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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
227/978

世のため人のため

 俺たちはエッダに勝った。

 そして、その代償に全てを失った。



 1.ポポロンの森-【ふれあい牧場】クランハウス跡地


 炭化した丸太小屋の残骸が積もっている。

 俺は残骸の前に立ち尽くす。

 脱力してガクリと両膝を付いて顔面を両手で覆う。とても立っていられなかった。覚悟はしていたつもりだった。しかし話に聞くのと実際に目にするのでは大違いだった。

 ……俺たちはエッダに勝った。

 だが、本当にここまでやる必要はあったのかと後悔が押し寄せる。

 エッダの固有スキル【八ツ墓】は特殊な魔法だ。単純にプレイヤーの戦力を強化する性質のものではない。どう考えてもゴミどもには適さないスキルだ。特に不特定多数のゴミどもが参戦するレイド戦や領地戦では不利に働くだろうことは想像に難くない。

 俺たちは取り返しのつかないミスを犯したんじゃないか。その疑念が頭の片隅にこびり付いて離れない。

 四つん這いになって呻き声を上げる俺に、赤カブトとスズキが駆け寄ってくる。


「ペタさん!」

「コタタマ!」


 俺は二人に支えられてよろよろと立ち上がる。

 スズキが手に抱えるモグラさんぬいぐるみを俺にそっと差し出してくる。


「こ、これ。コタタマが大事にしてたから、ポチョが。火の中に飛び込んで」


 ……そうか。俺はモグラさんぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。

 一方、赤カブトは先生の杖とピコピコハンマーとドリルを引きずっている。ぽろぽろと涙を零しながらこう言った。


「わ、私。私ね。すごく心配したよ? ペタさんが、死ぬ気なんだって。私たちのこと全部忘れて、無理やり勝つつもりなんだって、みんなが言うからぁ〜!」


 赤カブトはわんわんと泣き喚いた。

 ……実際にそのつもりだったことは黙っておこう。

 ジャム。俺は最初から死ぬ気なんてなかったよ。俺は嘘を吐いた。

 勝算は十分すぎるほどあった。エッダのスキルは補助的なものだからな。力で押し切るのが一番確実な手段だった。

 ……だがエッダのレベルは2810。プレイヤーとはポテンシャルの桁が違う。それにエンドフレームはレイド級に匹敵するほどの巨体だ。同士討ちは避けられない。その筈だった。犠牲者が一人も出なかったというのは、あまりに不自然だ。何か……。


(すまなかったな、お前ら……)


 俺は頭を抱えた。記憶にもやが掛かったように判然としない。ザザッとノイズが走る。セブン……。俺は……。

 スズキが俺の肩を揺すってくる。


「コタタマ? どうしたの?」


 ん? どうしたって何がだ?

 俺は首を傾げた。とてもスッキリした気分だ。

 それよりポチョはどうした? 姿が見えないようだが。


「復旧作業の手伝いに行ってるよ。ポチョ、近接職だから。アットムとは会った? 先生とは? 二人ともコタタマのこと心配してたよ。エッダ水道に行った筈なんだけど……」


 そうか。入れ違いになったみたいだな。エッダとは沖合いで派手にやり合ったからな。コンフレームで追いつくのは無理だろう。俺は浜辺で倒れてるところをネフィリアに回収されて……。

 そのネフィリアが気を利かせてくれたのかもしれない。先生とアットムがこちらに駆け寄ってくる。ポチョも一緒だ。途中で拾ってきたのだろう。

 先生っ。俺はひしっと先生に抱きついた。先生〜! 俺たちの家がっ……!

 おいおいと泣き崩れる俺たちを、先生が両腕でそっと抱きしめる。順ぐりに俺たちの顔を見つめて、


「ポチョ。スズキ。ジャム。アットム。コタタマ。みんな無事だね? ならばいい」


 でも先生っ。ウチの丸太小屋は先生のっ。

 先生は首を左右に振った。


「形あるものはいずれ滅びる。家は建て直せばいい。私たちは何も失ってはいない。支え合って生きていこう。どんなに貧しくとも」


 先生はじっと俺を観察していた。

 俺がこうして生きているのは不自然だからだろう。俺自身、不思議に思っている。

 意識的に完全変身したプレイヤーはタガが外れる。決して少なくない代償を支払うことになる。かつてサトゥ氏がキャラロストしたように、境目があいまいになってエネルギーが垂れ流しになる。

 そうした兆候が今の俺には見られない。やはり【NAi】に何かされたのかもしれない。

 もしかしたら俺は、忘れてるだけでキャラクターロストしたのかもしれない。ロストからの復帰と引き換えに何らかの【戒律】を刻まれた……? あり得そうな話だ。

 しかし、どうもしっくりと来ない。結果だけを見るなら【NAi】は国内サーバーのプレイヤーを優遇したことになるが……。いや、あの女には前科がある。公平性を重んじているのはョ%レ氏であって、【NAi】ではない。あの女ならやりかねない。

