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【槍弓】軽率にギャルゲを起動したオレは、気に食わん同僚のそっくりさん(複数)を攻略しなきゃいけないみたいです!/Novel by 梨:次は5月

【槍弓】軽率にギャルゲを起動したオレは、気に食わん同僚のそっくりさん(複数)を攻略しなきゃいけないみたいです!

15,486 character(s)30 mins

■タイトルがすべてのぎゃるげ画面からあいつが出てきちゃった系コメディです。ついったで呟いたネタを文章化したもの。
■この後の両チームの遭遇編と、ちょっぴり槍弓っぽい小ネタをダイジェスト的に加えて本にする予定だけど、出オチネタなのでほぼこれが本編です。9/24新刊予定で今書いてるので、お見かけの際はよろしくお願いします~。

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 会社の同僚に言わせると、ランサーは『趣味がない』のだそうだ。
 心外である。退社後にはグラウンドを借りているよろずスポーツサークルに参加し、ジムへと通い、休日にはキャンプや釣りをはじめとするアウトドア全般を愉しんでいる。
 すると同僚は納得したように、「ああ、だから家で過ごすって言うと、暇してるって決め付けるんだな」と頷いたのだ。「こっちはわざわざゲームやる時間取ってるっていうのに」と迷惑そうに。
 要するに、『自宅でやる』『室内の』趣味事という限定された枠組みでの話だったようだ。
 確かに新作ゲームの発売に合わせ、有給まで取得してひたすら家に篭もる同僚の習性はランサーにはとうてい理解が及ばない。
 といっても陰キャだの陽キャだのいうあれではない。
 ランサーはコントローラー操作のもどかしさにストレスを溜め込むタイプだった。特に動きの激しいアクションや格闘は鬼門である。リアルならこれの二十四時間耐久やってもいいんだけどなあ。そう言ったなら、奇異の目で見られるのはランサーのほうだろう。
「おまえ、どうするんだ?」
 と、今度は憐れみをもって同僚が言った。ランサーは首を捻る。
「? 何が?」
 体力自慢にもガタの来る老後の過ごし方だろうか。悩むにはまだ、否、だいぶ早いと思うが。何せ結婚のステージにすら至っていない。
「いやほら、緊急事態宣言ってやつだよ。テレワークで出社しないで済むだけじゃなくて、休日だってどっこも出掛けられないんだぜ?」
「あ。」
 まさにその、テレワーク移行の準備でてんやわんやしているところであったのだ。
 他にいくらでも心配事があったので、余暇の過ごし方にまで考えを巡らせていなかった。
 オレは積みゲーあるけどな、と言う同僚の顔を見、運搬中の段ボール箱を見、天井を見上げたランサーは、尻尾を振って玄関まで出てきたのに散歩に連れて行ってもらえなかった子犬のごとく眉尻を下げたのだった。

