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The Works "ヘビィビタァの甘言" is tagged "切弓" and "腐向け".
ヘビィビタァの甘言/Novel by 発狂院終理(わらびもち)

ヘビィビタァの甘言

5,852 character(s)11 mins

なんかエミヤがすごく気持ち悪いですし、とりあえずなんか気持ち悪いです。そんな(切)←←←←←←←弓のカルデアでの話です。切嗣はもちろんアサエミも出てないけど、バリバリ切弓のつもりです。
アイリスフィールのバレ礼装卑怯ですよね?とんでもねぇところからスナイプされたもんですよ、エミヤがあの場にいたということはつまりそういう事なんですよね(そういう事ではない)っていう強い思い込みと妄想と幻覚から出来ています。

バレンタイン過ぎてる?私の体感時間ではまだなんとかバレンタインなので許してください。
なんでも許せる方向けです。

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※アイリのバレンタイン礼装ネタバレあります。




「あの、エミヤくん。忙しいところごめんなさい。実はマスターにバレンタインの贈り物を渡したいのだけど、私、お料理なんてしたことなくて……。だから、お菓子の作り方を教えてくださらないかしら?」

人もまばらな夕食後の食堂。秘密を打ち明けるように声を潜め、恥ずかしそうにドレスの袖で紅潮した頬を隠したアイリスフィールが私の許に来たのは、バレンタインの丁度一週間前だった。柘榴の実のようにきらきらと輝かく瞳には、目を見開いて間抜けな顔をした私が映っていた。
何故私の許に、だとか、私なぞが関わっていいのか、だとか。思うところは沢山あった。けれど誰かが困っているのであれば、それが私に出来ることであるのならば、助けになりたいと思ってしまう。こればかりはどうも変えられないモノらしい。
おずおずと様子を伺っている彼女を前に悩んだのは数秒に過ぎず、私は快諾の言葉と共に首を縦に振っていた。安堵と共に浮かべられた花が綻ぶような表情は、一枚の絵画のようである。

「しかし、他にもキッチンを使いたい、料理を教えてほしいと申し入れてきた者が想像より多くてね。合同になるだろうが……」
「そんなこと全然良いの。むしろ、とっても楽しみだわ!皆さんと一緒にお料理ができるなんて!」

鼻歌を歌いだしそうなほど上機嫌なアイリスフィールは、随分と幼く見えた。
――こういった純粋な姿を、あの人は愛したのだろうか。
邪推を、髪をかき上げることで振り払う。

「ただ、付きっきりと言うわけにもいかない。私だけでは力不足だろうから、他のキッチンメンバーにも協力を仰ごう」
「ありがとう。とっても頼もしいわ」

優雅に微笑むアイリスフィールに、貴女と二人きりでいるのは耐えられないのだとは口が裂けても言えず、下手くそな愛想笑いを返すことしかできなかった。

それからというもの、マスターに見つからないようにアイリスフィールの特訓は続いた。
ザッハトルテを作りたいのだと言う彼女に、いつものキッチンメンバーが代わる代わる自分の得意なものを教えていく。ある者はアプリコットジャムを、ある者はフォンダンを、ある者はバターケーキを。
幸いにも、アイリスフィールは覚えが良かった。素直にレシピのコツや注意点を聞き入れてくれるので、教え甲斐がある。流石は聖杯の端末だ、という言葉は、必死に飲み込んだ。
空いた時間を使っては練習に勤しむ彼女を、皆、微笑ましく見守っていた。

「ねぇ、エミヤくん。突然ごめんなさいね。私、別に作りたいものがあるのだけど……」

日に日に上達していく彼女に、突然の『お願い』を聞かされたのは、バレンタイン前日のことだ。
はて、リクエストのザッハトルテに関して教えることは何もない。ケーキも完璧に焼けるようになり、ジャムも出来上がっている。あとは明日、本番用のケーキを焼き、組み上げてコーティングするだけだ。
今更、何を作りたいというのか。
疑問に思いながらも、悪い癖で無意識に、ああ、と。首を縦に振ってしまった。

