刷り込み論と確信犯
「これアーチャーさんが着けてたらえっち過ぎない?」
「分かる」
そんな話から出来上がりました。勢いなんで短いです。
褐色にこのアクセサリーはヤバい!!! というのをただただ伝えたかった……どうか伝われください。
リングブレスレットとも言うらしいですが、今回はそっちではない方ですね。後はイメージでお願いします…!
なんやかんやあって現代に転生した二人が暮らしているふわっと時空。本当にふわっとなので軽い気持ちで読んでください。ちなみに二人とも転生前の記憶有前提です。
私はアーチャーさんを幸せにしたい人間なので、そんな人間が書いたらまあ甘くなるよねっていう。
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「なあアーチャー。これ、着けてみてくれねぇか?」
そう言って彼が差し出してきたのは、シャラシャラとした金色のブレスレットだった。
「……『これ』を、私に?」
思わず、預かったコートをハンガーに掛けようとした手を止めて目前にある手の中の物を見詰める。一見してブレスレットかに思えたそれはどうやら指輪と繋がっているようで、細い鎖で繋がれた小さな輪がキラリと光った。
「パンジャ、って名前らしいぜ」
そう言うや否やランサーはアーチャーのコートを持っていない右手を持ち上げ、するりと輪を中指に嵌める。彼の白い陶器のような手が、流れるように動く様に思わず惚けていると、ぱちん、と手首から音がしたことではっと意識を戻す。
「どういう、つもりかね?」
「どうも何も、言ったじゃねぇか。着けてみてくれって」
「……いや、それは聞いていたが」
聞いたのは何故着けたのか、と言うことであって、決して聞き返した訳ではないのだが。待て、そもそもパンジャとはインドのアクセサリーだ。いや、それはいい。もっと大事なのはこのアクセサリーは主に女性が着ける物であり、決して自分のような大の男が着けるような代物ではないということである。
だと言うのにも関わらず恐ろしい程にぴったりに嵌った中指に、溜息も忘れてまじまじと観察してしまう。中指から繋がった鎖は手の甲辺りから三角に広がるように金糸が編み込まれており、一定の間隔をおいて小さな透明の宝石が散りばめられ、丁度手首に差し掛かる位置に赤い宝石が嵌め込まれていた。そこから手首を覆うように編み込まれた金糸が前の留金に固定され、そこから零れた数本の金鎖がシャラシャラと軽やかな音をたてる。
「見事なものだな」
シンプルな作りながらも敢えて作られたのだと分かる編み目の隙間や、赤の宝石のアクセント。これを作った人物の拘りやセンスを感じさせるそれに思わずほう、と声を漏らす。それこそこれは自分ではなく、彼が着けるべきだと思うくらいには。
この赤い宝石は、まるで彼の瞳のようだ。
蛍光灯の光を静かに反射する赤を見ながら、アーチャーはぼんやりと思う。彼のしなやかで陶磁のような肌であればこのアクセサリーもよく映えるであろう、と。どういう訳かこの世界に生を落とした時、そのまま引き継いでしまった己の褐色の肌を見、軽く目を伏せる。
そう考えてしまうとこのまま腕を晒す事がどうにも躊躇われた。コートを壁に掛け、奇しくも料理中であり捲っていた袖を降ろそうと空いた左手を伸ばす。が、その手は伸びてきた手に優しく絡め取られ、囁かれた言葉に目を見開いた。
「───よく、似合ってるぜ」
まるで、一筋の風が流れたかのようだった。耳朶を打ちぶわりと全身に広がった言葉に、冗談はよしてくれ、と言えたらどんなに良かっただろうか。
それを言えなかったのは、彼があんまりにも嬉しそうに笑うから。──幸せそうに、綻ばせるから。
シャラ…小さな音が鳴る。何時の間にか近付いた彼の手が中指を、手の甲を、手首を撫でていく。「この色、な」と告げる先は、彼の瞳のようだと称した赤い宝石。
「お前さんの色だと思ったんだ」
する、と宝石を上からなぞる手は直接肌には触れていないはずなのに、どうしてかそこからじわりと熱が広がっていくようだ。は、と小さく息を吐く事でそれを誤魔化しながら、告げられた言葉に軽く首を傾げる。
「……そんなはずはないだろう。これは君の色だ」
「オレの色?」
「ああ。君の、瞳の色だ。確かに私が纏っていた礼装は赤だが、こんな綺麗な色ではない」
今は白いシャツにズボンといったラフな格好だが、英霊であった時に魔術礼装として身に纏っていた赤い礼装を思い出し告げる。摩耗していたというのにこんなところは鮮明なのだから不思議な話だが、少なくともこんな澄んだ色ではなく、もっとくすんだ色だった。そんなアーチャーに彼は片手で顔を抑えながら「あ゛~…」とよく分からない呻き声を上げる。暫くして手を外した彼の顔が若干赤い気がしたが、何かあったのだろうか。
「無自覚って怖ぇな……。ま、実の所深い理由はねぇんだけどよ。とにかくオレはこの色を見てお前さんの色だと思っちまった訳だ」
「そう、なのか? しかし」
「オレが着けるよりかは、お前さんの方が似合うと思うぜ? それよりも──」
アーチャーの言葉を遮ったランサーはする、と宝石に触れていた手がアーチャーの頬を撫でる。労わるような、慈しむようなそれの心地良さに頬を押し付けると、ふっと溶けるように笑う。かのアイルランドの、光の御子。
───お前がオレの事を意識してくれて嬉しいぜ、アーチャー?
「なッ……!」
かっ! と顔が熱くなるのが分かった。そうしてお互いがお互いの色だと意識していた事に、そしてそれを告げたも同然の自分の言葉に今更ながらに気付き何とか言い訳をしようと口を開閉させる。けれど、はくはくと口から出る言葉は何もなくて。
じりじりと物理的にも、精神的にも距離を詰められていくのが分かった。
とん、と壁に背がぶつかり残った右手も彼に掬い上げるように絡め取られる。その拍子に小さく鳴った音に視線を持っていかれると、先程は感じなかったというのにどうしてかこの褐色の肌に彼の白と、彩る金がどうにもアンバランスで、けれど何処か艶めかしく映って見えて。
「アーチャー」
彼の赤が、どろりと溶ける。煮詰めた砂糖よりも甘いそれは、こちらをも溶かすかのようで、
「今日の、メシは何だ?」
ああ、これは、逃げられない。きっと己はこのまま晩餐ごと美味しいく頂かれてしまうのだろう。返事の代わりに少しだけ、右手を握り返す。これをどう捉えるかは彼次第であり、何を込めるかはこちら次第だ。思わず零れた笑みは諦めか、はたまた別の意味か。
無意識に乾いていた唇を舐め、言葉を紡いだ。
Comments
- そーDecember 22, 2018