アイドル卒業したノクチルからアプローチを受ける話
円香三枚目ーー!!
期間限定ーー!!
なので書きました。これ、もしかして三枚目ノクチル全員期間限定説?
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283プロ所属のアイドルユニット、ノクチルが解散をしてから半年が経った。
雛菜・小糸の二人が大学生卒業を機に、それぞれがアイドルを卒業。
俺が受け持つ7ユニットの中で、一番早い解散となった。
彼女たちの選択を俺は受け止め、それからはより一層多忙な日々になった。全ては最後、盛大な引退ライブを行うため。
デビューは躓いたし、道のりも他のユニットとは違うものだったけれど。
その最後、彼女たちは誰よりも輝いていた。
「……感慨深そうにしている所申し訳ないですが、掃除の邪魔ですのでどいてください」
「あ、はい」
掃除機がガンガンと俺の足を攻撃してくる。
場所は俺の自宅。時刻は午前八時、曜日は日曜日。平たく言うと休日なわけだが、同居人はテキパキと部屋の掃除をしてくれていた。
「いつもありがとうな円香」
「これが私の仕事ですので。朝食、用意してあるので食べてきてください」
「ああ、食べる食べる」
同居人……元アイドル、現お手伝いさん。
樋口円香はいつもと変わらない様子で、……もう違和感は覚えなくなったエプロン姿で俺の日常にいた。
ノクチルが解散して半年。
うち一人、元アイドル樋口円香は俺の家へ転がり込むと、家事炊事洗濯を一手に引き受けてくれるお手伝いさんになったのだった。
リビングへ行くと、同居人が俺の朝食をつまみ食いしながら映画を見ていた。
「あ、おはよプロデューサー」
「おはよう。ところでそれ、俺のじゃないか?」
「うん」
悪びれもせずしれっと。
つまみ食いに使った指を舌先で舐める姿すら絵になるのだから、この同居人中々にずるい。お行儀が悪いぞ、なんて言うとじゃあプロデューサーが舐める? なんて。
そんな所を他の同居人たちに見られたら今夜は指舐め祭りになるのが目に見える。
「舐めないの?」
「舐めたらまずいだろ。透は舐めてほしいのか?」
「プロデューサーになら」
「だめに決まってるでしょ」
「あ、お掃除終わったの?」
「毎日やってるから」
舐めさせようと指を伸ばしてくる透の腕を掴んだ円香。その片手には俺と同じく朝食が乗せられた皿。
「他の二人は食べたのか?」
残り二人の同居人たちの姿は見えない。視線をキッチンへと向ければ、ラップがかけられた皿が二つ見えた。
「寝てる。あなたと休日合わせようとして昨日頑張ってたみたいだから、まだ起こしてない」
「……うーん。やっぱ、みんなタレント業にすればよかったのに」
「私はアイドルでお腹いっぱい。……雛菜はやれたと思うけど」
「俺からすればみんなまだまだアイドルやれたし、女優も歌手もいけたよ。何も裏方に回ることなかった」
「事務作業、小糸に随分と助けられてるのに良いご身分ですね?」
「ぐっ。た、確かに今は小糸がいなかったら多分俺はぶっ倒れてる……」
というか、うちの事務所は根本的に規模と人数比が見合っていないのだ。正直はづきさんがいないと簡単に破綻するし、今では小糸がいないと俺も満足にプロデュース業へ力を注げないぐらいだ。
そんな、二人の同居人について喋っていると寝ぼけ眼の二人がリビングへ。
「円香せんぱ~い、お腹すいた~」
「あっちにあるから取ってきて」
「は~い」
「おはよう、雛菜、小糸」
「お、おはようございますプロデューサーさん」
速攻で意識が覚醒した雛菜とは対照的に小糸はまだ寝ぼけているのか、ふらふらしながら俺のもとへやってきた。それでもぱぁっと浮かんでくる笑顔の眩しさといったら流石はアイドル。流石は小糸だ。小糸イズナンバーワン。
「むっ、小糸ちゃん抜け駆け一等賞」
「なにそれ」
「方クラで言ってた」
「いや、言ってないでしょ絶対」
「……言ってないかも?」
「やは~、小糸ちゃんが抜け駆け一等賞してる~」
「なにそれ事務所で流行ってるの」
「アンティーカが言ってた~」
