カルデア食堂 週初
課金はー? 家賃までー!!✧٩(ˊωˋ*)و✧
あぽくりPUでジャックちゃんチャレンジしたらエミヤが宝具マになりその後ジャックちゃん来ました。
そんなわけでエミヤはジャックちゃんの保護者です。娘を守る為に強くなっておいたマッマです。子供鯖には総じてかもですが
兎にも角にも、摩耗した弓に周囲が色んな愛を押し売りして欲しいと言う欲望を糧に書いております。
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13日付 女子38とデイリー74ありがとうございまっす(*'ω'*)
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- 1,038
- 23,668
*色々俺カルデア
*クー(広義)エミ要素二割増し(当社比)
*でも多分誰とも出来てはいない
*弓に各種の愛を押し売りしたい
人理の修復と言う一大命題を掲げられたこの行脚ではあるが、その中心たる少年は何の変哲も……いや、随分と人誑しではあるが、兎も角まあ普通の人間の少年であって、走り続けていては倒れてしまう。
半強制的にでも休ませないと笑顔を張り付けて前を向くような彼の為に、聖人系サーヴァント達が尤もらしく言い募り休日とした昨日の日曜日。
目一杯食べて目一杯寝て、気持ちも新たに立ち上がった本日月曜日。日本人的感覚では週の始まりである。
本日の献立はざっくり言ってヨーロッパ西側。南欧・西欧・中欧をひっくるめて西側とする何とも雑な区切り方ではあるのだが、キッチンを掌握しているのがアジア人である以上仕方がないのかもしれない。魔改造日本ナイズドされたメニューであれば金曜日に出てくることもあるのだから許して欲しい、とはその某厨房最高権力者の談である。
朝食はフル・ブレックファスト。卵はポーチドエッグかスクランブルか、はたまたサニーサイドアップかターンオーバーなどからお好みで。そんな朝食担当は赤と緑の弓兵コンビ。なんのかんのと悪友染みた関係の二人ではあるが、これでいて作業の連携はとても良い。お互いが効率良く作業できるよう仕込みをしてあるので、このコンビの日は個々人の好みに合わせた卵料理をその場で仕上げると言う贅沢ができる。
ちなみに朝食は国籍ルールに従わず、その日の朝食担当者がお好みで作る。故に目玉焼きトーストだったり焼きたてクロワッサンだったり中華粥だったり白飯と味噌汁(お好みでTKG)だったり、と日替わりで楽しめるのだ。
夜勤明けのスタッフ、早起きが習い性のサーヴァントらが次々と食事を終え食堂を後にする中、年頃に似合った溌剌とした足音を立ててマスターたる少年は食堂へと駆け込んでくる。それも何故か
「あーかいエミヤと緑のロ・ビ・ン~♪」
なんて、節を付けて歌いながら。
「あ、おっはよー。でもロビンのほうが狐っぽいよねぇ。エミヤも色的に狸っぽい。まあ二人とも策士タイプだから間違ってはないかなー?」
「は? いや、何言ってんですか……??」
「おはよう、マスター。21世紀日本のインスタント事情を知らないと通じないネタは優しくないぞ」
「大丈夫、ママとニキ達に通じたから満足!!」
あ、あと小次郎とかメディアとかメデューサにも通じてるっぽいね。なんて親指立てながら朗らかに言い切るマスターの視線の先では、名を連ねられた英霊たちが総じてそっぽを向いたり、にやける口元を手で隠しきれていなかったり、真面目な顔を取り繕おうとして頬肉を噛みしめていたりする。
特にマスターのすぐ後ろに続いていた槍とドルイドの青いのの口元がプルプルしているのを見て、エミヤは無言で二人に朝食のトレーを押し付けた。問答無用で堅ゆで卵と両面焼きの目玉焼きのそれらは、ランサーが半熟ゆで卵を、キャスターが半熟目玉焼きを好んでいると知っての仕打ちである。あからさまにしょんぼりする二人を鼻で笑って、エミヤはマスターのトレーからベーコンを一枚減らす。
「うわあああごめんなさいママー!! ママ特製の厚切りベーコンは勘弁して下さあああ!!」
「せ、先輩、私のあげますからっ!!」
DO・GE・ZA☆を決めかねない人類の希望と、その姿に狼狽える愛らしい後輩の姿にエミヤは溜飲を下げる素振りを大げさに見せ、タコさんとカニさんのウインナーをベーコン代わりに皿に乗せる。