 まあ、ゲームショップにでも寄ってみれば。昔のヒット作なら安く売ってるよ、とそんな風に雑談は締めくくられた。
 一世代前のハードでよければ、一応ゲーム機は家にある。宅飲みの時に皆で遊ぶことがあるからだ。誰かしらがビンゴか何かで当て、その帰りの三次会やらでランサーの家に持ち込んで以来そのままという経緯だった気がする。
「うーん、シミュレーションねえ。本読むより飽きないかな」
 そして帰宅したランサーは、ゲーム機のセットされたテレビの前で胡坐を掻き、買ってきたばかりのゲームのパッケージを手にしていた。
 実のところ、帰宅する頃には同僚との雑談などすっかり忘れていたのだ。
 帰りがけに商店街を通った時、ゲームショップの店舗外に出されていたワゴンセールがたまたま目に入った。日に焼けて色の褪せた福袋であった。有名なモンスター狩りのゲームがどれか一作、必ず入っているという。
 きゅーんとこちらを見上げる、捨て犬のように見えた。
 とどめが閉店間際で半分閉まったシャッターに貼られた、しばらく休業のお知らせである。
 いつもなら気にも留めなかったろうが、明日からの暇潰しについての話題が出たこともあり、まあ、善行でも積んでおくかと足を向けたのだ。
 五本ほど詰め込まれていたうちの一本。ランダムに袋から引き抜いたソフトを、とりあえず起動してみたのだった。
「え、なんだよなんだよ。エロいのもあんの」
 メーカーロゴから続いて表示された注意書きに、俄然そわそわしてくる。
 エロといえば実写派、むしろ実地派のランサーであるが、だからといってまったく興味がないわけではない。だって男の子だもの。
「ミステリでもホラーでもなく、〝恋愛〟シミュレーションね。なるほど。……なるほど」
 二束三文で新境地を開拓できたなら、文句なしにお買い得と言えよう。
 しかし、胡坐を掻いた膝のそわそわ揺すりがぴたりと止まる。
「んん?」
 スタートボタンを押して変わった画面をしげしげと見つめた後、ランサーは叫んだ。
「希望の攻略対象を選んでくださいって、全員ヤロウじゃねえかっ!!」
 早くもコントローラーを投げそうになった。
 どうりで妙だと思った。パッケージやオープニングのアニメはキラキラしく、きれいな絵柄で質の高さを窺わせたけれど、肝心の相手役の女の子がぜんぜん映ってなくない?と。
「そっかー……、そりゃ恋愛っつったら男向けばっかりじゃねえよなあ……」
 女性が愉しむためのゲームソフトなのだろう。スクロールしてもしても美男ばかりが出てくる。
 ついでに主人公キャラも男である。特筆すべきことのない、ふつうの学生という印象だ。
 この主人公が女性だったら。いや、それもどうか。画面に映る大部分は攻略対象キャラであろうから、延々と野郎ばかり見る羽目になってしまう。こちらに微笑んだり、口説いたりしてくる野郎をだ。
 せめて女の子に見える攻略キャラはいないかと探したのだが、残念ながらきゃるんとしたキュート系はランサーの好みではなかった。
「あ、でも待てよ。キャラメイクってのがあるぞ!」
 イジメかというほどスクロールした奥底に、ひっそりとメニューがあった。これがいちばん下からいちばん上へ飛ぶループ式かつ一方通行だったら即座にクソゲー認定しているところだ。
「ふんふん、自キャラじゃなくて好みの相手を作れるのか。そりゃいいな」
 ぽちぽちと進んで、ランサーはまたも一縷の望みを絶たれることになる。
「女に出来ねえ~……」
 コンセプト的にそれはそう、としか言いようがない。シナリオ上、齟齬の発生することもあるだろう。
 キャラパーツの項目、ラインナップは異様にたくさんあるのに。手慰みに肌色のスライダーをぎゅぎゅんといじり、髪色もぎゅぎゅんといじってみる。
 はた、と目を留めた。
「……なんか、知ってるなこいつ……」
 標準の逆張りをしただけなのだが、犯人モンタージュよろしく既視感のある顔がこちらを見ていた。
 褐色肌に白髪、地味スーツ。
 徐に表情を〝不機嫌〟に変えてみる。眉間に皺寄せた白眉、つまらなそうな灰色の瞳。ボイスは低音で、性格はとりあえず〝クール〟に。
「〝何か用か。そんなに暇ではないのだがね〟」
「喋った!? やべえ、ウケる! 完全にエミヤじゃん!」
 ランサーは体を揺すって笑った。
 日々、領収書片手にランサーとやり合っている、経理課のあいつである。色合いがまさに彼だ。
「クールっつーと、なんか響きがかっこよくなっちまうなあ。あれは小姑だ、小姑」
 ねちねちねちねち重箱の隅を突付く小姑。正論だとて言い方ってものがあるだろう。
 つまるところ因縁には事欠かない、たいへんにムカつく男であった。
「へえ、ちびにも出来んのか。ちぃとオレよりタッパあんの気に食わなかったんだよな。……おお、こんなパーツまで……こーして、こうすると……ふはっ……」
 ランサーは独り言に大量の草を生やしながら、キャラメイクに没頭していった。
 肌や髪についで瞳の色、体格、服装、アクセサリ、職業、性格などなど。「やべえ、ウケる!」を繰り返してどれほど経ったろうか。
 やがて四つのエディット枠を使い果たしたランサーは、謎の達成感に包まれていた。
「はっはは、エミヤをびーえる時空に召喚してやったぜ!」
 お堅い男はエロ目的のゲームなど許せないだろう。そこに出演させられるのは、ひどい屈辱に違いない。悔しそうな顔を想像すると、とても気分がよかった。
 そうだ、エロCGでもスクショして見せてやろうか。
〝はじめる〟を押そうとし、そこで、スッと頭が冷えた。
「あ、危ねえ。よりによってあの陰険野郎にセクハラかますとか、直で監査行きの懲戒モンだわ……」
 まあ、そこそこの暇潰しにはなった。
 福袋は五本パックなのだ。このソフトはハズレに分類するとして、おもしろくないゲームを無理にプレイすることはない。大トリには人気作のモンスター狩りも控えている。
「保存はしなくていいか、どうせもうやらねえし。……あれ?」
 今日はここまでと電源を落とそうとしたが、まずソフト側でゲームを終了できなかった。
 本体のボタンを押してもディスクが出て来ない。再起動をかけようとすると、やはり反応がない。
 否、何かが詰まっているかのように、リセットボタンを最後まで押し込めないのだ。
「最近、使ってなかったからなあ。壊れちまったかな」
 しばらく電気を通さないでいた電化製品はだめになると聞く。気付けば年代物であるし、惜しいものでもないが、せっかく買ってきたソフトが無駄になってしまう。
 ランサーは本体を軽く叩いたり、引っ繰り返したりしてみた。
「もう抜いちまうか」
 別段短気ではないが、慎重な性質でもない。ランサーは電源ケーブルをえいやっと引っこ抜いてしまった。
 そこで最大の異変が起きた。
 電源ランプが一向に消えないのである。
「ぇ」
 ばかりか、シャアアと軽やかにディスクが回り、カリカリと読み込む音までがする。もちろん旧型の据え置き機に、充電機能なんてものはない。
 これはいったい、何を懸命に
「もう抜くのか。早漏だな」
「ぅひ――!」
 オカルト案件が脳を巡り、心臓を叩いていたところだ。するはずのない他人の声が耳を掠め、ランサーは文字通り飛び上がった。
 決して振り返るな、がセオリーだったかもしれないが、反射的に耳を押さえて振り返ってしまっていた。
 ぱか、とその顎が落ちる。
「何言ってんだ、コンセントだろ」
 今度は少年の声だった。
「ちなみに、抜き挿しするそれはコンセントでなくプラグという」
 さらに突っ込んだのは、最初の青年よりも若干低い男声だ。これで三人。
「にゃぁん」
 いや、三人と一匹らしい。
 それらがランサーひとりの部屋に、忽然と現れ出でたのだった。
「な、な、な!?」
 知らない奴らだが、見覚えはあった。とてもとても、あった。
 何せつい先程、同じ会社の社員をベースに、己の指が作り出した男の似姿だったのだから。