「何だろうか。私に出来ることであれば協力しよう」
「ありがとう。貴方って、本当に優しいのね」

そうしてアイリスフィールは、やはり可憐な笑顔を見せる。薔薇色に染まった頬は、いつもより赤みが深い。照れているのだろうか。

「ええ、ええ、実はね────」

アイリスフィールの唇から転がり落ちた言葉に、私の身体はひと時ばかり動きを止め、また静かに動き出した。彼女の言う事に、何もおかしいことはない。そう、何一つ間違いなどない。

「わかった。それならすぐに用意ができる。君は器用だから、すぐに作れるようになるだろう」

動かしづらく感じる表情筋を動かし、淡々と用意を始める私を見て、アイリスフィールはどこまでも無垢に笑っていた。模倣品の心臓が軋むように痛む。出来損ないの気管が狭まる。

「ひとつ、お手本を見せてくださらない?」

鈴の音のような声は、涼やかに私の鼓膜を揺らす。
彼女は表情は、どこまでも澄み切っていて、まっさらで、純粋だった。

そして、バレンタインの当日。
出来上がったザッハトルテを見て、瞳を輝かせながらアイリスフィールが小さく拍手をする。

「まぁ、まぁ!これを私が作ったのね、信じられないわ!皆さんのおかげね!」
「何言ってるの、アイリさんが頑張ったからだよ」
「ええ、そうですよ。この頼光、しかと見届けておりました」
「こんなに素敵な料理の先生方に恵まれて、ふふ、なんて祝福なのかしら!」

ブーティカや頼光殿の言う通り、チョコレート風味のバターケーキはダマもなくしっとり香しく焼き上がり、ことこととじっくり煮込まれたなめらかなアプリコットジャムは程よい酸味で、フォンダンはカカオの風味を程よい甘さで閉じ込めた艶めきを以て、彼女の努力を表していた。

「あぁ、完璧だな。流石だ、アイリスフィール」
「ふふ、エミヤくんたらお上手」
「そ、の呼び方は、やめていただけないだろうか……」
「いいじゃない、ここでは。ね?」

可愛らしく首を傾げられては、こちらもあまり強くは言えない。周りが何とも、いつもより格段に優しい目線を寄越している気がして、紛らわすように一つ咳払いをした。

「むぅ……。その、あとはデコレーションをすれば、より贈り物にふさわしくなる。余ったグラサージュをコルネに詰めておいたから、これで表面に模様を描くことも出来るぞ。皿に何かメッセージを書いても良いだろう」
「へえ……、すごくオシャレね!なんて書こうかしら、シンプルにハッピーバレンタイン!かしら?」
「ふふふ、聞いて驚くなアイリスフィール!ここに何と!新鮮ピチピチのもぎたて果実があるのだぞ!出来るネコ故な、下処理は済んでいるのである。ささっ、グイィッと、遠慮などなしに」
「……こっち生クリーム余ってるから、使っていいぞ」

横からひょこりと、タマモキャットと両儀式が顔を出す。片や籠いっぱいの瑞々しいベリー類を携え、片や立て直したであろう甘さ控えめのホイップを差し出した。アイリスフィールはそれをしなやかな指で受け取ると、礼を言いながら微笑んで、女性陣と相談を始める。

「多すぎても変かしら?」
「少なすぎても変だぞ」
「野性的にセクシーに、それでいて慎みがあるのがイイ女というもの」
「うーん、悩むわぁ……」
「金箔を散らしてもよろしいのでは?」
「確かに、華やかになるね」
「素敵!使わせていただくわ!」

女性同士の相談にあまり立ち入らない方が良いだろうと判断し、そっと一歩下がった。皆、我が事のように楽しそうに浮足立っている。
カルデアの英霊は皆、親切だ。しかし、こればかりは彼女の人柄も関係しているだろう。あらゆる人間に愛されている。彼女も、あらゆる人間を愛している。彼女の言葉を借りるのであれば、まさに『祝福』だ。