一通りはしゃいでは見たものの、それがエミヤの気遣いであったことをマスターは何となく理解しているので、追加された愛らしいウインナーを見て素直に小さな歓声を上げた。朝から全力でレイシフトを繰り返す予定の自分に魔猪のベーコンは、少し脂がくど過ぎるだろう。
嬉しそうにスキップしかねない勢いで席を探す少年と慌てて追いかける少女の姿に頬を緩めて振り返ったエミヤは、一人取り残された風情の弓兵に苦笑いを零す。
「なんすか。身内で仲良くやっちゃって? 知らない人間で楽しんでくれちゃうなんて、良いご趣味してますねぇ」
「いや、悪かった。まあ、下らない事なんだがな」
言って、エミヤは件のネタ元を掻い摘んで解説する。インスタント麺の説明からさらっと流したが、本気でしょうもなかったそのことにロビンは呆れたように溜息をつき、言い捨てた。
「でもまあ、オタクが狸ってのは良く解りますわ。舌先三寸で煙に巻いて人を煽るその態度とか? ただ、オタクは煮ても焼いてもマズそうですがね」
「ほう? まあ、食わず嫌いなる言葉が日本にはあってだな……。それはそうと、君が狐と言うのには納得だ。あの賢い獣は素晴らしい森の狩人だからな。優れた森の番人たる君にこそ相応しい」
「……素直になったらなったでタチ悪いよなあ、アンタ。そー言うところがいけすかねえったらないわー」
はぁああ、と盛大な溜息をつく緑の狐と、きょとんと首を傾げる赤い狸の姿に、その後食堂を訪れた人々は微笑ましいものを見るような眼になったとかなってないとか。
*
月曜日は精力的にレイシフトをする日でもあるので、居残り組の昼食には簡単にパスタとサラダが作り置かれる。厨房組も交代で(主に各種食材を仕入れるための)レイシフトに向かうので手の込んだものが出来ないからなのだが、もう月曜日の光景として定着しているので文句を言うものも居ない。作り置きと言っても手打ちの生パスタは十二分に旨いし、その分夕食に豪勢なメニューが来ることもお約束だからだ。
少し早めにレイシフトを終えたキッチン担当たちが丹精込めて作り上げた本日の夕食は、スペイン料理のバイキングだった。野菜嫌いや偏食気味の連中でも食べてくれるメニューが多いので、カルデアのオカンはバイキングとなるとスペインやイタリアあたりの料理を主戦力として投入する傾向にある。
献立には出身者のいる国の料理を優先することが多いのだが、この際ご当地英霊やスタッフがいるかどうかは些細なこと。バランスの取れた食事の為には国籍など二の次三の次、と言うのはカルデアキッチンの基本方針だった。
バゲットと生ハムのピンチョス、海老のアヒージョ、パプリカの彩りが美しいエンサラディージャ・ルサ、オリーブオイルで揚げたカラマレス・ア・ラ・ロマナ、パッと見解らないだろうと食べ方指導書を添えたカルソターダと言った副菜がずらりと並ぶテーブルは中々に豪華であったし、別のテーブルには大鍋を使った主菜がドドンと鎮座している。
鶏肉を具材としサフランで鮮やかな黄色に染められたライスが見目にも美しいパエージャと、ショートパスタに魚介類の旨味をぎっしり吸い込ませたフィディウア。二大勢力が幅を利かせるテーブルの隅にひっそりと、アロス・ネグロが隠れていた。どうしたって好みが顕著に別れるものなので、最初から少な目にしか用意していないらしい。
その中から気になる新メニューと、バイキング常連メニューからのお気に入りとを皿に盛りつけ、マスターたる少年はうきうきした足取りで本日の席を探した。マスターとマシュは大体一緒に行動しているが、食事を摂るテーブルはその日の気分で決めている。本日は弓兵の集いにお邪魔することにしたらしい。
「お疲れさま~。俺とマシュも一緒していい?」
「どうぞどうぞー。あ、何それ美味そう。そんなのあったっけ?」
「右端のテーブルにあったよ。円卓勢……ってか主にオルタリアだけど、気に入ったみたいだったから早くした方がいいかも」
「マジで? じゃちょっと僕取ってくる」
いそいそと空になった皿を手に席を立つビリーを見送って、新米主従は向かい合わせの席に着く。
マスターは早速、前回食べて気に入ったアヒージョをバゲットに乗せて齧り付く。カルデア農園で育てて絞ったと言う新鮮なオイルは胸やけも呼ばず、仄かなニンニクの香りが食欲を刺激して堪らない。ぷりっぷりの海老とゴロゴロしたマッシュルームがほんのりピリ辛で、小さな籠一杯に盛って来た筈のバゲットがあっと言う間に嵩を減らす。
