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気狂いピエロ/Novel by 妹尾アキラ

気狂いピエロ

4,655 character(s)9 mins

オカン系サーヴァントが嫌がらせから自滅する話

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 どう考えたって狂気の沙汰だろう。

 いや全くもってその通りだ、弁明のしようもない。
 まだ少年といって差し支えない体躯の男に、殺したくて仕方がない過去の自分に、捩じ伏せられ突き入れられてヨがるのだ。
 気狂い以外の何物でもない。

 だが、狂気のような快楽というには、あの男とのセックスは生々しかった。

 サーヴァントの身は、排泄しない上に感染症やその他性病の危惧はない。魔力供給のためには避妊具など必要ないし、むしろ邪魔だ。多少の傷など魔力で埋めてしまえば良い。
 実に都合のいい身体ではあるが、サーヴァントの特性で事前準備が若干簡略化されようと、使用するのは粘度の高いローションの方が都合が良かったし、念のために腰の下に敷いておくバスタオルやシーツは、毎度取り替えて洗わねばならなかった。
 面倒だとまでは言わないが、そういう現実的な、生活感溢れる後処理をしていると、途端に居た堪れなさを覚えてしまう。
 ヒトになり損ねてヒトから逸脱した癖に、未だヒトの真似事をしているなど、笑い話にもならない。


 獣欲と破滅衝動を満たすには最適なのだがな、と思いながら、物干し竿に脱水後の濡れたシーツを掛けて、シワをピンと伸ばした。糊もきかせたし、この天気ならパリッと綺麗に乾いてくれることだろう。
 高くなり始めた太陽を頼もしく見やった。日差しは強くなりそうだが、朝の風は爽やかで心地良い。

 ここの家の住人は、学校やらバイトやらで外に出掛けて行った。
今この家に残っているのは自分だけだ。
 昨晩この家に滞在したのもあって、一通りの家事を引き受けたが、さすがに母屋の細かいところの掃除までは手を出し過ぎだろう。凝り性の自覚がある自分のことだ。おそらくやり始めるとキリが無い。
 洗濯物も干し終わったことだし、戸締りをして立ち去っても咎められることはなかろう。鍵の隠し場所くらいは教えられている。

 弁当などを持って行った形跡がないから、先ほど公園に出掛けて行ったセイバーの分の昼食を用意しておけば、昼過ぎまでの少しの間、この家が無人になったとしても問題はあるまい。
 元々は小僧一人だけで住んでいたのだし、留守など珍しいことではなかったはずだ。

 随分と騒がしくなったのであろう、一人暮らしには広過ぎる武家屋敷を庭から一望して、見慣れた、以外の感慨が浮かばない己に安堵と寂寥を覚える。
 安い感傷だ。
 ここは衛宮士郎の家ではあるが、オレが捨てた故郷ではない。懐かしく思い返し、帰りたいと願ったこともあるのかもしれないが、そんな記憶すら色薄く、他人の夢のように曖昧で現実味がなかった。
 それを寂しいと思うほどの思い入れすら思い返せない、その事実をこそ、寂しく思う。

 ……やはりこの場所は良くないか。
 一人でこの家に居るのは、自分には荷が勝ち過ぎる。唇の端を自嘲で歪めると、母屋と離れの戸締りを確認すべく、突っかけた窮屈なサンダルでペタペタと縁側に戻って行った。


 離れから順に戸締りの確認をしていく。
 ついでに日用雑貨の不足品も確かめて、安売りの時に石鹸とボックスティッシュを買い足しておこうと心の中にメモしておいた。ドラッグストアの特売をチェックしておこう。
 女性が使用している部屋に勝手に侵入する訳にはいかないので、外部からの構造把握で窓の開閉を確認するに留めたが、今日はそこそこ暑くなりそうだし、空気の入れ替えくらいはした方が良かったかもしれない。……いや、そうするとこの家を空けられんしなと思い直し、戸締り確認を再開した。
 私はこの家の家政婦ではないのだ。もちろん、遠坂家の執事でもないのだが。


 おおよその場所を点検し終わり、最後に小僧の部屋にやってきた。すらりと襖を開いて、見慣れた部屋を検分するが、数刻前とそう変わるはずもない。
 窓もちゃんと閉まっているし、と踵を返そうとして、ふと押入れがうっすらと開いていることに気がついた。

 おもむろに近づき、引き戸を開ける。
 布団をしまった際の閉め方が甘かったのかと思ったが、ふむ、どうやらこれは下段の物置スペースに元凶があるとみた。物が動かされた形跡とあいつの思考回路を予測し、いかにも、といった菓子缶を発見する。が、中身は不自然に空っぽだった。

 なるほど。
 悪友に返却するために慌てて出し入れした所為か。違和感の原因は発見したが、もののついでとばかりにさらに奥を漁る。自分がどこにそういったものを隠していたかなど、記憶には全く残っていないが、残念ながらこの歳の己の考えそうなことなど、安易に予想がつくものだ。
 即座に目的のものを探し当てて、小賢しいカムフラージュを鼻で笑いながら、興味本位で目を通す。
自室にテレビが置いてないから、動画の類は少ないという、男子高校生にしては古式ゆかしいラインナップだ。
 ……もしかしてここも笑いどころだったか。

 その手の雑誌にありがちなどぎつい文言だったり、よくわからない設定のエロ漫画だったり、明らかに年齢超過したセーラー服のピンナップなどを一通り眺めた後、敢えて五十音順に並べ替えて元の場所に閉まっておいた。
 後で秘蔵品を見て慌てふためくであろう、奴の姿を想像してほくそ笑む。