「なあ、おかずはもちろん私だよな?」
 ランサーの腕にひっついて胸(大胸筋である)を押し当て、さらりとした白い髪の向こうから蠱惑的に微笑み掛けるのは〝えみや〟。
 年齢を少し下げ、大学生風の格好をしている。性格設定は〝小悪魔〟。

「はしたないぞ。口説くなら人目のないところでやらないか」
 目も当てられないとばかり、オールバックの前髪を掻き上げる仕種をしたのは、少し年嵩に設定した〝執事〟の〝エミヤ〟。
 ところで職業を執事にしたら服装やアクセサリの眼鏡が固定され、性格も執事が自動選択されたのだけれど、性格:執事とはなんなのだろう。

「夕食作りは俺がやるからな!」
 下ネタにぴんと来ていない様子で、薄い胸を張った少年は〝ちびえみ〟。身長からすると十歳ほどの見た目(十八歳未満は設定不可だった)で〝わんぱく〟のわりに良い子らしい。

「にゃ」
 彼に抱えられながら同意らしき一鳴きをしたのは〝えみにゃん〟。モンスター狩りのお手伝い猫を彷彿とさせる、ちょっぴり胴長な二足歩行の猫である。

「「「マスター?」」」
 褐色白髪は共通項のそれらが声を揃え、ランサーを見つめるのだった。
 固まっているランサーにそれぞれが首を傾げ、「故障か」「ニンゲンが故障するか」「病気じゃないの」等等、言い合っている。自由に動き、喋り、触れることも出来る。映像じゃない。体温がある。呼気が触れる。
 その中のひとりにくちづけされ掛かっていると気付き、ランサーはずさっと飛び退った。残念そうに「あん」などと口を尖らせている。
 なんだ、いったい。これはなんだ。
「え、おまえら、なに」
 疑問が口からこぼれると、
「君の恋人」
「おまえの執事だろう」
「な、なにって、訊くなよ!」
「にゃぁん」
 エミヤたちは口々に、自慢げに、不本意そうに、あるいは恥ずかしがって答えたのだが、そういう意味ではない。
 何者か、といえばエディットしたキャラクターがゲーム画面から出てきたとしか思えない状況であるが。
(そんなばかな)
 カミナリも落ちていないし、魔女っ子にもらったソフトでもないし、異次元空間だって出現していないのに。かつて読んだコミックがつらつらと脳裏を流れる。
 もしかしたらとっくに寝落ちして、夢を見ているのかもしれない。
 ああきっとそうだ、そうに違いない。
「えーと、おまえらって食費かかるの?」
 二言目にそんな質問をしてしまったくらいには、順応性は高いと自負するランサーも、さすがに茫然となったのであった。


