ノンアクティブ魔族
1.プクリ遺跡-最下層
【目抜き梟】のクランマスター、リリララはのんびりしている。ふらふらとあっちこっちを歩き回っている。何かが見えてるのか?
リリララが何か言っている。だが俺たちの鼓膜は破れている。何も聞こえない。
クァトロくん救出に動いたサトゥ氏が凄い勢いで転倒した。ドジっ子なんてもんじゃなかった。死んだかもしれない。使えねえなぁ。俺はサトゥ氏の評価を下げた。
しかし罠か。プクリは……水晶の中で眠るクァトロくんをわざと見せて突進を誘った?
プクリに限った話じゃない。レイド級は眷属のように単純には動かない。
サトゥ氏はぴくりとも動かない。気絶している。
なんだ? 壁に亀裂が走る。そしてボロボロと剥がれ落ちた。いや、壁ではなかった。擬態が解けた。むくりと身を起こしたカメレオンがサトゥ氏をよいしょと背中に担ぐ。プクリの眷属だ。
まさか、そういうことなのか? この部屋は……。
プクリが咆哮を上げた。
擬態を解いたプクリの眷属がゴミどもの頭上から降ってくる。
ノンアクティブモンスター……!
冗談じゃねえっ。絡んできたゴミと殴り合っていた俺はダッと地を蹴って逃げ出した。
だがプクリの眷属がべっと伸ばした舌が俺の足首に巻き付いてくる。凄い力だ。俺の足首がへし折れた。逃げられない。
俺たちは、不思議なダンジョンで志半ばにして散ったトルネコのように遺跡の外にぽいっと放り捨てられた。
何度アタックしても同じだった。
プクリの眷属は、燃えるゴミの日にゴミを出すように淡々と俺たちを遺跡の外に放り捨て続けた。
つまり、こうだ。
種族人間はあまりにも弱くて、侵入者と見なされなかった。三度目のアタックで、プクリさんはついに俺たちの相手をするのをやめた。どんなに攻撃しても擬態を解いてくれなくなってしまった。
プクリの眷属はノンアクティブモンスターだ。攻撃魔法を当てれば倒すことはできる。だが、彼らは暴れる俺たちを無視した。俺たちは冒険の後半にうっかり遭遇したスライムの群れだった。経験値が少なすぎて戦う価値を見出されなかった。プクリのプライドを刺激する存在にはなれなかったのだ。
俺たちは、冷たい風に吹かれてもるもると擦り寄って悲しげに鳴いた。
2.プクリ対策会議
ウチの丸太小屋でプクリ対策会議をやることになった。
何故ウチなのかと言うと、あわよくば先生の啓示を頂けるのではないかと期待してのことだ。
しかし生憎と先生は不在。お隠れになられている。
集まったのは主にクソのような廃人と【目抜き梟】の幹部だ。
俺はサトゥ氏を指差して言った。
お前にはガッカリだ。
「何がだよ」
スキルチェインだったか。お前のアビリティ。具体的に何なのかはよく分からんし聞くつもりもない、が。【英雄】のアビリティを持ち出しておいてあのザマだ。俺ぁてっきり勝つまでは行かなくともプクリに一矢報いる流れなのかと思ったぜ。それを……。
俺は繰り返し言った。
お前にはガッカリだ。
サトゥ氏はイラッとした。
「そういうお前は何の役にも立たなかったな。他のやつらと殴り合ってただけで」
お前とは立場が違うんでね。気楽なもんよ。
剣呑な空気を撒き散らす俺とサトゥ氏だが、リリララはまったく気にしていなかった。のほほんとして言う。
「プクリ強かったねー。びっくりしちゃった。勝てないかも」
リリララ。お前さ、戦ってる時に何か言ってたよな。鼓膜イッてたから聞こえなかったんだけど。もしかして罠の種類か?
「だよー。なんか甘い匂いした。サトゥくんが踏んだアレ」
プクリが使った罠は二種類。ゴミを溶かすトラップと気絶させるトラップだ。両方とも目には見えなかった。
甘い匂い……。判別できたのか?
