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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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ネフィリアさんの日常

 1.ポポロンの森


 戦果のマゴットを連れてポポロンの森にやって来た。

 まぁ冷静になって考えてみれば先生が遺跡マップに隠れている筈はない。先生は子供好きだからな。小娘どもの手前、本気で隠れることはないだろう。となると自然と候補は絞られてくる。おそらくはポポロンの森だろう。それも眷属が出てこない浅いエリアだ。

 俺はピクニック気分でテクテクと森を歩く。やっぱり俺にはこういうゆるいイベントが似合うぜ。

 俺の服の裾を掴んでいるマゴットがキョロキョロと辺りを見渡しながら言う。


「ねーねー。ここに羊さん居んの? こんなの見つけようなくない? 広いし」


 先生が本気で隠れたらそうだな。けど、本気じゃない。先生はお前らに花を持たせようとするさ。多分ヒントを残してくれてる筈だ。簡単なクイズってトコだろう。問題はネフィリア……アイツの追跡をどう躱すつもりなのか。

 我が妹弟子よ。こういう場合はな、人間の関係性を見るんだ。この隠れんぼは全マップどこに隠れてもOKっていうルールだったよな。つまり人伝てに居場所を探るのが前提になってる。お犬様やシロ様クロ様……着ぐるみ部隊のメンバーには先生から話が通っているだろう。それを正規ルートとするなら、他にもこういう手がある。掲示板に情報を流して人手を集める。そいつをやられると俺は脆い。俺が隠れる側に回ると不利だと先生が言ってただろ。そのことだよ。俺は不特定多数のゴミどもに恨みを買ってるからな。

 先生が隠れてるのはポポロンの森か山岳都市の二択だろう。安全性を考慮に入れるとそうなる。だが山岳都市で隠れようにも先生は有名人だ。もしもティナンが飛び入り参加してきたならお前らに花を持たせるのは一気に難しくなる。だからポポロンの森だ。

 そして、その程度のことはネフィリアだって当たり前のように読むさ。だからな、俺が今探してるのはネフィリアだ。俺は道草を食って出遅れてる。つまりネフィリアを追って最後に出し抜く。そういうプランだ。


「…………」


 ハッ、先生? せ、先生……。

 茂みに潜んでいる先生が音もなく後退していく……。

 う、動きが静かだ。これは、一体? 先生が。俺の先生が野生の獣のようなムーブを……。

 バカな。か、隠れんぼっていう話じゃなかったか?

 ね、ネフィリアー!

 激しく動揺した俺はネフィリアを大声で呼んだ。

 バッと茂みを飛び越して現れたネフィリアがサッと素早く視線を左右に散らして舌打ちした。


「ちっ、逃したか」


 逃したかじゃねえ! おい、いつの間に鬼ごっこになったんだ?

 ネフィリアが振り返って俺を見た。口をひん曲げて笑う。あ、コイツ……。俺は察した。俺が察したことをネフィリアが察した。俺が察したことをネフィリアが察したと俺は察した。

 ネフィリアはニヤニヤと笑っている。


「Goatはたまにああなる。まぁ旧メンバーの前くらいだが」


 言い方ぁ! 俺はキレた。β組のこと旧メンバーって言うのヤメロ! そのドヤ顏ぉ!

 近寄ってきたペスさんの頭をネフィリアが撫でる。


「お前たちの責任でもあるからな。β時代の少人数ならともかく、お前たちの行動は不条理に尽きる。あの着ぐるみもここまでひどいとは思っていなかったのだろう。その反動もあって旧メンバーの前では遊びに走ることがままある」


 ペスさん……? あれ? なんか……ネフィリアに懐いてる臭くない? 尻尾振ってるし……。

 え? どういうこと? 俺にはそんな顔見せてくれたことない、のに……。

 おっと一人で勝手に少女マンガ展開やってる場合じゃねえな。

 ウチの子たちはどうした?


「知らん。どっか行った」


 やっちまったか……。俺は目頭を押さえた。これは、あれだ。エリア制限がないなら適当にブラ付いてれば見つからないだろうと旅立ったパターン。いや、分かるよ? まず見つからないよ? でも、これイベントじゃん? 見つからなきゃダメじゃん? 長女ポジの小せえのはその辺の事情が分かってそうなもんだが……。

 まぁいい。今は先生だ。先生を捕まえて小娘どもと打ち上げでもしてればウチの三人娘も寂しくなって勝手に帰ってくるだろう。

 以前に先生は鬼ごっこが得意と仰っていたが……。俺はギョロリと目ん玉を動かして視野を押し広げた。見えるぞ……。

 そう、俺とネフィリアは目がいい。運動があまり得意じゃない先生が俺たちの追跡を振り切るのは無理だ。

 俺はベロリと舌舐めずりした。見つけたぜ、子猫ちゃん。俺は少し離れたところでワサワサと木登りしていく先生を発見。ダッと地を蹴って先生を追う。木の幹の凹凸を足場にワサワサと登って行く。

 小娘どもが何か叫んでいる。


「タマっち! 後ろ後ろー!」


 あ? 俺は振り返ってギョッとした。いつの間にか地上に降りた先生がタタタと駆け去って行く。嘘でしょ!? 瞬間移動じゃん! い、いや。落ち着け。トリックだ。瞬間移動のトリックには双子を利用したものもある。これはゲームだから先生と同じグラフィックのダミーを用意するのは不可能じゃない筈だ。ひとまず片方を捕まえてしまえば……。俺はワサワサと木登りを続行。

 だが誰も居なかった。

 ど、どういうことだ? マジに瞬間移動したってのか?

