ドロドロオンライン
1.スピンドック平原
「どしどし掛かって来なサーイ!」
ジョンに暗たまの指南をして貰っている。
俺の可愛い暗たまは強くなりたいらしいからな。てっぺんの景色を見るのは早いほうがいいだろうと思った訳だ。
まぁ善戦なんて無理だ。
ジョンがちょいちょいと細かくポン刀を動かすたびに暗たまがころころと転がる。
ジョンの剣法は地味だが、無駄を省くというのは正しく一つの極地ではあるのだろう。精妙な足さばきと重心移動が奥義と言える域に達しているのだと思う。
俺と一緒に原っぱに座って見学しているレイテッドくんが唸り声を発した。
「あれが世界最強か。笑えるほど強ぇな」
やっぱり強いのか。俺には違いがよく分かんねえ。
「そうだな。100点満点の解答を見せられているような気分だ。正直、自信なくすぜ」
一対一ならそうかもしれないけど、サトゥ氏なんかはもっと派手に動くだろ。あれも無駄じゃないと俺は思うぜ。派手に戦ったほうが周りは盛り上がるからな。
「それは指揮官の考え方だ。前衛の考え方じゃない。極端なコトを言えば、俺らは一対一で勝てれば他はどうでもいいんだよ」
そんなもんか。
さて、本日のビッグゲストはジョンだけじゃない。いくらフレンドだからってダダで来て貰うのは悪いからな。ジョンが本場のサムライに会いたいと言うから手配した。
お犬様だ。
キャラクリの都合上握力があまりないためエア刀にて参戦である。案外気に入ったのかもしれない。
達人同士の試合だ。
達人は得物を選ばないと言うが、さすがにエア刀で真剣の相手は御免被りたいらしい。お犬様がもう一本持参したエア刀をジョンに投げ渡した。
「使えぃ」
ジョンが手元のエア刀をじっと見る。
お犬様はつぶらな瞳でジョンの良心に訴え掛けた。
ジョンがポン刀を地面に置いた。
「望むところネ」
両者の合意のもとスポチャンルールが適用された。
暗たまが下がって見学に回る。息も絶え絶えにお犬様へと声援を送った。
「お犬様ー!」
お犬様は戦闘型の着ぐるみではない。β組の一員ではあるが、レベルは20以下だろう。
仮に技量が互角だとしても勝ち目は薄いと言わざるを得ない。
ジョンとお犬様が対峙した。向かい合って互いに一礼する。
お犬様がエア刀を持ち上げて構える。ジョンは正眼の構え。剣道の試合でよく見る隙の少ないオーソドックスな構えだ。ジョンと比べるとお犬様は隙だらけのように見えるが、そう単純なものじゃないんだろう。
お犬様がジョンの構えを見て一言。
「柳生か」
流派のことだろう。柳生新陰流。真剣白刃取りで有名だな。ジョンが白刃取りしてるの見たことないけど。
ジョンが答える。
「蜻蛉。示現流ですネ」
薩摩示現流の蜻蛉の構えは独特なので俺なんかでも一目で分かる。
互いの相性はあるだろうが、有名どころの流派にどっちが上ってことはないだろう。有名ってことは多くの門下生が居て、それだけ多くの研鑽がなされてきたということだからだ。
単純にお犬様とジョンの力比べということになる。
ジョンは嬉しそうだ。
「世界は広いネ」
ジョンの剣先が少し熱いか。
駆け引き無用とばかりにお犬様が仕掛けた。
「チェストー!」
剣と剣……! 心・技・体……!
ジョンの剣先が揺れる。小さく弧を描いて跳ね上がる。お犬様の渾身の打ち下ろし。エア刀とエア刀が交錯し……!
勝敗を語るのは無粋と言うものだろう。
お犬様と暗たまがフリスビーを投げ合って遊んでいる。
俺はジョンとお喋りタイムだ。
なあ、ジョン。お前なんで日本刀使ってるんだ? 日本刀は武士の魂とか言われるけどよ、モンスター相手にはあんまり意味がないってんで俺ら日本人ですらポン刀は不人気の部類なんだよな。
「私の家は代々冒険家ネ。あちこち行くから鉄砲は持ち歩けないヨ。日本だとこれデショ」
そう言ってジョンは両手を揃えて持ち上げた。御用な。まぁそうだが。
「ハイな。ですから私の家のものは小さい頃から武術を仕込まれマス。私の場合はこれネ」
ジョンは腰のポン刀を鞘の上から軽く叩いた。
念のために言っとくけどポン刀も日本国内じゃ銃刀法違反だからな?