「できるよ。でも教えるのは無理かなー。多すぎて。【重撃連打】でまとめて壊すのが一番いいと思う」
モッニカ女史が誇らしげな顔をしている。ウチのリリララは凄いでしょうと言わんばかりだ。
腕組みなどして突っ立っているセブンが口を挟んできた。
「あれは無理だな。勝てねえ。サトゥ、どうする? クァトロの奪還は不可能に近い」
「……クァトロを閉じ込めてた水晶は……。あれは何だと思う?」
管の中を光が走ってたな。クァトロくんの力を吸い上げているように見えたが……。
宰相ちゃんが俺の手に針を刺してきた。何これ。イキナリ何してくれてんの?
「でも、クァトロを連れ去ったのはレ氏とモモ氏の命令なんですよね? 力を吸い上げるのはおかしくないですか?」
かもな。リチェット、お前はどう思う?
リチェットはフフリと笑った。
「コタタマはモテるな。いつも悪いことばっかりしてるのに」
突然何を言い出した? これモテてるように見えるの? お前はもう手遅れだな。すっかりやさぐれちまって。敢然と談合に立ち向かった頃のお前が懐かしいぜ。
「私はオマエとは違う。清く正しいお付き合いをしている」
そう言ってリチェットはちらっとサトゥ氏を見た。
サトゥ氏は悲しそうな目をしている。
「もるるっ……」
もるぅ……。俺たちは負け犬が傷を舐め合うように擦り寄った。
セブンが他人事のような顔をしている。コイツもロストすればいいのに。俺はセブン殺害計画を練る。
「あっ」
おっとマゴット発見。俺はシュバババッと素早く駆け寄って間抜けな隠れんぼを捕獲した。ハイ捕まえたー。
「は、離せよっ」
俺に抱っこされたアホの子が身をよじって逃げようとする。ダメに決まってんじゃーん。俺の手柄だっ。誰にも渡さねえぜ〜。ふぅははははー!
だがペスさんに関しては正直どうしたものかと悩んでいる……。獰猛な唸り声を上げている大型犬に俺は説得を試みる。鬼ごっこしてるんよ。分かる? 鬼ごっこ。お前の主人は間抜けだったんだ。ウチの二階に隠れてやがった。メシでも食いに降りてきたんだろう。
しかししょせんは犬畜生である。問答無用とばかりに俺の脚に噛み付いてきやがった。
「そこまでだ」
セブンが猛犬ペスを押し倒して俺から引き離した。キャーセブンさん素敵ー。
くーんと媚びるように鼻を鳴らしたペスさんが残像の尾を引いてセブンの首を刎ね飛ばした。……ええ? スキル使えるの?
しゅたっと着地して振り返ったペスさんに俺は命乞いをした。
ま、待てよ。誤解なんだ。俺は俺なりにお前の主人を大切に思ってるんだぞ。可愛い妹弟子だ。俺は片手を突き出してペスを制止しつつ、マゴットをそっと床に降ろしてやった。こ、これでいいんだろ? 残機が。残機がヤバいんだよ。こんなところで死ねるかっ。殺さないでくれ〜! 俺はころんと床に寝そべって腹を晒した。服従のポーズだ。
くんくんと俺の匂いを嗅いだペスさんがグルルルルと唸って牙を剥く。
「ペス〜」
マゴットさんが白い毛むくじゃらにひしっと抱きついた。
おお……。ペスさんが穏やかになっていく。奇跡じゃ〜。俺はマゴットお嬢様を拝んだ。
さて、と。じゃあそろそろ俺も本腰入れるとするかな。先生を探しに行くぜ。遺跡の最下層には普通に居なかったから、ナ。
歩き去って行く俺の背にサトゥ氏が声を掛けてくる。
「コタタマ氏っ」
俺は振り返ってニカッと笑った。
「攻略はお前らで勝手にやれ。俺は関係ねえ」
これは、とあるVRMMOの物語。
ペタタマ、戦線離脱……!
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