「いや、言って……言ってたの?」
「言ってない~」
「一体何言ってるんだ三人とも……」
小糸と戯れていたら方クラとアンティーカに風評被害が発生していた。珍しく円香が翻弄されている。
雛菜と小糸が朝食を終え、あらためて同居人四人がリビングで集まった。
……そう、ノクチルが解散して半年。
それぞれが違う道を歩み始め、そして気づけば全員俺の家へ転がり込んできた。
簡単に言うと、アイドルをやめた四人がものすごい勢いで俺にアプローチを仕掛けてきたのだ。俺はそれを戸惑いつつも嬉しくもあったわけだが。
一番最初に俺の家へ転がり込んだ円香と、それを知った透と雛菜が順番にやってきて、そんな話をポロリと小糸にすると小糸もやってきた。明確に言葉にしたわけではないけれど、なんだか恋人同然のような関係を築いていた。
透はタレント、小糸は事務員、雛菜は283プロのスタッフ。アイドルをやめてからまだ半年だが、それぞれ自分の経験を生かして仕事に励んでいた。そんな幼馴染たちの私生活を支えて、かつ家のことを一手に引き受ける円香にも頭が上がらない。
そんなわけで。
「久々に全員休みにできたわけだし、どこか行くか?」
「映画みたいな」
「買い物がしたいです」
「雛菜海いきたーい!」
「え、えっと、お任せします!」
「うーん、この幼なじみたち。生憎だが俺は一人なんだよな」
いつもであれば一人ひとりと出かけるから気にならないのだが、四人そろうと大体こうなるのだ。小糸だけが俺の味方だ。
「透と円香のはともかく、雛菜のは厳しいな……場所的に」
「え~~……あ、じゃあ雛菜が助手席に座る~! それならいいよ~」
「え、それずる。いつもじゃんけんだし、じゃんけん」
「まぁ、いいんじゃない? それで丸く収まるなら。でも小糸も意見言ってないわけだし、帰りは小糸で」
「わ、やった……!」
「……じゃあ、映画見て買い物で」
この四人の意見をまとめるのは俺にはとても難しい。お互いがお互いの妥協点を理解していて、ここだという落とし所を見つけられるのはこの四人だからこそだろう。
ぼーっとその光景を眺めているといつの間にか四人の視線が俺へ向けられていた。
ん? と首をかしげる。
「あなたは?」
「え?」
「プロデューサーが行きたいところはないのかなーって。いつも私達が決めてるじゃん」
「あぁ。と言ってもな……。四人がうちに来るまでは休日も仕事とか資料集めとかしてたからな。趣味らしいのもないし」
「プロデューサーそれでしあわせなの~?」
「ははっ、これはこれで充実してたんだよ。ほら、そういう小さなことが雛菜たちの活動に繋がったなら、それが俺のしあわせだ」
「プロデューサーさん……」
「で、今の俺のしあわせはこうやってみんなと一緒にいることだ」
と、良いことを言ったつもりだった。
が、四人は面白くない顔をしている。
「ど、どうした?」
「いえ、あなたが誰か一人を選ぶ気がなさそうなので。ミスター・ハーレム」
「選ばれなくても諦めないけど」
「雛菜もー」
「わ、私も……」
「……え、選べるわけないじゃないか」
「まぁ、最終的に正妻を決める必要があるわけですが」
「負けないから」
「プロデューサーは雛菜を選んでくれるよね?」
「わ、私だって負けないから!」
「私はすでに隣人の方々から正妻判定をもらってるけどね」
ふふっと笑う円香に、ずるいぞーと幼なじみたちからの非難が飛ぶ。
「樋口ずるいわ。ないわ」
「日中はこの人と一緒にいれるでしょ」
「小糸ちゃんずるい~」
「ひ、雛菜ちゃんだって! レッスン見に行ったプロデューサーさん帰ってこないの、雛菜ちゃんでしょ!」
「バレてた~」
「……なぁ、出かけないのか」
どんどん話がズレていくので引き止める。
すると、当然だが話の内容が一切変わらないまま矛先が俺へと向かう。
「プロデューサー、誰がいい?」
「……………」
選べるわけない……………。
「………じょ、助手席決めるときみたいに、じゃ、じゃんけんで……」
「ふふっ、ないわ」
「ミスター・ろくでなし」
「しあわせじゃない~」
「ダメダメですねプロデューサーさん」
「ごめんなさい」