 文机の上に綺麗に並べて置いてやろうかとも思ったのだが、この家の環境では部屋の主である小僧より、女性の方が先にコレを発見してしまう可能性がある。いくらこいつに対する嫌がらせとはいえど、そんなセクハラじみたことは避けねばならない。


 しかし、そうか。
 こういう趣味だったか。
 いや、内容的に奴が好むだろうというポイントはわかるんだが、自分にはもう刺激が足りないというか、作り物臭さに萎えるというか。
 生前も人生の終盤に差し掛かる頃には、身体の機能としても精神的なものにしても、女性とのそういったことからは疎遠になっていたし、実感が伴わないのも致し方ない。
 ああ、性的不能というよりも純粋に内部がボロボロだったのだ。

 曲がりなりにもポルノに類するものを久方ぶりに見たにも関わらず、あまりにも無反応な自分の雄に対して
多少複雑な念を抱く。
 まあしかし、もうそんな歳でもないというのが一番の理由なのだろう。
こういう類のモノにムラムラと興奮するのは、それなりの若さと想像力、女性に対する夢や希望が必要なのだ。
 特に、そうだな。
 女性に抱く幻想というのは、必要事項に違いない。性指向はヘテロであると自認しているが、それ故にまあ色々と、そう色んな経験をしてきたのだ。いや、具体例などとうに摩耗しているが、魂に刻み込まれている。


 ふう、と一つ息を吐き、頭を緩く振って気分を入れ替えた。
 一人でこの家にいると、変なところで自身の心のささくれを拾ってしまって大変よろしくない。
 八つ当たりと気分転換に、奴の押入れの中を片付け始めた。こうなったら、小僧への嫌がらせと当てつけを完遂してやろう。


 テキパキと中身の少ない荷物を出しては埃を拭い、元々置いてあった場所よりも使いやすく配置していく。

 すると、衣類ケースからは少し離れた場所の、雑多な道具が入った段ボールの陰に奴がいつも着ているシャツが落ちていた。
 ほら、整頓の仕方が甘いから、こういう失せ物が出てくるのだ。奴の失態を発見し、脳内でネチネチと皮肉や悪口雑言を並べたてる。いや別に嫌味のタネが見つかって嬉しいわけではない。断じてそうではない。

 同じシャツをいったい何枚持っているのだか、と思いながら広げたラグランTシャツは少しヨレていて、洗濯後畳んだものが衣装ケースからはみ出ていたのではないことを示していた。
 大方、一度袖を通したものの、すぐに別の服に着替えてしまったから、また同じものを着ようと押入れに放り込んで、そのまま忘れてしまったか。


 洗濯の必要性があるだろうか、と無意識にシャツの匂いを嗅いだ。押入れの埃っぽさと、洗濯洗剤の匂いに混じって、あいつの体臭を感じる。

 あ、と思った時にはもう、下半身がずくりと反応した。
 だってそう、その匂いは、
数刻前のこの部屋で、抱え込んで縋った男のうなじに鼻を突っ込んで、思いきり吸い込んだものと、同じだったのだから。
 少し汗臭い、男の匂いだ。

 サーヴァントの身体はおそらく、己の体臭などせいぜい再現されたものでしかない。そもそもこの身では汗をかくような機会すら殆どなく、霊体化すれば全てリセットされてしまう。

 だからこそ、小僧とのセックスの、こういった嗅覚の刺激は生々しくて。
ゾクリと、情欲が背を腰を、這うように麻痺させていく。

 くそ、と心の中で悪態をついた。
 安っぽいポルノには無反応だったクセして、男の匂いが染み付いた、衣服には反応するだなんて。
 我ながら度し難い。変態臭い。実に狂っているとしか言いようがない!

 もう一度だけ、すん、とシャツの匂いを吸い込んだ。
 痺れているのは脳髄なのか下半身のそれなのか。ただ、目線を下に向けるとズボンの中心部分が明らかに生地を盛り上げていて、あの程度のことで性感を刺激されてしまったことが、紛れもない現実であると告げていた。


 カァ、と顔面が火照る。
 そろそろと、ズボンと下着を掻き分けて自身の性器に触れると、緩く芯を持ったソレは、先端を雫で濡らしていた。くちり、と指で周りに塗りつけ、緩慢な刺激にとろりと先走りを滲ませた、尿道に指を立てようとしてーー

 ーーガラリという、玄関が開く音を聞き取った。

 ビクン、と跳ねるように飛び上がり、耳を澄ますとセイバーの「ただいま戻りました。誰か居ないのですか?」という声と、廊下を歩く軽い足音を聞き取った。
 時計を見やれば、午前11時近くになっている。
 ああ、昼食の件を何も言わずに外出したから、心配になって早く戻ってきたのか。


 はた、と。
 自分の状態を鑑みてサッと顔を青ざめた。奴のTシャツで手を拭うと、ジッパーを上げてバタバタと身づくろいをする。
 そういえば押入れの整頓が途中だったが、知るか、そんなこと。
 元より私が自己満足で始めた嫌がらせなのだ、全部綺麗に片付けてやる必要性なんかあるはずがない。

 パンパンと手で自身の黒いシャツとスラックスの埃を払い、小僧の部屋を逃げるように飛び出した。


 洗濯。洗濯をしよう。
 今日は天気が良いから、きっと午後だけでもカラリと乾くに違いない。
 そうだ、公園に行っていたセイバーも、サッカーをしていて着替えたかもしれない。何なら客室用のシーツや寝具も洗ったって良いし、探せばきっとこの家ならば汚れ物なんかたくさん出てくる。
 このTシャツも、ついでに洗ってしまおう。


 そんなことをぐるぐると考えながら、住人を探しているセイバーに顔を見せるべく、階段の方にわざと大きく足音を立てて歩いていった。

 慌てて飛び出した部屋の押入れの襖は、ほんの少し開いたままだった。

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