「分かってますヨ〜。ただ、モンスターに切れ味で勝負を挑むのは間違い。それはペタタマサーンの言う通りヨ。私が日本刀を使うようになったのはアンディに言われてからデス。日本は合衆国の同盟国だからネ。私がリアルでも剣をやると知って丁度いいとか言ってたヨ」
へえ、アンディがね。
そういえばカレンは無事か? バレンタインの時にはぐれたっきりになっちまった。
「もちろん無事ですヨ。カレンは乱戦に慣れてるからネ。ちょっとやそっとでは死にマセーン。つーか無事じゃないのはペタタマサーンのほうネ。本当に身体は大丈夫なノ?」
ああ。俺自身、さすがに今回はヤバいと思ったんだが、意外と元気だよ。もしかしたらラム子が力を貸してくれてるのかもしれねえ。
「ラムダ。最高指揮官ですネ?」
そうさ。この前、ちょっと【狙撃兵】と一緒に飲む機会があってな。どうやら俺はヤツらの同僚という扱いになっているらしい。
【狙撃兵】……。あいつは元【クラン】だろう。いかにもな見た目してやがる。エンドフレームを乗っ取られたのか、それとも差し出したのかは知らねえが、あれが俺らの末路の一つって訳だ。まぁバッドエンドだな。
「……【ギルド】は元人間ということデスカ?」
いや、そういうパターンもあるってことだ。
……異常個体ってのが引っ掛かる。ニャンダムは異常個体を【クランマスター】と呼んだ。いつの時代も自由を求めて戦ったと。
俺らの代で何か特別なことが起きると考えるのは自惚れだ。しかし……ョ%レ氏。ヤツは特別だ。
ガンズ何ちゃらでは異常個体は出撃しない仕様になっている。クァトロくんがそう言っていた。
だが、ョ%レ氏が作ったこのゲームでは異常個体も容赦なく戦場に放り出される。やはり何かあるのか。
……まぁいい。まぁいいさ。俺には関係ねえ。
俺はジョンの肩を叩いた。
よう、ジョン。せっかくの機会だ。俺とも一丁手合わせしてくれや。俺もてっぺんの景色とやらに興味がある。人生で一度くらいは最高級のメシを食ってみたいだろ。ああいう感じだよ。
ジョンはニコリと笑った。
「手加減無用、という訳ですネ」
勝敗を語るのは無粋と言うものだろう。
ジョンは凄かった。井の中の蛙とはまさにサトゥ氏のことだと思った。
2.【目抜き梟】クランハウス-レッスン場
さて、オークションで売り払ったクソ廃人どもは元気かな?
帰国するジョンを見送ってから、俺はバンシーモードに早変わりしてアイドル気取りの巣窟に顔を出した。
「あ、バンシーちゃんだ」
ダンスの練習をしていたリリララがてててと駆け寄ってくる。人形じみた容貌の女だが、不思議なもので見慣れると愛嬌があるような気がしてきた今日この頃である。まぁリリララには人懐っこいところがあるからな。人見知りは激しいが、身内には安心してワガママを言ってくるタイプだ。ウチの小せえのと似てる。身体つきのエロさは天地の差なのになぁ。
リリララは汗まみれだ。服が肌に張り付いていて凄くエロい。俺はタオルでリリララの顔を拭いてやった。
よーぉ。今日はリチェットたちの様子を見に来たぞ。オークションで元【敗残兵】メンバーの女キャラはほとんどお前らが持って行ったからな〜。どうだ? あいつら上手くやってるか?
リリララはコクリと頷いた。
「あんまり変わらないよ。やっぱり人多いとグループになるから。モニカは焦らないほうがいいって」
元【敗残兵】メンバーで固まって動くから接点が持てないで居るってことか。
「あ、でもリチェットちゃんは例外かな。色々と話さなきゃだし」
そのリチェットはと言うと、レッスン場の一角でぴょんぴょんと飛び跳ねている。何をしているのだろうか。
俺がリチェットの奇行をじっと見守っていると、【目抜き梟】のメンバーが連れ立ってリチェットに近付いていく。
「リチェットさーん。また一緒に狩りに行きましょ〜」
リチェットは指でばってんマークを作った。
「ヤだっ。オマエら下手っぴなんだもん」
「えー? ひどーい。私たち普通ですよ〜。【敗残兵】の人たちが変なんですよ絶対〜」
【目抜き梟】のリチェットさんにブームが訪れていた。
でも俺はリチェット隊長を信じてる。チャラチャラしたゴミどもとは違うんだって信じてる。
アイドル気取りが隊長の腕におっぱいを押し付けてぐいぐいと引っ張る。
「ねー。行きましょーよー」
「し、仕方ないな」
隊長殿がデレた。
くそがっ、なんてザマだ……!
