ペタタマの世界
1.山岳都市ニャンダム-オークション会場
廃人販売の仲介役をしている。
誤解しないで欲しいのは、俺は私利私欲に走っている訳ではないということだ。
ゴミにゴミを売りつける。
簡単に言えばそれだけのことなのだが、オークションということで特に廃人の買い取りに関しては貧乏人にはノーチャンスだ。
お分かり頂けるだろうか。俺は金持ちを【敗残兵】の味方に引き込もうとしている。貧乏人を大胆に切り捨ててヘイトを分散させようとしているのだ。
元【敗残兵】のクソ廃人のことだ。一時はトップクランまで登り詰めたヤツらは【敗残兵】の再建を諦めないだろう。
あのクソどもはどこのクランに行っても即レギュラーを張れるだけの実力がある。
買われて行った先で無体な扱いを受ければ脱走、キャラデリという選択肢が常にあるから、高い金を出して廃人をご購入頂いたお客様はそれなりの待遇でクソを迎えるだろう。
アットムくんは人身販売と言うが、実態は人材派遣に近い。
ペタタマヒューマンパワーレンタル社の設立である。
この一大事業は、買われる側にもメリットがあるから成り立つ。
俺が司会みたいなことをやっているのは、単純に俺が適任だからだ。廃人を買い取るほどの財力はなく、利益に対して手抜きはしないと信頼されている。
会場に押し寄せたゴミどもの質問にいちいち付き合ってられないので、俺は上述の内容をお客様どもにご説明して差し上げた。
客に潜ませたサクラがぱっと挙手する。
ハイ質問どうぞ。
「脱走のリスクはあると言うが、その場合は何らかの補償はあるのか? こっちは高い金を出すんだ。逃げられました残念でしたねでは話にならない」
何度も言うが人身売買じゃないんだ。
いいか。これに関しては念を押すぞ。
俺は奴隷商人じゃない。
悪いことなんて何もしてないんだ。買う側、買われる側が互いに納得済みであること。それが前提となる。
そして、このオークションで動いた金は運営費を除いて大部分が人間の里に復興に充てられる。そちらで交渉をミスったからといって金を返すことはできない。
嫌なら買うなという話だ。
しかし本当にそれでいいのか?
元【敗残兵】のメンバーを買うということは【敗残兵】のメソッドを手に入れるということでもある。それはトップクランを築くに至った基盤だ。
一例を挙げると。誰でも知っていることだからあえて言うが、元【敗残兵】のメンバーは例外なく両利きだ。左右の手足をまったく同じように扱える。それがどれだけ対人戦で有利なのかは説明するまでもないだろう。
だが実際に実践に移すプレイヤーは少ない。それは何故か。維持するのが面倒臭いからだ。そしてトップクラスの廃人が面倒臭いことをやっているというのは思い込みだ。アイツらは多かれ少なかれ効率厨だからな。面倒なことを簡単に済ませるための仕組みを把握してるのさ。
これは公正明大な取り引きだ。
だが、あえて一つ付け加えるならば……。俺なら逃げない。
さっきも言ったが、元【敗残兵】のクソどもはクラン再建を諦めないだろう。そして【敗残兵】の特異性とは何か。
問答無用で他のプレイヤーを従わせることができたという点だ。
借金を踏み倒して逃げるようなヤツらがトップクランに返り咲けるとは俺は思えんがね。
お前らがご購入頂いたクソ廃人をどう扱おうと勝手だ。俺は干渉しない。だが逃げられても仕方ないと思われる扱いはお前ら自身を不利にするだろう。
その仕組みがヤツらを縛り付ける。だから成り立つんだ。この取り引きは。
そして……。俺は胸中でこうも付け加えた。俺が干渉する必要はない。オークションの結果は大まかに読めている。
まず元【敗残兵】の女キャラは大半が【目抜き梟】に引っ張られるだろう。【敗残兵】とトップの座を争っていた【目抜き梟】の財力は抜きん出ている。桁が二つか三つ違う。特に元【敗残兵】の女性幹部、リチェットと宰相ちゃんは確定と言ってもいい。
マトモに張り合っても勝てる訳がないから、他のクランはいかにして【目抜き梟】に金を吐き出させるかが勝負の分かれ目になる。競り合いはギリギリの線を探る作業になるだろう。しかしそれは【目抜き梟】にとっても同じこと。突っ込みすぎたクランには、最後に手を引いて買わせてしまえばいい。リリララはその手の見極めに無類の強さを発揮する。
大体その通りになった。
まぁ覆りようがないからな。無駄に張り合って大金を吐き出したクランは、後日【目抜き梟】にクソ廃人を買い取って貰うことになるだろう。有り金叩いて自分トコのクランを財政破綻させてりゃ世話ねえ。
一部の例外は、元から仲良くしてたヤツを買い取ったクランくらいだろう。ほとんど出来レースみたいなもんだ。波乱なんてものはそうそう起きない。
……やはりリリララは邪魔だな。俺としちゃあ波乱が起きたほうが好都合なんだ。大きな値崩れはないという見方もできるが……。上客の【目抜き梟】を排除するというのは難しい。今後はさらに深く地下に潜る必要があるかもしれない。
2.メインイベント
さて大トリだ。
俺はマイクを手に取った。
「宴もたけなわとなりましたが、ここで本日最大の目玉商品についてご説明を致します」