「……ほら、アイリスフィール。これも、忘れないように」
「ええ、もちろんです!正直ね、これを一番頑張ったんですもの。忘れたまま渡したらなんて、考えただけで……うぅぅ……」

私が差し出したものを受け取り、よよよ……とドレスの袖で目元を隠した泣き真似を披露するアイリスフィールに、皆が笑いを漏らす。私も、笑う。
ベリーと生クリームで綺麗に飾り付けられ、華やかな皿に盛りつけられたザッハトルテの横に、先日アイリスフィールが作ったものが添えられた。
出来上がりにふんふんと満足げに頷くと、彼女はドレスの裾をたなびかせて扉の方向に身を返した。

「ありがとうね、皆さん!私一人ではどうなることかと思ったけども、これでマスターにきちんとしたものを渡せるわ!」

本当にありがとう!と言って食堂から飛び出して行ったアイリスフィールを皆で見送る。他のサーヴァントたちも順々に贈り物を完成させ、扉を潜っていく。全員がいなくなってから、食堂に集まっていたキッチンメンバーは互いを労いながらも解散となった。
私も、キッチンに転がっていた物を隠すように手に包み、自室へと足を向けた。
あちこちに人がいて騒がしいはずの廊下がいやに静かに感じて、僅かに早足になる。部屋の前に辿り着くと、いつもより時間がかかった錯覚がして、自然と溜息がこぼれた。

開いている右手で電子ロックを解除し、室内に身を潜り込ませる。電子制御されている扉が、私の後ろで小気味良い音を立てて閉まったところで、おもむろに握り込んでいた左手を開く。
掌に収まっていたもの――切嗣を模った砂糖菓子は、しっかりと乾燥されているために溶けることも崩れることもなく、食堂で拵えた形のままそこにあった。アイリスフィールが作ったへの字口の表情とは違い、こちらはにっこりと微笑んでいる。
私の作った切嗣が、私の手の中に納まっている。いくらデフォルメされた物とはいえ、不思議な気分だった。

存在を確かめるようにころころと手の中で転がしながら、バレンタインの前日に言われた言葉を思い出す。あの可憐な唇から飛び出した名前を反芻する。

『実はね、キリツグとイリヤの人形を作りたいの』
『お砂糖の人形があるじゃない?あれで作れたらいいと思うのだけど……』
『私、作ったことなんてないから、手順が分からなくて……エミヤくんに教えてもらえたら嬉しいわ』

久方ぶりに聞いた彼の名前を元に、掠れて朧げな記憶を呼び出した。
炎に照らされて微笑むあの人、蛍の舞う中で手を繋いだあの人、月の下で誓いを交わしたあの人。
エミヤシロウを、作った人。
アイリスフィールを、愛した人。

シュガークラフトを柔く握り込めば、尖った部分が掌に食い込む。
せめて、彼女に悪意があればよかったのだ。その方が、まだ楽でいられたのに。
『私は、貴方の知らないあの人のことを知っているのよ』と。
『貴方の前ではどんな顔をしていたのかしら』と。
『あの人と私は、家族だったのよ』と。
冷えた声で、見下した瞳で言ってくれれば。
そうやって優越感のために、傷を負わせるために紡がれた言葉であれば、どれほど救われただろうか。そんな、ありもしないことを考える。
彼女におぞましい感情を抱いている自分が、想像の中でとは言え、穢れた感情を抱かせている自分が、ほとほと嫌になった。
無意識に手の中に視線を向けても、無機質な二対の黒い丸は何も宿さない。目一杯非難してくれれば、と考えて、緩く首を振った。また、輝やかしいものを穢そうとしている。

