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冬優子と車内で夜を明かして責任を取る話/Novel by 笠原

冬優子と車内で夜を明かして責任を取る話

3,868 character(s)7 mins

冬優子〜

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「……マズイわね」

「ああ、まずい」

 高速の渋滞に巻き込まれた事がある者なら、誰しも一度は考えたのではないだろうか。

『一般道降りた方が早いんじゃないか』と。

 渋滞の表示で真っ赤に染まるカーナビ。
 少しずつ増えてゆくブレーキランプ、縮まる車間距離。
 次のサービスエリアまでどのくらいだろう、突然お手洗いに行きたくなったらどうしよう。
 そんな不安が積もる中、上記の『一般道の方が逆に高速』理論に辿り着いた人間はきっと少なくない筈だ。

 地方ロケの帰り道、俺と冬優子は高速道路でその状況に陥り。
 どちらが先に言い出したやら『一般道高速案』が可決され。
 多分この道だ、あれそんな道無いんだけど。
 あ、さっきのとこ左折よ遅いって曲がる直前で言われても困るんだよと和やかな会話を満喫し……

「……あ、左側墓地だから見ない方が良いわよ」

「右なんてラブホしかないぞ」

 ど田舎の夜道を、楽しくドライブしていた。




「これ、今夜中に帰れるのよね?」

「夜明け頃には帰れるだろうな」

「高速降りた方が早いなんて言わなければ……今更後悔しても遅いわね」

 結果からして、降りたのは失敗だった。
 余計な事なんてしなければ……なんて言っても仕方は無いか。
 周りに車が一切ない為、法定速度マックスで快適に走行出来てはいる。
 少なくとも渋滞で動かない高速道路よりはストレスフリーだが、当然これは高速乗っていた方が早かったやつだ。

「今から高速に戻れない?」

「高速までのナビどうなってる?」

「読み上げたくない予測時間が書いてあるわ」

 視界の端でチラリと確認し、見なかった事にする。
 だらだらと、代わり映えしない(そもそも夜で見えない)田舎道を走ることn時間。
 少しずつ、眠気が溜まってきた。
 隣に座っている冬優子も、時折オールを漕ぎかける。

 けれどまぁ、会話は案外途切れないものだ。
 お互い気を遣わず話せる仲だからだろうか。

「よくあるわよね、こういうの」

「何でよくあるんだよ」

 高速降りて後悔する事はあれど、田舎の夜道で半迷子になる事はそうそう無い。
 半迷子と迷える子羊、思いの外字面が似てる事にだって今初めて気付いた。

「薄いほ……何言わせんのよバカ」

 何も言っていない。
 薄いほ……一体なんなのだろう、女性誌か何かだろうか。

「どうする?」

「どうするって何よ」

「ラブホ泊まってくか?」

「……正直有りなのよね。メイク落としたいし足伸ばして寝たい」

 会話が終わっている。
 ついでにバレたら(バレないだろうが)アイドルとしても終わる。
 お互い、結構疲れていたのだろう。
 会話が殆どノータイムで行われている。

「俺も1時間で良いから仮眠取りたいな」

「…………入る?」

「んー……」

「これで断られたら、ふゆ側から見たらかなり可哀想じゃない?」

「あーすまん。だめだ今現金無い。クレカ不可だったらマズイな」

「それは仕方ないわね……」





 最後にコンビニを見たのはいつだっただろう。
 山、山、墓地、山、ラブホテル、山、ラブホテルの山。
 進んでるのか分からないと、流石に心が折れそうになる。
 強いて良いところをあげるなら、空気が澄んでいて星が綺麗で景色には困らない事か。

「ほら見ろ冬優子、月が綺麗だぞ」

「前向いて運転しなさい」

「うっす」

「それに空なんて見なくても、隣に月なんかよりよっぽど綺麗な女の子が居るじゃない」

「悪い、前見て運転してるから横見れないわ」

「ふんっ!」

「あぶなっ! おい抓るなって!」

 ぐだぐだ、まぁ会話が尽きる事はなく追加で一時間。
 なんなかんや楽しい時間ではあるが、問題は勿論発生する。
 人間である以上、仕方のない欲が湧き上がってきたのだ。
 いやムラムラしたとかではなく。

「……お腹すいたわ」

「奇遇だな、俺もだ」

 お腹が、とても空いてきたのだ。
 適当なサービスエリアで取るつもりだったから、夜はまだ食べていない。

「なんかないの?」

「鞄にガム、ポッケにフリスクがある。好きな方いいぞ」

「あんた役立たずね」

 ハングリーからアングリーになっている。
 Hがあった方が不味いか。

「冬優子は何か持ってないのか?」

「何も……あ、ポケットに何かあるわね」

「一口恵んでくれても良いぞ」

 恵んで貰う人間の発言ではなかった。

「あっこれ目薬だわ」

「役立たずめ」

 恵んで貰おうとしていた人間の発言ではなかった。




 追加で更に一時間。
 ようやくちらほらと明かりが見えてきた。
 これならコンビニなりファミレスもありそうだ。
 眠気は逆に無くなっていた。

「……ところでだ、冬優子」

「何?」

 これ、ずっと提案しようと思っていた。
 極限空腹状態の今なら、これも可決される気がする。
 大切なのは順序とタイミングだ。
 と、言うわけで。

「何か食べたいものあるか?」

「腹が膨れりゃなんでも良いわよ」

「そうか、なら俺の食べたいものに付き合ってくれ」

「何?」

 流石冬優子、狙った通りの返事をしてくれる。
 冬優子なら聞き返してくれると思っていた。
 そしてついでに、首を縦に振ってくれると信じている。
 にやり、と、俺は笑った。