俺が手で合図をすると、舞台袖から国内サーバー最強のツートップが係員に引っ張られてきた。
「もるるっ……」
「ちィ……」
サトゥ氏とセブンだ。
会場がざわつく。配布したパンフレットにも記載していた内容だが、俺は今一度ご説明をして差し上げる。
「こちらの二人はセットでお買い上げとなります」
理由は二つある。
まず一つ目はサトゥ氏だ。コイツは正式には【敗残兵】のクランメンバーじゃない。【敗残兵】の加入条件は最低でもレベル10以上で、サトゥ氏はその条件を満たしていなかった。
しかし腐っても元クランマスターだ。無罪放免という訳には行かない。そんなのは誰も納得しないだろう。よってセブンと一緒に売りに出す。
そして、もう一つの理由がセブンだ。このセミ野郎は放っておいたら勝手に一人で順調にキャラロストしかねない。抑えが要る。それができるのはリチェットかサトゥ氏しか居ない。リチェットは単体で十分な金になるので、まだレベルが低いサトゥ氏とくっ付けたという訳だ。
俺は正直にその旨を告げた。
さらに補足説明する。サトゥ氏とセブンの頭を順に引っ叩き、
「コイツらはエッダ戦で生き残った搾りカスです。残機がヤバイことになっているため、しばらくは安静にする必要があるでしょう。ですが、資質に関しては言うまでもありません。間違いなく国内サーバーでトップクラスの逸材です。我が社が取り扱う商品で、後にも先にもこの二人を越える人材が出てくることはないでしょう」
セブンが太々しく笑った。
「崖っぷち。俺とサトゥを商品と言ったか。だが、そいつは無理な話じゃねえか? 凡百どもがどれだけ足掻こうが俺たちを操縦できやしねえさ。たちまち乗っ取ってやるよ」
俺は口笛を吹いて大袈裟に肩を竦めた。
「ご覧の通り狂犬です。手が付けられない」
しかしそれでいいんだ。牙を失った猟犬に価値はないからな。
大黒屋が喝采を上げた。
「じゃじゃ馬馴らしという訳だ」
転売の利ざやで稼ぐ大黒屋は慎重な男だ。これまでの様子を見る限り、サトゥ氏とセブンの引き取り手の最有力候補ということになるだろう。
大黒屋は太鼓腹を揺すって笑った。
「しかしサトゥにセブンよ。お前たちはエッダ討伐の立役者でもある。崖っぷちを介さずとも私の元に来れば良かった。歓迎するぞ?」
いいや、そいつは無理だね。
サトゥ氏が言う。
「俺とセブンは六人衆の代役だと思ってくれ。あの人たちは売らせない。手出しするものは許さない。何があろうとも、だ」
よう、サトゥ氏。ネカマ六人衆の身の安全は俺が保証してやるよ。
「……頼む。さあ、俺とセブンを買うのは誰だ? 代金に見合う働きはするつもりだ」
スマイルの旦那が名乗りを上げた。
「それは私の元でも、と解釈しても?」
サトゥ氏がスマイルを見つめる。両者の視線がぶつかり火花を散らす。
サトゥ氏は犬歯を剥いて笑った。
「サトウさん。あんたは君主のジョブを奪われないよう注意したほうがいいな。何か不幸な事故が起こらないといいんだが」
「不幸な事故、ね。面白い」
昨年のクリスマスでスマイルの旦那は大方の予想通りサタウを退けた。
全スキルと全魔法を使えるスマイルは強すぎる。サタウの手に負える相手ではない。そんなことは分かりきったことだった。
だが、スマイルとの一騎討ちはサタウにとって大きな意味を持つものだった。
セブンとサトゥ氏の身柄をめぐって最後まで競り合ったのは大黒屋とスマイルの旦那だった。
結果、本日最高の値打ちが付いた。
スマイルの旦那が手を引いたのは、リアルの金額に換算してのものだろう。金に糸目を付けずに人材を引っ張ってくるというのは、RMT業者の顔であるサトウシリーズ御大にはやれないことだった。まず配下に示しが付かない。
かくしてサトゥ氏とセブンはクラン【大黒屋】に引き取られて行った。
3.オークション会場-社長室
オークションを終えて、俺は社長室で革張りの椅子に深く腰掛けた。深々と溜息を漏らして、アットムに告げる。
悪い。少し一人にしてくれ。
「……うん。分かった」
アットムが社長室を出ていく。
俺は上体を逸らして社長室の天井を仰いだ。
……元【敗残兵】メンバーを売りに出すことについて俺に葛藤がなかったと言えば嘘になる。
できることならウチで引き取ってやりたかった。
しかし、そんなことは無理だった。
アイツらを囲うことはできても、他のゴミどもは納得しないだろう。
この日、国内サーバーのプレイヤーを牽引してきたトップクラン【敗残兵】は正式に解散した。
一体誰がヤツらの代わりをできる? 誰もできやしないさ。
俺たちはエッダに勝った。
そして、その代償に全てを失った。
厳しい時代が訪れようとしている。
俺は……。
札束をべべべっと数えて歯列をギラつかせた。
くくくっ……。笑いが止まらなかった。
儲けを人間の里の復興に充てるというのは嘘じゃない。しかし手元に残った仲介料でこれだ。
「またボロい商売を見つけちまったなぁオイ!」
くくくっ、ふはははははははははッ!
これは、とあるVRMMOの物語。
今度はお前の天下が長続きするといいですね。
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