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カルデア食堂定点観測 case02:術師の場合/Novel by たまこ

カルデア食堂定点観測 case02:術師の場合

4,744 character(s)9 mins

ごはんを作るカルデアの弓兵を定点観測。
槍→←弓両片思いの狭間にいるキャスターと弓の晩酌タイム。

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 魔術師たるもの、己の城たるべき工房を敷くのが常というもの。魔力を増幅し、質を練り上げ、日々研鑽を重ねる自らの陣。人理修復の最前線、ここカルデアには、幸か不幸か神代から近代に至るまで数多の術師が喚び出されており、当然彼らの工房が施設のそこここに造られている。
 緑あふれる中庭の片隅に、はたまた居住区の扉ひとつが別空間に繋げられていたりと、英雄たちの好みは実に多種多様。さすがにマスターの私室を根城にしようとした輩にはドクターストップがかかったが、皆それぞれがレイシフト先で入手した興味深い研究資料(という名の私物)でお気に入りの場所を埋め尽くしていた。
 そんな彼らの中でも最古参、薄蒼い森の賢者の陣は、少々意外な場所に展開されている。キャスター、クー・フーリン。彼が選んだ工房は食堂だった。さすがに陣本体は別の位相に置いており、あくまでも表向きのものではある。それでも、どこもかしこも明るく照らされた部屋の中で、ほんの少し光量が少ない壁際。わざとらしすぎる目立たなさ、違和感のなさは対魔力をある程度持つ者ならばすぐに察せられる、薄い結界が張られている。そんな作業台よろしく幅の狭いカウンター席の一番右奥こそがキャスターの工房であり、指定席であった。

 カルデア食堂、施設内設定時刻はまもなく午後10時を迎える頃合い。
 夕食時の混雑はとっくに過ぎ去って、清掃も明朝の準備も終わり、厨房はすでに火を落とされている。それなのに。
 かの番人は定位置、厨房内のカウンター前に変わらぬ姿を見せていた。
「……よりにもよってなぜこのような場所に……」
「お前もしつこいな。だから言ってんだろ、炉端が落ち着くんだわ」
 火の側って安心するだろ? そう、フードの奥でひかる緋色にうさんくさい笑みを湛え、賢者はカウンター席で盃をあおる。慣れぬと言いつつも朱槍ではないそれを自在に操り、数多の敵を炎の海に沈めておいていまさら何を言うのだろう。アーチャーはちょうど空になった徳利を台に引き上げ、かわりにキンと冷やした純米酒をサーブする。
「そのたいそうなルーンとやらでいくらでも灯せるだろう…。何度も言っているが定期的な清掃を怠れば即刻退去してもらうからな」
「おーおー番人さんは衛生面もバッチリかい。婦長の査察でも入ったのか?」
「軽口をたたく前にテーブルの上の石を片付けろと言っている」
 雑多に散らばったままのルーンストーンを手早く押しやり、ことりことりと置かれた肴はふたつ。どこで見つけてきたのか、それともこいつが〝投影った〟のか。繊細な朱牡丹の模様が鮮やかな磁器に、透明度の高い涼やかな硝子細工と器にまで趣向をこらしている。ここはどこかのちょっと良さげな居酒屋ではない、はずだが。
 カウンター越しに発せられるやや呆れ気味な視線をものともせず、食堂の番人はことさら慇懃無礼にキャスターを見やった。
「さて、今宵のアテの説明をしてもよいかな槍無しの君?」
「……酒がぬるくならねえ程度で頼む」


 そもそも生まれは欧州、はるか古代の英雄がなぜ清酒を好むようになったのか。話すと長いが、端的に申せばカルデアにおける英霊たちの異文化交流が原因だ。神代から現代まで、ありとあらゆる時代と場所から召された彼らは実に多様なバックグラウンドと文化を持ちえていたが、手っ取り早くお互いを識るために人類共通のある叡智を効果的に使った。まあただの酒宴である。その中で口にした米の酒がえらく気に入ったようで、以来すっかりキャスターは日本酒の虜になっていた。
 麦酒や葡萄酒のように量をこなさずとも酩酊を感じられるのが良いらしく、いつレイシフトしているのか、いつの間にか一升瓶を持ち帰ってはこそこそと溜め込んでいる模様。そして毎夜のごとくひとり酒を工房で楽しんでいるという体たらく。当然、彼が──アーチャーが、延々とアルコールのみを摂取する姿を看過するわけがない。キャスターから何か見繕ってくれと声をかけたことは一度もないが、いつしか彼の晩酌時には弓兵から「おせっかい」が提供されるようになって久しい。
 なお、とある夜にぶり大根をちまちまつつきながらちびちびと猪口を傾ける姿を見かけたランサーは複雑そうな表情を隠さなかった。じじくせえ。そう零れた独り言にちょっぴり羨望が滲んでいたのに気づいたものはいない。多分。

