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アーチャー特製オムライス アラビアータ風味(槍兵の場合)/Novel by たまこ

アーチャー特製オムライス アラビアータ風味(槍兵の場合)

6,167 character(s)12 mins

ありあわせでおいしいごはん作れるひとが料理上手なんですって!!!

(たぶん)できてる槍弓です。いつものです。
とろんとろんのオムライスが食べたかった。ついカッとなってやった。今では反省している。

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8/19のるーしこでカルデア食堂その2を発行予定です。
それに合わせて1冊目(illust/65128461)もちょっとだけ再販しようかなと考えているのですが需要が読めないので
アンケートをお願いできれば幸いです。よろしくお願いいたします!

(8/20追記)アンケート撤去しました。ご回答ありがとうございましたー!

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「……どうして貴様はルールを守ろうとしないのかね」
「破りたくて破ってんじゃねえんだって!部屋出る時は覚えてたんだ。嘘じゃねえぞほんとに」
「集団生活を営む上での法令遵守は最低限の礼儀だぞランサー。群れでの生活など慣れていると思ったのだが」
「狗ネタ持ち出したらオレがキレて出て行くと思ったら大間違いだぞ。なーあーなんか食わせてくれよこないだ握り飯作ってくれたじゃねえか、ごぼうと豚コマのまぜごはんのやつ」
「ぐ……」

大人気ない煽りは残念ながら空振りに終わる。これで何度目だ。アーチャーは何かをごまかすようにことさら大仰にため息をついた。限りある食糧のロスを少しでも減らすため、営業時間外の食堂利用が食券予約制になったのは弓兵がここカルデアに召喚されてほどない時期だ。いくつかの特異点を収束させ、職員もサーヴァントもこの人理修復の旅に慣れてきはじめた今となってもこのルールは現役であり、何人であっても遵守しなければいけない戒律である。
……はず、だったのだが、一度でも破ってしまえば子供同士の指切り約束よりも拘束力は落ちてしまう。ぐうぐうと鳴る腹にほだされ何度もその例外を作り出してしまったのは自分自身。ランサーの執拗なおねだりはまさにアーチャーの自業自得で生み出したものだった。

時刻はカルデア標準時で午後9時を回ったところ。人影もまばらな食堂の注文カウンターで、延々と繰り広げられているこの押し問答にわざわざ口を突っ込むような野暮な輩はこのカルデアにはいない。皆、食べ終わった食器を回収棚に置いてそそくさと席を立つ。完食してしまったことを申し訳なさそうに一礼をして去る忍びの者、純度100%からかいの眼差しを向けながら謎のハンドサインを送る刺青の男、うんざりとした顔を隠しもせずに口元を歪める桃色の竜。皆、注文口にはりついているランサーからは見えない死角で好き勝手なジェスチャーをして去っていった。
ちなみに今夜のメニューは日替わりA定食が豚の角煮味玉付き、B定食がカジキの具沢山トマトソースかけだ。かたや魔猪の毒素と臭み、余計な脂を簡単なまじないと丁寧な下拵えでしっかりと取り去り、幾重にも重なった赤身と脂身が美しいバラ肉。それを蜂蜜と麹、そしてほんの少しのハッカクを隠し味に甘辛く醤油で煮込んだアーチャー特製の逸品だ。
ぷるぷるの正方形は赤銅色に輝くマナプリズムの亜種のよう。なにより驚くのがその柔らかさだった。箸を通すなりほろりと崩れる肉身は口に入れた瞬間溶ける絶妙の煮込み具合。添えられた味玉もしっかりと味は沁みているのに黄身はとろとろの半熟。多少行儀は良くないが、角煮と黄身を白髭ネギと絡ませて白飯に乗せるとより美味しく食べられるようほんのすこし味を濃いめに調整した結果、ほとんどの男性陣がA定をチョイスしていた。アーチャーの目論見通りである。
対してB定食、魚そのものは単純に塩胡椒とローズマリーを香りづけに軽くソテーしただけだが添えられたトマトソースに彼の気遣いが散りばめられていた。ベースは彼が手が空いたときにせっせと作り置き、冷蔵庫に小分けの瓶詰めで保存してあるアラビアータソース。普通のトマトソースにほんのり唐辛子の辛味とニンニクの香りを加えたもので汎用性が高い。パスタだけでなくスープのベースや肉、魚、野菜のグリルにかけるだけで満足感のある主菜になる便利なソースだ。
それに今回はパプリカと茄子、セロリを加えてラタトゥイユ風に仕上げてみた。淡白なカジキにあわせるのは多少ボリュームがある方がバランスが良い。こちらは野菜が多めなのもあり女性陣に好評だった。カジキのサイズを気持ち小さめにしたのは正解だったようで、次に作るときにはサイコロ状にカットしてもいいかもしれない。食堂のお兄さんの探究心は相も変わらず尽きるところがない。
お好み小鉢は厚揚とカブの煮物、豆腐と鶏肉の特製つみれ、にんじんとカリフラワーのピクルス、余り野菜のコールスローサラダから好きなものをひとつ。汁物はコンソメスープと大根の味噌汁どちらかを。いつもと変わらないラインナップはいつもと同じように皆の胃の腑に収まっていった。きちんとランサーが予約していたのならきっと角煮を選んだだろう。だがしかし残念なことに、ちゃんとルールを守り予約している者の分を除いて全て綺麗に片付け済み、なのであった。

