随筆 『誇り高きエアプ』
友達との会話についていけなくなる時がある。それは大抵、アニメや漫画についての話題になった時だ。
僕の周りにいる人の多くは、そういうものに対する見識が深い。
僕は、わざと自分の席ではなく、堂々と友達の席を占領して、今書いているような執筆作業を行うことがあるのだが、その隣では、よく知らないアニメや漫画の話が飛び交っている。ロボットアニメの話だ。友達のスマホの画面に、ド派手でいかつい二足歩行型の大きいロボットが表示されているのをよく目にする。
日々日々、僕は壮大なネタバレを被っているらしい。しかし、そのような作品に触れることは滅多になく、ましてアニメ全般にすら関わっていないため、ノーダメージだ。
しかし、決して興味がないわけじゃない。せっかく日本で生まれたんだから、日本の素晴らしいアニメを見るべきだ、と思うことはある。しかも、間違いなくストーリー制作という観点においては参考になるだろうし、新たな執筆の火種——言わば、インスピレーションも得られるだろう。それがなければ、文芸活動はできない。
ただ、アニメに触れる機会がないだけなのだ。わざわざ動画配信サービスのサブスクリプションに加入してまで、それを見ようとは思わない。見るとすれば、SNSで無料配信されている分にとどまる。
流行の波に乗ったアニメを見た。
魔法を筋肉でぶっ壊すやつ(第一話から第五話まで)とか、サラリーマンが昼飯を食べるときの流儀について語るやつ(第一話だけ)とか。
僕は、アニメに関する知識が乏しいため、具体的な感想や批評を書くつもりはない。無論そのストーリーについても(アニメのと小説のとは勝手が違うからね)。
しかし、どちらも面白く、勉強や執筆の箸休めになった。つい時間を忘れて没入していたほどである。
アニメを見ることの面白さは知っている。機会があれば、ぜひ色んな作品に触れてみたいと思っている。
けれども、アニメを見たいという欲求を、それを見る以前に済ましてしまうことがあるのだ。
エアプ、という言葉がある。「エアプレイ」という言葉の略称で、日本で幅広く使われているネットスラングで、実際には体験していない作品を、あたかも体験したかのように、知っていることを語る行為のことだ。
僕は、その「エアプ」を、知らず知らずのうちに行っている。
例えば、人気のゲームの最新作が出たとき、僕はまず、それについての情報をSNSで漁る。ゲーム制作会社などの公式が発信した情報、僕は、それをまとめた動画やブログを見る。そっちの方が手っ取り早いからだ。
そして、情報を得るうちにもっと興味が湧いてきたら、誰かがプレイする実況動画を見る。それで、もっとそのゲームについて調べてみようと思うわけだ。そして最終的に、そのゲームのクライマックスまでに行き着く。迫力のあるラスボスを倒すシーンを見てしまう。ネタバレはいとわない。
だいたい同じことが、僕がアニメを楽しむときにも起こる。流石に最終話までストーリーを追うことはないにしても。
SNSを見ていると、流行しているコンテンツがよく流れてくる。アニメに関するものもあり、例えば、アニメの名シーンを切り抜いた動画(あるいはミーム)——なんかが流れてくる。そして、その作品について、他の切り抜かれた名シーンがないか、探してみる。
その繰り返しで、僕は満腹になってしまうのだ。アニメを見たいという欲求がそこまでで満たされてしまう。
……結果、とんでもないエアプになってしまった。ろくに知識を身につけないで、視聴していないアニメや、プレイしていないゲームを高らかに語る、知ったかぶりを極めた妖怪に成り果ててしまったのである。
当然、アニメが好きな友達の前で、僕がエアプを発揮すると、まず軽蔑される。そして友達に言われるのだ、お前はアニメについて語るべきではない、と。
僕の友達で、髪型が前衛的な人がいるのだが、彼はアニメや漫画、そしてゲームという、ありとあらゆる日本文化の最高峰を楽しんでいる(と僕は勝手に思っている。彼自身がどう思っているかは知らないけど)。それらについての話を、彼にさせられることはない。しかし、僕がそれらについての浅はかな知識を彼に披露した際は、とてつもなく口撃される。
一つ、前衛的な友達が僕に向けて放った言葉として、記憶に深く刻まれたものがある。
「お前は、エアプであることをもはや誇り高く思え。その狭い楽しみ方で満喫するがいい」
なるほど。アニメのプロフェッショナルも、エアプは楽しみ方の一つだ、と見なしているようだ。そう考えてみると、僕がエアプでいつづけるのも、あまり悪くないかもしれない。今まで、「エアプ」という行為に対して、完全に負のイメージしか持っていなかったけれど、アニメ好きな彼が容認するのならば、僕は妖怪のままでいようと思う。
あと、彼はそう言った直後に、さらに一つ、言い加えた。
「そしてエアプになるんだったら、いっそのこと貫き通せ。この先一生、一切のアニメを視聴するんじゃない」
ちなみに、僕と彼の友達関係は、これを書いている今も続いている。


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