俺はダッと床を蹴って割り込んだ。
ぴたりとリチェットに張り付いてカニ歩きで執拗にマークする。
「な、なんだ? オマエっ……。こ、コタタマか」
その名は捨てた。俺はバンシーだ。
リチェットさんよ。見てたぜ。今のは何だ。すっかり骨抜きにされちまったようだな。ココは随分と居心地がイイらしいナ? 分かるよ。ぬるま湯だ。馴れ合いだ。
「し、失礼なヤツだな。ええいっ、離れろぉ! 殴るぞ!」
そいつはどうかな。試してみるといい。今のお前には負ける気がしねえ。
リチェット……。紅蓮の天秤ガチャ事件。あん時のお前にはシビれたぜ。正直、俺はお前を見くびっていた。サトゥ氏にセブン、あの二人と比べたら格下だと思っていた。実際そうだろう。ネカマ六人衆はサトゥ氏とセブンに武勇と知略を授けた。そしてお前には繊細さを。多分役割の違いなんだろう。
だが、エッダを倒したのはお前だ。実績が全てだ。何をやれるかじゃない。何を成したか。お前はあの二人の上に行った。少なくとも俺はそう見なす。
だから手加減はしねえ。俺を少し目端が利く生産職の雑魚だと思ってるなら……。
お前、ここで死ぬぜ?
だが俺は少し目端が利く生産職の雑魚だったのでリチェットにブン殴られてワンパンでのされた。
3.クランハウス-居間
ちっ、奥歯がグラついてる。くそっ、リチェットめ。何も本気で殴るこたぁねえだろ。俺はか弱い生産職だぞ。お前ら脳筋とは違うんだよ。
やーい! ばーか、ばーか!
リチェットにブン殴られてのされた俺は捨て台詞を吐いて【目抜き梟】のクランハウスを飛び出した。
ウチの丸太小屋に戻ってきて経験値稼ぎに精を出す。最近は人力フィンガーフレアボムズの練習に凝っている。俺はデサントだからな。もっと色々なことができる筈だ。アイディアはある。ひとまず禁呪に手を出そうと思っている。
モグラさんぬいぐるみを抱きしめて【戒律】やら発火式やらをゴチャゴチャいじっていると、アットムくんが帰宅してきた。俺はブンブンと手を振ってアットムを居間に招き入れる。
よーぉ。ミッションの帰りか?
アットムメスであった。
以前に教会でパンイチになって子ティナンに迫った罪で投獄されたアットムは、俺と同じように男女の姿を状況で使い分けるようになった。
アットムメスはかなり俺好みのビジュアルをしている。髪は肩口に届くくらいの長さで、怜悧な容貌をしているが笑うと印象がガラッと変わる。プロポーションも悪くない。
アットムは俺を見て目を丸くしてからふにゃっと笑った。
「わ、びっくりした。コタタマかぁ。髪型とかコロコロ変えるから分かりにくいよ」
顔とか体格をいじくるのは面倒臭ぇからな。ピエッタに倣って色々と工夫してるのさ。
今の俺は長い髪を首の裏で括って身体の前に垂らしている。ゲーム業界では伝統の女騎士スタイルだぜ。
アットムくんは上機嫌だ。弾むような足取りで俺に近寄ってきて、俺の髪を括ってる布を解いた。いや、なんで解いた?
「僕はこっちのほうが好きだな」
お前は本当に変態だなぁ。俺はしみじみと呟いた。見境なしじゃねえか。小さければ誰でもいいのかよ?
するとアットムは自信たっぷりに笑った。
「さあ、僕を罵ってくれ」
性癖のバーゲンセールが始まったようだ。
俺は溜息を吐いてから、アットムの頬をブッ叩いた。
罵れだ? 立場が違うんじゃねえか? あ?
よく分からんが、アットムくんはバンシーモードの俺にひどいことをして欲しいらしい。
普段は俺に忠実に尽くしてくれるアットムのたっての願いだ。お望み通り心をへし折って屈服させてやるとしよう。
だが、やれるか?
この男は他のゴミどもとは訳が違う。最上級の変態野郎だ。
アットムは俺にブッ叩かれた頬をさすってニヤニヤと笑っている。
「コタタマ、甘くなったね。君は優しくなった。前の君はもっと……ギラギラしてたよ。今の君はまるで飼い慣らされた犬みたいだ。わんわん! ほら、わんわん!」
くっ、はははっ、上等だよ……。
俺は歯列をギラつかせた。
泣かせてやるぜ、アットム。
これは、とあるVRMMOの物語。
この友情ドロドロしてる。
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