「頼むと言われても、ないものはない」
「アーチャーさんよぉ……」
「そこにレーションの販売機があるだろう。今宵一晩くらいそれで持たせたまえよ」
「こんなん秒で消えるわ!お前食ったことあるか?口中の水分奪っていくくせに全っ然腹持ちしねえんだぞこの薄レンガみたいな物体」
「レーションとはそういうものだ」
「なーもーほんっっと次からは絶対連絡入れるから!頼む!今回だけ!」
両手を組み踏ん反り返る赤い食堂のヌシとカウンターに乗り上げ、くぅんと鼻を鳴らしながら上目遣いにおねだりをする青い大型犬。地獄絵図さながらの2人を見つめるギャラリーは幸運にも存在しなかった。が、それも時間の問題である。そろそろ(ランサーと違ってきちんと)予約をしていた円卓陣がやってくる頃合いだ。作業自体は鍋の角煮をよそうだけでいいものの、このケルト駄々っ子を彼らの目の当たりにさせるのはさすがにしのびない。
結局は下方面から刺さる紅い視線に根負けするかたちで、アーチャーの胃の底から何度目か数えるのも嫌になる、苦々しいため息がこぼれ落ちるのだ。
「……冷凍ごはんしかないぞ。握り飯にできるような具もすぐには用意できない」
「! マジか!あるもんでいいから!な!ちゃちゃっとできる炒飯とかよ!」
「おまえ……そのセリフは間違っても私以外に言うなよ…袋だたきじゃすまないことになる」
火を使う料理はちゃちゃっとできるものに入らないということを彼は分かっていない。
何が食べさせてもらえるとわかった途端にいつもの指定席へ向かう後ろ姿、そこに揺れる尾が見えたが幻覚だろう。今日のランサーの礼装は第2再臨、長髪ではないはずだ。
「……?おう、じゃあ味噌汁ぶっかけメシでもなんでもいいから食わせてくれ」
「まったく、ひとつどころかみっつは貸しだ」
「魔猪でもドラゴンでもなんでも狩ってきてやるよ」
「は。どうだかな」
ひらりと振られた白い手のひらがやけに視界にこびりつく。その理由がよくわからないままアーチャーは厨房の奥へと戻っていった。