向かいでマシュも、お気に入りらしいトルティージャを上品に切り分けて食べていた。ジャガイモのスライスだけでなく、たまねぎ人参ドライトマトにアスパラガスなども入って色鮮やかなそれは、女性や(味覚が)子供連中の一番人気で、すぐに売り切れてしまう逸品。最後の一切れだったのをマスターは快く後輩に譲った。
俺だって食べたかったけどマシュの笑顔の方が大事、と少年は心中で呟く。アヒージョだって美味しいし、俺これ好きだし、と最後のバケットをぺろりと平らげた。
「……なんでこんなに美味しいんだろう……お酒が欲しくなるよねこれきっと」
「先輩はまだ駄目ですよ。代りと言うわけじゃないですが、トルティージャもケチャップを付けるとまた違って美味しいんです。一口どうですか?」
「え」
ナチュラルにはい、あーん、とされてマスターは思わず固まった。ちょっと離れた柱の陰から紫紺の怨念が飛んでくるような錯覚を覚えながらも、なんとかぎこちない笑顔で丁重に辞退した。本音を言えば食べたかったのだけど、と後ほど血涙を流しかねない勢いで何処かの黒い髭に零していたらしいが、その時の彼の対応は素晴らしく紳士的だったと言う。
空腹に追い立てられるように胃袋を甘やかして人心地ついたマスターは、お代わりしてきたアヒージョと、結局エミヤが新しく作ってくれたトルティージャをじっくりしっかり味わって、至福に浸る。
「あー、美味しい……ん、あれ? そういやロビンって夜も当番じゃなかったっけ?」
「そうなんですけどね。あの赤いのがもう良いから先に休めって言ってきやがったんですわ。なんで、ありがたくのーんびりさせて貰ってるんですよ」
「エミヤ先輩は働き過ぎです。昨日だって禄に休んでないのに」
ふと思い出したマスターの問いに緑の弓兵が軽い調子で答えれば、マシュが珍しく頬を軽く膨らませて憤った。可愛いなあ、なんて心の中で脂下がった顔をしたマスターだったが、それでも顔には出さず真面目な表情を崩さないよう頑張った。マシュが可愛いのは自然の摂理だから仕方がないとして、と話題の中心たる弓兵らしからぬ弓兵に思いを馳せた。
カルデアのブラウニーと化したあの赤い弓兵は、何処に行っても居るくせに何処にも居ない。例えば用事があったとして、呼びだすほどでもないからと足で探そうとすれば延々と追いかけっこになるくらい、一所でじっとしていることなど無かった。厨房だけが唯一それなりの時間滞在する場所であるとも言っていい。
それに加えある時、用事があってエミヤの部屋を消灯間際に訪れたマスターは、偶然捕まえられた事に加えて部屋の簡素さにも驚いたものだった。
まるで使われていない部屋の様に、気配がない。人間と異なるサーヴァントとは言え、数か月も暮らして居ればそれなりに生活感が出てくるはずなのに(現に個性に溢れる部屋をマスターは沢山見てきている)彼の部屋には寒々しい空間が広がっているだけ。まるで今すぐにでも部屋を明け渡せると言わんばかり。
その光景に無性に悲しくなったマスターは、そのままエミヤの腹にタックルをぶちかまして問答無用で添い寝をすると言う暴挙に出た。その時彼が浮かべた面喰らった顔を思い出して、あのくらい強引じゃないとウチのママは休みやしない、と決意新たに拳を握る。
「赤い兄さんはなー、もうちょっと肩の力抜いて良いとは思うぜ」
「ええ。彼は自分を勘定に入れていない。挺身にも程がある」
アーラシュとアルジュナが揃って深く頷き、やや呆れ乍らも親愛の籠った声で零すのを聞き、マスターはさて今度はどうやってあの赤い弓兵を休ませようか、と首を捻った。サーヴァントの大まかなデータが見れる自分だけではなく、周囲も感じているのならよっぽどだ。サーヴァントに身体的な疲労が無いにしたって、精神面を度外視しては良くない。
そもそも、彼に頼り過ぎていたのがまずかった。クー・フーリン・キャスターのすぐ後に来てくれた最古参メンバーである彼は、初期の悲惨なカルデアを良く知っている。衣食住全ての改善に奔走し、加えて本分である戦闘も疎かにしなかった。
戦闘と日々の細かな業務で魔力を消耗し、霊基が摩耗しきって消滅寸前まで追い込まれようと何も言わないエミヤに業を煮やし、キャスターのクー・フーリン共々実力行使に出たこともあった。応急的にと聖晶石の欠片やルーンストーンを渡し、霊基の修復が進めば安定して魔力不足でぶっ倒れることも避けれるだろう、と再臨を最優先していた。