     ◆ ◆ ◆


 ところ変わって。

 無心に料理をしていたエミヤは、ハッと我に返った。
「何故、電子生命体が腹を空かすんだ……!?」
 電気を食っていればいいのではないか。少なくとも成人男性ふたり+少年+狼犬、いずれも健啖家らしい計四体の食費よりは安く上がるだろう。
「じゃない! 何故、私が貴様らの食事を作っているんだ!!」
 キッチンから駆け寄ってきたエミヤはバン!と座卓を叩いた。跳ね踊った食器はすでに空であった。中身の残っているものは事故防止のために何本かの手に持ち上げられ、エミヤが携えていた最後の皿も誰かの手に掠め取られていく。
「美味いぜ、これ」
「おいしかったよ!」
 まるでそれがいちばんの問題であるかのように、フォークを咥えたアロハシャツの男がにかりと笑い、慌てて追従したのはその男の弟か息子かというくらい瓜二つな少年だった。後者は純粋に、エミヤが料理の出来映えを気にしているのかと案じたのだろう。素直な子供に罪はない。
「美味な上に、手際も良い。いつまでも見ていたくなる見事な腕だ」
 はたまた微笑を浮かべた美丈夫に絶賛され、エミヤは喉を詰まらせそうになる。が、よく聞いてほしい。ファンタジックな衣装に身を包み、言動も王子様然としたこの男は、もっと食うものを持ってこいと仰せなのだ。
「貴様らに付き合っていたら備蓄まで尽きるわ!」
「わふん」
 伸び上がれば体長二メートル近くありそうな狼犬が、控えめに吠えた。立派な三角耳がぺたんと垂れている。床から上目で窺う彼に、エミヤはそっと皿を押しやった。もふもふアニマルにも罪はない。
 エミヤはぎろりと睨んだ。
「そこのアロハ男。私は食べていいと言ったか」
「〝ランサー〟って呼べよ、テメェが付けた名前だろ。そうは言っても、メシ出されりゃ食うだろうよ」
 食わねば失礼だとばかり、エミヤが山と積み上げた料理をぺろりと平らげてくれた男たちは頷き合う。
「置いてあるだけ、とは思わなかったのか。例えば保存用だとか」
「人数に即して配膳されて、己の分ではないとするのは難しいな」
「〝クー〟のはちゃんとわんこ用だったしね!」
 彼らは属性や性格に差異はあっても、食事に対する考え方は同じらしい。
 それはそうだろうなとエミヤは遠くなった瞳で納得する。
「フリーズしたところに空腹を訴えられたのでつい……現実逃避の産物ではあるが……、美味かったのなら、まあいい」
 何故そんなことで恥じるのかといえば、彼ら四体を作ったのがエミヤだからである。現状、おそらく、と付くけれど。
 エミヤは料理好きだ。特にひとのために料理を作るのが好きだ。その自分の、認めたくはないが〝恋人の条件〟のようなものが反映されたとするならば、大盛りごはんを嬉しそうにぱくぱく食べられる胃袋は必須級のステータスだろう。
(外見はあれだ、知り合いの中で最もカラフルな男を採用したに過ぎんがな!!)
 四体の彼らは揃いも揃って、特徴的な青髪赤眼であった。
 だって、カラフルなパレットを差し出されたら、派手な色を使ってみたくなるじゃないか。
 アロハ男がうなじの見える短髪、もうひとりが腰までの長髪を一つに結わえているので服装以外でも区別は付けられる。少年は中間くらいの長さを軽く三つ編みにしている。狼犬の尻尾は長毛種だろうふさふさ具合だ。
「「「ごちそうさまでした」」」
「わん」
「お粗末さまでした」
 居並んだ赤眼が同時に伏せられて、エミヤもお辞儀を返す。礼儀正しいのは良いことだ。
 流れで食後のお茶とお茶請けまで用意すると、自分も座卓に着いた。
「それで、君たちはどうしたら消えるんだ」
「わお、直球だな」
 エサは恵んでやったのだからとっとと帰れとの要望が言外に滲んでいたか、それぞれに青眉をしゅんと下げられる。
 ちびっことわんこの悲しげな表情にはつい、君たちはいいんだよと絆されそうになってしまったけれど。
「しょうがないだろう。私の薄給ではこんなに飼え……ゴホン、養えないしな」
「今、何か言いかけなかった?」
「気のせいじゃないか、〝セタンタ〟」
「なんでそいつは呼ぶんだよ」
「なんだ、子供相手におとなげない」
「おまえ相手におとなげなくなってんだよ」
「オレ、ガキ扱い……」
「実際ガキだろうが。ちんこ使えんのか」
