未来(あす)へ……!
1.クランハウス-居間
もしも俺が美少女だったなら人生イージーモードだろうなと考えたことがある。
まぁ実際はそう甘くないだろう。女には女の事情があるし、男とはまた違った面倒臭さがある。隣の芝生は青いというやつだな。結局はないものねだりだ。
だが、そんな俺でも我が家の自慢のペット枠なら狙えるかもしれない。そう、今の俺はプレーリードッグ。いささか身体が金属質で体長2メートル近いものの、ヒグマのミーちゃんと比べれば全然非力だし小柄でキュート、チャーミングな筈だ。
という訳で、ひとまずウチの子たちを俺の可愛さでメロメロにしてやろうというのが今回の企画。
とんとんと居間に降りてきた小せえのに、俺はどっしりと腰を低く落として機敏に身体を左右に振った。
通せんぼする俺にスズキが首を傾げる。
「ん? なぁに?」
スズキは計算高い女だ。自分の見た目も相まって無邪気な仕草をすれば男が喜ぶことを知っている。だが、その油断が命取りよ。
今だっ。俺は一瞬の隙を突いて素早くタックルを仕掛けた。半端ロリを両腕に抱え込んでソファに押し倒す。おらおらっ、こういうのがイイんだろ? 俺は顔の上に付いてる頭部の顎部ジョイントを解除して多節棍みたいな舌をジャラジャラと伸ばす。コイツで頬の一つも舐めてやれば「きゃっ、くすぐったーい」ってな寸法よ。
「えいっ」
だが、あろうことかスズキは俺の舌を掴んでぐいっと引っ張った。ちぃっ、だがっ。俺はジャラジャラと引きずり出された舌を操って半端ロリの全身に巻き付ける。
「わわっ」
拘束には成功したが、こんな筈ではなかった。俺は忸怩たる思いだ。もっとこう一人暮らしの女子大生と愛犬の心温まる遣り取りみたいなのを期待してたのに。
スズキ。何故だ。どうしてお前は俺を受け入れてくれない。こんなに可愛いのに。
小せえのはソファの上で身をよじって少し恥ずかしそうに俺から視線を逸らした。
「えー? だってメカじゃん」
いや、その理屈はおかしい。例えば人間に憧れるロボットが居たとしよう。そいつは物語の終盤で仲間から人間だと認められる筈だ。つまり心が人間ならOKということ。それがお約束ってもんよ。だったら俺も。
俺はソファから降りると、両腕を構えて全身に力を込めた。ぬうん! 紫色の稲妻が全身を駆け巡る。強い踏み込みから前足を十字を切るように二度振って稲妻を撒き散らす。そして言った。
「自慢のペット様になってやンぜ?」
「えっ。鉄拳の一八? 今の一八の勝利ポーズだよね?」
やれやれ。強情なやつだ。俺は溜息を吐いて舌をジャラジャラと巻き取る。一緒に付いてきた小せえのを上から下までじっくりと鑑賞する。俺の舌が縄みたいに巻き付いていて、なかなかエロいことになっている。
「や、やだっ。そんなじっと見ないでよぉ〜」
つれないこと言うなよ。ペロペロしてナデナデしようや。なあ。
おっと黒い金属片が。危ねえ。俺はスズキを突き飛ばした。足元から迫り上がってきた金属片が俺の舌を断ち切る。隔離された?
ラム子……。お前なのか? 一体何を……。
2.???