◆◆◆


がぱり。業務用の鈍く銀色に光る冷蔵庫の扉を開けて残り食材を確認する。丼いっぱいほどの冷凍ごはんはすでに電子レンジで解凍中だ。
すでに仕込み済み、明日の朝食用マカロニサラダはおかずにならないし塩昆布……は中華粥に乗せる用だ。こいつとシラスとレタスで炒飯にするとまあまあ食べられる代物が出来あがりはするが、先刻の奴のリクエストに応えるような形になるのがなんだか腑に落ちない。
口元に手を当てしばし考え込んだアーチャーは、程なくして卵3つと玉ねぎ半欠け、昼の残り物、その他諸々調味料を持ち、調理台にてきぱきと並べていく。
3つ口のガスコンロが2セット並んだメインコーナー。うち右側2つは角煮の入った寸胴とトマトソースの余りが入った小鍋が埋めているので、左側の1番大きなコンロへ使い慣れた鉄製深めのを、隣にステンレス製の小さめフライパンをそれぞれセットした。しゅる、とマッチで火をつけ直し、火加減を弱火に調整する。
じっくりと鉄を温める間に玉ねぎを刻み、あらかじめボウルに卵を3つ割り入れ簡単にほぐしておく。と、レンジから電子音。ほこほこに蘇った冷や飯をタッパーそのままコンロ横に置き、削ったバターを熱せられた黒い平原へ滑り込ませた。
じゅううううぅ、油脂全てが液状化したら風味が飛ばないうちにまな板から玉ねぎを滑り落とす。そのタイミングでレバーを中火に回し、焦げ付かぬよう木べらで炒めればキッチンにはオニオンとバターの香ばしさが広がった。じゃっじゃっ、しゅわ、じゅっ。空っぽの腹にはさぞクリティカルに刺さるであろうよい音とともに、おとなしく待てをしているだろうランサーにこの芳しさは届いているのだろうか。
玉ねぎがつやつやと透明になった頃合いで、フライパンに先ほどの白飯とトマトソースの余りをおたま一杯投入し、さくさくと炒め混ぜていく。みるみるうちにパンの中が赤く染まり、ガーリックの香りがプラスされた。遠くでもう一度レンジの音がする。単純にケチャップライスにすればよかったのだが、せっかくトマトベースのソースが残っていたので使わない手はない。多少ピリ辛にはなるがランサーはそっちの方が好みだから問題ないだろう。
ここで味見をひとくち。あとほんの少し足りないコクを適当なスパイスと塩胡椒で補てんし、中身のライスは完成だ。真白い洋皿を食器乾燥機から取り出し、冷やご飯と入れ替えでレンジに温めたままほったらかしていた昼食の残りの煮込みハンバーグをひとつ、皿の中央に移す。その上からライスをこんもりこれでもかとうず高く盛っていく。かん、かし、こん!鉄と木が響かせる小気味いい音。アーチャーは木べらひとつで器用にレモン型に成型されたトマトライスを作り上げていった。
つやつやに輝く朱色の粒にくたくたに味がしみたパプリカに茄子と(残念ながらセロリは溶けてしまったが香りは残っている)、しゃきしゃきの玉ねぎは食感の違いが楽しめるだろう。肉成分は中に埋め込んだハンバーグでごまかせばいい。そもそもなんでもいいと言ったのはランサーだ。文句は言わせない。
残るは仕上げのひと仕事。温めていたもう一つのフライパンを濡れ布巾に置いて温度を調節する。適温になったらバターを一欠片落として溶かし、卵3つ分の卵液を流し込む。極弱火のコンロに戻し、菜箸でかき混ぜふわふわ半熟のオムレツを焼き上げた。ふわん、と揺れるレモン色の楕円形を同じ型に盛ったライスに載せ、切り込みをひとつ入れれば、途端、花開くように広がった黄金の絨毯。最後にスプーンひと掬い分、小鍋に残ったソースをかければアーチャー特製オムライス、アラビアータ風味の完成だ。
「……あり合わせでも意外と様になるものだな」
誰に聞かせるつもりもない独り言にふむ、と頷きをひとつ。アーチャーのレシピにまたひとつ新作が加わった瞬間だった。
次はきちんと肉を入れよう。やはりとりもも肉がベストだろうか。のんびりとランサー専用の大ぶりスプーンを棚から取り出すあいだ、腹をすかせたかの番犬がそろそろ限界なのだということを彼は気づいていなかった。


◆◆◆


待たせたな、と彼に声をかけたのは3分前。
いただきます、と食堂に彼の声が響いたのは2分前。
ランサーが食堂に駆け込む前にしていたコップ磨きの作業に戻ろうと、厨房ではなくカウンターに残ったおのれの判断を恨んでも仕方ない。
……私は、何を見せられているのだろうか。

