フリエア
1.ポポロンの森-深部
クラン【提灯あんこう】の小娘どもと一緒にスライム狩りをしている。
まぁ売り言葉に買い言葉というやつだ。
先日の隠れんぼイベントでネフィリアが意地でも自分のミスを認めようとしないもんだから、優勝者の小娘に何か賞品を与えてやることになった。要は部下を育てるためにあえて先生を捕まえなかったということにしたいらしい。だったら賞品を用意してないのはおかしいよなァーと俺が煽ったら一日クランマスター券とかいうクソみたいな賞品をその場で用意しやがった。本当に困ったおっぱいである。そんなもん渡されても困るだろうと結局は俺が小娘どもの面倒を見ることになってしまった。
つまり俺が小娘どもに無理難題を押し付け、優勝者の小娘は傍らでそれを眺める。働きアリどもに魔石やら何やらを貢がせて女王様の気分を味わって貰おうと、そういった趣旨の試みだ。
人によっては他人に命令するってのはストレスだからな。
先生を捕まえて最優秀選手賞に輝いたフリエアという小娘はそうでもなさそうだが、まぁ俺には俺なりの考えがある。先生を捕まえた賞品がショボいってのは俺のプライドが許さない。本当の賞品について明言するつもりはないが、後になって「ああ、こういうことか」と気付くだろう。フリエアは小娘どもの中で一番頭が回りそうだしな。それでいて見透かされるのを嫌うタイプだ。人当たりはいいが、厄介な小娘だよ。
ポポロンの眷属と戦っているマゴットが泣き言を漏らした。
「無理ー! 勝てないよこんなのー!」
前衛が少なすぎるんだよな。俺はボヤいた。
【提灯あんこう】のメンバーは魔法使いが多い。最大戦力のペスさんはお留守番だ。このゲームの召喚獣は前線には出ない。無理に連れて行っても戦ってくれないのだ。どうもMOBを敵と認識しないらしい。モンスターのほうも召喚獣に手出しすることはない。まぁそれができるならとうに最前線はテイマーだらけになっている。種族人間は史上まれに見るレベルのザコだからな。
俺は一日クランマスターのフリエアの傍らに立って怒号を上げる。
工夫しろ! お前らは固まりすぎなんだよ! 味方を殺したくないなら射程の端にモンスターを引っ掛けるしかねーんだ! 少しは考えろ! おい、だからって足を止めんな! 狙い撃ちにされるぞ! 動け動け動け! 俺はもうフォローしねーからな!
フォローしねえっつってんのに……!
くそがっ! 俺は目に力を込めた。
セクハラの魔眼・鳥獣戯画の型ッ!
ハッとしたポポロンの眷属が俺めがけて触手を繰り出してくる。こなくそっ。俺は無理やり身体をひねって回避。追撃の触手をごろごろと地面を転がって遣り過ごす。喰らえっ、人力フィンガーフレアボムズ! 俺の指が吹っ飛ぶ。灼熱の魔石がカッカと燃える。スライムさんの触手がムチのようにしなる。小細工はナシだ。腕ごとへし折ってやる……! 俺の右腕がうなる。渾身のストレート。スライムさんの触手が俺の球を真芯で捉えた。死ねッ! 球威に押されたスライムさんがザザーッと地表を滑っていく。へへっ。俺は笑った。お前に俺の球は打てねえよ。スライムさんの全身にビキビキと気色悪い筋が走る。
快音が響いた。
打ち返された魔石が俺の頭上をカッ飛んでいく。
バカな……。
俺は振り返って打球の行方を目で追う。
打球はぐんぐんと伸びる。
俺の球が打たれた、だと……?
い、いや。マグレだ。出会い頭の一発ってやつだ。
俺は手を大きく振って叫んだ。切れろーッ!
だが俺の願いも虚しく打球は木を粉砕して遥か彼方に飛び去って行った。
俺はガクリと膝から崩れ落ちる。お、俺のストレートが通用しないってのか……?
おっと小芝居などやっている内に打者スライムは小娘どもに討ち取られたようだ。まっ、俺の貫禄勝ちってトコかな。
俺は指が吹っ飛んだ手に軍手を被せながらフリエアに声を掛ける。
よう、クランマスター。楽しんでるかい?