「なんだと。使えねえわけねえだろうが」
「下品な会話はやめなさい! ああもう、全員黙っ、」
「くぅーん」
「あああ、君に怒ったんじゃないんだよ」
 会話がどんどん取り留めもなくなっていく。もふもふがオアシスだった。
 とりあえず広めの一軒屋に住んでいてよかったとエミヤは思う。単身者用ワンルームにこの図体の男ども(自身を含め)がぎちぎちにすし詰めになっているところはあまり想像したくない。
「心配せずとも、じき消えるさ。選ばれたひとりを残してな」
 拗ねたアロハに代わり、長髪を結わえた彼が説明してくれるらしい。物腰が穏やかなので、エミヤとしてもありがたい。
「選ぶ? どういうことだ」
 隣町あたりでクシュン!とくしゃみをしたワンルーム在住の男がいることなど知る由もなく、エミヤは話を促した。
「どうせおまえは説明書を一通り読んでるだろうから端折ると、この『ゲーム』はルート制を採用している。進むべき一本の道が決まってしまえば」
「可能性のなくなった他の分岐は消え去る運命、か。君たちはそれぞれが選択肢だと」
「そう。賢いな、エミヤは」
 美丈夫に微笑み掛けられ、頬の赤らむ思いがする。
「おい、見惚れてんなよ」
「見惚れてなんぞない!」
 会社で顔を合わせるあの男に賢いと言われたら、「は? この程度で? ばかにしてるのか? ああ、そちらの程度が低いのか、いやすまなかったな」くらいは返していただろう。褒め言葉は須らく厭味であり、即時反撃すべきなのだ。
 顔がいいのは認める。世間の反応からして認めざるを得ない。いわゆる黙っていれば…系なので、言動が伴えばそれは当然、
「何故こうなったかは正直、オレたちにもわからないな。妖精のいたずらみたいなものだろう。意味はなく、理由もない。いつも頑張っているエミヤへのご褒美とでも思えばいいんじゃないか」
「ごほうび……」
 ご褒美かどうかは甚だ不明だったが、キラキラ王子様オーラが耐え難く顔を背けた先で、ほーん、と目蓋を平にしているジト目に出くわし、エミヤは空咳をした。断じて見惚れてはいない。
「そ、それで、選ぶとは具体的にどうすれば」
 なんとはなしに少年に菓子を与え、おとなしく寝ている狼犬の背を撫でる。しっかり実体がある。
 確かに説明書は読んだが、このような現象は書かれていなかった。書かれていれば――否、ゲームの物語設定だと思って流してしまったに違いないが。作ったキャラが実体化するなど誰が本気で信じる。
 彼らが出現してからゲーム機と、それの映っていたテレビ画面は沈黙してしまったので、コントローラーでの操作は出来なさそうだ。
(……壊れてないだろうな……)
 そも、他人から預かったゲーム機なのだ。調子が悪いのだが直せるか、と修理の得意なエミヤのところへ持ってきた。古い機種のため、メーカーの修理サービスは終了しているらしい。
 巣篭もりで暇だろうしと言われたのはまったく構わないのだが、一緒に動作確認用のソフトを借りるのを忘れてしまった。エミヤはゲームを持っていない。急遽、適当にワゴンセールで買い求めたのが、件のソフトであった。
「これのジャンルはわかっているんだろう?」
「……だいたいは」
 どんなゲームか気付いた時には面食らったものだ。
 恋愛シミュレーションというだけで及び腰になるのに、同性とのそれだなんて。ストーリーをはじめる気にはならず、さりとて動作確認はせねばならず。
 発見したエディット機能で濁していたところ生来の凝り性が災いし、気付けばこのようなことになっていた、というわけだ。
「なら、ただ指名すればいいってものじゃないのもわかるな。ゲームと同じようにフラグを立てていく。ルートが確定した時点で他の者は消え、イベントスチル到達でクリアになるはずだ」
「すちる?」
「ふたりの世界というものだな」
 すでに聞いたことを言い換えただけのような気がするし、一部の用語がわからない。そのまま写真でいいのだろうか。
 エミヤが首を傾げていると、
「ったく、御子様はまどろっこしくていけねえな!」
 と、アロハ男が座卓に身を乗り出した。目を丸くするエミヤにびしっと指を突き付け、続けて自身の胸へ親指を向ける。
「おまえプレイヤー、オレら攻略対象。つまり、こん中の誰かとデキデキにデキちまえってことさね!」