 斯様に己の同一存在に貶されているのを知ってか知らずか、今宵も彼は晩酌を楽しんでいるようで。
 まず最初に選んだのは、己の纏う礼装と同じ色をした硝子の器。そこには、つぶした果実と半透明な何かの骨?の和えものが盛り付けられていた。淡紅色の果肉に添えられた柚子皮と青紫蘇の千切りに、視覚でも楽しませようとする作り手の細かな心遣いを感じられる。先日夕食に出ていたナメロウとかいう青魚のおかずにテクスチャは似ていたが、まったく味の予想がつかない。つかないが、彼が自分にまずいものを提供してくるわけがないという〝記録〟を信じてみることにした。
 器用に箸をあやつり、小指の先程度のひとかたまりを掬って口に運ぶ。途端に広がる爽やかな甘酸っぱさ。これは…梅肉か。いつぞやのレイシフト先で食べた弁当に入っていた握り飯の具のような尖った酸味というよりは、ほんのり蜂蜜の風味を感じる甘味が強いそれだった。果肉に混ざるこりこりとした歯ごたえは決して不愉快を感じるものではなく、なにやら異なる種類が混じっているようだ。むしろその食感が舌先を刺激して箸が止まらない。最後にすっと鼻に抜けるカツオだしのうま味も相まって、とにかく冷酒がすすむ。
 すっきりとした飲み口だった酒の味に一歩奥へ深みが出るようで、なるほど肴ひとつで何通りもの楽しみができるのだなと素直に感心してしまう。
 文字通り目の色を変えた飲兵衛からこれはなんだと問われ、アーチャーはしてやったりの笑みを浮かべた。
「お気に召したようでなにより。それは梅肉と鮫の軟骨を和えただけの簡単なつまみものだ。梅水晶という」
「鮫…?ああ、フカヒレか!」
「そんな高級食材は使わない。たしかにフカヒレも鮫の軟骨部位ではあるが、そこよりもっと硬い部位で」
「なんでもいいけどこれうっまいな」
「……今回は少しばかり量が心許なくてな、鶏の薬研もあわせてある。邪道だが歯ごたえが違うのもよかろう」
 ほおっておいたら永遠に垂れ流されかねない蘊蓄を褒め言葉で遮る。あっという間に空けたグラスを指差しお代わりは?と伺う彩度のない視線。無言の首肯がキャスターのいらえだ。しかし酒が注がれる前にカウンターに置かれたのは、同じ無色透明の液体でも氷が浮いたものだった。
「……水割り?」
「たわけ。次の酒の前に口を洗え。日本酒は同量の水を摂りながら嗜むのが一番うまいんだ」
 戻るまでに飲んでおけ、の一言は助言ではなく命令である。食堂の奥に姿を消した白髪鬼を待つ間に賢者はもう一つの小鉢に箸を伸ばす。そこには薄茶の几帳面な正立方体が上品に並べられ、ひとつひとつに翠色のざらりとしたペーストが彩りを添えていた。これは知っている。山葵だ。生魚によくついてくる香味野菜みたいな代物で、以前それはそれはえらい目にあった。あのときはなにも知らずいっぺんに大量摂取したがための惨劇だったが、同じ失敗は繰り返さないのが自称賢い方のクー・フーリン。何度も量を確認した上でおそるおそる口にする。
「……ん……おおお……!」
 一口で香ばしい醤油の香りが口内に広がり、噛みしめるたびに濃厚な乳の風味が舌上で転がる。謎の立方体の正体はクリームチーズだった。くせのないそれはチーズの風味は残しつつ、塩辛くなりがちな調味料の棘をまろやかに和らげていた。最後にぴりりと味覚をしめてくる山葵の刺激すらすべて計算されているのだろう。はやく、はやくこれを酒と一緒に胃の腑へ流し込みたい。行儀が悪いとは思いつつも箸を握りしめ、アーチャーの戻りを待つ時間が永遠に思えた。