その所為……お蔭で現在カルデアの最高火力を誇るエミヤ。攻守に安定した能力、高い索敵偵察技術、広範囲の敵殲滅に向いた戦技、なによりもレイシフト先での安心感と快適さ。それらについつい甘えていたのは自分が反省すべき点だ、とマスターは思う。なにせ相手は皮肉屋のリアリストに見せかけた、世話焼きとお人好しが服を着たような英霊で、断らない男なのだから。
「オレらがさっさと霊基直しゃあいいんでしょうが、そうしようとするとあの野郎、素材集めだなんだっつって余計走り回るの眼に見えてるんでね。バレないようにやんなきゃ意味ねぇでしょーよ」
「そうだねえ。そう言えば彼この間、僕に種火をくれたんだよ。僕があと少しで霊基を一段階安定させられそうだったから、って。自分が貰った種火なのにさ」
「ママの修復レベル全然変わらないけどやっぱ高レベルだからかなって思ったらそういうアレかあ!」
ダビデからの思わぬタレこみにマスターは頭を抱えた。奉仕が過ぎる。確かにアレは彼にあげたものなので彼がどうしようと勝手ではあるのだけど、と厨房に視線をやれば、上着を脱いでエプロンを付けた半分赤い弓兵が調理や片づけを行っているのが見えた。霊基を編み直すだけの暇も惜しんで奉仕に勤しむ姿は、本人は良いにしても気づいている者に居た堪れない気持ちすら呼び起こす。
「そんなわけで、片付けは俺たちがやります」
「任せて下さい! 美味しいご飯で元気いっぱいです。ごちそうさまでした」
むふん、と下げてきたトレーを手に胸を張るマスターとマシュの姿に、言われたエミヤはぱちくりと丸くした眼を瞬いた。コテン、と首を一つ傾げて。それから漸く言葉が脳に届いたのか、もう一つゆっくりと瞬きをして、そして。
「どうしたんだ、急に。君たちは朝から働き詰めで疲れただろう。マスター、部屋の風呂は沸かしてあるから、ゆっくり浸かってもう寝なさい。マシュもだ。ちゃんと歯を磨くんだぞ」
「はぁいママ……じゃなくて!! エミヤも! 今日は!! 休むのっ!!!」
「そうです! 働きづめはエミヤ先輩も同じです!! エミヤ先輩が休まないなら私たちも休みません!!」
勢い込んで前のめりに近寄ってくる二人の姿に、エミヤは少しだけ身を引いた。洗い物の最中なのでこれより下がれないのだが、身体が思わず距離を取ろうとしてしまう。今にも飛び掛かって来そうな少年と少女を前に、エミヤは周囲に視線を走らせた。
誰かマスターを止めてくれ、と言わんばかりのそれを受けた周りは、生温い笑みを浮かべるだけにとどまる。大なり小なり周囲の人間も思う所があるのだから、マスターを諫める筈もない。孤立無援を悟ったエミヤは、うろ、と目線を彷徨わせた後、眼前の真摯な眼差しを居心地悪げに受け止めた。
「……そ、れは、良くない。君たちは生身の人間なのだから、休まないと支障が出るぞ。ほら、食器を寄越し」
「はいはいはーい。こっちに寄越してくださいよ、マスター。仕事を取られたまま黙ってるなんて俺の流儀じゃないんでね。さ、アンタは行った行った。俺だって当番なんだから、このくらいは働きますよ」
エミヤの横からにゅっと伸ばされた腕がマスターのトレーを奪い取る。何時の間に近付いていたのか、と驚きながら首を横に向けたエミヤの視線を受けて、軽薄と揶揄されることもある甘い顔をした緑の弓兵がニンマリと口を釣り上げた。エミヤが呆気に取られている間に、泡立つスポンジごとロビンは場所を奪う。しっし、と猫の仔を払うように手を振って。
「ほらほら、こんなトコででっかいのにつっ立たれてちゃあ邪魔でしょうがない。とっとと部屋に引っ込んじまえって。仕込み? ンなもん明日やりゃ良いでしょうが。朝の担当じゃないでしょ、アンタ」
「ありがとう、ロビン。じゃあエミヤ、行こう? どうしても嫌だって言うなら令呪も辞さないよ、俺は!」
「お手頃令呪と言えどこんな下らない事に使うんじゃない!! ……はあ、判った。すまないが後を頼んだ、ロビンフッド」
水場から追いやられ、逃がすものかとすかさず伸びて来た少年少女の腕に其々両脇から捕まえられて。漸くエミヤは諦めた様に溜息をついて連行されていったのだった。