気付けばラム子と一緒に積み木で遊んでいた。
積み木と言っても小さな子供が遊ぶような単純なものじゃない。そこら辺に色々な形のブロックが散らばっていて、手を伸ばせばどんな形のパーツにも手が届きそうだった。
酩酊感に似たふわふわした感じがある。
ここはどこだろうと思った時、答えが用意されていたように意識が開ける。
夜風が頬を撫で、原っぱを駆けていく。
満天の星空の下、ラム子は積み木をガチャガチャと適当に組み合わせていく。
もしかして【ギルド】を作ってるのか? センスねえな。ちょっと貸してみろ。俺はラム子の手から積み木を取り上げて、あーだこーだとくっちゃべりながらブロックを組み上げていく。
ラム子よ。こんな話を知ってるか? 俺たちの星で一番の力持ちはアリンコなんだってよ。種によっては体重の五倍の荷物を持ち上げるらしい。それはもちろん身体が小さいからこそできる芸当なんだが、重力やら食料やらの問題をクリアできたなら分からんよな? 俺が思うに昆虫ってのは生物の完成形に近いんじゃねえかな。
そら、出来たぞ。こいつをクロアリと名付けよう。俺は完成したクロアリをラム子に手渡してやった。手のひらの上にクロアリを乗せたラム子はじっと俺の口元を見つめている。
おや、【狙撃兵】の旦那。いつの間にか【狙撃兵】さんがラム子の傍らに立っていた。片腕を持ち上げ、頭上の星空をスッと指差す。
ラム子は無視した。手元のクロアリをじっと見つめている。
仕方ねえな。俺は空気を読んだ。【狙撃兵】の旦那、そっちに何かあるのかい?
【狙撃兵】さんが兜を脱いで脇に抱える。長い髪が夜風になびいて……。
……ん? あれ? いつの間にか人間に化けてる。
【狙撃兵】さんは言った。
「新入り。クァトロに伝えろ。お前は最強の兵になれるかもしれない、と。歓迎するぞ?」
ちょっと。旦那。そういうのはサトゥ氏辺りに言ってくれよ。俺は鍛冶屋だ。廃人って訳でもない。ついでに言うとクァトロくんと一番仲がいいのはサトゥ氏だ。
「どっちでもいい。私の最終レベルは522。お前たちの個体差なんて誤差の範囲内だ」
レベル522? お前さんのレベルは2022じゃ……。ああ、エンドフレームの上乗せが1500あるのか。マジかよ。俺らのエンドフレームは1000上乗せだぞ。そんなトコにも種族の差が出るの?
ラム子ぉ〜。俺は最高指揮官殿に泣きついた。生まれついての格差がひでぇんだよ〜。可愛い俺にもっと力をおくれよ〜。
俺は頭をブンブンと振って可愛らしさをアピールした。いわゆるアニマルセラピーってやつさ。
力を。力をくれ〜。
ラム子がガツガツと俺に積み木を打ち付けてくる。しかしくっ付かない。これは、まさか……?
そのまさかだった。
【狙撃兵】さんがぽつりと言う。
「潜在能力の限界だな」
3.クランハウス-居間
「あっ、出てきた!」
くそっ、いやな夢を見たぜ。俺は夢オチで済ませた。
てててと駆け寄ってきたスズキが俺の尻尾をちょこんと摘む。恨めしげに俺を見上げ、
「……急に居なくなるの、びっくりするから」
ははん? なるほどな。これはあれだ。ジャンプの読み切りでたまにあるパターン。クールぶってるけどバッチリ情を移してるっていう。
へへっ。仕方ねえな。そっちがその気なら俺も読み切りっぽく〆てやるとしよう。
「人間に戻りたいんだ。協力してくれ」
スズキはもじもじしている。俺から目を逸らし、
「……尻尾は好き」
ペタタマ先生の次回作にご期待ください!