「チーズには華やかでしっかりした味の酒が合うだろう……どうした、もう酔ったのか」
 ほんの数分後、戻ってきた彼を迎えたのは傷一つなく磨かれたカウンター台と己の頬を懇意にさせて、文字通り〝潰れた〟賢者の姿。待ち焦がれた声を聞くなり、油の切れたオートマタのような錆び付いた動きで顔をあげる。
「……酔ってねえ……酒……酒をくれ……はやく……」
「台詞だけ聞くとタチの悪い中毒者だな……」
 一段上に置かれたグラスを掴み、念願の酒とチーズのマリアージュを堪能する。ぶわり、広がる酵母の芳醇なうまみが何重となって喉を通り過ぎていく。ただただ美味だった。同じ米なら握り飯よりも自分は断然こっち派だ、エネルギー摂取というカテゴリーならばぶっちゃけ魔力なんで味気ないものよりこっちが好ましいとさえ今なら断言できてしまう。
「……うぅ……うめぇ……」
 またもやハイペースで空になってしまった薄ばりの硝子を握りしめ、キャスターはこのような愉悦を己に刻みつけた犯人を胡乱げに見上げた。胃袋をぶん殴ってくるような、こういうことは俺にじゃない、あっちの野郎にやるべきで、自分はそれを眺めながらちょろい単細胞だなと笑ってやるくらいが丁度いい塩梅なのだ。そういう設定で杖をとったはず。だったのだ。それなのに。お前は。
「……お前なんなの……どういう魂胆でこんな……」
 オレはお前の槍持ちじゃねえぞ、言外に含ませたそのニュアンスを汲み取ったのか否か、アーチャーは一瞬だけ彩のないまなこを見開き、そして苦笑した。
「……君は四六時中ここにいるくせにあまり食事を摂らないだろう」
「そうか? あんまり意識したことねえが」
「朝食はほぼ毎日カフェオレのみ。昼時は目を離した隙に忽然と姿を消す。あげく夜は夜で晩酌オンリー。」
「よくご存じで……」
「こうなったら意地でも何か食わせてやろうと躍起になってしまった」
 私の自己満足に付き合ってもらってすまない。さらりと紡がれる、謝罪のことば。
 聞けば細やかな調理ほどストレス解消になるのだという。酒のつまみは一度こだわるときりがないし、量を作らなくてもいいので思う存分凝ることができて楽しかったとも。
 あれだけの職員やサーヴァントの胃の腑におさめられている料理たちだけでは足りないのか、いやそもそもストレスがたまるような環境だったろうか。答えは否。やれ特異点だ聖杯だと個性豊かすぎる英霊たちが騒ぎを起こすたび、彼らを諌めることもせず全力でそれに乗っかる姿が目に止まっていた。その回数も片手では足りないくらいで、よほどこの度の現界が楽しくてしょうがないのだろう。あの街でのやさぐれた、触れるものすべてに毛を逆立てる猫のような雰囲気はまるで感じられなかった。
「おこがましいのは承知しているが、かのクー・フーリンが餓えている姿を見るのがしのびなくて」
「オレ別に飢えてなくね!?」
「だから自己満足だよ。ないなら焚きつけるまで。君らの食欲を満たさずにおれない私の我儘だ」
 ……斯様に心情を吐露する素直な弓兵はキャスターの記録にはない。聖杯のおふざけに付き合ったあいつランサーの記憶にはあるのだろうか。それはそれで見てみたいが、槍を持たない身だからこそ今の言葉を聞けるのだなと思い至る。ならば存分にその地位を楽しませていただこうではないか。此度の我は導く者。一歩引き、すべてを俯瞰し観察するお役目だ。
 ただし、停滞した流れを促すくらいのちょっかいは許されるだろう。
「……それじゃあ俺のワガママも聞いてくれるかい?」

Comments

  • そー
    November 7, 2017
  • そー
    October 13, 2017
  • みかんのみ@ROM専になってる

    うーわー(´┓`*)飯テロ酒テロ・・・! すごく美味しそうっていうか絶対美味しい飲兵衛知ってる・・・! 食べ物的な意味でも槍弓(広義)的な意味でも二重に美味しくてありがとうございますご馳走様でした(*´Д`人) 寝る前に読んでしまって後悔してます(笑)

    September 21, 2017
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