マシュを自室へと送り、いっそこのまま部屋に引き摺り込んで休ませようかなどと不穏な考えを顔に出していたマスターを言い包め、もとい宥めて寝かしつけたエミヤは一人カルデアの廊下を行く。ああも言われてしまえば今日はこれ以上目立つ場所に居ることはできないだろう、と施設内でも人気の少ないエリアで済ませられる用事を片付けようと思っていたのだが。
「マジで来たな」
「お前一周回って判り易いわ、ほんと」
左右に分れ、それぞれ壁に背を預けた二人の青い猛犬がエミヤの行く手を遮るように待ち構えていた。見透かしていたかのような物言いに、エミヤの眉根が瞬時に寄る。
「どうせ素直に休みやしないだろうから、ってマスターから通信が来てな?」
「まあお前の事だからバレなきゃ大丈夫、つって人の少ないとこに来るだろうってこっちの賢者サマがよ」
「……はっ、番犬ご苦労様なことだ。しかし、邪推は止してくれ。まだ目が冴えているので軽く散歩していただけなのだがな?」
憮然とした顔で腕を組み、二人のクー・フーリンを睥睨するエミヤに対し、青い二人はニヤニヤと楽し気な笑みで口元を歪めている。眉間の皺を一層深くしたエミヤは、付き合っていられないとばかりに踵を返したが、その向こうに別の青を見つけてそれはもう重たい溜息をついた。
「君もか、プロト。こっちの二人に何か吹き込まれでもしたか?」
「いーや? オレはオレでアンタが働き過ぎだって言いてェだけだぜ」
「ま、そう言うこった。そんな青二才にまで心配されるくらい、テメェのそれは度が過ぎてらァな。つうわけで、諦めてちょっと俺らに付き合え弓兵」
前後合わせて三人の猛犬に挟まれては、相性の悪さも加わってエミヤに逃げ道などはない。最早海溝か渓谷かと言わんばかりの眉間の皺と、への字に歪められた口元で盛大に不機嫌を表しながら、渋々と彼らについて行くのだった。
*
夜も明けて本日火曜日。
昨夜のアレやソレやコレやによる手酷い疲労(主に精神面)に苛まれたエミヤは、一時の癒しを求めて先ほどから手元の作業に集中していた。
彼が手にしているのは小さなナイフ。彼が生前から愛用していた細工用のナイフ。勿論投影品だ。それをするすると器用に動かして作り上げていたのは。
「へぇええ、見事なもんだね。こんなことまで習ったのかい?」
「見よう見真似だったがな」
和食で言うところのむきもの、最近ではカービングと呼ばれる飾り切り。果物から野菜から、付け合わせに添えるそれらをエミヤは無心で削り大量生産していた。ついに先程大ぶりの果物……スイカのような何か、に豪奢な牡丹を彫り上げたところだ。
どちらかと言えば飾りつけの意味合いが強いカービングだが、食材を無駄にするなどエミヤが許容する筈もないので勿論全て食べられる。先程の牡丹も可食部はすでにくり抜いた後であり、器にする皮の部分にのみ施されている。複雑に組み上げた様な柄の持ち手を作れば、何の変哲もない果物の皮が鮮やかな花籠となる。
「よし、中々の出来だ」
心なしか晴れやかな顔で出来上がった作品を見渡し満足そうに呟いてから手を洗うと、エミヤは本題の昼食に取り掛かる。隣で飽きもせずエミヤの手元を眺めて居たブーディカと共に、今日の献立に則って調理を始めた。
「何だか、エミヤ君がこう言うの作るって珍しい気もするね?」
「……個人の嗜好は別として、栄養バランスではあまり望ましくないものだからな。けれども、マスターもそろそろこう言った手合いが恋しい頃だろう」
和やかに会話を交わす二人の手元では、高速で肉だねが飛び交っている。ぺちんぺちんなんて軽い音ではなく、ビタビタビタビタ……とすさまじい音を道連れに次々と成形されてバットに並べられて行くのは、某ファストフード店で言うところのパティである。魔猪の切り落としを集めてミンサーに掛けたお手製粗挽きパティは赤味も美しく、さらに程良く分厚くて、焼く前から既に美味そうだった。
大きなバットを数十枚ほど埋めた辺りで、二人は次の作業に移る。これまた大量のジャガイモを綺麗に洗ってくし形に切り、水に晒して灰汁を抜く。あとはこれまた大容量のフライヤーに、大量のカルデア産オリーブオイルを入れて加熱を始めた。
そう、本日火曜日はアメリカ周辺地域の日と言う事で、昼食はハンバーガーなのである。
そうして。ちょっとした遊び心でエミヤが投影した職員制服を思わせるカラーリングのシャツとバイザー、インカムをつけて揃いのエプロンの胸元に名札を装備すれば、本日限りのカルデアバーガー開店である。