 困惑しつつも樹上から飛び降りた俺にネフィリアが言う。


「意識の隙間を読まれている。ヤツはお前が反応できないタイミングで動いてるんだ」


 何それっ。刃牙じゃん!


「飽和状況を作るしかない。包囲するぞっ。散れ!」


 しかし三十分後。

 地に突っ伏して肩で息をする俺たちを、先生は少し離れた高台からじっと見下すばかりであった。

 つ、強すぎる。何をされているんだ、俺たちは。訳が分からない。包囲網に追い込んだと思ったら忽然と姿を消すし、複数で追い回しても勾配やら何やらであっさりとチギられる。俺たちは鬼なのに、むしろ追われているような錯覚すら覚えた。

 せ、先生……。俺は顔を上げて、ゾッとした。先生はつぶらな目を細めてこちらをじっと見つめていた。観察されている。余力はどれくらいで、今は何を考えていて、次にどんな手で来るのか。全てを見られている。そんな気がした。

 先生がちらりと視線を振ってネフィリアを見る。こちらも限界が近い。ふらふらと立ち上がったネフィリアがぶつぶつと恨み言を漏らす。


「くそっ、くそっ。Goat、Goat。これだけのことができるのに、どうして」


 俺とネフィリアは小娘どもよりも二段か三段ほど上のステージで先生と戦っていた。その自負があった。心理を読み、人間の限界を計算に入れていた。

 しかし小娘どもはガキンチョなりに工夫したらしく、ターザンみたいに蔓にぶら下がった小娘があっさりと先生を捕まえた。


「捕まえたー!」


 先生は朗らかな声でゲームの締め括りを告げた。


「やあ、やられたな。よく工夫したね」


 先生は最初からそうするつもりだったのだろう。

 俺とネフィリアの敗因は、きっと小娘どもを上手く利用してやろうとしたことだった。

 先生は小娘どもに花を持たせるつもりだったのだから、利用するならそこにするべきだった。

 先生は、俺とネフィリアを徹底的に叩くことで指揮系統を崩して小娘どもが自由に動ける環境を作ったのだ。

 くそっ……! 俺は地面に握り拳を叩きつけて悪態を吐いた。ネフィリアぁっ、お前が俺に付いていながらなんてザマだ!


「お、お前が悪い! お前がいちいちセクハラしてくるから私は集中できなくて……!」


 おっぱいが隣で揺れてんだよ! 俺は荒ぶる鷹のように両腕を広げて強く主張した。俺からセクハラを取ったら何が残る!? 何も残りはしないさ! お前は俺に死ねってのか!?


「セクハラだー! セクハラだー! もうしないって約束したのに!」


 きゃんきゃんと喚き散らす俺たちをよそに、先生は小娘どもを集めて授業を始めていた。


「残りはポチョとスズキ、ジャムだね。あの三人は多分バラバラに動いているだろう。一ヶ所でじっとしていることはない筈だ。そろそろ退屈になってこちらの動向を探ってくる。どうやって情報を探るか。そこに三者三様の個性が出る。だから、まずは心理的に上に立とう。そのためにはどうすればいいか分かるかな?」


 マゴットが元気に挙手した。


「はい、はーい。掲示板に情報を流す!」


「ネフィリアやコタタマはそういう考え方をするね。けど、それではダメだ。あの二人はね、ただ勝ちたい。君たちにとっての勝ちは形が違う。相手の上に立つということではなく、互いに満足の行く形で少し上に行きたいだけなんだ。だけとは言うが、これがとても難しい。特にリアルでは困難を極める。才能の違い、能力の差。どうにもならないことというのはやはりある。けど、これはゲームだからね。スタートラインはみんな一緒だ。それがとても面白いんだよ。オンラインゲームとは、天国を作る試みだ。それと、これは初耳かもしれないが……」


 先生はこほんと咳払いして言った。


「ネフィリアは、私の教え子の一人だよ。君たちは私の孫みたいなものさ」


 俺とネフィリアは腐ったミカンだった。


「お前が悪い!」


 いいやお前が悪い!


 負けを認めるのは悔しいから、責任をなすり付けずには居られないのだ。

 自分にミスはなかったと言い負かすことができれば、少なくとも次へと希望を繋げることはできる。

 チームの勝利など二の次だ。

 オンラインゲームは全員が主役にはなれない脇役だから、惨めな敗北者が居なくては成り立たない。

 そうはなりたくないから、俺たちは今日も足掻くのだ。必死に。どんなに見苦しかろうとも。

 それが一緒に戦うってことだろ?

 誰かを犠牲にしなくちゃよ。その誰かは俺以外でなくちゃいけねえ。

 俺は出来のいいゴミだと、誰かに認めて貰いたいから。

 出来のいいゴミたちと肩を並べて、胸を張って生きていきたいんだ。

 だからさ……。


「俺は悪くねぇー!」


 俺の絶叫が、抜けるような青空に吸い込まれて行くかのようだった……。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 まさに底辺の争い。



 GunS Guilds Online


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