? くくくっ、お似合いだぜ。お前に合ってる。

 だったらよ……。

 俺は背中のパーツを逆立ててバシュッと蒸気を排出した。

 ここで死ぬか?

 セブンはあざ笑った。


「お前が俺を? やれるのかよ?」


 やれるさ。今の俺なら、な。お前らはゴミだ。俺は違う。

 だが兄弟たちがタンパク質とビタミンをご所望の様子だったので、俺とセブンは丸かじりされてしまった。

 仲良く横たわった俺にセブンが声を掛けてくる。


「崖っぷち。兄弟たちはデカくなったな」


 そうだな。


「……認めるのは癪だが、お前は貴重な栄養源だ。もしもお前が……崖っぷち?」


 …………。


「死んだか」


 俺の身体は胸から下がなかった。雛たちの血肉の一部として生まれ変わったのだ。

 世界はめぐりめぐっている。

 ワッフルの巣は特別マップ仕様だ。しかし完全に隔離された空間という訳ではない。

 山岳都市のある方角に、禍々しい光が立ち昇る。ガムジェムの光だ……。

 セブンが独りごちる。


「今な、サトゥが犬だか猫だかを連れてティナンの屋敷に行ってる」


 そしてセブンもまた……。


「ペット外交さ」


 腹から下がなかった。

 まぶたを閉ざしたセブンが小さく咳き込んだ。口腔からあふれた血が、トレードマークの黒コートに染みる。

 ガムジェムの光に照らされて、セブンは満足そうに息を引き取った。

 



 これは、とあるVRMMOの物語。

 タンパク質とビタミン……。



 GunS Guilds online


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[良い点] たんぱく質呼ばわりとは……死に慣れすぎたろお前ら
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