「えっ、ちょ……うわぁあ!!」
「何だか皆さん雰囲気が違いますね?」
がやがやとした騒ぎに気が急いたのか、小走りで食堂に駆け込んできたマスターは、その光景を目にしてぽかりと口を開けて驚きの声を発した。続くマシュは見慣れた様相で無くなった食堂の有様に小首を傾げる。彼女にとってファストフード店は未体験の領域だ。
「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ」
「うあああメニュー表まであるううう。えっと、じゃあダブルのセットをアイスコーヒーで!! マシュはどうする?」
「えっ、あ、じゃ、じゃあ、先輩と同じものをアイスティーで下さい」
バイザーとインカム姿が妙に似合うブーディカが、受けたオーダーを厨房側へ伝える。インカムもレジもあるが実際はどちらも投影品で機能の無い張りぼてのため、注文を通すシステムは伝票と声かけと言うアナログなのもご愛敬である。
「それではこちらで少々お待ちください。……ふふ、こういうのも偶には楽しいね」
「ブーディカすっごい似合ってる」
「はい、とても素敵です。これがハンバーガーショップ、というものですか?」
よくもまあ短時間でこれほどこった改装をしたものだ、と二人してきゃっきゃと観察していれば、ものの1,2分で二人の前にトレイが差し出された。流石に此処までは手が回らなかったのか何時ものトレイだが、皿に盛られたバーガーとポテトには細工のされた野菜と果物がちょこんと添えられていて、どことなく高級な雰囲気を醸し出していた。
それぞれダリアやバラなどを象ったラディッシュが、キュウリやセロリにニンジンなどで作られた葉っぱと共に小さなブーケになり、くし形に切られたリンゴやオレンジの皮には複雑な文様が刻まれている。いったいこれは何処のレストランで出てくるバーガーだと、マスターが眼を見開いても仕方がない。訊けば、妙に小器用な弓兵の仕業であると言う。
「え、これ、エミヤが?」
「そうだよ。何か参ってたみたいでさ……本人は精神統一だって言ってたけど」
たらり、とマスターの背中を冷や汗が伝う。
確かに昨晩、素直に言う事を聞かないだろうからともう一人の古参である青いドルイドに加勢を仰いだけれど、彼は一体どんな手段を取ったのだろうか、と。あれだけ意地っ張りのエミヤが傍目にも疲れてるのが分かるくらいになるって、何をしたのか。
事次第によってはエミヤのお説教を覚悟しなければかもしれない、とマスターは錆びついた人形の様にぎこちない動きで首を回し、件の人物に目線をやった。何時もの様にケルト勢で集まっているテーブルを確認し、マシュと共に足を向ける。
「お疲れさまー。一緒していい?」
「マスターか。いいぜ、空いてるとこ座んな」
気安い調子で片手を上げて返事を寄越す青い槍兵に、彼はマシュとともに横並びの席に着いた。まだ熱々のポテトを二、三本口に含んで程よい塩加減に学校帰りの寄り道を思い出しつつ、続いて齧り付いたハンバーガーの溢れ出る肉汁に白黒と眼を回す。断面から零れかねない透明な脂を慌てて受け止める様に、次の一口また一口と勢いよく食べ進めた。あっと言う間にそれなりのサイズだったバーガーはマスターの皿の上から姿を消す。コーヒーで一息ついてから添え物の野菜とポテトをちみちみ摘まみつつ、彼は此処へ訪れた本題を口にした。
「ねえ、俺エミヤを休ませてってお願いしたよね?? なんで疲れてるの?」
「うん? しっかりちゃぁンと休ませたぜ? 俺の膝の上でな」
「はへ??」
つらり、と何事も無いかの様に零した青いドルイドの言葉に、抓んでいたポテトを取り落としてマスターは間の抜けた顔を晒した。盛大に疑問符の浮いた少年少女を面白げに見やった青い猛犬どもは揃って底意地の悪い顔を浮かべ、さらにからかうように口を開く。
「嫌だ嫌だって煩く言うから優しくしてやってな?」
「前も後ろも俺らで一杯にしてよー」
「可愛かったぜー?」
言い回しが想起させる行為にマスターの顔が盛大に熱くなったあたりで、隣で聞いていた輝く貌の若騎士がとりなす様に口を挟んだ。
「御子殿達も意地が悪い。ただ朝まで添い寝をされたのだと、俺に言ったように言えば宜しいでしょうに」