「……ラーメンだ」


「ばっ! はぁぁぁぁぁっ?! あんた時間分かってんの?!」

「もう日付も変わってるな。でもまぁ、やってる店もあるだろう」

「そうじゃないわよ! 健康とか! 美容とか! って言うか普通この時間のラーメンに女の子誘う? しかもアイドルやってんのよ?!」

 そんな事は知っている。
 知ってたか? 俺そのアイドルのプロデューサーなんだぞ。

「別に冬優子はコンビニで済ませても良いぞ。だが俺はラーメンを食べる。これは決定事項だ」

 心も腹も既にラーメンだ。
 今ラーメン以外で腹を満たしたらずっと後悔する確信がある。

「……どうせ開いてる店なんてないわ」

「かもな。でもさ、ラーメン屋開いてたら入ろうって思ってると移動も楽しくなってくるだろ」

「それは、そうだけど……」

「……冬優子」

「…………なによ」

 思い浮かべて欲しい。

「店内に入った時の香り。おもちゃ売り場みたいなトキメキのメニュー。着丼までのソワソワした時間。そして……」

 ごくり、と。
 俺が唾を飲んだ。
 自分で言ってて余計お腹空いてきた。
 余計な事を言わなければ……それでも。

「啜るんだよ、思いっきり。熱々のスープと一緒に」

「…………」

「深夜のラーメン、美味いぞ」

「…………麺少なめ味薄め油少なめでオーダーするわ」

 冬優子ならきっと、そう言ってくれると信じていた。
 今隣に居るのが冬優子で良かった。

「決まったな」

「決まりね! 今回だけは乗せられてあげるわ」

「さて、んじゃ左見ててくれ。開いてるラーメン屋あったら報告しろよ」

「あんたは右よ。絶対見逃しちゃダメなんだからね!」

 ノリノリだった。

「あーやばい、ますます楽しみになって来た……味玉つけるか」

「じゃあふゆは餃子も付けるわ!」

「うわずるっ、じゃあ俺はーー」

 そしてーー




「……帰って来ちゃったな」

「空、明るいわね」

「もうハト鳴いてるぞ」

「まさかあんたと一夜を過ごす事になるなんて思わなかったわ」

 いつもの事務所の前で車を停めて、俺と冬優子は青空を仰いでいた。

 田舎で開いてる店なんかなくて。
 ナビに従ってたら普通に高速乗ってしまって。
 で、そのまま帰って来てしまった。
 サービスエリアでも逐一降りて確認したけど、そりゃ閉まってるわ。

 と言うか、一々サービスエリア入ってなければもう少し早く帰って来れた。

「……朝飯、どうする?」

「ラーメン」

 正気か?
 朝だぞ?

「ラーメン食べるわよ。あんたが誘ったんでしょ」

「おいおい朝からか」

「食べるって決めたのよ。ふゆ、今もうお腹がラーメンモード入ってるの」

「いや、正直朝からは」

「付き合いなさい。あんたのせいでそうなっちゃってるんだから、責任取んなさいよ」

「…………分かったよ」

 仕方ない、先に誘ったのは俺だ。

「……そういえばあんた、現金あんの?」

「いや、流石にラーメン食うくらいわある筈だ」

 財布を開く。
 ……あ。

「悪い、普通に結構あった」

「はぁぁぁっ?! ならラブホ泊まれたじゃない!!」

「すまんすまん、これならラブホ泊まれたな。まぁラーメン奢るか……ら…………」

 俺たちは完全に失念していた。
 ここが、事務所の目の前だと言う事を。

「…………お前、今の発言は何だ……?」

 あ……
 ……おはようございます社長、朝早いんですね。

「……プロデューサーさんっ、ふゆ、責任取って欲しいです♡」

 今このタイミングでふゆモードでその発言は最悪とかのレベルじゃない……

「……まさか、二人は……」

「いや違うんですって! 兎に角社長もラーメン食べに行きませんか!!」

「朝からラーメンなど食べられる訳が無いだろう!」

 正論過ぎて何も言えなくなった。

Comments

  • ユリウス

    最高 死体埋める話書いた人と同じとは思えないくらい良かった でも埋める話も辛くて良かった

    August 4, 2022
  • zeno

    うーん最高だった

    July 3, 2021
  • パマギーチェ

    ふたりのやりとりが楽しくて、やっぱりpふゆだなと思いました。

    February 7, 2021
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