彼の前に皿を置いた瞬間、紅い瞳からこぼれた星は幾度となく見てきたものだ。手前味噌ながら人並みやや上の食事を出している自負はあるし、食べる相手の好みには可能な限り沿ってやりたいと思っている。それゆえ、ランサーの俗に言う「うまそう!」と雄弁に語る表情には免疫があるのだ。……あったのだが、何故だか今夜は勝手が違う。
スプーンを持ち、山に沿って雪崩れた半熟オムレツとともにトマトライスを掬い、口に運ぶ。1回、2回、ゆっくりと咀嚼される口元。そして次の瞬間見開かれる赤睨。ごくり、ゆっくりと嚥下する喉の動きがやけにスローに見えた。
じわじわ、ゆるゆる。音にするならそんな表現で目元が蕩けてゆき、三日月型に細まる紅光。ほんのりと染まる頬の赤みの既視感。ああ、あの顔は、もしかしなくても。
アーチャーの思い至った記憶に思わず手元が止まる。平時ならうまいうまいとうるさいほどにアピールしてくるのにそれがない。ないのだがかえってそれが彼の表情をより凝視してしまうことになり、視線を彼から逃せなくなってしまう。
そんな弓兵を知ってか知らずか、ランサーは黙々と食事を続ける。かぱりと人より大きな口蓋をあけて、その口に合わせた特別サイズのスプーンにたまごとライスをバランスよく盛り、こんもりとひとくちオムライスを作り上げて吸い込んでゆく。飲み込まぬうちから次のひとくち、ひとくちと食事に慣れぬ幼児のように頰いっぱいに詰め込む食べ方は何度注意しても直らなかった。口中にうまいもんが広がってるのは最高に幸せだろ、それを味わってんだとその度に返され、いつしかアーチャーは矯正を諦めた。今だってもむもむとハムスターのように頰を膨らませる曲線に、愛嬌を感じないと言えば嘘になる。もっとたくさん、満足のいくまで食べさせてやりたい。満たしてやりたい。そんな欲まで持ってしまいそうになる。

ごっくん、ことさらにひびく嚥下音。
かちん、スプーンの穂先が皿に当たる。
その音でアーチャーは我に返る。と、それまで無言で掘削をしていたランサーがやっと口を開く。
「……え、なにこれハンバーグ?」
「ぁ、ああ、昼の残りで悪いが……肉がそれしかなくてな」
「やっべぇー……なにこれ夢しか詰まってねぇー……」
どうやら真ん中のハンバーグにたどり着いたようだ。と言うことはあっという間に半分食べてしまったのか。残りご飯はゆうに1.5合はあったのだが、はたして足りる……のだろうか?
アーチャーの杞憂も知らずに、空腹の番犬はあああ、と大きなため息とともに第2ラウンドを開始した。
じゅわ、かつ、かちん。ほっふ、ふわん。もっ、もく、ぎゅむ。ごくん。
咀嚼音、嚥下音、カトラリーと皿の音。ランサーからうまれるのはそれだけではない。アーチャーの耳にはずっときらきら、きらきらと何かの反射音が聞こえている。
上がりっぱなしの太く意志の強い眉が。紅潮した白い肌が。うっすらと汗ばんだ形の良い額が。自然と口角が上がるうすい唇が。そして何よりとろりと蕩けて熱を孕む紅い眼が、全身でうまいと、おいしいとアーチャーに訴えてくる音、そのものだ。
……そしてそれは、食堂だけではなくて、ふたりきりの夜にも見せる「それ」と同質の。
「──目は、口ほどにモノを言うと……」
「あ?なんか言ったか」
「ッ、いやなんでもない。そうだな茶を淹れてくる。いつもの焙じ茶でいいか」
「あ──…いいけど冷たいヤツがいい」
「承知した」
どこか慌てて厨房に引っ込む紅い背中に訝しみを感じつつも、ランサーは残り三分の一になったオムライスを成敗するべく食事に戻る。ああまったくあいつは、あいつの作るメシはなんだってうまい。
「……うめえな、ほんと」
口端に残った赤いソースをぺろりと舐めとる。ぴり、と舌先を刺激する唐辛子に、槍兵は其の紅を細めた。

Comments

  • そー
    June 30, 2018
  • せんか

    はじめまして! このシリーズはアーチャーもランサーも幸せそうで大好きです! 続編を書いてくださり、とっても嬉しいです。ありがとうございます!

    June 26, 2018
  • sei@万年金欠病
    June 24, 2018
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