「あんまり。なんか一人だけ楽してるみたいで」
だろうな。俺はコクリと頷いた。
フリエアは大人びた容姿をしたガキンチョだ。小娘どもの中では中心的な人物ということになる。
フリエアというキャラネは、多分フリー。虫のノミのことだろう。日本でフリーと言ったら自由のことだから別の読みを当てたんだろう。名付け親はネフィリアだ。自分を慕ってくれるガキンチョを虫けら呼ばわりするんだから、あの女は病んでいるとしか言いようがない。
俺は退屈そうにしているノミ女に同意してやった。
一日クランマスターなんて言われても困るよなぁ。あいつ、ネフィリアな。変な意地を張りやがってよぉ。
「タマっちが居るからじゃない?」
ああ、そこに目が向くのか。俺は内心少し驚いた。思った以上に賢い。
ノミ女の言う通りだろう。ネフィリアは俺がこう動くと予想してクランマスター券なんぞ発行したに違いない。
俺は認めた。そうかもな。どうやらネフィリアは俺とお前らを仲良しにしたいらしい。俺は予防策って訳だ。直結厨のメインターゲットはJCとJKだからな。お前らガキンチョは危険センサーの感度が低い。簡単に騙せる。
「タマっちさ。私たち、そんなバカじゃないよ」
だといいんだがね。
まぁそれを差し引いたとしてもだ。直結厨はな、俺みたいなやつが大嫌いなんだよ。忌み嫌ってると言ってもいい。なんでかっつーと、ヤツらは周りの男全員がロリコンだと思ってるからだ。だから俺みたいにロリには興味ありませーんって顔してるヤツを綺麗事言ってんじゃねーよって腹ん中で見下してる。俺のダチにアットムっつー変態が居るんだが。ヤツみたいにさっぱりしたロリコンは少数派だ。
つまり俺と付き合いがあるお前らをわざわざマトにするほど直結厨はアホじゃねえってことだ。フリエア、ヤツらを見くびるなよ。性癖は能力と直結する。人間は足りないもんを補おうとするんだ。満たされない男ほどニッチな方面にどうしてそこまでというほどの執念を燃やす。頼むから犯罪にだけは巻き込まれんでくれよな。先生が悲しむぜ。
「余計なお世話」
このノミ女は俺に興味がない。だから俺も安心して喋れる。
フリアエさんよ。お前がダサいと言えばお前の感性にマゴットたちは従う。お前はそういう立ち位置に居る。自覚あるんだろ?
「ないよ。何それ。知らないし」
自覚がないのか。それはちょっと意外だ。
じゃあ俺の見立てを話そう。お前はマゴットとは別の派閥だ。八方美人で、誰とでも仲良くできる。発言力は強い。センスがいい。
「タマっちさ。そういうの、嫌われるよ?」
頭がいい。警戒心が強い。見透かされるのを嫌う。
俺はネフィリアに鍛えられたからな。この手の判定はあまり外れたことがない。ネフィリアは人を見る目がないが……それは俺の所為なのかもな。俺を基準にしたらお前なんかは才能あるよ。
「……この罰ゲーム、何か意味あるの?」
ないよ。
俺は嘘を吐いた。
単に俺が楽しそうだからだ。
こう言えば、俺に興味がないフリエアは追求してこないという読みがあった。
「そうなの? まぁ別にいいけど」
予想通りだ。少しばかり頭が回るとはいえ、しょせんはガキンチョだな。
口には出さないが、俺が用意してやってるのは話のネタだ。このノミ女みたいにひねくれたガキンチョには、俺やネフィリアが何かプレゼントしてやっても喜ばない。別グループに属してるマゴットやクリケットとの共通の話題を提供してやったほうが為になる。
断言してもいい。これを言ったらノミ女は機嫌が悪くなる。わざわざ機嫌を損ねるこたぁねえさ。何しろ優勝者様だからな。接待してやらねえと。
だが意外にもフリエアは食い下がってきた。
「でもタマっちは嘘吐きだからな〜」
ほう。今の遣り取りで俺を疑えるのか。俺は感心した。勘もいいな。ならば、少しくらいはサービスしてやるとするか。虚実を織り交ぜて煙に巻いてやるとしよう。
スライム狩りの意味か〜。あると言えばあるが。オマケ程度のもんだぜ? それに、これを言ったらお前は怒ると思うぞ。俺は平和主義だからよオンドレぁ! 俺は話の途中で近寄ってきた知らないゴミの首を刎ねた。ゴミの胴体をガッと蹴り倒して話を続ける。俺は草食系なんでね。お前みたいなタイプを無駄に煽る必要性を感じない。二人きりで喋れと言われれば無限に喋れる自信はあるがね。
むむっ。スライムさんの動きが何か変だぞ? 俺は迫りくる危機をぴぴっと感知した。撤退しろ! 何か来るぞっ!
アナウンスが走る。
【上位個体が出現しました】
【勝利条件が追加されました】
【勝利条件:上位個体の討伐】
【制限時間:00.00】
【目標……】
【使徒】【タマ】【Level-214】
なにっ!? た、タマなのか……?
見れば、木陰にこそっと身を潜めた虹色のスライムがじっとこちらを見つめている。
タマ! タマじゃないか!
