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「おかえりなさい」/Novel by 碧

「おかえりなさい」

1,976 character(s)3 mins

 2月1日、アーチャーが召喚された日ということで、最後のサルベージです。
 2018年もまた、おかえりなさい。

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 何となく、夜半に目が覚めた。
 部屋に時計がないので、時間は不明だが、辺りの暗さからして、夜中であることはまず間違いあるまい。
 ……そういえば。
 天井を見つめながら、アーチャーはぼんやりと思った。
 今日の日付は、2月1日。
 アーチャーことエミヤシロウが、この現世に、冬木に、「帰ってきた」日だ。
 凛が召喚手順を間違ったせいで、魔法陣からではなく遠坂邸の居間に墜落するはめになったり、いきなり令呪の縛りを受けるはめになったり、セイバーが良かったと暴言を吐かれたり、破壊された居間の掃除をするはめになったり、思えば散々な召喚だった(凛は全てそれを、アーチャーの自業自得だと言い切るが)。
 あの日から、既に6回目の2月1日。
 聖杯戦争が終わってからもなお、サーヴァントが複数もこの世に留まり続けている事態は、異常といえば異常に違いないのだが。これだけの年月を過ごしていると、もはやそれを当たり前のことのように感じてしまう。
 生前、正義の味方になる、と理想を求めるために出てから、一度も戻らなかった家。
 その家に、今、当たり前のようにして「自分の家」として住んでいる。
 あの日。こうして召喚されなければ、あり得なかったこと。
 ……この家の主と、恋仲になったというのも。
 本当に、あり得なかったことだ。
 ずっと、この気持ちを認められなかった。自分達は元を糺せば同一人物でしかなく、ましてや、士郎は、人として生きていくことを選んだのだから、人として当たり前の幸せを掴むべきだと、ずっと思っていた。もはや人ではない自分とは、どれだけ身体を繋いだところで共にある未来など、あり得ないのだと。
 それこそが、士郎を想う心だったというのに。何よりも、深く。
 この気持ちを気付かせてくれたのはやはり士郎で、答えを得て救われただけでなく、彼から与えられたものは、計り知れないほど多く、大きい。「愛してる」そう囁かれるだけで、身体の真央から痺れるような気がする。心の全てが、震える。
 現世に召喚されたのは、衛宮士郎を殺して、抑止の守護者たる己の存在を抹消するためだったけれど。今はただ、この日々を大切にしたいと思う。
 どうしようもなく幸せな、この日々を。
 自分は生きていなくて、この身体は魔力で形作られたかりそめに過ぎなくとも、その中に宿っている感情までは偽物ではないのだから。
 寝返りを打つ。
 そのまま寝直そうと瞼を閉じると、部屋の前で足音が止まるのが聞こえた。
「……アーチャー、……寝てる、か?」
 控えめな声。
 凛の仕事が遅くなったり、アーチャーと過ごすのではない夜は、士郎は今も初心忘るべからず、と、今でも鍛錬を怠らない。恐らくは時間的に、その鍛錬から戻ってきたのだろう。
 アーチャーは布団から起き上がった。冷たい空気が、肌に触れる。冬があまり厳しくない冬木の気候とはいえ、ここ最近は随分、冷え込みが厳しい。
「どうした、士郎」
 襖を開けると、少し士郎が驚いた顔をしていた。
「起こした、か?」
「目が覚めていた」
「そっか」
「……どうかした、か?」
 聖杯戦争の頃より、ずっと近くなった視線。その琥珀の目が、アーチャーを真っ直ぐに見る。
「いや、今日、お前が召喚された日だな……って」
 士郎のその言葉に、アーチャーは軽く目を瞠った。
「凛に、聞いたのか?」
「ああ。ちょっとした話題になったときに」
 別に、何かの記念日は一緒にいたいなど、少女趣味な思考は最初からお互いに毛頭無い。男同士故に、当然と言えば当然だが。だから、士郎がそんなことを言い出したことが意外だった。
 士郎がロンドンから帰ってきてから初めて、共に迎える2月1日。しかし、とりたてて特別というわけでもなく、その日付である、というだけの日だと、アーチャーは思っていたが。
「おかえり、……アーチャー。お前が、この日に召喚されたから、俺はお前に会えたんだよ」
 士郎の指が、アーチャーの褐色の頬に触れる。土蔵にいたせいだろう、少し冷えた指先。
 ――ああ。
 ごく自然に、気負いもなくてらいも無く、こういうことを言える男だから。真っ直ぐに、理想を目指していける男だから。
 惹かれたのだと。彼の行く未来を見てみたくなったのだ――共に。
「じゃ、おやすみ」
「……ああ」
 軽いキスを落として、そっと士郎がアーチャーから離れる。
 部屋へ戻っていく士郎の後ろ姿を見送って、ぱたりとアーチャーは襖を閉めた。
 聖杯戦争はもう遠く。
 それでも、この日に召喚された自分はここにいて、きっとまた、来年も同じように2月1日を迎えるだろう。
 ……士郎と一緒に。
 心から思う。
「帰って」きて良かった、と。
 この、日に。

 おかえりなさい、エミヤシロウ。

Comments

  • hino
    February 1, 2018
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