     ◆ ◆ ◆


 だって、そういうゲームなのだからして。

 そんな顔をされても、登場人物にはどうにも出来んよ。と、説明を終えた執事の〝エミヤ〟に肩を竦められた。自然法則を、人類にはどうやっても変えられないのと同じようなものだろう。
「うーん、どうしたもんかな……」
 ランサーは口に咥えたフォークをぷらぷらさせて呟く。すかさず、お行儀悪いよ、とちびが抜き取っていった。
 少年がお盆に乗せて運んだ食器を、執事がシンクで洗っている。まるで高速食洗機だ。そのまま彼の隣に立った少年は、布巾で拭く係を務めるらしい。
「実質、二択だろう」
 ランサーの耳元で囁いたのは食後のお茶を差し出している小悪魔だ。いちいち手に触れたり、お色気をまぶしてくる。
「そりゃあな。ガキだのケモノだのに手を出す趣味はねえよ」
 言いながら、通りがかったにゃんこを膝に抱き上げる。ぎょっと振り回された小さな肉球のついた手には台布巾が握られていて、ランサーの顔をばしばし叩いた。この外見なら反抗されても腹は立たない。
 猫までがちゃぶ台を拭こうというのだから、まったくエミヤどもはよく働く。
「習性なのか。家事完璧とか働き者とか、そんな設定項目なかったんだけどな」
「そういうイメージがあったんだろう。私たちの元になったご友人に対して」
 つん、と顔を横へやる。嫉妬めいた仕種をされた。きっとプライドが高い。だのに、惜しみなく働く姿は実に自然だった。
 ―――食費とは尤もな懸念だ。だが、それ以上の仕事をお返しすると約束しよう。
 食費に言及したのは単なる弾みであったが、彼らの代表格らしい執事はそう胸を張ったのだった。
 住み込み就職する気まんまんの態度につい、帰れよ!と怒鳴ってしまったランサーだが、そうして提供された食事に、一口で胃袋を鷲掴みにされていた。
 彼らの行き来するたびに部屋が小奇麗になっていく気がするし、いつの間にやら風呂を沸かし、寝間着も用意してくれたらしい。当然のように湯を張る前には掃除をしたようだ(日頃の雑っぷりに文句を言われた)。
 食費以上のリターンは本当だった。
 今後の快適生活が約束されたようなものだ。この働きっぷりでは、無理に消えてもらわなくてもいいんじゃないかな、と思ってしまうではないか。適当にバイトでもさせれば、食費くらい自分で稼いでくるだろう。
 だが、ランサーの部屋は狭い。
 我々の図体はでかい。それはもう抗いがたい事実なのだ。
 せいぜいあとひとり。ひとりか。
「おまえも料理は完璧なんだよな」
「無論だとも」
 食ってみてえなとランサーが微笑むと、むくれていた青年はころっと気を良くして擦り寄ってきた。
「明日は朝食から私が担当しよう。小僧が張り切っているが、なに、丸め込むには造作もない」
 さりげなくタンクトップをたゆませて胸元アピールをしているし、ランサーはしっかり覗いた。褐色の谷間があった。この豊満ボディも、己の無意識の表れなのだろうか。だってご本人様の体付きなど知る由もない。胸囲がえげつねえなとは思っていたけれど。
(ゲームを終了するにはどれか選んで落とせっつーけど、即落ちてんじゃねえかなあ、こいつ……)
 難易度で考えると、おそらく彼が最もイージーだろう。はじめからランサーに好意的で、セクハラまがいのボディタッチを仕掛けてくる。
 ランサーはもにゅもにゅと揉んでいた猫の肉球を放し、その手を〝えみや〟の尻へと伸ばした。正座を崩し気味にしているので、畳んだ踵の上に肉厚の尻がむちりと乗っている。
「これで選んだことにはならねえのか?」
 お触りした途端に平手が飛ぶ、なんてことはなかった。腰を抱き寄せ、尻をむにむにと揉んでも、彼は嬉しそうに笑含むだけだ。
「ペッティングでいいなら、そこの猫との関係のほうが進んでいるんじゃないか」
「あー、確かに」
 手を離した途端ぴゃっと逃げてしまったにゃんこは、ランサーがほぼ全身をもみくちゃにしたのである。
 懐かれたらフラグが立っていたかもしれないのか。危ない。まあ、あのように賢い猫なら飼うのも吝かではないが。スペースも取らないし。
「なんか攻略情報くれよ」
「おや。やはり早漏か。攻略対象に訊いてしまうとは堪え性のない」
「総当たりの選択肢潰しとか苦手でな。一点集中派なもんで」
「さてはセーブデータをひとつしか作らずに、ボス戦前で立ち往生するタイプだな」
 小悪魔がくすくすと笑う。