 いずれにせよ、俺は奇跡の立役者という訳だ。

 デカい金になるぞ……。

 俺は先生の胸に顔を埋めながら歯列をギラつかせた。

 


 2.山岳都市ニャンダム-露店バザー


 アットムくんと手を繋いで一緒に露店バザーを歩いている。

 アットムは俺の護衛だ。エッダ戦で相当量の残機を消費しちまったからな。ネフィリアの言う通り、しばらくは殺されてやる訳には行かねえ。

 アットムメスに化けたアットムくんが首を傾げて俺に尋ねてくる。


「コタタマ。どこ行くの?」


 どこってお前。知らないのに付いてきたのかよ。まぁお前も掲示板とかあんまり見るタイプじゃねえしな。

 あのな、俺らが今向かってるのは【敗残兵】の解体現場だ。あいつらはやり過ぎたからな。


「そうなの? でも作戦だったんだよね?」


 ああ。あいつら以外にはこなせない仕事だった。けど先生みたいに笑って許してやれる人ばかりじゃないからな。ケジメは付けにゃならんだろうよ。あいつらも覚悟の上さ。


 人間の里は全棟全焼してしまいヤサを失ったゴミどもがうろつく修羅の街になってしまったが、今回の件で露店バザーに被害が及ぶことはなかった。放火はあったようだが、ティナン当局の迅速な対応により事なきを得たのである。何しろ戦闘民族だからな。種族人間とはポテンシャルの桁が違う。

 むしろ寝ぐらを焼け出されたゴミどもで露店バザーは賑わっているようだった。人間の里にゴタゴタは持ち込まないという暗黙の了解が土台ごと消えてなくなり、種族人間は大きな変遷の時を迎えようとしている。相場は崩れ、暴力の嵐が吹き荒れる修羅の時代がやって来るだろう。

 おっと不審な人影を発見。アットム、ちょっと寄り道するぞ。俺はアットムに一言断りを入れてから細い路地裏に足を踏み入れていく。

 適合できなかった個体が居るようだ。


「え? 適合って?」


 俺はアットムの言葉を無視した。

 路地裏に這いつくばり苦悶の声を上げている知らないゴミを、俺はじっと見下す。


「だ、誰だ?」


 俺の接近に気が付いたゴミが怯えたように後ずさっていく。

 俺はニコッと笑った。

 安心しろ。俺はお前の味方だ。


「が、崖っぷち。そうかっ。お前なら、もしかしてと思った……」


 そう言って知らないゴミは安堵の溜息を漏らした。


「崖っぷち……協力してほしい……。俺は何か……されたようだ……。……人間でなくなってしまった……」


 そいつは難儀だな。俺は同情した。


「……崖っぷち? どうして、そんなに離れてるんだ? 敵がどこに潜んでいるか分からない。もっと近くに」


 俺は間髪入れずに言った。

 罠じゃないかと疑っている。俺以外に抗えるやつがそうそう居るとは思えなくてな。


「こ、心当たりならある。俺は……【ギルド】が怖いんだ。得体の知れない存在だと思っている。こ、このゲームはマトモじゃない。怖いんだっ、俺は!」


 なるほどな。このことは他の誰かには?


「いや……。誰も信用できない。エッダとの戦いで……実際に何が起こったのか。情報がまったく出回っていない。あれだけの大規模な戦闘で、誰も録画してないなんてことあるか? レコーダーを回収されたんだ……。何か大きな力が働いている」


 だろうな。俺が同意してやると、知らないゴミは急に勢い付いた。よほどストレスが溜まっていたらしい。可哀相に。


「しかもだ! 本当に恐ろしいのは、ボロを繕う気がまったくないってことだ。崖っぷち。お前も見たろう。ハードラックのアビリティは解放された。にも拘らず戦死者はゼロで、生き残った連中との証言に食い違いが起きるのは確実だ。プレイヤーの所有権を持つ【NAi】が何かやったのかと最初は思ったが、違う。そうじゃない……。頭の中に光の点が浮かぶんだ。【ギルド】が近付いてくると分かるんだよ。俺は恐ろしくなって、逃げた……」