4.温泉対策会議
まぁ次回作を描いてる場合じゃねえよな。
ゴミどもと一緒に会議をしている。
温泉について話がある。
そのようにゴミどもに一通り声を掛けると、察した連中がぞろぞろと会議に集まってくれた。壮観な光景だ。こと全裸のチャンネーの話になると俺たちゴミは異様な団結力を発揮する。
複数のチャンネルをゴミが埋め立てているらしく、少し意識を傾けると別のチャンネルに繋がる。理屈はさっぱり分からんが、オークション会場をそのまま使えそうでホッとした。さすがに山岳都市の一角に東京ドームをおっ建てる訳にはいかんからな。
俺は集まってくれたゴミどもをぐるりと見渡してから開口一番こう言った。
「戦略的な話をしたい」
一人の気取ったゴミがちょこっと軽く手を上げて「少しいいか?」と言ってくる。
何だ。言ってみろ。手短にな。
「俺は今日やめろと言いに来たんだ。覗きは犯罪だ。覗かれる側の気持ちになってみろ。二度と行くかと思うだろう。それは長期的に見たらマイナスなんじゃないか?」
お前は種族人間を見くびっている。
いいか。仮に俺たちがやらなくとも、他の誰かが絶対にやるぞ。絶対に、だ。
男が女の裸に執念を燃やすのは奇妙なことか? いいや自然なことだ。だから恐ろしいんだよ。
正直に言おう。俺一人ならどうとでもなる。俺は目がいいんでね。道具を使う、変装して侵入する。手段を選ばなければ覗きは可能だ。どんな障害があろうと打ち破る自信がある。
でも、それじゃダメなんだと思った。どうもしっくりと来ない。それは何故なのかと考えた……。結論は出たよ。そいつを今日はお前らに言っておこうと思ってな。
まず……これだけは言っておく。一番確実なのは、整形チケットを使って女に化けることだ。これはもう100%成功する。防ぎようがない。だが俺は断念した。何故か分かるか? はい、そこの人。
俺が口を開くまで仲間と馬鹿騒ぎしていたゴミは急に神妙な様子になって視線を斜め上にやった。あごに手をやって低く唸ってから少し自信がなさそうに回答する。
「女キャラになると脳も女寄りになるから、か? 多分……女の裸を見ても嬉しくない」
正解だ。俺は内心おののいた。コイツら普段ヒャッハーとか言ってそうなのに一発で当てるとは。ゴミのポテンシャルが解放されている。話が早いのは助かるが、この集団を完全にコントロールすることはできないと思い知らされたぜ。
俺は戦慄をおくびにも出さずに頷いた。
その通りだ。スクショを撮って後で鑑賞することはできるかもしれない。が、おそらくサトゥ氏は対策を打ってくる。まぁ難しい話じゃない。ティナンさ。【NAi】を説得してスクショ機能を封じてくるだろう。
女キャラに化けるのはダメだ。誰でも思い付くような方法はまず通用しないと考えていい。無論その他にも色々なトリックが考えられるが……。
結論から言うとな、姑息な手段はダメだ。正面突破が望ましい。何でかっつーと、相手が裸だからだ。こっちだけ道具を使うのは弱い者イジメなんだよ。分かるか、この理屈。
「分からん。何故だ? より確実な手段があるならそっちにするべきだ」
だろうな。そう言うと思ったぜ。
……これは一筋縄で行きそうにないな。回数を重ねないと意思を統一するのは無理っぽいぜ。だが考えようによっては好都合……。
……試してみるか。
俺は荒ぶる鷹のように両腕を広げた。意識する。歯車がガッチリと噛み合ったかのような、この感覚。普段は意識していないだけで、プレイヤーの身体は【戒律】で雁字搦めだ。アビリティを使った時に俺の肌が黒くなるのは、活性化した【戒律】が浮かび上がるからだ。
俺は胸に生えてる顔面をギンギンに黒光りさせる。ゴミどもを見据え、前足をゆっくりと突き出した。支配してやる……。
「無駄だ」
モブがハシャいでいる。
机に足を掛けて立ち上がった知らないゴミの肌が黒く染まっていく……。
「ハードラックのアビリティは解放された。パンテッラが遺してくれた力だ」
お前は……。
「パンテッラの……友達だ。名は、ホシピー。……ようやく追い詰めたぞ、崖っぷち」
追い詰めた?
くくくくっ……。何か勘違いしているようだが……。
俺が手で合図すると、ゴミに紛れていた俺の手下がふらりと立ち上がった。肉が爆ぜ、機械化した手足から血を滴らせながらホシピーを取り囲む。
俺は歯列をギラつかせた。ニヤニヤと笑いながら手下の一人を指差す。
「ホシピーとやら。お前のお友達は生きてるぜ? 俺の手足となってな」
おや、知ってたのかな? ホシピーがギリッと奥歯を噛み締める。剣を鞘から引き抜くや血を吐くような絶叫を上げた。
「崖っぷち〜!」
くくくくっ、ふははははははははははは!
これは、とあるVRMMOの物語。
ホシピーの愛が世界を救うと信じて……!
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