 そう、推奨レベルが足りないだとか、必要アイテムがないだとかでボス部屋から追い返されるのがランサーは納得いかない。現実なら槍一本だってとりあえず挑戦は出来るだろう。
「おまえに決めたっつってんだけど?」
「それは嬉しいな。だがチートしようにも、細かいルールは私たちにもわからないんだ。私についてなら、なんでも答えて差し上げるよ」
 古式ゆかしきお見合い作法に則り、「ご趣味は?」からはじめるべきだろうか。料理か掃除だろうと想像はつく。
「んじゃあ、おまえの好きなものは?」
「君。」
 即答だった。
 ランサーは思わず彼を見た。わかりやすいリップサービスに、オレは物じゃねえよと小突くべきだったかもしれないが、えっ、と見遣ってしまった。
「の、食べているところ。豪快なのに手付きは繊細で、とてもセクシーだったよ」
 細められる鈍色は、こちらが暴かれているかのようだ。小悪魔とは愛嬌があるばかりでなく、いい性格をしているものだと忘れてはいけないのである。
「何かプレゼントしてやろうと思ったのに。いらねえんだな」
 自分が不機嫌を見せれば、慌てて弁解してくるだろう。
 ところがランサーはまたも駆け引きで負けを喫したのだ。
「くれてもいいぞ。このゲームの年齢区分はZだからな」
「ぜっと?」
「じゅ・う・は・ち・き・ん」
 色っぽい吐息に耳打ちをされる。最後の「ん」など鼻に抜けて、完全にアレだった。
 目を瞬いたランサーは思い出した。冒頭に表示された注意書き。そういえばこれは大人向け、エロありきのゲームだったじゃないか、と。
 それ即ち、ゲームクリアに違いない。
「……なるほど」
「ふふ」
 ランサーは素早く赤眼を走らせて、執事はちびを生徒に何やら訓辞中、猫は床で融けているのを確かめた。
(よし)
 この中から誰を恋人に選ぶかなんて、実質二択どころか一択だろう。執事のエミヤはなんとなく、こちらが押し切られそうでいやだ。眼鏡の奥にサドっ気が見え隠れしている。
「気付かれねえように、静かにな」
 ランサーの塒はロフトである。口元に人差し指を立ててからハシゴを上ると、同じ仕種を返した〝えみや〟もついてくる。
「おもしろいな、秘密基地みた……ぃ」
 定員はせいぜい二名のそこに、彼を押し倒した。
 自分の寝床に散らばった白髪、投げ出された腕、捩れた首に、そわっと腰の浮く感覚がする。
「性急だな」
「オレの食ってるところ、好きなんだろ?」
 後に誘ったのだから、そもそもそういう意味を含んでいたのだろう。口説き文句で減点だと言いながら、彼は唇を寄せるランサーの首へ腕をまわした。
 この顔とするキスにもまったく抵抗感がない。
 ん、ふぁ、あ、と漏れる声に、否応なく煽られる。
 シャツに手を潜らせ、タンクトップをたくし上げて、直に胸へ触れた。
 妙に感動する。ほどよい弾力で指の沈む、これが男についていていいのか。尻も揉み心地がよかったが、ここはそれ以上だ。
「ぁン、朝食、を、作れなくなってしまう、かも、な、マスター…?」
 男の興奮を覚ってか、色好い微笑に揶揄われた。
「ランサーって呼べよ」
「……ラン、サー…」
 終始積極的なのに、何故だか名を呼ぶだけのことに恥じらいを見せる。いいのだろうかと戸惑い、伏せた目をさ迷わせるそのギャップにぐっとキた。
 鳴かせたい、もっと縋らせたい。
 だって気に食わないんだ、あの顔が。
「あ」
 いざ太腿に手を掛けんとした時だ。
「「――こンのケダモノー!!」」
 かわいく喘いでいるのとは似て非なる声が、どっと押し寄せたのだった。
「どぅわっ」
 肉球キックを食らい、襟首掴まれて〝えみや〟から引き剥がされたランサーはロフトから放り落とされた。背中にどすんとちびが飛び乗り、うつ伏せに身動き取れなくなったところで執事に関節技を決められる。
 サルカニ合戦もかくやの見事な連携であった。
「ぅ、ぐ……、し、執事がなんで、さぶみっしょん……」
「執事とは主人の剣となり盾となるもの。武芸一般は必須スキルだ」
 そりゃおまえ、執事じゃなくてエージェント。辞世の句を読んでいる場合ではない。苦しむランサーを見下ろす灰瞳がじっとりしていて、なんだかやっぱり怖気が走る。
「RTAに挑戦か? 悪いが阻止させてもらう」
「合意だぞ、あいつに聞いてみろよ!」
「おや、何か勘違いをしているようだな。ケダモノから仲間を救ったとでも? 我々に助け合い精神などあるわけないだろう」
 ――我々は貴様を巡って相争うライバルなのだから。