「おう、だからそう言ってるじゃねえか。俺の膝を貸して、前から後ろから槍のとそこの青二才とが挟んでよォ。余りに往生際が悪いからそりゃもうぎゅうぎゅうに抱きしめてやったぜ」
「なんだァ、マスター。ンな顔を赤くして何考えた?」
「俺らはいたって普通のことしか言ってないのになあ」
明らかに揶揄っていたのだと判るようなにやけ面で口々に言う色味の違う青い猛犬どもに、茹蛸状態となったマスターは令呪を使ってやろうかとちらりと思考する。幸いにして三画、そして三匹。一人一角づつで仕置きが出来るんじゃないか? とわりかし本気で思ったあたりで。
「貴様らは呑み会で後輩に絡む面倒な男か、全く。マスター、君はまだ食べられそうかな? 数量限定の照り焼きもあるんだが」
「わあい食べるううう!!!」
これも掌返しと言うのだろうか。先ほどまでの何処か悲壮感すら漂わせた決意の眼差しをあっと言う間に溶かし、マスターは懐かしい味を思い涎を啜る。
記憶のそれよりも幾分か上品で、だけどとても旨い二個めをあっと言う間にぺろりと平らげ、話について行くことを諦めたマシュと某Mから始まるバーガーショップの話で盛り上がることにした。直ぐ近くで繰り広げられている大騒ぎは気にしないように努めながら。
全くの余談だが、大量に拵えたバーガーの殆どがオルタの騎士王の胃袋に収まったと言う。
*
昼間は真面目に全力でお遊びに走ったエミヤだったが、夕食は下拵えのみ手伝いとし、あとは任せることにしたらしい。よっぽど昨夜の出来事が心に傷を与えたのか、周囲が言うまでも無く本人からの提案だった。こころなし煤けた様ながら、自分が抜ける分の補填に適任の助っ人を呼んである辺りは流石カルデア料理長であると言えよう。
そんなわけで、夕食はブラジル料理であった。
メインのシュラスコはワイバーンに鳥に羊に、と各種取り取りの肉塊をエミヤ謹製の金串に刺してじっくりと焼き上げた肉汁滴る品である。
結構な重量のある串を重さを感じさせずにくるくると手際よく回して、焼けた部位を削ぎ落とし皿に盛っていくのは、エミヤから助っ人を頼まれたベオウルフ。余りにも肉串が似合い過ぎていて、じょーずに焼けましたー、とその姿を眼にしたマスターが口走ったのは仕方がない。
それ以外にはムケッカにコシーニャ、火曜日と言う事でドブラジーニャはライスと共にお好みで。それぞれ盛り付けての提供ではあるが、シュラスコに関してはカウンターに取りに来ればお代わり自由としてある。万が一独り占めを企てた場合はキッチンカルデアメンバーからの総スカンを喰らうのが衆知であるからか、自由とあっても規律は存外守られていた。
ライスだけでなく、焼きたての一口ポンデケージョが大きな籠に盛り付けてカウンターに置いてあり、配食の際に欲しい人が取っていけるようになっていた。女性や子供勢に人気なので、焼き上がって籠に積まれる傍からみるみる嵩を減らしてはまた補充され、とわんこポンデケージョの様相を呈している。
デザートのチョコバナナパステウは一人二個までだが、その分揚げたてが用意されるので、食べたいタイミングでカウンターに取りに来ればいい。
既に仕上げたものは温め直せばいいし、下拵えを済ませて後は揚げるだけ・焼くだけのものが多いようにしてあるのが、エミヤらしいと言えばエミヤらしいメニューである。
当の本人は食堂に居ると手伝いたくなる、と言う理由で部屋に辞去しようとして弓兵の集いにとっ捕まり、なんとかそこを離れられたかと思いきやジャックに子ギルにアレキサンダーと言った子供外見のサーヴァントによって捕捉されていた。普段、食堂で大人しく座っていることのない男が居れば、そうなるのも仕方ないかもしれない。
「ねえ、わたしたちも解体したい」
「そうか、じゃあ今度大物を捌くときはジャックにお願いしよう」
「ジャックだけズルいです。そうだ、今度の狩りには僕もご一緒させて下さい。ね、良いでしょう?」
「あ、いいなあ。それじゃあ僕も。いっぱい狩ってもブケラファスが居るから安心だね」
子供であれど中身は立派な英霊だと言う事を認識はしているが、生来の世話焼き心が擽られる外見であるものだからかエミヤが纏う空気は随分と柔らかく、標準装備の眉間の皺も姿を消していた。膝にジャック、両横をアレキサンダーと子ギルに挟まれ、きゃらきゃらと姦しい少年少女に囲まれるその姿はまさに母……いや、本人の為にもせめて保父か教員か。