生き別れになった母子、感動の再会であった。
タマ〜!
てててとタマに駆け寄った俺は隠れ潜んだスライムさんたちの集中砲火を浴びた。全身を触手で串刺しにされて、ぐいっと持ち上げられる。
触手を伝い落ちる俺の血に、タマがぶるりと身震いした。二本の触手をおそるおそる伸ばして俺の腹にブッ刺してくる。
おごごごっ。体液という体液を吸い取られて俺は瞬時に干からびて死んだ。
「た、タマっちー!」
ふっ。親は居なくとも子は育つ、か。
強くなったな。タマ。それにデカくなった。ペタタママは嬉しいぜ。
惨劇の幕が開く。
ぶるりと身震いしたタマが七色に輝く光の輪を放った。
小娘どもが全滅した。だから逃げろと言ったのに。
使徒の子は使徒だ。使徒が【戒律】と引き換えに得ている子を産む特権は究極とさえ言える力だ。
十年後か百年後か。使徒の子供たちが立派に成長して巣立ったなら、他のレイド級は駆逐される。
俺は小娘どもに逃げろと言ったが、逃げても無駄だったかもしれない。
タマが放った【全身強打】に麾下の眷属が共鳴を起こした。眷属を中継して光の輪が広がっていく。俺は目を見張った。こんな【全身強打】の使い方が……?
まるで光の洪水だ。押し寄せる光の波に呑まれたゴミどもが脆くも砕け散っていく。
森が浄化されていく。不要なもの、邪悪な生命が聖なる光を浴びて消え去っていく。
それは、とても幻想的な光景だった。
オフゲーのエンディングにありそうな光景だ。
少し違うのは断末魔の叫びを上げて消えていっているのが人間側ってことだろう。
たけど、まぁー人間ってのはろくなことしてねえからな。地球温暖化とか問題視されてるけど、要するに全員死ねってことだろ?
全員死んだぜ。俺は満足だ。
2.ポポロンの森-人間の里-復興中
いやぁ死んだ死んだ。大量に死んだな〜。
小娘どもと一緒に死に戻りした俺はニコニコと笑いながら地下から這い出た。
地上で待ち受けていたフリエアが俺を見下してくる。俺はノミ女にドンと突き飛ばされた。
「ダメじゃん! みんな死んじゃったし!」
俺は鼻の前で両手を開いて指をワキワキと動かした。知りまっせーん。俺の所為じゃありませんし〜。
「何なのそれ! ムカつくー!」
珍しく熱くなってるな。
まぁいつものしれっとした顔よかナンボかマシだろう。ずっとクールのままで居るクールキャラなんて単なるイヤな奴だからな。
俺はバッサバッサと両腕で羽ばたきながらフリエアに近付くと、「ケーッ!」と甲高く鳴いて威嚇した。
ビンタされた。
「何なのコイツー! マゴットさんっ、こんなのダメだよ! 考え直したほうがいいよ!」
「えっ」
急に話を振られてマゴットが目を丸くした。
「だ、ダメじゃないよ。その〜。ネフィリアさん、そいつのことよく誉めてるし……」
俺はバッサバッサと羽ばたいてマゴットの周りをぐるぐる回る。
そうだぞ〜。俺はお前らよりも仕事がデキるからな〜。ガキンチョがナマ言ってんじゃねェ〜。
俺は「きょーっきょっきょ」と甲高く笑った。
何やらもじもじしているマゴットの手をフリエアがガッと握る。
「ダメだってばー! わ、私がマゴットさんのこと……守ってあげる!」
すかさず小娘どもがわらわらと集まってきて二人を囲った。
「タマっちは評判悪いからな〜」
「話が長いんだよ話が〜。今日もずーっとフリエアと喋ってたし」
「不良だよ不良〜。タマっちガチでチンピラ。私たちには優しいけどさー。上から目線半端ねーっていうか」
「えっ、えっ。えー?」
マゴットは目を白黒させている。
……ふん。少しは仲良くなったみてーだな。ったく。世話が焼けるぜ。リアルの人間関係をゲームに持ち込むんじゃねーよ。
さて、目的を果たしたペタタマさんはクールに去るぜ。
俺はくるりときびすを返してその場を後にする。
小娘どもを使って稼いだ魔石を手の中でジャラジャラと鳴らし、
「まぁ……」
俺は歯列をギラつかせて胸中で呟いた。
今日の飲み代くらいにはなるか。
そうよ。俺は仕事のデキる男。無駄なことは一切しねえのさ。
バカとハサミは使いよう……ってな。
くくくくっ、ふはははははははははは!
これは、とあるVRMMOの物語。
全ては金のため……!
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