     ◆ ◆ ◆


 なるほど、選ばれたひとり以外は消えるルールなのだから、彼らがプレイヤーを巡って恋の鞘当てを繰り広げるのは至極当然であったのだ。

「天国見せてやるよ!」
 犬歯を煌めかせた笑顔で言われ、じゃあよろしく!などと頷ける奴がいたらお目に掛かりたい。
「そんな口説き方があるか」
 たしなめるように嘆いた男も、同類の危険人物である。手本を見せようとばかり、こちらに手を伸ばしているのだから。
「そんなもこんなもあるかっ、どっちも要らん!!」
 圧を掛けてくる青髪どもから、エミヤは逃げ出した。
 たいがいの人間はエミヤより小さい。日常生活において危機感などまず覚えない。だが、彼は身長にさほど差のない上に、膂力ではおそらく負けている。それがふたり掛かりで迫ってくるのだ。
 己の貞操という、考えもしたことのないものを狙って。
「あ、あーるじゅうはちってなんだ……」
 無論、年齢区分を表す記号は知っている。想像が追い付かない。
「エミヤはオレがいちばん好きだよな!」
「ぎゃあ!!」
 すぱーん!と景気よく襖が開けられた。青髪の子供が両手を横に広げたポーズで、にかにかと笑っている。
「今日一緒に寝ようぜ! あいつらから守ってやるよ!」
「ああ、ありが……」
 小さなボディガードに一瞬癒されたエミヤだったが、恐るべき会話を思い出した。ついでに『すべての登場人物は十八歳以上です』の文言を思い出した。――こう見えて下半身はオトナかもしれない。
 腰に抱き付いてこようとするのをひらりと躱す。
「お、お断りします! 未成年淫行ダメ絶対!」
「えー!」
 不服そうに声を上げるということは、やはりその気があったのか。
 逆側の襖を開け、エミヤはまたも続き間に逃亡する。と、
「いきなりずっぽりハメようなんて考えちゃいねえぜ? 畳ってのも悪かねえけどよ」
 廊下側の障子戸がかろりと開いて、男が顔を覗かせた。チンピラのほうだ(もはやチンピラ呼ばわりで構うまい)。
 照れくさそうな顔で詫びのごとく言っているが、何一つ信用できる言動ではなかった。
「エミ……」
「追ってくるなー!」
 ぴしゃんと襖を閉めたら、そっとしておいてください、の意思表示だろう。機微を理解してくれているのは、どうやらキラキラの御子様だけらしい。
 柱に寄り掛かり、走り回っているエミヤを眺めている。愉しげに、というあたり、獲物が弱るのを待っている恐れもないではない。否、その通りだろう。だって観戦者ぶって玄関に通じる廊下を見張っているのだから。エミヤを逃がす気などさらさらないのだ。
 プレイヤーたるエミヤが彼らを攻略するという話ではなかったのか。これではベクトルが逆ではないか。
(ええい、日本家屋とはどうしてこうも籠城に向かないのか……!)
 何せ鍵の掛かる部屋がない。掛かったとして、いざとなれば襖ごと外せてしまう。
 ぴしゃん、すぱーんと脱兎を繰り返しつつ、エミヤは離れの洋間を目指した。
「っ!」
 ざっと影に立ち塞がれ、挟まれたかと緊張を走らせる。
「わぉん」
「……君か!」
 もふもふわんこがお利巧にお座りして、尻尾を振っていた。
 光明が差した。
 背後からは兄弟めいた大小コンビが迫っている。
 エミヤはゴールラインに滑り込むような勢いで、〝クー〟と名付けた狼犬に抱き付き、宣言した。
「選べと言うなら彼にする! 私は彼と絆を深めることにするっ!」
 うつくしい狼犬と巡り合った青年との種族を越えた絆、芽生える友情。感動巨編を綴ろうではないか。
 エミヤはかわいらしい動物映画が好きだ。リアルではタレントアニマルの待遇などが気に掛かってしまうそれも、このような超常現象が起こすものであれば心配はいらない。だいいち、エミヤが動物を虐待することなどありえない。
「くぅん?」
「君は私を主人と認めてくれるだろうか」
 首を傾げた狼犬は、ぺろりとエミヤの頬を舐めた。返事のようだ。
「はは、ありがとう。わぷ、ん、く、くすぐったいよ……っ」
 べろんべろんと大きな舌に顔といわず首といわず舐められる。圧し掛かられて倒されてしまった。ずっと動物を飼いたいと思っていたので、こんなに全身で懐かれるととても嬉しい。
 エミヤを飼い主認定してくれたのなら、暴漢からも護ってくれるだろう。心強いセキュリティだ。
「おまえよ……」
 いつの間にか勢揃いしていた彼らは憮然の表情で、わんこと戯れているエミヤを見下ろしていた。男の尻を追い回した挙句、犬に掻っ攫われたのだからたいそう悔しいに違いない。
 彼のそういう顔を見ると、増長するのがエミヤの習性である。青い毛並みを愛しげに撫でながら頬を吊り上げた。
「ふふ、悔しいか。貴様らは見目が良いから、誰でも押せば落ちると思っているのだろう。勘違いも甚だしいぞ。これを機に――…」
 いや、何を言っているのだ。これを改善の機会とする今後など彼らにはない。彼らは謎の電子生命体であって、エミヤの気に食わぬあの男ではないのだ。
 それに、態度さえ改めれば口説かれるのは吝かでないみたいじゃないか。
「悔しいのは悔しいけど、そうじゃなくてさあ」
 割合素直に認めた少年が、らしくもなく言いよどむ。
「ジョーシキでオレ弾いといて、それはいいの」
「?」
「なかなか難度が高いところにいったな」
 御子様も同じく、困ったように額に手を当てての発言だ。
 首を捻るエミヤに引導を渡したのは、やはり歯に衣着せぬチンピラの彼だった。
「おまえ、行き着くとこは獣姦だぞ、それ」
「―――」
 エミヤは時を止めた。
 へっへっ、はっはっ、と舌を出して己の上に乗っかっているわんこを見る。円らな瞳に邪気は感じられない。エミヤはその視線を下げ、
「――そぉいっ!!」
「きゃうーんっ」
 青い犬が華麗に宙を舞った。
 同じ髪色の青年ふたりが受け止めなければ、縁側のガラス戸を突き破り、池ポチャしていたに違いない。頭と何かを冷やせと告げるがごとく。
「ふっ、ふふふ……」
 瞬間的に多大なストレスに見舞われたエミヤは、巴投げ程度で肩を上下させていた。
 呼吸に混ざる笑声に、男どもが不気味がる。
「え、エミヤ、サン?」
「マスター?」
「ああ、私に貴様らを養う責任がありやなしやといえば、あるのだろう。まとめて河川敷に捨てるわけにもいかんしな。致し方ない、衣食住は面倒みてやる。だが、」
 ゆらりと頭を起こす。額に落ち掛かる乱れ髪の下で、鋼の双眸が冷ややかな輝きを放っていた。
「以後、このような不埒に及んだら――――潰すぞ?」
 腕力では勝てぬにしても、一矢報いるくらいは出来る。
 少年とアロハ男は思わず股間を押さえ、不参加だった御子様は肩を竦め、怒られた自覚だけはあるらしい狼犬はしょぼんと耳を垂れていた。
「では、集団生活にあたってのルールを決めるとしようか。まずは掃除当番から」
 己が主導権を握ったのを確信したエミヤは、彼らを見回し、にこりと笑んだのだった。




あいつの出現編 終


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という出オチコメディ。
両チームの遭遇編とちょっぴり槍弓っぽい小ネタを加えて本にする予定だけど、この通り出オチなのでほぼこれが本編です。

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