 俺はゴミに迫る。

 そうか。安心したよ。肉体側ハードの問題ではないということだな。

 ゴミが諦めたように笑った。


「……俺をどうするつもりなんだ?」


 調整してやるのさ。すぐに気分が良くなる。

 そう言って俺はゴミのこめかみに人差し指を押し当てた。

 アビリティの起動を申請。受理された。

 複雑な紋様が俺の肌を這い上がり黒く染めていく。俺に呼応してゴミの肌も黒く染まっていく。

 ゴミが吐き捨てるように言った。


指揮官コマンダー……!」


 反抗的な態度だ。しかしそれもすぐに鳴りを潜めた。

 急に冷静になったゴミがキョトンとして俺を見る。キョロキョロと周りを見渡して、動揺を悟られまいと早口に俺をなじってくる。


「が、崖っぷち? こ、こんなところに俺を連れ込んでどうしようってんだよ? お前、やっぱりそういう……?」


 誰がホモだ。

 そうじゃねえ。少し混乱してるようだったから話をしてやっただけだ。


「あ、ああ。そうだったな。悪かった。もう大丈夫だ。急に気分がスッキリした」


 そうか。そいつは何よりだな。俺はゴミの前途を祝福するように歯列をギラつかせた。

 ゴミが落ち着いたようなので、アットムくんと一緒に来た道を戻る。

 隣を歩く俺を、アットムがじっと見つめている。


「コタタマ? なんか変だよ? どうしたのさ」


 ん? 何がだ? 俺、なんか変か?

 アットムは頷いた。


「うん。【ギルド】の手先みたいになってる。自覚ないの?」


 ねえなぁ。でも、まぁゲームだからな。そういうこともあるだろ。言わばアライメントの変動だな。ロウルートとカオスルートで言ってることがまったく違うっていう。タクティクスオウガね。


「そっか。まぁコタタマが元気ならそれでいいや。何があろうとも僕は君の味方だよ」


 アットムは細かいことを気にしない。すっかり俺好みの便利な男に育っている。いや、今は女か。

 アットムくんはニコリと笑った。


「一緒に地獄に落ちるのも悪くないかもね」


 ああ、そりゃあ丁度良かった。行き先は地獄だ。俺もニコリと笑った。

 俺とアットムは、露店バザーの片隅に設けられたオークション会場に向かう。外観は何の変哲もない倉庫だが、それはカモフラージュのためである。

 倉庫手前でサトウシリーズ御大の側近、アオが出迎えてくれた。


「こっちだ」


 アオの先導で倉庫の裏口から屋内へ。

 道すがら、俺はアオに尋ねる。

 やい、アオ。ネカマ六人衆は無事なんだろうな? お前らが匿ってんだろ?


「知らねえよ。知ってたとしても言わねえだろ。お前は危険な男だ」


 アオは俺に心を開いてくれていないようだ。


「言っとくがな、俺はお前を信用しちゃいねえぞ。隊長に気に入られてるからって調子に乗るなよ? 何か妙な真似をすればその場で殺すぞ」


 ふうん。お前さ、アオ。いつまで旦那の太鼓持ちで居るつもりなんだよ? お前がサトゥ氏に勝てないのはそういうトコだぞ。


「何を偉そうに……」


 偉そうじゃない。偉いんだよ。

 俺はイキッた。

 エッダ討伐を成し遂げたのはこの俺だ。結果はまさかの犠牲者ゼロ。奇跡の男とはまさに俺のことよ。頭が高ぇぞ。敬え。この三下が。サインが欲しいならくれてやってもいいぞ? ん? どうだ? 特別サービスだぞ?


「ウゼぇ……! 寄んな!」


 くくくっ、ふははははははははは……んあ? アットム、どうした?

 アットムくんが俺の裾をちょいちょいと引っ張っている。


「ねえ、ここ何なの? 【敗残兵】の解体現場ってさっき言ってたよね」


 ああ。あのな、簡単に言うとヤツらのツケはヤツら自身が支払うしかねえんだよ。

 あいつらはネカマ六人衆を事前に地下に逃がした。六人衆には失われた課金アイテムを補えるくらいの財力があるからだ。

 けどな、そいつは現実的じゃない。誰が何を失ったかなんて調べようがないからだ。自己申告を鵜呑みにする訳にゃ行かねえだろ。

 そもそも思い出が詰まった品なんて返しようがねえしな。ウチの丸太小屋もそうだ……。

 つまり【敗残兵】にとっての最大の財産は何か?っつー話よ。

 それはな、アイツら自身なんだ。


 ここはオークション会場だ。

 これから【敗残兵】のクランメンバーが売りに出される。

 使えるヤツほど高い値が付く。地獄のような競り合いが起こるだろう。

 俺はその姿を心より応援するものです……。


「それって人身売買じゃ」


 人聞きの悪いことを言うな。

 むしろ俺は【敗残兵】のためを思って、この催しを企画したんだぞ。

 放っておいたらアイツらマジで何されるか分かったもんじゃねえからな。

 金で首輪を付けるのさ。それはな、売りに出される連中だけに限った話じゃねえ。買う側にも、だ。

 くくくくっ……。さて、どれだけの値が付くか。高値であればあるほど首輪は重く、堅固なものになるだろう。

 俺は、舌舐めずりして歯列をギラつかせた。アビリティの副作用で黒く染まった顔面をギンギンに黒光りさせて言う。


「さあ。新しい商売を始めるとしようか」




 これは、とあるVRMMOの物語。

 自称、光の戦士。



 GunS Guilds Online


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コタタマも売っぱらえよと思うけど、金は出すから引き取りたくない。危険すぎる
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