その一帯から発されるほんわかした空気は、同じ食堂に集った人間・サーヴァントを問わず胸に温かいものを覚えさせる。一部反英雄カテゴリーの連中であっても、大なり小なり残っている良心の部分がほかりと温もりを灯した。
「頼もしいな、ぜひ頼むとしよう。当日の弁当には何をご所望かな?」
「じゃあ俺は前食ったアレがいい、ローストビーフサンドっての?」
「俺は手羽元の唐揚げがいいな。アレ、軟骨までうめーの最高」
「鮭の握り飯も良かったな。オルタの俺はだし巻き卵が好きだってよ」
のそり、と。突如背後からエミヤの両肩に預けられる年違いの青い頭は好き勝手に宣い、向かいの席に座ったフード姿の青いドルイドはニヤニヤとした笑いを隠さず言って頬杖をつく。先程まで平坦だったエミヤの眉間には、あっと言う間に山脈が連なった。
「今はわたしたちの番なの。おじさん達は呼んでないよ」
エミヤの膝に座った少女が向かいのドルイドをじっとりと睨み付ければ。
「そうですよ、いつもいつもランサーさん達ばかりアーチャーさんにくっついていくのはズルいです」
「僕たちだって我慢してるんだから」
両サイドの赤と金の少年がそれぞれ青い槍兵達を引き離す。見た目こそ少年だが、彼らとて英霊だ。ステータス上の筋力は及ばなくても、本気でない相手を引き剥がすことなど造作もない。お手上げだ、と言わんばかりに両手を上げて降参の意を示したクー・フーリンズに対し、エミヤは盛大な溜息をつきたいのを我慢した。膝に座る良くも悪くも素直な少女に聞かせてしまうと、解体だなんだと刃傷沙汰になりかねないからだ。
クー・フーリンどもがどんな目に遭おうと、あの生き汚い面々であればどうにでもするだろうが、まだ召喚されて日の浅い少女に無茶はさせたくない。ギルやアレクサンダーとてまだまだ霊基の修復途中であり、第一線を突っ走る青い犬どもの相手はまだ荷が勝ちすぎる。
「貴様らはまたにしろ。……いや、待て。プロト、君は手伝ってくれないか?」
しっし、と追い払うように手をひらめかせかけて、エミヤは思い出したようにプロトのみを呼び止める。ピンと立った耳とぶんぶん振られる尻尾の幻影が見えそうなプロトと対照的に、外された二人は納得が行かないとばかりに声を荒げた。周囲の面々はちらりとこちらに視線をやり、ああ何時ものことかとすぐに目を反らす。
「はぁああ?! ンだよ、なんでこのガキだけ頼るンだテメェ!!」
「コイツが良くて俺らが駄目なちゃんとした理由はあるんだろうなあ、貴様。事次第によっちゃあ……」
片や眉と眼を顰めた一昔前のチンピラの如き形相で、片やにっこりと笑顔を形作るも決して笑ってはいない様相で。英霊としてほぼ最善の姿まで霊基の修復が終了している二人が発する重圧は中々のものだが、相性を抜きにすれば彼らより霊基修復レベルの高いエミヤなので、さして動じることも無い。
基本的に全ての英霊に対してエミヤは敬意を抱いて接するが、相手がいかに神代の英雄であれどこうも腐れ縁となると、表面上の扱いがぞんざいにもなる。長期間陣営を同じとしていることで残念な側面も多々見てきているのだから、余計に。
「何を判りきったことを。プロトは獣に特効があるからな。狩りでは君たちより断然頼りになる」
「おう、さっすが分かってんな、エミヤ!」
これ以上ない程に判り易い理由を挙げられ、年嵩二人は思わず口籠る。ご指名を受けて喜色満面のプロトは、ランサーを押しのける様にしてエミヤの背後を陣取り、頭部を抱える様に腕を回して圧し掛かった。
背中からの重みに前屈みになってジャックを潰さないようぐっと胸を張ったエミヤは、仕方ないと言わんばかりの顔で肩口に懐く青を撫でまわす。ずるいわたしたちも僕も、とぐりぐり押し付けてくる色取り取りの小さな頭を順番に撫でてやれば、きゃあきゃあと可愛らしい声が飛び交って花が咲く。
「しょうがないからおにいさんは特別にわたしたちと一緒でも良いよ。それで、いつ行くの? わたしたちはミートボールが好き!」
「僕はアスパラベーコンが良いです。アーチャーさんお手製のベーコン、大好きなんですよね」
「ううん……僕はそうだな、ほうれん草のソテーが良いな。コーンの入ったやつ」
至近距離にいるのに蚊帳の外に放り出された外野を気にも留めず、子供たちと引率の父兄(仮)は次の狩りの予定について話し始めるのであった。