はぁぁ、とわざとらしく声を出し、自己嫌悪を強制的に終えて思考を切り替えるも、『これをどうするか』という問題に突き当たる。何も考えずにお手本のためと作り、何も考えずに持ち帰ってきてしまったが、これはどうすればいいのだろう。
マスターや他のサーヴァントが部屋に入ってくることもある上、自分の精神衛生的にも飾っておくなど以ての外だ。かと言って、このまま捨ててしまうのも忍びない。
自分の無計画さに頭を抱えて、ベッドの縁に腰掛ける。こうしてしみじみ見ると、お手本にしては良く作りすぎたかもしれない。勿論、本物には遠く及ばないとはいえ、我ながらよく出来ている。全く、私はどれほど彼を神格化しているのだろうかと、自嘲的な笑いが唇に張り付いた。
掌に収まっている人形の頬、丸い曲線を指でなぞる。ピンク色の頬をつつく。スーツの襟を軽くひっかく。何も映さない瞳を覗く。

──魔が差したとしか、言い様がなかった。

気付けば砂糖菓子を口許に寄せ、伸ばした舌で髪の束を辿っていた。
口内に広がる甘い味に、反射的に「あまい」と声に出す。独り言のはずが思ったよりも部屋に響いて、思わず口を手で覆った。砂糖で作ったのだから、甘いのは当然だ。いや、それよりも何てことを。焦りにも似た感情で、手元を見る。
当然のことだが、切嗣の表情は変わっていなかった。舐めた個所だけが、唾液で濡れて、てらてらと、光を反射して、その光が目に入って。

それを見たら、もう駄目だった。
タガが外れたように、貪りつく。胴体の部分を口に含んでしゃぶってみると、表面がじわりと溶けて滲んでいく。ぢゅ、と吸い付けば、甘ったるい味が鼻腔まで抜ける。髪の束の先を、がり、と齧ってみる。黒が欠けて、ざらついた断面を晒していた。緩く持ち上がった口元は変わらない。
何も、おかしいことはない。
何一つ、間違ってなどいない。
だってこれは、私の作った食べものなのだから。

その先は、あまり覚えていない。
頭蓋に反響する激しい咀嚼音と、固い欠片が喉を通る感触、僅かな血の味。
すべて飲み込んだあとに残るのは、どうしようもない虚無感と、唾液と糖分でべとべとになった自らの手だった。この様子では、口周りも酷いことになっているだろう。
しばらく呆けたようになっていたが、早く、何とかしなければ、と意識が働いた。ふらふらと、夢を見ているような心地で備え付けの小さな洗面所の前に立つ。
ふと視線を前に向ければ、思った通り、ひどい顔をした男が四角く切り取られていた。侮蔑を込めて一瞥したつもりが、酷く不可解な表情を作っている。これではまるで、ナーサリーやジャックが、子供が、怒られた後の、あるいは駄々をこねているような──

「はは」

乾いた笑いが漏れた。馬鹿げた思考を追い出すように蛇口を回し、掌に水を溜める。
生ぬるい水で口をゆすいでも、絡み付いて消えない味に辟易する。
いっそ味覚などなければ、こんな思いをすることもないだろうに。と、馬鹿みたいなことばかり考える。

あの人と一つになりたかった。何かを産み出したかった。望まれる何者かになりたかった。
どれも、叶わなかった。叶えることができなかった。
一心不乱に噛み砕いた。喉を裂くのも構わず飲み込んだ。すべてを腹の中に収めた。
だから、どうしたと言うのか。あれはただの砂糖菓子だ。

過ぎた甘さは、色付けに使ったブラックココアや、粘膜から滲んだ血とも相まって、未だ苦く重く口腔を支配していた。吐く息すら甘い。胃まで粘ついているようだ。目の前の男が、途方に暮れたような表情を見せる。あぁ、そうだとも。分かりやすく言葉にしてやる。

「失敗作だ、これは」

返事のように水滴が落ちる。
後味は、到底良いとは言えない。


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